時系列としては、アメリカのクトゥルー召喚後から半終末の間の頃です。
「このぉ!」
少女の掛け声と共に空気を裂く音がし、パンという何かを叩いた音が異界に響く。
「こんちくしょう!」
頬を叩かれた蝶のような羽を背中から生やした金髪の少女が、逆に叩いてきたショートボブの少女の頬を叩き返す。こんなパン、パンと響くやり取りがもう10回以上続いていた。
これを離れた場所から見守る【各務原かすみ(かがみはらかすみ)】はため息をついた。
「……はあ。いい加減しなさい、二人とも。なんでこんな事に…」
「『決着を付けるまで待って(て)(下さい)!』」
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新潟にあった自分の実家を失くす決断したあの事件から1年が経過していた。
山梨で訓練を再開し今後の安定した生活を得るために活動していたかすみの元に、新潟から応援の依頼が来ていた。
曰く、「猫や犬の手でもいい。人手が足りない」。
名家連中が素直に従わない、蔵王権現や荒覇吐が襲撃して来た、油田を開発したら維持に金と人手が取られる、出来ればまだ開放の進んでいない県内の神社の封印や異界の攻略に手を貸して欲しいとの依頼が山梨にいる新潟出身の黒札に届いていたのだ。
前にも説明したが、新潟県内には神社が4000箇所以上存在する。ついでに、寺院は2700箇所以上だ。これら全ての異界や祭神を封印したり消滅させた戦後すぐのメシア教の弾圧は、お前ら頭おかしいだろと思うがあの頃の極まったメシアンという点でもうおかしかったので脇に置く。
とにかく数が多いので手分けしているが細かい場所はまだ手付かずなのが現状で、かすみも恩のある田舎二キや九重静が困っているならと手助けをするためにこちらで手に入れた専用シキガミの【各務原あかね】を連れ現地へと飛んでいた。
そして、九重静から担当の田舎の神社の場所を聞き山道を登り、すでに異能者がおらず地元の名士になっていた現地の名家に現状を聞いたのだ。
彼ら曰く、『祭りはしていたのに家の者が祟りを受けた。何とかして欲しい』。
どんな祟りだったのかと聞けば、口を濁しこう答えた。
彼ら曰く、『祟り殺されるような事はないが、生活するのも苦しい状況だ』らしい。
これ以上は答えないため聞くのは無理だと考えたかすみは、早々に補修はされているがボロボロの神社の場所に行き異界の中に踏み込んだ。湧いていた幽鬼ガキやオバリヨンなどをあかねと連携し倒しつつ奥に着くと、そこには天使っぽい何かがいた。
それは蝶の羽を生やした天使の姿でこう言ってきた。
『……わぁ、誰か来るなんて何十年ぶりだろう……。
ああ、ゴホン。……ここはメシア教が封印した異界である。何用で来たのか答えなさい!』
「……メシア教の天使?」
「ええと、かすみお姉ちゃん。アナライズだと【地霊カハク】になっているけど?」
あかねのその言葉に、その場がしんと静まり返る。
しばらくして、そのカハク?が顔を赤くして答えた。
『そんなはずはない! 天使エンジェルとして召喚されているんだ!』
「ガイア連合のアナライズが間違うはずないよ! あなたは天使じゃなくてカハクよ!」
『ガイア連合だなんて聞いた事がない! でたらめもいい加減にしろ!』
「嘘じゃない! この分からず屋!」
『嘘つきなのはあなたじゃない!』
「もう、頭にきた! このぉ!」
怒鳴り合っている内に怒ったあかねが【ヒステリービンタ】でカハクの両頬を叩いた。
パァンパァンと音が2回洞窟状の異界内に響き、叩かれたカハク?も激昂しそれに応戦した。
『痛っ! やったわねっ!』
「何よっ! この分からず屋!」
「ちょっと、二人とも。何をしているのよ…」
かすみが呆れて止め時を見失う中、ビンタ合戦が始まった。
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時間は冒頭に戻る。
