セカイ級彼女の超進化論(改題するかも)   作:倭文

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序章3

 

 

 

 

「待たせてもらってて思ったけど、やっぱりいいわよね一軒家も! リビング吹き抜けだしモデルハウスみたいでカッコいいし、家から独立する時広告収入で買えないかな?」

「……動画再生回数がついに100万超えになった現役ユーチューバーが言うと全くもって冗談に聞こえねえ……お。美味いなここの――麩菓子にクリーム入ったみたいなやつ」

「マカロンな、マカロン――っておいツラヌキ、この味は絶対そんな煎餅感覚でバリバリ雑に食らっていいものじゃないぞ!」

「なんだこれは!? 外はカリッと軽く中はとろける不可思議かつ魔法のような感触に加え、色ごとに中身まで違うというのか!? 凄いぞ、全く飽きがこないとは……」

「しばらく見ね内さ、セイリュウの食レポがこだにわがりやすくなってる……!?」

 

 

 自宅を来訪した(元)大宮支部シンカリオンチームの面々は、とりあえずミクが用意したアイスティーやお茶請け用のマカロンに舌鼓を打っている。

 自宅のリビングを興味深げに見つめるアズサ、豪快にマカロンをかじるツラヌキと、それを窘めるアキタ。

 セイリュウは何かあまり見た覚えのない恍惚とした表情を浮かべているし(そういえば甘党だったか)、それを見るちょっと日に焼けたシノブも何やら背景に稲妻でも走っていそうな驚きぶりである。

 

 こめかみに手を当てるミクに、一同の(一応)リーダー格たる速杉ハヤトが謝辞を告げる。

 

「あ、あははは……ミク、ごめんね驚かせて……」

「………いえ………」

 

 

 家に帰ったら読みかけの本でも読もうと考えていた筈が、まさかの展開が待ち構えていた。

 あの後玄関から現れたのは勿論アズサだけでなく、ハヤトを始めとする大宮支部の面々の雪崩れ込むような一斉登場に混乱したものだったが、彼らのペースに乗せられるがままあれよあれよという間にお茶会モードに突入してしまった。

 

「あのアズサさん、お見舞いの話は聞いていましたけど、予定では確か明後日にって話じゃ? お母さんにもそのつもりで予定を――」

「あー、それ? 運転士のお母さん達が使ってるほうのグループLINEあるじゃない。あそこ経由でミクのお母さんにこっそり連絡して、ちょっとサプライズも兼ねて2日早めて行こうと思うんですけどって言ったらOK貰ったから」

「お母さんまでグルなんですか!?」

 

 因みに母は現在、隔週で通うパッチワーク教室で家を空けている。出掛ける前の意味ありげな微笑みの意味を遅れてやっと悟った。

 

「おめー、律儀に母ちゃんへのLINEで『散歩に行く』って連絡しただろ? それ教えてもらってよ、玄関から突撃すんのもいいけど中で待ってたらそっちのほうが驚くかと思ってこうして待たせてもらってたって訳よ」

「いやだからって――ちょっと待って? 確かちゃんと施錠した筈」

「合い鍵の場所も教えてもらった。……見つけたらダミーだらけの鍵束の中っていうオマケ付きだったが、幸いにも5回目くらいで開いたよ」

「ミクの母上って、結構面白れー人だな」

 

 ……お母さん……

 

「それで、聞くがええと……発音ミク。遙々来てやったというのに何なんだ、その不満そうな顔は」

「不満なつもりはありませんが――お見舞いされる側でこんなにビックリさせられることになるとは……」

「不満たらたらではないか。そもそもそんな呑気に散歩に出られるなら病み上がりどころかもう立派に健康だろう」

「ちょっとセイリュウ!」

 

 ……ホントに頭が痛くなってきた。彼らを始めそりゃちょっとお祭り的ノリが好きなタイプかと思ってたが、こんな不意をつくような驚かせ方をする感じだっただろうか。

 

「ゴメン、盛り上がってるところ悪いけど――やっぱりここは運転士水入らずで、オレはお暇したほうがいいんじゃ……?」

 

 おずおずとした声にハッと思い出して振り向けば、ミクは実に薄情なことにやっと思い出した。

 アズサによって強引に引きずり込まれた函館支部オペレーターこと渡島氏が、さっきから所在なさげに着席していることを。

 

