瞳の奥   作:ミックスジュース66

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発端

 太陽の光の筋が東の水平線から弱々しく差し込み出し、深い青の中で緑に輝く。その筋は時間と共に増え、黄色へオレンジへ変わっていく。

「日の出ね」

 書庫で、少女・ラズが窓の外を見て言う。苺色の髪に、ワンピースの上から背中に大きくジョリーロジャーが描かれたマントを羽織っている。

 ガラスの向こう側では、空の世界を謳歌する鴎たちが、まだ冷たい空気を切って飛んでいく。

「副船長(バイス)? あ、やっぱりここにいた」

 ドアが開いて、ペンギンが顔を出した。

「朝飯の前に、取引の打ち合わせをしたいんすけど」

「分かりました。今行きます」

 ラズは手にしていた本を棚へ戻し、書庫を出た。

 談話室に移り、テーブルに広げた地図を見ながら話を詰める。

「で、取引場所の店はここ」

 ペンギンが地図に赤丸を書き込む。

「袋小路の先か。塞がれないよう、道に見張りを置いた方がよさそうです。普段ならあの人の能力で簡単に離脱できますけど、今はそうもいかない」

 ラズはため息を吐く。

 いつもと変わらず私の仕事はほとんどないけど、船長代理の責任は重くて神経がすり減る。

「キャプテン、今度はどこで放浪してるんすかね」

 ペンギンはもう慣れっこで、夕飯のメニューを気にするくらいのテンションで言う。

 

 時は進んで正午。停泊中の御徒島(おかちじま)、町のレストラン。取引時間まで、あと三十分。

 食事時なので、店内は満席。老若男女が、食欲をそそられる香りの充満する中、胃袋を満たしていく。

 取引場所としては、いい隠れ場所だ。

 ラズは辺りを見渡す。

「お待ちどお様」

 向かい合って席に着いたラズたちの元に、恰幅のいいおばさんがやって来て食事を出した。

「ありがとう、おばちゃん」

 ペンギンはそう声をかけてから、手を合わせて自分のステーキを食べ出す 

 これじゃさすがに人が多すぎて、見聞色使えないか。

 心中を読み、怪しい人物を特定しようとしていたが諦める。

「バイス、早く食べないと冷めちゃう」

 ペンギンが口をモゴモゴさせながら促す。

「そうですね。いただきます」

 そう言ってラズが手を合わせた時。ペンギンが一瞬で固まる。ペンギンは、ラズが今ままで感じたことのないくらい、心の芯が揺さぶられているようだった。

 ペンギンは黙ったまま、ナイフとフォークを置いて席を立つ。

「ペンギンさん?」

 ラズはふらふらとある席へ向かっていくペンギンを、躊躇いながらも追いかける。

「なあ、その話。おれにも聞かせてくれよ」

 ペンギンは、昼間から酒を飲んでいる男たちに話しかけ、空いている席に勝手に腰掛ける。

 ラズはペンギンの後ろに立って、様子を伺う。

「あ? 誰だ、てめえ?」

「おれはペンギン。さっきの話に興味があんだ」

 このテーブルだけ、険悪な雰囲気になる。男たちは、突然現れたラズたちを警戒している。

 この感じ、一般人じゃない。常に追われている者特有の警戒心。海賊か。

 ラズは自分のマントの下で、右手をゆっくり脇の下の拳銃に伸ばした。

「サキラに興味があんのか? それとも、珀鉛病の方か?」

 奥にいる、いかにも悪人面そうな男がほくそ笑みながら聞いてきた。周りの男たちもそいつの意図を伺うように見る。

 この様子だと、この人が親玉?

 ラズはそいつを注意深く見ることにする。

「珀鉛病」

 ペンギンは笑みを消さないが、その内に何かが渦巻いているのを感じ、ラズは片眉を上げる。

「関わらない方がいい。世界政府が直々に関わっている案件だ。比喩抜きで、殺されるぞ」

 試すように私たちの方を見る親玉。

「どうするかはこっちが決める。それより、話す気があんのかないのか」

 ペンギンはポケットから万札を一枚出して、ヒラヒラとして見せる。

 すると親玉は呆れたように笑って、肩をすくめる。そして口を開いた。

「サキラという島に、大量の白い死体が運ばれたって噂があってな。もちろん公式には否定されているが」

 親玉は酒を呷る。

「もしそれが本当なら。法外な費用と労力をかけて、死後も菌が生きてるかもしれねえ危険な死体を、運び込んだわけだ。

 これだけ聞けば、裏の人間ならば嗅ぎ取れるはずだ。ドス黒いものが渦巻いていると。お前には無理か、日向の匂いがするもんな。紫薔薇、スチュアート・ラズベリー」

 そう言って、私の方を見る親玉。

 ラズははっとして、目を見開く。

 私の正体に気づいていた?

「何驚いてる。お前らのジョリーロジャー、ハートの海賊団のだろ?」

 親玉はペンギンのつなぎにある左胸のマークを指差す。

「ハートは、船長とお前。あとペットくらいしか懸賞金かかってねえから、簡単に分かる」

 親玉は「これで全部だ」とペンギンに言う。

「情報提供、感謝する」

 ペンギンは口をぎゅっと結び、金をテーブルに置くと席を立った。

 

 星も輝く月夜。

 あの後、取引は無事終わった。だが、終始ペンギンは暗い表情のまま。口数も極端に減っていた。

 自室で、クルーたちが提出した書類をチェックしサインしながら、ラズは眉間に皺を寄せた。

 明らかに様子のおかしいペンギンに、ラズはどうすべきか迷った。だが結局、話を聞くことはしなかった。

 書類を分類、ファイリングしていく。

 私は心力がなくて頼り甲斐がないのかもしれないけど、それでも助けになりたい。

 ラズが口角を下げていると、廊下から複数の足音が近付いてきて、ドアがノックされる。

「バイス! 今いいですか」

 シャチの少し荒ぶった声がした。

 何事かとすぐにドアを開けると、シャチと連れて来られたペンギンが立っていた。

「話聞いてください」

 悪い興奮を抑えきれないのか、少し声量を大きくして、シャチは言った。

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