セカイ級彼女の超進化論(改題するかも)   作:倭文

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序章4

 

 

 

 

「――いやーミクのあんな顔見られるなんて、結構レア体験だったわよね」

「そりゃ心配かけられて怒ったのはわかるけど、やりすぎだよホント……ミクは上田アズサのこういうノリ慣れてないんだから、かつてホームに置き去りにされて北品川駅と新馬場駅間を猛ダッシュする羽目になった京浜電鉄急行の車掌さん並の荒行を軽くふっかけてるのと同じだよ! ……本人の過失もあったかも知れないけど、それでも全速力で駆けて遅延を5分で済ませた彼の仕事への責任感、本当にすごいよねぇ……」

「うぉーいハヤト、話思いっきり逸れてるぞー」

 

 微妙に意気消沈しながらも何とか調子を取り戻したミクと、久しぶりの会合を楽しんだ後。

 流石に今北海道からそれぞれの地元に今日中に、というのは無理なので、かつての大宮組は超進化研究所の門戸を叩き、一晩宿舎でお世話になる運びとなった。ユニークなあのお母さんも、流石に男子が圧倒的に多いメンバーを家に泊める許可は出さなかった辺り、線引きはしっかりしている。

 因みに、てっきりアズサがその辺を頼んだと思っていたが、大沼指令長はそもそもハヤト達がミクの家を訪れたということ自体、さっき出水指令長と通信していて初めて知ったという。色々寝耳に水だったとは思うが、それでも『ミクを元気づけに来てくれたんだから』としっかりそれぞれのご家庭に連絡し、男子用の大部屋とアズサ用の個室を用意してくれた。

 

 

「まああれよ! クラッキングの犯人のことなんて現状何もわかんないなら、考えて仕方のないことでモヤつかせるより楽しいことで上書きしたほうがよっぽど建設的じゃない」

「楽しいことっつーか、ミクにとっちゃ災難の上塗りみたいなもんじゃ――いやなんでもねえ」

 

 アズサの一睨みで押し黙らされるツラヌキを呆れに眇めた目で見ながら、アキタはウーロン茶をグイッと一気飲みした。

 現在は研究所内のラウンジで自販機のドリンクを飲みながら、今日の感想について各々述べ合っている最中である。アキタは割と久しぶりにアズサへとじっとりとした目線を向ける。

 

 

 

 

「それにしてもお前、飛び込みで泊めてもらうよう頼むつもりだったのか……流石に行き当たりばったりすぎるだろう」

「だって大沼さんってミクに甘そうだし、心配かけたお返しなんて言ったら口滑らせそうじゃない?」

「いや、あの指令長は確かに優すそうだんだげんと……なんか怒らせたらうちの師匠並みにおっかねえ気がするべ……」

 

 そう呟くシノブの顔には、なんというか強者への畏敬みたいなものがありありと表れている。アズサとアキタは顔を見合わせた後、『まあ、あのミクの保護者役みたいな人だし……?』みたいな感想で締めくくる。

 

「あれか、白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)から白髪仏(ホワイトヘアードブッダ)に変わったような感じかも知れないと――」

「……セイリュウ、あのバスケ漫画相当気に入ったのね……ん?」

 

 ピコンッ、と軽やかな通知音を聞き取ったアズサは、懐のスマホを取り出して画面を確認するなり、パァッと喜色満面の笑みをこぼす。

 

「ちょっとみんな聞いてよ! コケモモさんからダンス用の楽曲が届いたの!」

 

 聞き慣れないが美味しそうな単語をにひたすら???と疑問符を顔に乱舞させる男子達に、彼女はスマホ画面――MP3ファイルを添付したメールをぐいっと突きつける。

 

「今回のダンスの為のオリジナル楽曲、前からうちのチャンネルのBGMとか作ってくれるクリエイターさんにお願いしたのよ。こっちのバイブス上げるいい音を毎度のように作ってくれるし、期待大よ!」

「んなっ……お前、それネットで知り合った奴なんだろ!? 話しちまったのかよシンカリオンのこと!」

「世間で出回った以上のことは話してないわよ。 それに職人気質で口固いから人だから大丈夫!」

「だからってそれは――因みに、このこと出水指令長には」

「――まずは一旦、曲とやらを聞いてみないか?」

 

