セカイ級彼女の超進化論(改題するかも)   作:倭文

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公式でもう推しの活躍の余地がないので、やまぬ渇きは二次(妄想)で潤すしかないと思いました。
映画の展開はちょっと無視した独自設定・解釈満載でかっ飛ばしていきます。
ついて行ける方々は、生暖かい目でどうかお付き合い下さい。


序章1

 

 

 悪夢でも見ているようだった。

 

 周りに何を言われても意地でも切らなかった髪がほつれ、脂汗によって首筋に纏わりつく酷く不快な感触。喉がヒリヒリと灼けるように渇き、か細い呼吸が漏れ出ていく。

 

 数えるのも億劫、いや絶望しそうな敵影の群れが周りを取り囲むという現状は、それなりに鉄火場を潜り抜けた自負のある身としても勘弁してほしいところだった。

 

 ともすれば今にも足が萎えそうになるところを、彼女はギリギリのところで持ちこたえていた。

 剣道を始めて、そして『日本を守る任務』を請け負うようになってから、こういった土壇場での精神力については自負がある。とはいえ、精神論だけではこの難所は切り抜けられるかどうか。

 

(……E6や800のような遠距離型の支援があれば――いや)

 

 元よりこの戦場に自分は独りきり。ないものねだりをしたってどうにもならない、なら持てる手札を以て対処しなければ。

 自分の気力と連動するように膝を突いていた分身を立ち上がらせ、転がっていた得物を構え直す。

  

 

 まだまだ熱を失わず生命力溢れる太陽の色を漲らせる刀身に心強さを覚えながら、彼女は再び眼前の敵と向き合った。

 

 それを待っていたかのようなタイミングで、『それら』はピクリ、と動き出した。

 

 その中で一際、こちらに深い手傷を負わせた個体がアクションを起こす。

 無造作に向けられた厳めしい機械腕、その五指がにわかに輝く粒子を纏い、極彩色の不吉な輝きへ変わっていく。

 その様子に脳内アラートがレッドゾーンを振り切るのを察知し、一瞬迷いながらも――彼女は前進を選んだ。

 

(さっきまでのミサイル群程度なら、まだ刀身で防げるけど……)

 

 あんな曰くありげな光を見せ始るのは初めてだ、恐らく今まで通りとはいかないだろう。それでも、高威力の攻撃を防げる装甲などない以上はイチかバチかで懐に潜り込むしかない。

 こういう時、的確な分析と指示で支援してくれるオペレーターの有り難みを痛感し、今更ながら孤独感がひしひしと背中を突き刺す。

 

 ――ここまで来たら、やるしかない!

 

 鋭い呼気を一瞬吐き出してから、目を針のようにして眼前の敵を見据えながら駆け出す。そして、『案の定』周りを取り囲む他の軍勢が怒濤のように押し寄せ、ミサイルが、ビットが、近距離では体当たりや巨大な刀が襲いかかる。

 

 その全てをかわし、いなし、弾き返し。

 

 ついに、その懐にまでたどり着き、『いける』との確信を得た瞬間だった。

 

「なっ!?」

 

 一瞬、不覚にも何かに躓いたのかとも思った。今にも身体ごと剣を振り下ろそうとしていた機体はガコッと、あたかも何かに急停止させられたように一歩も動けなくなる。

 だが、無様に転倒している訳でもない。

 

(ワイヤーでも使われた? でも――)

 

 辺りを確認するように振り向きざま、四肢を無造作に動かしてみる。上げたり下げたり、歩行も問題ない。

 

 ――ただ、四方のどこへも3歩以上進むことが出来ない。

 

 こちらの劣勢を察知した敵勢が、今にもその牙を一気呵成に叩きつけようと戦意を昂ぶらせるのを否が応でも感じ取りながら、イチかバチかで必殺技で一体でも数を減らそうと考え――はた、と彼女は気づいてしまった。

 

 自分の周囲を取り囲む、淡いオレンジに輝く改札。

 燦然と赤く輝く、進入禁止マークに。

 

「――え」

 

 ある意味一番見慣れているのに、それが自分の四方を取り囲んで動きを封じている現実は、彼女にとって絶対に有り得ないもの。

 

 見開かれた瞳の先、山なりの影となった敵勢の頂点に立つ者が、おもむろに腕を、得物を高々と掲げた。

 それを認めた瞬間、彼女は反射的に自分の手元を確認した。

 オレンジの光を湛えて、恐らく今の意気消沈寸前の彼女よりも赫々たる力を漲らせた()()()()()()()を。

 

