時系列としては、半終末に突入してしばらくした頃です。
「かなり遅くなったなぁ。大叔父さん、まだいるといいんだけど」
ガタンゴトンと揺れる電車の中で、美しい黒髪を腰まで伸ばし桃の花飾りを付けた妙齢のスタイルの良い女性がスマホの時計を見ながらた肩に下げたバッグを持ち直しため息をついていた。
彼女の名前は【山南恋(やまなみれん)】という。
実家が京都にある剣術道場でそこの師範の娘が彼女であった。幼い頃からお盆と年の暮れにだけ帰省で現れる『星杖(ほしたける)』という名の祖父の弟に懐き、その強さに憧れ自分も彼と同じ転生者だと判った時は両親や祖父も心配するほど喜び様だった。
そして高校卒業を機に彼の後を追うように行った山梨の星霊神社で覚醒すると、その素質を開花させ半終末直後にガイア連合に合流してからの数年間で30レベルを越える強さを身に着け、一つの壁を超えた記念に先日から実家に里帰りしていたのだった。
大叔父の彼は、最近面倒を見ているという自分より年下の黒札の女性に京都を案内しているようだった。孫に等しい自分より優先するのが何となく面白くなく、今日は大阪の関西支部で山梨の図書館にいたという魔法の専門家に会いに行った帰りであった。その女性とは何となく馬が合い、一緒に新人の訓練を付けているうちに日も暮れる時間帯になっていた。
「活きのがいいのが多かったな、あの連中。とても蹴り甲斐があったわね。
ああいう魔法の使い方もあるのは勉強になるわ。
でも、時々わたしを見る目が変な人がいるのよね。何なのかしら?」
彼女を変な目で見るというのはほとんどが男の黒札で、彼女がよく似ているある女性キャラの性格が関係していた。彼女が時々耳にしていた彼らが言う『首輪』や『犬耳』や『理解らせ』などは、彼女自身には訳が分からない現象であった。
それというのも知っている連中が、知らない方がいいという親切心が8割、2割が愉悦心から彼女のその原因になるある女性キャラの事を周囲が教えていない性でもあった。
そんな事をぼうっと思いながらスマホ型のCOMPを弄りながら掲示板を見ていた恋は、ふと周囲の様子がおかしいのに気づいた。帰りの通勤者の多い時間帯にもかかわらず、周りに乗客がとても少ない事や乗ってしばらくするのにアナウンスがまったく聞こえない事に。
「異界かしら、この感覚。エネミーソナーは黄色、ふうん。これはなにかありそうね」
周りにいる数少ない人々を見ても精気の欠いた顔でぼんやりと座っているだけで、暗くなった外はまばらな明かりが見える住宅街を通過している。漠然とした危機感に恋は、バッグから装備のメタルブーツと赤いマントを取り出すと装着し隣の車両に通じるドアを開けて移動した。
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「こんな所で巻き込まれるとは思わなかったから、カナメは家に置いたままのが痛いわね。
あの子が居ればすぐに何か見つけてくれるのに」
スマホ型COMPは持っていたが、いつもなら柴犬の姿の専用シキガミのカナメが敵の発見と警戒をしてくれているおかげで探索の方は彼女としては少々苦手となっていた。席に座る人々をアナライズしても、幽鬼や悪霊にも成り切れない影のようなものだった。
代り映えのしない車内を先頭車両に向けて移動し続けていた彼女の前に男が立ち塞がった。
列車の職員姿のその男は、彼女にニコニコと笑いながら話しかけてきた。
「大変長らくお待たせいたしました。
本車両はまもなく終点『すたか駅』に到着致します。
お忘れの無いようお気をつけ下さい」
「……ねえ、ちょっと」
「おや、これは珍しい。
あなたのようなはっきりとした意識を持った方がいらっしゃるとは。
これはいけませんね」
「何がいけないのよ?」
「だって、この列車には死者しか乗ってはいけないのですから! 【ダマスカスクロー】!』
そう叫ぶとその男【外道ナイトストーカー】は黒い穴のような目を見開くと、ナイフを抜いて切りかかってきた。2回、3回と振るわれるナイフを捌き、恋はそいつの腹に蹴りを叩き込んだ。
「うっとおしいのよ! 【回し蹴り】!」
『フボァ!』
「これでおしまい!」
『ゲゴォ!』