 んっ、と咳払いしたセイリュウが、とりなすように先を促す。

 

「コケモモとやらのことを伝えるにせよ、とりあえずオレ達が踊る為のものなのだろう。アズサがこれだけ太鼓判を押してるんだ、そうつまらないものではない筈だしな」

 

 ハヤト達はやや渋面ではあったものの、セイリュウの言葉通り踊らされることになるであろう曲への興味が勝った。

 周囲に誰もいないことを確認し、大音量になり過ぎない程度のボリュームで再生する。

 

 ――そして。

 

「……うわあっ……!」

 

 まず、発車ベルがイントロに含まれてる時点でハヤトとセイリュウがノックアウトされた。絡み合う軽やかな電子音とギターサウンド、そしてドラムのビートによって彼らのテンションは爆上がりし、サビにたどり着く頃には皆ノリに乗っていた。

 

「おお、これは……! なんかブリブリな女子向け曲だったら絶対ぇ断ろうと思ってたけど、予想の斜め上でアガるじゃねえか――初めての筈なのに聞いたことある気がするけど!」

「確実に初めて聞く筈なのにすごく馴染みがあるような気がするが、この曲で踊るならアリ寄りのアリだな……!」

「なんかシンカリオンで戦ってた時のごど思い出すてすまうべが、これなら思ったより楽しくくやれそうだべ!」

「……良いものなのはわかるんだが、総指令長の部屋にいたペンギンの顔を思い出してしまうのは何故なんだ……!?」

 

 本気で訝るセイリュウをよそに、ハヤトは目に星を瞬かせて興奮のままに拳を握り、

 

「いい、すごくいいよこれ! 何なら俺がミクの代わりにセンター ――……は流石に無理だけど、振り付け考えるくらいは協力するから!」

「……いや、あたしだって期待通りの名曲で嬉しいけど……今までこっちがどんだけ熱弁してもずっと『しょうがないな』って感じだった癖に、コケモモさんの曲聞いた途端そうあっさりノリノリになられると……」

 

 ジトッと非難がましい眼差しを向けるアズサに、その場の面々(セイリュウ除く)が一斉に顔を逸らす。

 

「けど本当にいい曲だよね~! 帰ったらシャショットにも教えてあげよう!」

「……そういえば聞きそびれていたが、何でシャショットを連れて来なかったんだ?」

 

 アキタからの指摘を受けたハヤトは、『あー……』、と気まずげに視線を逸らし、

 

「ゴメン、まだ詳しくは言えないんだけど……今、シャショットは別件で忙しいというか……」

「はぁ?」

 

 ハヤトにしては珍しく口を濁すその様子に、アキタは我知らず眉根を寄せる。だが、うっすらと滲む『それ以上は聞かないで』オーラを察知し、不承不承ながら話題の矛先を変えることにした。

 

「しかし、歌はついてないのかこの曲」

「そ、そういえばそうだよね……歌詞つけてくれる人とかにアテはあるの?」

「……そこなのよねぇ……」

 

 アズサは途端に難しい顔つきになり、トトトッと再びスマホを操作した後、新しくポップした画面を皆に見せてくる。

 youtubeページにズラリと並ぶサムネイルは、チャンネルの桃のマークからするとそのコケモモ氏の楽曲一覧らしい。

 

「コケモモさんはこれ、歌詞をつける前提で作ってないし今までの曲だってそう。そもそも『歌ってみた』とか『演奏してみた』みたいなジャンルと比べて作詞単独はまあ……正直動画としては再生数望めないし、発掘しづらいのよ」

 

 

 あたしの人脈も限界があるしね、と肩をすくめるアズサである。

 ツラヌキも実際に軽く想像してその理由を悟ったようで、多少うんざりした面持ちで意見する。 

 

「確かになぁ。ひたすら文字だけ表示される動画なんてあったって、正直眠くなる予感しかしねえや」

「作詞と作曲、両方出来る人ってほだえいねのが?」

「プロならともかく、あたしがyoutubeで確認してるアマチュアの中ではあんまりね」

 

 シノブのそんな疑問も想定済みであったのか、またも淀みない回答が返される。

 

「あとこれ、あたしがいいね!したクリエイターさん達のプレイリストなんだけど……ちょっと一通り聞いてみてよ」

 