 だが、あの個体が手にした太刀--輪郭も輝きも何もかもが、遠目でも手元のそれと似通い過ぎたそれは。

 

 倒すべき敵に振るわれるがまま、容赦なく、彼女目掛けて大上段から――

 

 

 

 

 

 

 §

 

 

 

 

 

 バタバタと、研究所内一画の廊下を複数の男女のけたたましい足音の不協和音が満たす。

 慌ただしく走る所員達の先頭を切っていて息切れ一つしない健脚ぶりを発揮する大沼ソウヤ指令長は、常日頃柔和なその顔に数週間ぶりかの焦燥を滲ませていた。

 やがて、目的の一室にまでたどり着いて、空気の抜けるような音と共に自動ドアを抜け――

 

 

 

「ミクッ!!!」

 

 

 

 火花を散らし、細かな蜘蛛の糸の如きヒビ割れたシミュレーターの液晶。

 そして座席すぐ傍の床には、2時間程前に久しぶりの戦闘訓練に挑戦すべく研究所へやって来た、この極北の研究所の誇りたる運転士――発音ミクが、床の上にその豊かな髪を広げながら倒れ伏していた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

『それで、ミク君の怪我の具合は今は?』

 

 大宮支部の出水指令長が、画面越しに一瞬目を沈痛に伏せてから切り出してきた。

 声音には明らかに痛ましいものを見るようなものが滲んでいるので、今の自分達はそこそこ酷い顔をしているのだろうな、と察しがついてしまった。

 少しばかり居住まいを正した後、大沼指令長は努めて淡々と報告した。

 

「瞼と頬にI度熱傷ほどの火傷を負ったが、軟膏で処置をしたら跡も残さず治療は出来た。あと、爆風によって少し頭を打ったので、念の為に数日検査入院を……一応異常はなしとのことで、すぐに退院したよ」 

 

 そこまで告げた後、出水指令長の表情からほんの僅かだが強張りが抜けた。そして軽くため息をついた後、

 

『あとは彼女に、あまり心的外傷が残っていなければいいのですが……』

「こちらも一応、近々カウンセラーの先生をお呼びしようとは思っている」

 

 これまで運転士として数々の困難を潜り抜けてきたとはいえ、まだ小6のミクの今回の受難ぶりは色々心配になってしまうものがある。

 モニターどころか内部も割とクラッシュしていたシミュレーターのログをどうにかサルベージしたところ、なんと記録上にある歴代の敵性怪物体が勢ぞろいするというかなりのベリーハードモード単独撃破を強いられ、更に敗北の直後にシミュレーター筐体の物理的な小規模爆発である。

 

 勿論、既存のデータでそんな対戦モードは用意されていない。まだ痕跡は辿れないが、何者かのクラッキング行為によってシミュレータのシステムが強引に書き換えられた末にCPUに負荷が掛かり、ショートしたというのが所員達の大まかな見方である。

 

 ともあれ、キトラルザスとの一連のゴタゴタが片づいて一月もしない内のこの事件は、函館支部だけでなく全国の超進化研究所を動揺させた。

 恐らくどこも、研究所のサイバーセキュリティを一層強化する為に所員達が睡眠時間を削りながら対応していることだろう。

 

「セキュリティの見直しに御両親への説明、クラッカーの痕跡探し……やることが山済みでしばらくはまた栄養ドリンクが相棒になりそうだ」

『……心中お察しします』

 

 願わくば、痕跡探しで捕まる程度の愉快犯の人間であれば――という無意識下の願いを、互いに口に出すことはなかった。

 セキュリティの目を搔い潜り、研究所の懐に潜り込もうとした理外の敵がいたのも今は昔だ。ただでさえ言葉は力を持つのだ、迂闊なこと――新たな敵の存在の可能性を仄めかし、懸念が大当たりしてしまうことだけは、出来ることなら避けたいところだった。

 本当に愉快犯だとすると、ミクがそんな卑小な悪意に巻き込まれたことになるのが胸が悪いが。

 

『それで、ミク君はご自宅で静養中とのことでしたが……』

「ああ。 ……何かあの子に直接聴取したいことでもあるのかね?」

『いえ、今はそういうつもりはないのですが。……その……』

 

 と、そこで出水指令長は初めて、躊躇いがちに口を濁す。

 

 

 

 

 

『……病み上がりの人間に今のあの子達のテンションはキツいかと、思いまして……』

「……は?」

 

 

 

 

 

 

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