「何言ってんのよ! 超進化研究所のメンバーなら身内みたいなもんなんだから、この際遠慮せずパーッと騒ぎましょうよ!」

「いや、だからこれパーティーじゃなくお見舞い――っていうのももう野暮か……」

 たはは、と力なく笑う様に、とりあえずアウェーにならぬよう自分がちゃんとフォローせねば、という想いをミクが新たにしていると。

 そこで話は思わぬ方向へ飛んだ。

 

「それに、あたしの動画知ってるみたいじゃない。ひょっとしてチャンネル登録してくれてたりする?」

「あ、ああ。君のチャレンジは確かに面白いなと思って視聴してるけど……。――情報漏洩とかヤバイこのご時世で、顔も名前も全オープンでの配信活動なんてのを小学生がしてるのがある意味凄いと思って、印象に残ってたというか……」

 

 穏やかな声ながらに鋭い指摘に、途端にアズサはうぐっと呻いて、脂汗を一筋額に流す。

 

「……お兄さん、顔に似合わず言うことは言うのね……」

「いや当たり前じゃん……今はそんな気配ないけど、俺もいつどっかのファンに自宅突撃とかされないかちょっとヒヤヒヤしてるんだから。俺んちだって上田家の隣な以上他人事じゃないんだよ!?」

「失礼ね、あたしはそんなヘマしないわよ!」

「いや上田アズサが自衛してても、世の中には後々車両の運行に影響するってわかってるのに危険撮影に踏み切る度し難い撮り鉄だっているんだよ!? ホントに俺が言うのも何だけど、何かに熱狂した人間の狂気は舐めちゃいけないんだ!」

「……それ、あんたの通常運行も狂気だって言ってることになるけどいいの?」

「というか……俺達も一応、許可貰ったとはいえ不意を打つ形で突然という意味では似たようなことしてるんだがな……」

 

 

 繰り広げられる丁々発止のやり取りをポカーンと見つめた後、渡島氏はこの場で唯一の顔見知りであるミクに視線を向け、

 

「……噂以上に賑やかな子達だね」

「……ノーコメントで」

 

 はぁ、とため息をついて、一人また一人と賑やかさを増していく光景を見て、ざわつく心が現実に追いつき始める。

 

 皆も少し前とは違う。それぞれもう元の場所での生活があるのにそこからまた集まってくれて、そして会えて嬉しいのに、何だか喉の奥に色々と引っかかってしまう。

 

(……不意打ちみたいに、こっちを驚かさなくても)

 

 うまく言葉に出せない自分も、本当に面倒くさい。

 

「そうそう、ミク!」

 

 ミクにとってはほぼノーモーションとも思える程距離を詰めて、眉根を寄せながらアズサが顔を近づける。つけま効果もあってか目力の倍増で圧が増しているので、ミクにしては珍しく後じさってしまった。

 

「確認するけど――LINEで言ったようにホントに大丈夫なのよね? 意地張ってる訳でもなくて」

「……さっきセイリュウさんだって言ってたでしょう? ここから図書館までの往復して、具合悪くなったり息を切らしたりもしませんでしたよ」

 

 散々大騒ぎしておいて今そこを確認するんですか――と続けようとした時。

 真顔になったアズサの、彼女にしては珍しい射抜くような眼差し。だが、目を逸らしてはいけない気がして、ミクは口を噤んだ後、まっすぐに見つめ返す。

 

 

 

 

「―――そっか」

 

 

 

 

 

 グッ、と顔を天井に向けて数秒。何かを吸い込むような音が聞こえた後。

 

「~~~~はぁっ……まあ、あんたのメッセが淡泊なのは知ってたけど……」

 

 肩の力が抜けたように、疲れたような声色である。ミクだってそこまで鈍感ではない、おずおずと挙手をして言葉を絞り出す。

 

 

 

 

「…………あの、もしかしてですが」

 

 

 

 

 特に理由はなかったが、そこで一拍置いて。

 

 

 

 

「……滅茶苦茶心配をかけてしまいましたか」

 

「「「「「当たり前だああーーーっ!!!」」」」」

 

 

 

 

 何重にも重なった怒声がリビングを揺るがす。渡島氏などは至近距離にいたせいか鼓膜に直撃を喰らい『うおっ』とばかりに耳を押さえた。

 勿論ミク当人も例外ではない。まさかこのメンバーのこんな本気の怒鳴り声を浴びることになろうとは……。

 