 ツリーのように下段へ続く曲の数に辟易しつつも、今のアズサの声のトーンはふざけている時のそれではないことを十分伝わってくる。ハヤト達は、戸惑いながらもやや時間をかけて大体の曲を再生した。

 

 血潮を熱く滾らせ、ささくれ立った気分を癒し、切なさに胸を打たれる。

 それぞれベクトルは違うが、普段音楽への関心(推し活に張り切ってる約一名除く)が薄い一同も、素直に良いものと思えるものだった。

 

 しかし数曲目から『ん?』と思い始め、十曲目から確信に変わったその答えを代表のように口に出したのは、セイリュウだった。

 

「……全て、歌がついてないな」

「そ~なのよね~……」

 

 嘆くような声と共に同意した後、彼女はグッと両腕を伸ばす。

 

「ネット発信のオリジナルソングなんて投稿自体少ないし、掘り出されるのがあってもシンガーソングライターのそれか、作曲家と歌い手が奇跡的にマッチング出来た場合だけよ」

「……えっとごめん上田アズサ。それって何か問題でもあるの?」

「大有りなの!」

 

 バン!と伸ばした腕の先にある手のひらをそのまま勢いよくテーブルに叩きつけた後、アズサは『……うっ……』とばかりにジンジンと襲って来る痛みに呻く。勢いをつけすぎたらしい。

 

「誰にも話したことのないあたしの直感だけどね。このプレイリストのクリエイターさん達の曲は、それこそ歌詞――歌をつけることがあれば日本中、いや世界中が認めるものになるって思ってるの。この人達の曲に、その伝えたい想いが歌としてついて流れれば、絶対スゴいことになるって――聞いた瞬間からそう思ったの」

 

 アズサのその、突飛にも程があるが力強い確信の込められた口調と眼差しは、一瞬『そんな馬鹿な』と反論しようとしたツラヌキでさえ押し黙らせる程のものであった。

 思えば、結局どういう理屈なのか科学的解明はされていないが、アズサは運転士達の鉄分の度合いを推し量ったりするなど謎の観察力を秘めているのだ。その彼女がここまで言う以上、その想像――いや推測はあながち馬鹿に出来ないかも知れない。

 

「正直これは話が読めているか自信はないが……彼らはその気になれば歌をつけること自体は出来ると、そう思っているのか?」

「多分ね。何となくだけどこう……爆発しそうなパワーが凝縮されてるっていうか、伝えたいことが溢れ出しそうってそんなイメージが、時々伝わってくるの」

「意味わかんねーな……作れるなら何で歌つけねえんだよ」

 

 心底理解出来ないと言わんばかりのツラヌキの言葉に、アズサは一瞬躊躇うような顔を見せたものの、やがてキッパリと言った。

 

 

 

 

 

 

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 この時、誰も知らないし気づきようもないことだが。

 上田アズサという少女は間違いなく、この世界の真理を突いていた。

 

 

 

 

 

 

「自分の中に生まれた音楽を形作るのと、それを自分で歌うっていうのは全く別の話。作って、歌うってことが普通に出来るクリエイターはそういないのよ。それは、多分すごくエネルギーのいることなの。……あたしも、つい最近思うようになったんだけどね」

 

 だから、と言う。

 この人達の曲を聞くと楽しいけど、同時にもどかしくも思ってしまうのだ、と。

 

 

 

「時々思うんだ。こういう人達の伝えたいって想いを、代わりに歌って世界に届けてくれる。そんな――」

 

 ――そんな誰かがいてくれればいいのに。

 

 願うような、或いは『そうあるべき』と怒っているようにも感じるトーンのその呟き。その真摯さに、誰もが言葉を挟めずに2秒、3秒と過ぎていき――

 

 

 

 

 

「――ああああああああもうっ! なにこんな自分語りしてんのよあたしぃっ!」

 

 

 

 

 

 我に返って色々なものがこみ上げてしまった羞恥なのか、耳まで赤くなってアズサは吼えた。さっきまでの周囲への配慮及び乙女をかなぐり捨てた咆哮に思わず慌てるハヤト達だが、幸い人が騒ぎ出す気配はない。

 

「げに恐ろしきは深夜テンション……! そりゃ悶々としてたのもホントだけど、その内クリエイター同士のマッチング企画でも立ち上げてスッキリ解消しようって思ってたのに!」