恋の回し蹴りが男の胴に命中すると、そのまま自動扉に叩きつけられた。恋はそのままクルリと半回転すると今度は別の脚で蹴りを顔面に叩き込んだ。蹴りの威力があったのか、当たった男はそのまま窓を突き破り走る車内から外へと転がり落ちていった。
「あっ、落ちちゃったか。手がかりが…」
思わず窓の外を見る恋。
その時、列車が古い作りの無人駅を通過するの見えた。駅名の書かれた看板に『きさらぎ』と書かれているのがはっきりと見えていた。
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さて、皆さんは『きさらぎ駅』という都市伝説は聞いたことがあるだろうか。
どこにあるとも知れない異界の古びた駅に乗っていた電車が止まり、そこに迷い込むというものだ。きさらぎ駅の看板には前の駅が『やみ』次の駅が『かたす』と書かれていたというが、京都近辺にも同様の噂がありその駅は『すたか駅』と言う名の駅だと言われている。
普通、こういう話では掲示板に迷い込んだ人物が実況でもするかのように書き込みながら進み、脱出するか行方知れずになるのが定番である。が、そこに大抵の悪魔や死霊は薙ぎ払える女性が迷い込んだらどうなるか、その一例が今起きていた。
「待ちなさい! あんたがここの主ね!? さっさと潰れなさい!」
『ひぃええぇぇ! 助けておくれ、牛鬼!』
『『『ぶもぉぉっ!』』』
「ええい、邪魔よっ!」
『ぶもっ!』
駅に着くや飛び降りた恋は、ホームのベンチに座っていた怪しげな老婆にさっそく蹴りを叩き込んだ。びっくりしてベンチからずり落ちたおかげで間一髪躱す事が出来た老婆は、ハッと我に返ると助けを呼びながら駅の入口を飛び出した。
『……ええと、どうしよう』
古びた昭和の町並みが広がる中を走って逃げる老婆を追いかけ、恋は立ちふさがる牛頭人身の悪魔を蹴り倒しながら、すたか駅の話の中で迷い込んだ人を外に案内する少年を置き去りにして走り出す。
『『『ぶもっ!』』』
「見失うじゃない、邪魔っ! 【回し蹴り】!」
『『『ぶもぉぉっ!』』』
周りからわらわらと現れて恋を止めようと掴みかかったり殴って来ようとするギュウキ達を、恋は持ち前のスピードと家で大叔父さんから教えられた体術に、鍛え上げたスキルで躱しながら蹴りを叩き込み消滅させていく。
「せいっ、たあっ!」
『『『ぶもぉぉっ!』』』
『何であんな奴がここに来るんじゃ!? ごく弱い人間しか入れんようにしていたはずなのに!』
「……いたわね! そこを動くなっ!」
『ぎゃあああっ!』
【軽気功】により宙を走り立体的な軌道で舞いながら蹴りを叩き込み、囲まれた時には【トラフーリ】で回避しながら脱し後ろから蹴りを叩き込む。粗方ギュウキ達を倒すと遠くで様子を見ていた老婆に振り返り、恋はまた追いかけ始めた。
『なんで追いかけて来るんじゃあ!』
「理由は知らないけど、こんな場所に野良の異界の入口があったら潰すに決まっているでしょ?
さあ、追い詰めたわよ!」
『し、しまった!』
田舎の町並みを走り抜け、恋はとうとう村はずれの川に掛かった木製の橋の前で老婆に追いついた。懐からスマホ型COMPを取り出し、老婆から視線を外さずにアナライズをする。
「【鬼女ヨモツシコメ】、レベル32ね。なかなか強いじゃない。
観念してわたしの糧になりなさい」
『何故じゃ、何故ここに入り込んだ!?
儂と同程度に強いお主のような者は入れんはずじゃ!』
「一般人に混ざって動く時は強さを押さえて動くようにって、大叔父さんに教えて貰ったやり方の練習をしながら電車に乗っていたからそれじゃないかな?」
『そんな事でっ!?』
簡単に言えば、格闘漫画でよくある“気の制御”である。
一般人の中にも勘が良かったり感受性の強い者は強さを感じ取るものがいたりする。そういう者やアナライズがなくともだいたいの強さを感じ取って分かる者への対策としてわざと弱く見せる技術であり、これが極めると隠形や圏境に繋がる秘術となる彼女の道場に伝わる『歩法』の術の一部であった。
苦虫を噛み潰したような表情だったヨモツシコメは、橋の渡った先を指差すと恋へと話しかけてきた。
『この橋を渡って真っすぐ行けばここから出られる。
同格の相手とぶつかるのはお互いに損であろう? さっさとここから居なくなってくれ』
「嫌よ。【マカジャマ】」
『……うなっ、小娘ぇ! お前ぇ!』
「見逃すはずがないわ、馬鹿なんじゃないの?