「LINE送っても既読つかないって思ったら、翌日に出水さんからミクが怪我して入院したとか言われるし! スマホも壊れて病院いるんじゃ直電も出来ないし、又聞きで無事だって言われても不安だったから、院内公衆電話でも何でも使って連絡してくれるの待ってたのに! 退院した後LINEで『ちょっと怪我をして入院してました』って何よ!」

 

 帰って来て就寝直前、自宅のPC経由でそんなことをしたと思い出しミクは頭を抱えた。確かに、あの時はまだ混乱も抜け切っていなかったから平静を取り戻そうとかなり事務的なメッセージになってしまったかも知れない。

 

 その後のレスに特に違和感も感じなかった裏で、まさかこんな激情を抱えているとは思ってもみなかった。

 因みにバックアップは取れているから大事にはなっていないものの、スマホはまだ修理中である。

 

 

「……まあ、流石にアドレス丸暗記でもしていない限りミクだって直電は無理だから、連絡が退院後になるのは仕方ないとは思うが」

「流石にアレはなー、オレ達の心配返せってなったっつーか」

 

 口調は軽くても目が笑っていないアキタとツラヌキも、割と辛辣に追及してくる。

 

「正直、お母上に『いい』って言われてもやっぱこういうのは気ぃ咎めたんだが……」

「アズサもハヤトも本当に心配していたんだ、いい薬だろう」

 

 割と穏便派なシノブと、他人事半分怒り半分といった風情のセイリュウ。そして、最後にはハヤトもゆっくりミクへ歩み寄ってきて――

 

「……ミクは基本、余程のことがない限り誤魔化すとか嘘をつくとかはしないってわかってるよ」

 

 焦げ茶の瞳が、さっきのアズサに負けず劣らずの気迫を湛えてミクを見据える。それは、あの時の自分の未熟を受け止め、尚叱咤してくれたあの時にも似ていて――。

 

 

 

 

 

「でも、大丈夫の言葉くらいは、ちゃんとミクの声で聞かせてほしかった」

 

 

 

 

 

 ――久しぶりに、効いた。

 格好ばかり取り繕って、あんな書き方して皆が心配するなんて思わなかった自分の馬鹿さ加減を、しっかり思い知った。

 何か言おうとして、でもすぐに出せなくて、熱くなる頬を隠すように俯いてしまう。

 

 

 

 ――何やってるんだ。

 ――最終的にあんな負け方して、みっともなかったからって。

 ――こんな怪我で私は(こた)えないって、そんなことばかり取り繕おうとしてた。

 

 

 

 情けない。ばかみたい。こっちの方が負けたことよりよっぽど恥ずかしい。 

 

 

 

 

 逃げたい気持ちを押さえるように、胸に手を当てる。

 十数秒かけて深呼吸して、つま先をそろえて、居住まいを正す。

 そして――みんなの顔をしっかりと両目に焼き付けながら、

 

「――心配をかけて、すいませんでした」

 

 ハヤトもアズサも、まだ何も言わない。多分、この後に続く言葉を待っているように。

 

 そしてその言葉だけは、今の表情(かお)では絶対いけない。

 言うならもっと、とびっきりの――

 

「ありがとう。……そして皆、また会えて嬉しいです」

 

 鏡で確認出来てなんていない。やっと口の端が綻んで、自分でも言うのもアレだが、嬉しさ全開でだらしない表情になっているのかも知れない。

 それでもその言葉を皮切りに、ハヤト達もやっと表情を解きほぐして、

 

「――うん、俺達も!」

 

 懐かしくなる程離れていた覚えはないと思うし、なんなら定期的にグループLINEでやり取りだってしていた。でも、正直言ってなんだか夢を見て

いるみたいで、それと同時にむず痒いような。

 

 そんな心地で、ミクの心はやっと彼らと再会出来た気がした。

 

 

 

 

 

 

「因みに心配かけた罰として、今回ミクに拒否権ないから」

「…………はい?」

「振り付け動画はその内送るから、よろしく!」

「――待って待っていきなり何の話なんですか」

 

 それまでの空気をぶち壊すように謎の命令を下すアズサの様子に、一転してレッドアラートを察知したミクは慌てて言い募る。

 

「え? いや何ってあんたも聞いたことあるでしょ、『JSがシンカリオン踊らせてみた』――」

「それ、本部が直々にNG出したんじゃ」

 

 え、そんな企画が……?と目を白黒させる渡島氏をよそに、ハヤト達は気まずげに目を逸らす。

 

「まあね……でも何事にも抜け道は存在するのよ」

 