「――それがアズサの心からの願いなら、何も恥じることなどないだろう」

 

 そこに差し込まれた透明な言葉で、猛っていたアズサもピタッとその勢いを止める。

 

「音楽が何かを変える、という感覚は、今の俺にはまだ理解出来ないものだ。だが、その者達が想いを込めたその歌を伝えることが出来る日が来れば、それはきっと良いことなんだろうな」

「………」

 

 からかいも含みも何もない心からのセイリュウの言葉は、羞恥心がマグマの如き有様になっていたアズサの心をゆっくり鎮めていき、そして。

 

 

「……とにかくっ!! 今日はもう寝るわよ、あと溜まってる動画の編集とミクへの楽曲送信もやっておくから! おやすみ!」

 

 捨て台詞のように告げた後、アズサはそのまま己の個室へと戻っていく。

 残された男子達も各々顔を見合わせていたものの、誰とはなしに空き缶を片付け始めてから、のそのそと周囲に気を遣って忍び足で戻り始める。

 

「最近、youtube見てて楽しいんだかイライラしてるんだかよくわからない顔してるなー、とは思ってたけど、あんなこと考えてたなんて……」

「自分の配信のこと以外であんなに悩むことあるんだなー。 まあ、世界云々言われてもスケールでかすぎて正直ピンとこねえけど」

 

 つい先日まで一応世界を守っていた運転士のものとも思えない発言だが、流石に仕方ないかとアキタも思う。

 

「まあ、要約すると『あまり陽の目を見ないクリエイター達に何かをしてやれたら』ということなんだろうが……最後のあれは流石に話が飛び過ぎてないか?」

 

 アキタもまた、話の壮大さに多少面喰らいはしたいものの、アズサの主張を上記のように締めくくる。歌ってくれる誰かとはいうが、そんな都合のいい人物が本当に存在していたらアズサが話すような現状にはなっていないだろう。

 

「だどもアズサだってさっき何か企画さ考えでるど言ってたし、大丈夫だべ」

 

 悩むくらいなら行動あるのみ、を地で行く少女である。ダンス企画も控えているというのに、いつかその日が来たらまた自分達も巻き込んで何かするという危惧もあるが、あんな調子でいられるよりは

厚かましくこちらを振り回してくるほうが、ハヤト達の精神衛生的にもまだ安心出来るだろう。……いややっぱり良くないが。

 

 

 そして、部屋の扉を潜る直前、道中黙り込んでいたセイリュウが、思い切ったように口火を切った。

 

「「――あの」」

 

 そして見事にハモる。隣のハヤトと。

 こうなると揃って黙り込み、遅れて状況を察したアキタ達3人がどうしようかと呆れ半分に顔を見合わせる中。

 

 戦闘で培われた勘が働いたみたいに、お互い何かに背中を押された気がした二人が、また見事なタイミングで言葉を、心をシンクロさせた。

 

 

 

「「――今回の歌詞だけでも、オレ達で考えて歌ってみない(か)?」」

 

 

 3人は、そんなに驚いたりはしなかった。意味ありげに目配せして、頷き合い、軽く笑った後、

 

 

「まあ、忘年会の時のダンスで思ったが歌があったほうが多少テンションも上がるだろうしな」

「任せときな! 四字熟語と一緒に鍛えたオレの国語力が火を噴くぜ!」

「お、おらは……ほだえ難しい横文字や英語はわがんねけど、やるならとことん付き合うべ!」

 

 

 アズサのあの葛藤みたいなものを、自分達は十二分に理解は出来ないかも知れない。

 でも、コケモモ氏とやらが作ってくれあの曲に、自分達も更なる輝きを添える手伝いをしたいと思うぐらいには既に思い入れも出来てしまった。

 

 

 

 

 

 

 アズサのあの、普段はつい距離を取りがちなこだわりに、今回ばかりは全力で乗っかろう―――。

 

 

 

 

 

 ――因みにその頃。

 

 

「うぅ……ランバダ? パラパラ? なんなんですかそれ……」

 

 

 

 

 函館支部でそんな青春の一夜を明かすチームを他所に。

 ツラヌキが言うように新たなる受難によって敗北の鬱屈を気にする余裕もなくなったミクは、ベッドの中で延々と悪夢に魘されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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