セカイ級彼女の超進化論(改題するかも) 作:倭文
・函館支部のオリスタッフ(癖強め)が続々登場。まだメインには時間がかかります。
・及び、今回より初音ミクコンサートを色々熟知してないとわからないネタを差し込んでます。
相変わらず本題には入ってない遅筆ですいませんが、16歳の誕生日というこの奇跡の日に何とかこれだけは書いておきたかった……。
ミク、誕生日おめでとう。作曲は全然してないが、それでもキミは青春の一部だ。
ミクが諦めと共にアズサの一大プロジェクトを承諾して一晩経った後。
最初に行ったことは、大沼指令長を始めとする職員一同に話を通すことだった。
アズサがこれから交渉すると申し出たとはいえ、練習を行うのはあくまでミク自身である以上自分から頼み込むことを疎かにしてはいけない。四角四面と言われようと――今はそういう部分の角が取れてきたとも言われていようと、そこは譲れなかった。
幸いにも大宮支部の面々と居合わせて事の次第を知っている渡島氏を始めとして、大半のスタッフは今回の申し出を実にあっさり快諾してくれた。
何をどう聞いたのかアズサが時々動画で着てるようなフリフリアイドル衣装を調達してくる血迷った職員もいたが丁重にお断りしつつ、ともあれミクは特訓の日々をスタートさせた。
「スマホとカメラだけあればいいの? Vtuber見て色々知ってるつもりだったけど今そこまで進んでるんだ」
「上田ちゃんがやろうとしてるのって、要は実際の人間の動きを元にアニメキャラのCGに踊らせるアレでしょ? 先駆者の技術の発展があってこそこんな低コストで済んでるけど、流行り出した時はえぐい金額の機材がなきゃまず無理だったわね」
流石にミクも四六時中、鍛錬の為に公共物である摩周丸の甲板でストイックに竹刀を振るっている訳ではない。その自慢の剣腕を磨く為のスペースは研究所内にしっかり設けられている。
ミク自身やその他清掃員の皆様の努力によって日々塵一つなく光り輝く無垢フローリングの稽古場には現在、かつて巨大怪物体との戦闘をサポートを支援してくれた多くの(休憩中の)スタッフが揃い踏みであった。
研究所から支給されたスペアのスマホで再生される振り付け動画に追従して、四方八方に踏んでいくステップ、その手順を身体で覚え込んでいる最中のミクは、ややウンザリした表情で一度再生をストップさせて、
「……練習場所について頼んだのは確かに私のほうですけど、ここまであからさまだと流石にそこそこ上がっていたやる気が引っ込みそうなんですが」
「あ、ひっどーい! 昨日渡島くんが一人でミクちゃんの練習見てた時は別に何も言ってなかったじゃない!」
「贔屓だぞー、贔屓!」
「相手が誰とかじゃなくて、この場合人数の問題です」
自分より一回りは上のスタッフ達に対しても物怖じせず、唇を尖らせて苦言を呈するミクに、職員達の隅っこで見守っている渡島は苦笑するしかない。
運転士達が直接顔出しをする訳でないとはいえ、再生回数100万回数超えYoutuber主導によるシンカリオン踊らせてみた系企画というのは、良くも悪くも職員達の耳目を引いた。
超進化研究所内職員だけで視聴出来るプライベートチャンネルでのこととはいえ、外部のクリエイターに楽曲まで頼んでの本格企画である。取り分け娯楽に飢えていて、ここのスタッフ達にとってある意味自慢の我が子かヒロインのようなミク(のH5)がセンターを務めることまで聞かされた函館支部の面々は、その瞬間伝えた張本人こと渡島を軽く引かせる勢いで狂喜乱舞していた。
――
一年以上彼女を見守ってきた面々の心情は、正にこの一言に尽きる。
今まで大宮支部のように大盛り上がりするイベント事は(穏やかな大沼指令長の気質も相俟って)あまり縁がなかっただけに、数々の支部を跨いだこの企画には自分たちの口出し出来る余地がなさそうとはいえ大盛り上がりである。
