セカイ級彼女の超進化論(改題するかも)   作:倭文

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間章~あるいはどこかの街角で~

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――シブヤ区宮益坂駅付近の跨線橋の踊り場。

 

 父に頼み込んで貸してもらったデジカメを構え、少年は今はひたすら静寂に満ちる線路の向こうを睨んでいた。

 

 雲一つない晴天、風も微風で手元がブレる心配もない。ならば、次に標的(ターゲット)を捉えるのに失敗したら、それはもう少年自身の責である。

 

(――というかそろそろバッテリーが切れそうだから次で決めないと! ……大丈夫、大丈夫……!)

 

 早鐘の如き鼓動を抑え、唾を飲み込む。大丈夫、他の動く対象物で置きピンは何度も試した。

 

 

(俺は今までよくやって来た! 俺は出来る奴だ! そして今日もこれからも――って違あぁぁぁう!? 鉄道マニア的にこの鼓舞は違あぁぁぁう!?)

 

 

 同級生達の盛り上がりが無意識に頭に入っていたのか自分で自分に愕然としていると、跨線橋越しに微かな振動。

 

 明るいオレンジと緑のライン、シルバーのボディが眩い車体に遠目で気づいた時、彼の体はそれまでの動揺などなかったかのように、実にスムーズかつ流れるかの如く動いた。

 

 車体がピンに到達するまでは絶対動かない。今までの失敗で散々学んだ。

 端から見たらハイライトの消えているヤバい目つきで車体を捉え、心の中でカウントダウン。

 

 

 ―――5、4、3、2、1……。

 

 

 ――カシャシャシャシャシャッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

 跨線橋から降りて通学路まで戻り、母からのお使いを済ませ、マンションまでの帰り道であるスクランブル交差点を渡り終えた後。

 

 実に美麗に収まった湘南新宿ラインE231系を確認し、おもむろに『ふ、ふふふっ……!』と怪しげな笑みを浮かべた彼が悦に入っていると。

 

「――やっぱり今日も懲りずに撮りに行ってたか」

 

 天にも昇る心地に思いっきり水を差す声が後ろから響いてきた。

 スンッ、とテンションが急降下し、ギギギギ……と首だけ器用にフクロウの如く回したら。

 やっぱり飽きるくらい見慣れた顔が立っていた。

 

「うわっ……なんでここにいるんだよ?」

「そりゃもうこの辺り通学路じゃない。 それにこっちはあんたのお母さんが『また撮り鉄しまくってるだろうから暗くならない内に声かけてやって』って頼まれたんだからね?

あたしだって色々忙しいのに……というか」

 

 グイッと据わった目つきでこちらの襟首を引っ掴むと、彼女はたちまち怒りのままにまくし立ててくる。

 

「何で昨日の撮影手伝ってくれなかったのよ! 『JSが友達と一緒にモモジャンライブのコール&レスポンスに参加してみた』、絶対協力してよって言ったでしょ!?」

「そう言われたって俺最近のアイドルなんてよくわからないし! そもそも顔隠しても『キューティースマイル・遥』は絶対無理!」

 

 主に妹の顔を思い出して、滅茶苦茶居た堪れなくなること請け合いなので。というか他の皆はよく参加したよなと思う。

 

「何よ、桐谷遥嫌いなの?」

「いや嫌い以前によく知らないけど……というかそのモモジャンさん達もよく許可してくれたよね」

「まあそこは配信者同士のWin-Winってやつよ。今回の動画も、一部の過激派ファンがちょっと噛みついてきたのを除けばおおむね好評なコメントばっかだったし――と、そういえば」

 

 おもむろにこちらが手に持ったデジカメの画面を覗き込むと、しばし冷めた目で沈黙したのちに彼女は『ふーん……』と意味ありげな呟きを漏らす。

 

「まあ綺麗な感じに見えるけど、その様子だと今回は上手く撮れたの?」

「……うん、一応」

「そっか。まあ、努力が実って良かったんじゃない?」

 

 お疲れ様、とポンポンと肩を叩き、そのまま歩調を合わせ賑やかな雑踏を共に行く。

 そのままマンションに着くまで、いつもの動画トークを延々聞かされるかと思っていたが――

 

 

 

「それにしても、ずっと思ってたけど撮る専門に鞍替えしたの?」

 

 

 

 ノーモーションの質問に、思わず息が詰まって立ち止まる。

 さっきまでの撮影の時とは明らかに違う、脂汗を伴う嫌な鼓動。

 

 ――どう返すのが変に思われない? 怒り出す? 笑って誤魔化す?

 

 そんなことで真剣に悩んでしまうのが、本当に嫌になる。

 

 

 

「……だから何だよ。マナーはキッチリ守って撮影してるんだから文句ないだろ? ――あと」

 

 

 口調が殊更高圧的になっているのはわかっていたが、止められない。彼女の顔を正面から見れない以上、虚勢であることなんて見抜かれているだろうけど。

 

 

 

 

 

「鞍替えなんてしてない。俺は、何も変わってないよ」

 

 

 

 

 アスファルトの自分の影を見たまま、そう呟いた。今隣に並ぶ幼馴染の影が、振り向いた時今どんな顔をしているのか確かめるのが怖かった。

 

 

「……あっそ」

 

 

 特に興味なさげに感じる声で呟いてから、彼女はおもむろに自分の腕を引っ張った。

 

「上くらいちゃんと見なさいよ。空模様怪しくなってきてるじゃない、雨足が強くならない内に急ぐわよ!」

 

 そのまま返事を待たず、こちらの手首を掴んだまま駆けだした。確かにちょっと頭を上げれば、さっきまでの晴天は鈍色の雲に覆われ、ポツポツと雨が肌を打ちつけ、周りの人々も慌てて小走りになっている。

 ……天気とは、わからないものである。

 

 ともあれ、女子に引っ張られて走るのは流石に恰好がつかない。グイッと握られた手首に力を込め、彼女を自らの後ろに引っ込ませ代わりに先頭を行きながら叫ぶ。

 

「こないだの50m走の記録、俺のほうが速かっただろ! なら俺が引っ張ったほうが早いよ!」

「~~~っ、わかったわよもう!」

 

 雨足が強くなっていき、幼馴染の手を強く握って加速する。

 クラスメイトの目があったら多分しなかったとは思うが、今日はなんだか幼い時のような感じで走っても、割と抵抗はないように思った。

 

 

 段々と強くなる雨の中、ふと目に入ったのはさっき通った交差点の向こうの円筒形の商業ビル。

 より正確にはそのビルの中央にある大型ビジョンで、慌てふためく人々にまるでエールを送るかのように歌う、一人の少女。

 配信命のこの幼馴染や普段ドラマにハマっている妹ですら、目をきらきらさせて仰ぐように見ている――

 

 

「……? あっちに何かあるの?」

「何もないよ、急ごう」

「ちょっ―――いきなりペース上げないでよ、ハヤト!」

 

 

 

 歌う彼女があそこにいるとなると、幼馴染が急ぎ足を緩める可能性はあったので、足裏に力を込めて加速をかける。

 

 

 

 

 

 皆が知ってて皆に愛されてるけど、でも自分はよく知らないしあまり興味もない。

 日本が世界に誇るVS(バーチャル・シンガー)、初音ミクの存在も、その時の彼にとってはそんなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 一応念の為に言っておきますと、クロス先のユニットメンバーである彼らはこの先運転士になったりましてツカサリオンで戦ったりする展開は一切ございません。勿論別の形で本編中活躍はありますが。
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