「ようし、あたしの勝ちっ!」
『くうっ、悔しい! 私の負けよ!』
しばらく続いていたビンタの張り合いは物理耐性のあったあかねに軍配が上がり、膝をついた頬が真っ赤のカハクの前で同じく頬が真っ赤のあかねが右腕を頭上に突き出し勝利を宣言した。負けを認めたカハクは、後ろの岩壁にあった最奥のボロボロの木製の扉を指差しこう言った。
『ここの異界に封印されていたものはこの奥よ。素直に負けを認めて天界に帰るとするわ』
「いや、あなたは今は天使じゃなくて地霊カハク…」
『数十年、ここで一人きりの役目は終わったわ。ふふ、これでやっと帰れるわ』
かすみの言葉を聞かず、元天使のカハクはその姿を消した。
差し出した手を下ろし頭を振るかすみの所に、あかねが駆け寄って来る。
「かすみお姉ちゃん。奥に行こう?」
「……そうね。深く考えるだけ無駄よね。行きましょう」
あかねの言葉に頷き、かすみは二人で奥の扉まで歩き押し開けた。
彼女らが中に入るとそこは、時代劇の姫のような姿をした額の両脇に小さな角を生やした女性がちょこんと座っていた。これまた時代劇のどこかの屋敷の部屋のような場所で、その女性はびっくりした顔で入って来たかすみ達をぽかんと眺めていた。
フリーズしたまま動かない祭神らしき女性にかすみは話しかけた。
「……えーと、貴女がここの祟り神の祭神で間違いないのよね?」
『……はっ! ええと、祟り神と呼ばれるのは嫌だけどここで祀られているのは確かよ』
「かすみお姉ちゃん。この女の人、9レベルの【鬼女アチェリ】だよ」
「ありがとう、あかね。
それじゃ、ここを管理している家に祟っているのは貴女ね」
『それはもともと向こうが悪いのよ。
それで、あなたは誰?』
「一応、新潟全体の神様を封印から解き放っている組織の者よ」
『ああ。だから、より強く祟れるようになったのね』
ニコニコと物騒な事を宣う彼女に、かすみは告げた。
「祟るのを止めないなら、貴女を消滅させるのも厭わないけど?」
『今すぐは止めて。……出来れば、理由を聞いてからにして欲しいのだけど』
「……いいわ、話を聞こうじゃない。あかね、何かあったらすぐにひっぱたいて」
「うん、分かった。かすみお姉ちゃん!」
『あなたには何もしない、何もしないから! 叩かないで!』
ブンブンと手を振るあかねにビビりながら、そのお姫様祭神は自分の事を語りだした。
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昔のお話だわ。
この辺りが高田藩と呼ばれていた頃の話ね。
私は、父が家老までは行かないけど役職持ちの有力御家人の家に生まれたわ。
よい縁組相手に恵まれるように厳しく躾けられ、自分で言うのも何だけど高貴な姫だったのよ。
その甲斐があって、藩主様直々に跡取りの正室にってお話を頂いたの。
私自身もその跡取りの方に会って、この人ならと思っていたの。
でも、あの方は城下に譜代の家臣の息子たちと遊びに行った時、とある娘を見初めたの。
娘はとある家臣が戯れに女中に手を出した結果、生まれた子でした。
その家臣も身分は高いわけでもなく、女中だった母親もその後暇を出されて娘が生まれた事を知っているのかいないのか。
あの方は娘に近づいてどうにか親しくなろうとして調べ、娘の出生を知りました。
娘の事しか頭になくなってしまったあの方は、どうにかして娘と結ばれたいと思い両親に頼み込みました。
側室もしくは妾でという周りの言葉には頷きませんでした。
周囲が反対すればするほど、二人の恋は燃え上がりました。
貴方のためならどんな苦労も乗り越えてみせるわ、そう娘が言った事で事態は変わりました。
あの方の働きかけでその娘は、行儀見習いを兼ねて父と折り合いの悪い同格の役職持ちの家に養女として迎えられました。