「すごいよなー噂のアズサちゃん。運転士でもねえのにこんな企画立ち上げてOK貰った上、企画書と楽曲まで総合司令室に送ったんだっけ?」
「俺
「ええー、流石にガセでは……?」
やいのやいのと騒ぎ立てる職員達を、結局ミクはそれ以上咎めることもなくため息をついた後、静かに頭を抱えた。諦めたといってもいい。
「ごめんよミクちゃん……まだまだファンとしてぺーぺーの新参なオレに程度じゃ、古参勢の熱は止められないみたいだ……」
「……何言ってるかわかりませんが、とりあえず渡島さんが気にすることじゃないでしょう。ワガママ言ってるのはこちらですし、ちょっと皆の見せ物になるくらいどうということありません」
慚愧に堪えないとった風にこめかみを抑える渡島氏に、ミクは苦笑しながらフォローを入れた。
自分で了承したとはいえ未だ不本意であるダンス特訓を見せ物に騒がれる、なんて少し前だったら絶対零度の視線を飛ばしていただろう。しかし、ここ一年ンヶ月の濃密な経験はミクにそこそこ寛容さを芽生えさせるには充分であった。
「……本気で嫌だったら言ってくれよ? 皆に悪気はないとしても、それでミクちゃんが騒ぎの肴にされるのを我慢しなきゃいけないってことにはならないんだし」
大学の新歓で、先輩方から酒の勢いによる無体をあれこれ経験してしまった渡島としては、割と本気でミクに忠言した。
しかし、ミクはフルフルと首を振って、
「皆さんにはああは言いましたけど……正直、ひとりでやってたら『なんで私が……?』みたいな感じで冷めた感じになってた気がするので。なんであれこうやって応援してくれるならそれなりにやる気も出ます」
振り付けをとちったら思わぬところから気づいてもらえるかも知れないので、と事も無げに言うミク。推しにここまで言ってもらったらますます同僚どもは調子づいていた気がするので、マジでヒッソリとした声で良かった――と渡島は割と真剣に思案した。
そんなファン冥利に尽きる発言を推しがカマしていることなど気づかない職員達の中、 ゴクゴクと自販機で購入したルイボスティー(500mlボトル)をあおって、一人の女性職員がややすわった目つきで同僚達に一石を投じる。
「ていうかさー……うちらのメインヒロインが満を持してセンターに立つのよ? マジでダンス練習応援だけでいい訳?」
「おい、このお茶なにかやばい成分入ってたか? 酒入った時くらいにまたいらんこと言い始めたぞ」
「おめーのなんちゃってファッショングラスが一番いらんっての」
「視力は2.0だろうと俺は魂が知性輝くメガネキャラなんだよいらなくないわ!」
「魂とか言ってる時点で知性の欠片もねー……痛だだだしつこくローを攻めるな!」
ギャラリーの中でも普段からとりわけ騒がしい3名のやりとりに、ミクはやや深刻そうに顔に影を差す。
「あと……この程度のことで皆さんが浮かれているのを見ると、やっぱり最近の疲れがピークになっているんじゃないかと思いますし、気晴らしになるのなら……」
「……ミクちゃん、言わせてもらうけどこれも皆の通常運行の範疇だよ?」
超進化研究所に入りたての時期は、まだ顔見知りの大沼指令長以外の大人に距離を置いていたミクではあったが、それでも思春期の小学生相手というハードルを意に介さない
研究所内のデキる残念美人と名高い()糸井、見た目は知性派気取った眼鏡な割に裸眼の視力と中身がそれを裏切る剣淵、ボソッといらんことをツッコんでは前者2人に報復を受けるという役回りの猫背で小柄な
ミクの心の○.T.フィールドを物ともせずにコミュニケーションを取り続け、所員内では『雪解け』と称される大宮支部運転士達との邂逅以前から彼女のはにかむような笑顔を引き出していた猛者どもである。