これで術は封じたわ。いい感じにサンドバッグになってね?」
「おの、おのれっ! 小娘ぇぇっ!』
ヨモツシコメの提案をあっさりと蹴った恋は、相手の術を封じるとそのまま蹴りかかった。
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そして、10分後、恋に蹴り砕かれマグに帰るヨモツシコメに彼女は言った。
『…儂は魂を黄泉の国へ送らねばならないのだ…そのためにも魂を喰って…ぐふっ』
「本末転倒な事をしている自覚もなかったのね。
大叔父さんが言っていた通りね。
“悪魔はいくら強くなろうと鍛えようと、人の認識によって本質がいい様に変質する。
自分の役目やあり方に縛られた悪魔は特に”って。
……もう聞こえていないか」
『……あの、いいですか? そちらの方』
消えていく老婆を眺めていた恋に、後ろから男の子が恐る恐る話しかけてきた。
彼女が振り返ると、崩壊を始めた異界を背にその子は笑っていた。
『車両事故で亡くなった迷える魂を冥府に送る役目を見失った彼女を、倒して下さりありがとうございます。
後はわたしが何とか致します。残った死者の魂を導くのも役目ですので』
「……あなたは?」
『強くまっすぐな心持ちのお嬢さん、さあお行きなさい』
「待って!」
恋が思わず声を掛けるが、男の子の姿に地蔵のシルエットが重なったかと思うと次の瞬間には彼女は阪急電鉄の長岡天神駅近くの路地裏に立っているの気が付いた。伸ばした手を下げて恋はマントとブーツをバッグに仕舞うと、釈然としない気持ちのまま家に向けて歩き出した。
この後、このやり切れない気持ちを何とかしようと恋はさらに山梨で強くなるために没頭し始めた。
終末後に訪れる彼女にとって最大の試練と向き合えるのを準備するかのように。
後書きと設定解説
・主人公
名前:山南恋(やまなみれん)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・21歳
職業:ガイア連合所属黒札
ステータス:レベル31・スピード型(速・力)
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:風龍脚(敵単体・力依存の中威力の衝撃属性攻撃)
回し蹴り(敵複数・1~2回の中威力の物理攻撃)
マカジャマ(敵単体・中確率で魔封を付与する)
ヒートライザ
(自身・攻撃、防御力、命中・回避率を1段階上昇させる)
軽気功(自身・浮遊移動ができ床の罠を無視できる)
トラフーリ
(味方全体・ボス以外の戦闘から離脱できる)
専科百般(多方面に渡る多芸な才能。
非戦闘時でも効率よく経験値を取得できる)
被虐体質
(敵に狙われ易くなる。自身のHPが低いほど、
受けるダメージ量が減少する)
装備:バッデドアーマー(高質のゴム製のボディスーツ防具霊装)
メタルブーツ(金属製の戦闘用ブーツ霊装)
花飾り(呪殺無効を付与した桃の花の飾り)
精神無効の腕輪
禍除けのマント
スマホ型COMP(アナライズ、エネミーソナー)
詳細:
京都出身の星杖ニキの兄の孫に当たる修羅勢の女性転生者
半終末後に星杖ニキが実家に帰省した際に話して転生者と判った
地元の京都では有名な剣術道場の娘として良家の学校に通っていた
卒業後、山梨で覚醒し大叔父の星杖ニキの後を追うように鍛錬し出した
今世の両親は京都の連合関係者を道場生として受け入れて教えている
前世は良家のお嬢様で普通に結婚して老年で穏やかに亡くなった女性
今世で自分の才能がどこまで伸ばせるのかを試すのが今の一番の趣味
容姿は「魔都精兵のスレイブ」の「山城恋」にそっくり
終末後、とある悪魔のせいで深刻な風評被害に晒される運命が待っている
専用シキガミは索敵に強い黒い柴犬の姿の「カナメ」
【禍除けのマント】
山南恋が身につけている装着部が金色の赤いマント霊装
普通の防具としての機能に魔法回避率の上昇とアナライズ隠蔽効果がある
デザイン違いにナルトの暁や進撃の調査兵団など各種の漫画の物が販売されている
・関係者
名前:不明
性別:男性
識別:地蔵菩薩
詳細:
京都の「きさらぎ駅」にあたる「すたか駅」にいる少年の姿のなにか
ここの異界に迷い込んだ人々を出口に案内しようとしている
正体はこの異界の出来た失われた駅構内にあったお地蔵様
この異界の悪魔とは敵対しているが破魔されるため手を出されない
・敵対者
【外道ナイトストーカー】
レベル13 耐性:破魔弱点
スキル:ダマスカスクロー(敵単体・1~3回の小威力の物理攻撃)
一分の活線(最大HPが上昇する)
詳細:
以前に迷い込み悪魔と化した元犠牲者の男
制服を着た列車の職員風の姿をしている
【妖獣ギュウキ】
レベル12 耐性:破魔無効・呪殺耐性
スキル:暴れまくり(敵複数・2~4回の小威力の物理攻撃)
体当たり(敵単体・小威力の物理攻撃)
詳細:
異界に湧いた犠牲者を脅して追い込む役目の牛頭人身の悪魔
普段は姿を隠している
【鬼女ヨモツシコメ】
レベル32 耐性:火炎弱点・氷結耐性・状態異常無効
スキル:串刺し(敵単体・小威力の物理攻撃)
マハザンマ(敵全体・小威力の衝撃属性攻撃)
ポイズマ(敵単体・中確率で毒を付与する)
詳細:
京都の神隠し都市伝説「すたか駅」に出る老婆の正体
尾張の産土神「玉姫命」に仕えると自称し人々を冥府に連れて行く
異界の主で取り壊された駅そのものが付喪神化したものの化身
広まった噂により変質し捕えた人間や死霊を自分で食べていた
読んでくださった方がいるならありがとうございます。