瞳の奥   作:ミックスジュース66

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調査

 自室に戻っても、ラズは目が冴えて眠れなかった。

 シャチたちから聞いた話を思い出して反芻する度に、心臓の拍動は強くなっていった。

 ラズは雪豹柄の毛皮帽子を被り、金のピアスが光る、あの人を思い浮かべる。

 あの人の強靭な精神力を垣間見る度、大きな波をいくつも乗り越えてきたのだろうとは思っていた。だがそれは、海賊として歩んでいる最中のことと勝手に考えて、自分に全く非のない理不尽の極みの果てとは想像していなかった。

 額に手を当てる。

「ダメだわ」

 ラズはそう呟いてベッドから体を起こし、マントを肩にかけると書類のファイリングを再開した。

 そうしているうちにまた日が昇り、新しい一日が始まった。

 紅茶の香りが漂うラズの部屋。

「そもそも、なんでフレバンスから死体、じゃなくて」

 えーっと、と言葉を探すシャチに、ラズが「遺体」と助け舟を出す。

「そう、遺体。を運んでくる必要があったわけ?」

 二人は、昨日の話を整理する。

「体内に溜まった珀鉛を、取り出したかったとか」

「なんで? 珀鉛が欲しいなら、また発掘すればいいじゃん」

「確かに。もしかして、珀鉛は体内で変容するのかも。それが欲しかったのなら、辻褄は合うわ」

「とすると、大量の遺体を確保したのは、それが珀鉛みたいにお金になるから、とか? ってことは、サキラに埋められてるのは、解剖された後の遺体か」

 最低ね。死んでまで世界政府の道具にするなんて。

 ラズはぎゅっと口を結ぶ。

 この先、それが確定した事実になった時、どうするべきだろう。あの人に伝えるべき? そもそもいくら頼まれたからとはいえ、部外者の私が安易に手を出していい件とは思えない。

 ラズが難しい顔をしている横で、ラズの淹れた紅茶を堪能するシャチ。

「めっちゃいい匂い。おれ紅茶詳しくないけど」

 それを見て、ラズはフッと笑う。

 やっぱり討論はいい。思考がどんどんまとまっていくし、落ち込んでも引き上げてくれる。

「よかった」

 そんなことは、まだ後回しだ。

 ラズは頭を切り替える。

「大体の仮説を立てたところで、裏取りを始めましょう」

 ラズは机の電伝虫を取って、以前から付き合いのある情報屋に通信する。

「サキラ? あー、はいはい」

 電伝虫から、若い男の声が聞こえる。

「確かに、怪しい噂はあるね。国有地を政府が借用してたらしいし」

 ラズとシャチは顔を見合わせる。

 火のないところに煙は立たない。やっぱり何かある。

「必要なら、詳しいやつ探そうか? 紹介料はもらうけど」

 電話越しでも、今商魂逞しい笑みを浮かべているのが感じられる。

「ぜひ、そうしてもらいたいわ。紹介料ももちろん出す、常識の範囲内でね。あなたとは、長く付き合いたいの」

「決まりだな。だが、あまりおすすめしねえな。政府のことに首を突っ込めば、あんたらの敵は増える。ま、軽く聞き流してもらって構わねえよ。お得意様は大事にしたい、ってだけなんで」

 また連絡する、と言って電話は切れた。

「やっぱり、フレバンスの人たちは、サキラに埋められてんのかな」

「今の時点では、まだなんとも。でも、サキラで政府が何かしているのは、ほぼ確定したわ」

 

 二日後。町の市場。

 晴天の下、テントの店が並ぶ大通りには、ラズの背丈では先が見通せないほど人が溢れていた。

「五百ベリーです」

 ラズは売り子に小銭をぴったり渡す。

「ありがとうございました」

 売り子は、赤いガーベラの花束をラズに渡す。

「ありがとう」

 ラズは微笑んでから、後ろにいたペンギンと目的地に向かって歩き出す。

「おれの後ろを、離れないでついて来てください」

 ラズは頷いて、言われた通りペンギンのかき分けた人だかりの隙間を歩く。

 少しして、細い脇道へ入った。建物の間で影っており、少し涼しい。

「道をお聞きしたいのですが」

 ラズは、その先でタバコを蒸す三十代くらいの女性に話しかける。

 獣のような女性の目は、ラズの手にする赤いガーベラを捉えた。

「カストーへは、どうやって行けばいいですか」

 合言葉を聞いて、女はタバコを捨てて靴で火を消す。

「案内してやるよ」

 女が路地の奥へと歩いていくので、ラズたちもついていく。するとすぐに、古い石造りの細長く小さな建物へ辿り着く。

 中へ入るとそこはパブになっていて、いかつい坊主のおじさんがカウンターでグラスを磨いていた。

「サキラについてだったね」

 どかっと近くの席に腰掛けながら、女は口を開く。

「あそこは噂通り、内密に政府が土地を借り上げていた。でもそれは、十五年前から一年間だけ。その後は海軍が三年かけて整備し、でかい物資補給地にした」

 そして、女は掌を上にして、ラズたちに前金を要求する。

 ラズが目配せすると、ペンギンは巻いて筒にした紙幣を乗せる。

「白い亡骸が埋まってるっていう話も、割とあり得そうだ」

 女は輪ゴムを取って、お札の枚数を数え始める。

「根拠は?」

 ラズが聞くと、女はにやっと笑う。

「酒場で口を滑らせた元作業員がいてな。そいつとその時その場にいた奴らは、消された」

 ペンギンはぎゅっと口を結び、ラズは片眉を上げる。

「話を聞いた人たちは消されたのに、なぜ伝聞されてるんです」

「口の緩いそいつの知り合いが、情報提供者という話だ」

 確証にはならない。まあ、陰謀の証拠なんて、そうホイホイ出てくるもんじゃないか。

「ありがとうございました」

 ラズが切り上げようとすると、女が「チッチッ」と人差し指を揺らしある封筒を取り出す。

「そういうわけで、サキラの詳細な地図は非公開の機密文書なわけだけど。欲しくない?」

 ラズは驚きつつも顔を明るくする。ペンギンと顔を見合わせ、報酬金を女に渡した。

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