同期同士で入所時期も同じなこともあってまあまあ絡むことの多かった3名であり、戦闘においても鮮やかな後方支援を見せてくれる頼れる同僚ではあるが……
「やっぱりさ、ここはあのJCのチャンネルに凸ってワイプでうちらの応援動画でも同時配信してもらうってどうよ?」
「前言撤回しよう。天才かお前――勿論サイリウムは常盤グリーンと彩花パープルの2色切り替えだろうな?」
「2人して悶絶してる俺を綺麗に無視してんのは物申したいけど――その点は完全同意しかないな。ワイプだと所員全員は厳しいだろうから、今の内に優先申し込み券でも作っておくか」
残念ながらそんな綺麗な説明の上に、『※ただし全員函館支部トップ3入りするミク強火担である』という但し書きをつけなければならない奴らばっかりだった。
「あの……皆さんからの応援だけでも充分なので、疲れているのにあまり無理しないほうが」
「は? 何言ってんのミクちゃん。そりゃどこぞのクラッキング野郎のせいでお肌のゴールデンタイム半分削られるのは業腹だけど、それとこれとは別だから」
「推しを堂々と推せるまたとない企画だからな。その辺りは異論はない」
そして何が怖いかというと、こういう言動で戸惑わせる以外はミクの私生活を乱したりする迷惑行為は一切ないという、ある意味ファンの鑑ともいえる普段の行動のせいで、逆に彼女のほうはこれを『ネタ』の一種と捉えているということだ。
逆に言えばこの熱狂ぶりで推し本人に警戒されない辺り天晴れとも言えるが、渡島と他のライトなファン層である他職員との間では、『出来れば親御さんに引き合わせたくない職員トップ3』の称号も密かに頂いていたりする。
「まあまあミクっち、俺らのことは空気だと思ってダンスを再開するといいさ。見ろ、渡島っちがあそこで『どうやってこの空気建て直そうか……』みたいな感じで途方に暮れてるぞ」
「そこまで察してるなら、3人揃って空気自体を横道に逸らすような真似やめてくれませんかね!?」
ついさっきネチネチ臑を攻められていたばかりの人とも思えない琴似の不遜な物言いに、渡島もついつい額に青スジを立ててがなり立てる。
「カリカリするな、ほらこれでも握ってろ」
「……は? 何を――」
そう言って琴似が、無造作に渡島の手にコロン、と何かを転がした。
一瞬、「あ、これガ○――」とか言いそうになるのを本能的危機感によって堪えて、手のひらの上のフワフワの物体(全長10cm大)をジィッと観察する。
卵の殻を半分剥いたようなシルエットに、コンセントの差し込み口が広がったみたいに簡素だが愛嬌のある、左右一本線で構成された目元。
ウサギ耳にも、あるいはちょっとリトマス試験紙が左右から突き出たようにも見える、そんなマスコットっぽい何かに対し、渡島はキョトンと目を瞬かせた後。
「……いや、何ですかコレ」
「こないだ懸賞で当てた現在非売品のスクイーズ系マスコットだ。触るとマジで病みつきになるし一種のストレス解消にもなるぞ」
「はぁ……お? 確かにつきにこれは――」
「因みにおさわり30秒500円」
「後輩相手に暴利が過ぎる!?」
指先から伝わる至上の『もちぷよ』という悦楽を金銭的逼迫という現実の冷たさで振り切って、渡島は思い切りマスコットを琴似に突っ返した。
「おいおい俺に罪はありまくりだけどマスコットには罪はないんだぞ、大事にしろや」
「罪があるって自覚してる人の態度じゃないんですがね、さっきから……!」
糸井と剣淵にはいじられ系な癖して自分へのこの暴君ぶりは何なんだ、本当。
渡島が半眼でそう思っていると――思いも寄らない光景に目をみはった。
「……? ミクちゃん?」
ふとミクが、いつの間にか渡島と琴似の傍で音もなく立ち尽くしていた。
マネキンのように微動だにせず、心なしかうっすらと戦闘時にも似た殺気を身に纏っている。もし
(やばい、流石にこのぐだぐだっぷりにはキレたか……!?)