-

 そう言って自分のスマホをたすたすいじり出したアズサは、数秒間を置いた後その画面をずい、とミクに見せつける。

 そこにある映像の意味を一瞬把握しかねた後、遅れて理解した彼女は

 

「なっ、なっ……!」

 

 『オレ達も通った道だな』的男子達の顔には気づかず、ミクはたまらず叫んでしまう。

 

「何でH5がもう既に踊ってるんですか……!? 私こんな動きさせたことは――」

「ふっ――これぞMMDこと、Mega Moving Danceの力よ」

 

 質問をした筈がまた更に質問が生じる答えを返された。

 

「ネットのアニメファンが配布してるソフトウェアなんだけど凄いのよ。アニメっぽいキャラの3Dモデルとそのアニメーションを作成出来る夢のようなツール! 

実物がだめなら今はこれでいいでしょってことで、ひとまず超進化研究所関係者だけ動画を限定公開って条件で話つけてきたわ!

因みにシンカリオンの3Dモデルは三島さんが紹介してくれた信頼出来る筋のクリエイターさんが作ってくれたから」

 

 確かに、一瞬は本物かと思ったが質感が違うというか、装甲の光沢がCGっぽい滑らかさである。

 

「……何故そこで三島さん?」

「うん、そこは黙秘させてもらうから。で、運転士の皆には画面のシンカリオンを画面で踊らせるのに必要なベースになるモーション――動きのトレースの為に、実際にあたしの考えた振り付けで踊ってもらうわ」

「色々唐突過ぎるので一旦待ってもらえませんか……!? そもそも、いつの間にそんな企画持ち上がって」

「オレ達含めもう他の運転士にはもう通達済みだぜー。リュウジはまだ無駄な足掻き続けてるけど」

「最後にお前にその参加要請しようと思ってた矢先にあの件が起こったからな」

 

 その時やっと、他の皆が諦めムードになっていることに気づいたが時既に遅し。

 

「あの、ちょっといいかな……オレもそのソフト知ってはいるけど、別に運転士皆が踊らなくても、探せば配布モーションがあったような気が」

「あっまーい!」

 

 おずおずと嘴を挟んできた渡島氏の反論にもめげず、アズサは尚も言い募る。

 

「元の企画は運転士、つまりシンカリオンの中の人ことハヤト達が踊ってこそなのよ! 3Dモデルに楽曲も他の人に頼んで、この上肝心要の踊りまで他任せにしたら、それはもうただの外注企画じゃない!」

「中の人はやめてけれ、中の人は……」

 

 もう止められないとわかっているのかそんなツッコミも力がないシノブをよそに、ミクの頭脳はこの状況を打開しようとフル回転する。

 

「大体もう、皆全国でそれぞれの生活に戻ってるんですよ!? 早々集まって踊る時間つくる暇は」

「ああ大丈夫。最終的には個々のモーションさえあれば、揃ってやる必要はないもん」

「……で、でも流石にうちで踊るには広さが」

「これから大沼さんに話通して、研究所の広いスペース貸し切りにさせてもらうつもりだから」

 

 ――あああ逃げ場がなくなっていく!?

 

 因みにこの時、男子達は彼女の反駁の内容がこの間聞いたリュウジのそれとピッタリ一致していることに戦慄していた。彼ら視点では仲が良いのか悪いのかわからない二人だが、案外思考パターンは似通っているのかも知れない。

 

「それにこの間言ってたでしょ? ミクの学校って高校までエスカレーター式だから受験もないし、年内には大きな試合もないから時間あるって」

 

 また皆で遊びに行けないかの無意識下の期待もあってポロッと漏らしてしまった情報だった。過去の己の迂闊さを呪いながらまだ悪足掻きを続けようとするも、

 

「ついでに言っておくけど、その時さ――」

 

 と、そこでアズサの表情が不自然な程にこやかかつ、声も妙にトーンを押さえた優しげなものになった。

 

 

 

「ハロウィンとか新年会の写真見て、『みんなで何かやるのっていいですよね』って自分で言ったの、まさか忘れた訳じゃないわよね?」

 

 

 

 ――笑顔なるものの本来の起源は威嚇行為。

 歯を見せている訳でもない実に朗らかなその笑みを前にそんなことを思い出したミクは、諦めと共にガックリと肩を落とした。

 

「あ、因みに一番時間に余裕ある分、あんたには振り付けが一番難しいセンターやってもらうからね」

 

 

 

 

 かいしん の いちげき!

 こうかは ばつぐんだ!

 

 

 

 

 

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