瞳の奥   作:ミックスジュース66

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潜入

 

 午後、ラズの部屋。見張り番を交代して手の空いたベポと、周辺海域の地図を広げている。

「サキラは、この御徒島から北におよそ百キロのところにある、割と大きい島だよ」

「さっき仕入れてきた情報によると、海軍の補給地になってるらしいわ」

 ラズは僅かに眉間に皺を入れる。

「え! それって、基地みたいなのとか建っちゃってるってことだよね?」

 ベポは複雑そうな顔をする。

「ええ」

「そんな! もしそれがフレバンスの人たちの上に建ってたら、埋まってても分からないじゃん!」

 ベポはあわあわし、ラズは険しい顔になる。

 もはや感心してしまうほど、やり方がうまい。

 海軍を常駐させれば監視になるし、建前もなく警備を置いて不信感を生ませることもない。しかも証拠隠滅までやってのけた。

「これじゃあ、サキラに行っても意味ないんじゃ」

「それは、行ってみないと分からないわ。他に証拠が見つかるかもしれないし」

 ラズに言われ、あっさり「あ、そうだね」と意見を変える素直なベポ。

「でも、海軍の補給地なんだよね。キャプテン七武海だけど、着港させてくれるかな」

「たぶん無理ね。でも大丈夫」

 ラズはにっこり笑って、ベポに封筒を見せた。

 

 翌日の夜、サキラ。太陽は完全に気配を隠し、フクロウが夜の住人に目を覚ますよう呼びかける。

 港から少し島の中に入ったところにある、大きな酒場。の裏路地。

「ったく、海兵が聞いて呆れるぜ」

 シャチが、気持ちよさそうにいびきをかいている海兵を抱えて歩いてきた。いつものキャスケットやサングラスを外し、髪を後ろで縛って私服を着ている。

「シャチさん!」

 一人心細く待っていたラズが駆け寄る。

「本当にな。睡眠薬入れられても気づかずに、ガブガブと」

 後ろからペンギンも海兵を担いでやってきた。同じく、いつもの帽子はなく私服姿だ。

「自陣にいるから、緩んでるんでしょう」

 一方のラズはいつものマントを羽織らず、髪をキャップの中に纏めていた。そして右肩に革のバックをかけている。

 二人は乱雑に海兵を地面に放る。

「バイスのはこれね。席にかかってるのを、通り過ぎ様に奪ってきた」

 シャチが、将校が肩にかけているあの上着を渡す。

「ありがとうございます」

 そして三人は、夢の中の二人の制服を剥いでいく。

「ちょっと小さいな」

 ペンギンは海兵の服を着終えると、肩の辺りを触る。

「おっしゃ行こうぜバイス!」

 準備万端のシャチが、意気揚々とラズの方を振り返る。

「確認ですが」

 ラズは真面目な顔で二人を見る。

「お二人は何としても逃がしますが、万が一私が捕まった時は」

 

「その時は、切り捨ててください」

 遡って三時間前、作戦確認の時。潜航中の館内で、ラズは冷たく告げた。

 それを聞いて、二人は納得できないという顔をする。

「私が捕縛されれば、珀鉛病を嗅ぎ回っているのがバレるのは必然。絶対に、助けようなどと馬鹿な考えは起こさないでください。自分たちも関わっていたと、自白しているようなものです」

 そんなの、と勢いよく反論しようとする二人を、ラズは手で制す。

「私と一緒に死んではいけない。あの人には、支えてあげる人が必要です。特に今は」

 その言葉を聞いて、二人は何かに葛藤しながら口をつぐむ。

 ラズは、肩で担ぐほどの大太刀を持って去って行った、あの人を思い出す。

 今のあの人の目には、私たちは映っていない。代わりに、あの人しか見えない何かが映っている。

 

「分かってる」

 二人は顔を歪めて答える。

「では、いざ基地に」

 ラズは上着を回して羽織り、真っ直ぐ二人を見上げた。

 島の中心に建てられた海軍の基地は、背の高い塀で囲まれていた。門番は二人立っていたが、常に多くの海兵が出入りしていて、いちいちチェックが入らないのは助かった。

 あっさり敷地内に入ったラズたちは、人波に従って歩く。

「補給地って言うだけあって、倉庫だらけだな」

 シャチが辺りを眺めながら言う。

「そういえば、酒場で『ここに何か面白い話はないか』と聞いてみたんすけど、特にこれといった収穫はありませんでした」

 ペンギンがラズに報告する。

「そうですか」

 ラズは、注意深く地面を見ながら進む。

 特に不審なところはないわね。当たり前か。こんなに多くの海兵が、何の違和感もなく日々往来しているのだから。

「人のいないところに行きたいですね」

 ラズは顔を上げて、周りの海兵たちを眺める。

「あの本部っぽい建物の裏とかどうかな」

 シャチが敷地内で一番大きな建物を指差す。

「そうしましょう」

 ラズは同意して、三人はそこへ向かう。

 挨拶してくる海兵たちに適当に応じて、目的地にくる。

「さて、ちょっと掘ってみるか」

 ペンギンはラズからバッグを受け取り、中からモグラのロボットを取り出す。

「まさかこんなところで、ヴォルフのガラクタが役に立つとはな」

「ヴォルフって、育てのお友達でしたっけ」

 バイス言葉のチョイス良よ、と建物の影から辺りを警戒するシャチが言う。

「さあ、初めてにして最後の仕事だ」

 ペンギンがスイッチを入れると、モグラの口部分にあたるドリルが回り出す。そして地面に垂直にドリルを刺すと、手足を掻いてどんどん地面の中へ掘り進んでいく。

「どうでしょう?」

 ラズとペンギンは持ってきたライターを穴に近づけて、二つの光源で中を照らす。

 光の届く範囲は、だだ土しか見えない。

「骨とかはないっすね」

 ペンギンは少し落胆したように言う。

「ここまでは想定内です」

 ラズは自分のライターをペンギンに渡し、ポシェットから数個の試験管と薬匙を取り出す。そして、手の届く範囲で深さを変えながら、土を採取する。

「完了。撤退しましょう」

 ラズの合図で、三人は建物から出て真っ直ぐ門へ向かった。

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