正室になるに相応しい家格の家の娘になるために。
その家で礼儀作法や手習いをして努力していたその子。
しかし、藩主様直々に言われた私とあの方の婚約は取り消されてはいなかった。
だから、あの子は久々に会ったあの方に告げたのです。
私に嫌がらせをされていると。
娘が養子に入った家の主とあの方は共謀し、私を除けるために父を嵌めたの。
それが、終わりの始まり。
私がどんな潔白を主張してもあの方は聞く耳を持たず、父は流された横領の噂をかき消すことは出来ずに役職を罷免され所払いとなりました。
私は尼寺に送られ、そこで失意の内に時を置かずに病死したわ。
それから私は怨霊となり彼ら全てを祟って破滅させ、徳のあった神官にここに祀られ大人しくするようにと祭られました。
それで、今に至ります。
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「それじゃ何故、今いるあの家の人達を祟っているの?」
『決まっているじゃない。
仮にも私のいるこの神社を罪滅ぼしのためか管理していてくれたけど、家の内実はあの時の連中と同じだったからね。
真っ当に生きていたなら、私だって祟らなかったわ』
長い話が終わり、すっかり腰を落ち着けて座り込んだかすみはその姫祭神の話を聞いていた。
話を聞き終わり、かすみが聞いた質問に彼女はこう答えた。
『さすがは、あの方とあの子の血筋よね。
横恋慕、不倫、浮気、托卵。叔母と甥の近親相姦もいたわ。
あの家の男女関係、表に出てないだけで内側はドロドロのグチャグチャよ。
だから、祟りが効いたのよ』
「……もしかして、祟り殺すつもり?」
『まさか! 殺さないわ、別の意味では死ぬかもしれないけど』
彼女の話によると、彼女のする祟りとはこういうものだった。
曰く、何故だかいつの間にか前歯に青のりやごま粒が付いたままだったり。
曰く、気付くといつの間にか鼻毛が一本飛び出ていたり。
曰く、絶対に静かにしてなきゃいけない状況かでげっぷがでたりお腹の音がなったり。
曰く、椅子に座るたびに何故だかブー、という音がしたり。
曰く、突然衝動的に踊りだしたくなって我慢が出来なかったり。
曰く、葬式や式典といった厳かな場面で何故だか笑いの沸点が低くなったり。
などなどなど、命は奪わないが社会的な立場は殺す。そんな内容だった。
『命を奪わないで懲らしめようと、色々と考えて編み出した祟りなのよ。
立場が無くなっても、本当に死んだ訳じゃないわよね?
今祟っている自称被害者の連中は、先祖と同じ下半身のだらし無い人ばかりよ。
大体、真っ当にあの家を出て真面目にしている人は対象外よ。
どうせ祟りがなくたって品性が下衆な事に変わりはないのだから、遅かれ早かれつま弾きにされるでしょう』
ふんと鼻を鳴らして笑う彼女に、自分の実家のことを思い出してかすみは言葉に詰まった。
ここに来る前に九重静にも言われていた。
『あの家の異性とは絶対に関わるな。あんな事があった女性の貴女なら分かるわよね?』
単なる自分の取り込みを狙った勧誘ならまだしも、今の話が本当ならただ身体だけを目当てにそういう行為に及ぶと言うのだろうか?
もともと地元がここであったが、あの家とは縁もなく聞いた事もなくこの下半身が緩い連中に対する回りくどい内容の祟りを見ると信憑性が出て来る、気がしていた。
「それではもし貴女を倒したら、祟りは消えます?」
『いいえ、消させないわ。
あの方とあの子の濃い血統の子孫で、下半身がだらし無いと発現する呪いみたいな祟りだもの。
それで、私はどうなるのかしら?』
彼女にそう聞かれ、かすみは考え込んだ。
自分がここに来た本来の目的は、祟りをどうにかする事ではなくここの祭神の処遇をどうするかである。
それを思いつくとかすみは彼女に提案した。
「いっそ、ここに縛り付けられるのは止めて浄土に逝きませんか?
うちに来れば、閻魔様にも地蔵菩薩様に直接迎えに来てもらえますよ?」
『それもいいかもしれないわ。
もうこの土地にいるのも飽き飽きだったし、消えてもいいかと思っていたもの』
「言ってはなんだけど、ここって零細もいい所の霊地だから消えても問題ないのよね。
だから、後腐れなく跡に出来ますよ」
『そういう事ならお願いしようかしら』
彼女が同意するのを聞いたかすみは、表に停めてある車から【魔封波電子ジャー】を持ってくるとその中に彼女を入れてここを出るのだった。
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その後の話をしよう。
異界の消滅を確認し、祟り神は封印したとメッセージだけを残しかすみとあかねはこの地を後にした。
そのメッセージを見てあの二人は抱けなかったが祟りが消えたならまあいいかと考えた家の連中だったが、程なくして消えなかった祟りのせいで名士の地位も失い没落していった。
連れ出した姫祭神を約束通り彼岸に送る際、かすみは彼女に聞いた。
「そういえば貴女の名前はなんて言うんです?」
『……私もあの方もあの子も家の恥として記録には残っていないの。その存在も名前もね。
だから、忘れられたままでいいのよ。さようなら』
彼岸へと消えていく彼女をかすみは寂しそうに見送っていたと、後にあかねは他のシキガミに聞かれた時そう答えたらしいとの事だ。
どっとはらい。
後書きと設定解説
・主人公
名前:各務原かすみ(かがみはらかすみ)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・20歳
職業:ガイア連合所属黒札
ステータス:レベル17・スピード型(速・魔)
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:サイ(敵単体・小威力の念動属性攻撃)
マハサイ(敵全体・小威力の念動属性攻撃)
パララアイ(敵単体・中確率で緊縛を付与する)
一分の魔脈(最大MPが10%上昇する)
装備:ケブラーベスト(霊装防具)
呪殺無効のタリスマン
精神耐性の指輪
詳細:
新潟県のとある神社の家の生まれの転生者
長い黒髪と優しげな印象の容貌のスタイルの良い美女
家の長女で父と妹がいるが母親は妹出産時に他界している
父と妹は生きてはいるが没交渉で何をしているかは興味なし
前世は普通に生きて普通に結婚し子どもが成人後に病死した女性
メガテンの知識がありガイア連合が地元に来てからやっと参加できた
現在は山梨で強くなって安定した生活をするために活動している
もともとは優しい普通の女性だったが敵には冷徹な性格になっている
以前、ごたごたとした騒動で実家にとどめを刺した事がある
【魔封波電子ジャー】
COMPが無い頃、封魔管の劣化・廉価品として開発された悪魔の捕獲容器
使い方は、相手の同意を得るかポ◯モンのボールと同じ物理的やり方で可能
もちろん、形状違いで紅白ボールや他の形のものもある
・関係者
名前:各務原あかね
性別:女性
識別:シキガミ・15歳相当
職業:各務原かすみの専用シキガミ
ステータス:レベル8
耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
ヒステリービンタ(敵単体・2回の小威力の物理攻撃。
低確率で激昂状態を付与する)
かばう(主人が攻撃された際に代わりに攻撃を受ける)
物理ブースタ(物理攻撃の威力が上昇する)
アナライズ
エネミーソナー
シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):会話・食事・格闘術・性交
装備:学生服(ガイア連合製防具霊装)
呪殺無効のタリスマン
詳細:
各務原かすみが手に入れた美少女型の専用シキガミ
ショートボブの髪型をした小柄でスタイルの良い容姿
主に前衛で戦うためのスキル構成になっている
今だ自意識は成長中だががさつで脳筋な性格になりつつある
何故か料理は壊滅的に駄目で台所には進入禁止にされている
名前:名も忘れられた祟り神
性別:女性
識別:鬼女アチェリ
職業:寂れた神社の祭神
ステータス:レベル9
耐性:電撃弱点・呪殺耐性
スキル:ムド(敵単体・低確率で即死を付与する)
吸血(敵単体・小威力の万能属性HP吸収攻撃)
祟り(致命的ではない霊障を起こせる)
詳細:
新潟のある田舎にある小さな寂れた神社の元祟り神の祭神
江戸時代にこの地方の姫だったが殺されて怨霊になり祀られた
戦後の時点で覚醒者はおらず惰性と風習のままに祀られていた
異能者がおらず庄屋上がりの地元の名士になった家が神社の管理家
長年祀られて落ち着いていたが、戦後にメシア教に雑に封印されていた
封印から解放後、今回の祟りの話を問いただされた
・敵対者
【地霊カハク】
レベル9 耐性:破魔無効・呪殺弱点
スキル:ハマ(敵単体・低確率で即死を付与する)
ディア(味方単体・HP小回復)
アギ(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
詳細:
ここの神社の封印を監視するために召喚されていた元天使
誰からも気づかれる事なく数十年間放置され変質していた
余りにも暇でいろいろな妄想で暇を潰していた
変質している事に気が付いていない
田舎ニキ:
名無しのレイさん著「【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち」より出典
読んでくださった方がいるならありがとうございます。