キトラルザスとの一連の騒動を経て丸くなったとはいえ、己の納得のいかないことにはとことん食ってかかるタイプの娘である。
糸井達による奇っ怪な戯言(失礼)でこうも練習を妨害されていては流石に堪忍袋が――と思った、次の瞬間。
白魚のようだがマメだらけのその手が、シュビッ、と琴似めがけて何かを差し出す。
だが数秒して、まさか目潰しでもとか失礼なことを思考した己を渡島は恥じることになった。
「……持ち合わせはこれだけですが」
そう言って、ミクは真剣そのものの――だがよく見たらちょっと紅潮した顔で――琴似に新札の樋口一葉を差し出していた。
その熱い視線を、彼の手の中のマスコットに一点集中させながら。
「「…………」」
言うまでもなく。
琴似は有料制を即座に撤回し、マスコットは無償で三日間程、ミクに貸し出されることになった。(進呈しようという声は彼女から頑なに固辞された)
§
「うおっ!? 兄貴また手ぇぶつかったじゃん、もうちょっと距離取れよ!」
「ちょっと待った、お前のポジションはサビ5秒前だと一歩後退の筈だぞ!?」
「……あ、やべ」
――超進化研究所・名古屋支部。
かつて速杉ハヤトが『言葉のない対話』への決意を固めた場である道場を借りて、清洲兄弟は彼のJS Youtuberから課せられたミッション達成の為に悪戦苦闘していた。
割とノリノリであった弟と比して、勿論頑なに抵抗した兄の足掻きぶりは――まあ殆どミクと代わり映えしなかったので割愛。
ただ非・運転士でないながらに最終決戦で大いに頑張ってくれた恩人であることも理解しているので、渋々ながらにその願いは叶えようと思ってはいた。
無論、生身でのダンス動画は未来永劫録らせないという言質はその内頂くつもりだが。
「てか上田も大概暴君だよなぁ……何か俺らだけダンスのハードル高い気がするんだけど」
「後から文句を垂れるくらいなら、最初から詳細は聞いておけ」
他のメンバーと違って、間奏辺りに兄弟でのハイタッチとかキックっぽく足を交差させる場面とか欲しいとか注文をつけられた彼らは、ほぼ個別でのフリでOKな他の面子と比べればそれなりに難易度が高い関門に立たされていた。
まず、部分部分での曲への反応速度の違いである。空手の演舞というなら息を合わせられる自信はあるが、用意された楽曲の節々で指定された動作を繰り出す際、1秒以下とはいえ無視出来ないスピードのズレが必ず発生している。
そして一度ズレを自覚してしまえば、焦りで更にその幅は大きくなる――その悪循環に彼らはハマりかけていた。
「難航してるねー、お二人さん」
道場の入り口から掛けられた暢気な声に、2人は特に驚いた様子もなく練習をストップさせる。さっきから見られていることは気づいていたからだ。
「また母さんにくっついて来たのか?」
「うん。ついでにお母さんお手製の天むすの差し入れだよー」
小4になって心なしか背も伸びつつある末の妹は、見た目だけでもズッシリとした質量を感じるエコバッグをズイッと差し出してくる。忽ちタツミが喜色満面で目を輝かせ出したので、リュウジも肩を竦めつつ休憩に入ることにした。
リュウジが本格的に超進化研究所へと進路を定めて以降、母は何くれと所内に足を運んではリンドウ達と今後の息子の進学面のサポートについて話し合いを交わしていた。まだ体力が回復しきっていない今リモートでも構わないだろうと再三言ったのだが、『病人気分からいい加減抜け出したいし、何より今後は研究所の人達と直に顔を合わせて話し合っていきたい』と言われたら、流石にそれ以上食い下がることは出来なかった。
「それにしても、さっきから見てたけどリュウ兄は典型的な速取りだね」
「は?」
妹の口から繰り出された聞き覚えのない単語に、リュウジは反射的に呟いた。
「あれでしょ。リュウ兄は記憶力もいいからダンスのフリ大体覚えてるんだろうけど、やってる最中に『次はこのフリ』『その次は……』とか先の先まで考え過ぎちゃって、あんまり音に集中してないんじゃない?」
「――う"」
「大局が見え過ぎちゃうのも考え物だよね」
何というか、昔他愛のない悪戯を母に見透かされた時のようにギクリとした。
ミユの指摘はほぼ正鵠を射ていた。というか、言われた瞬間『確かに』と思ってしまった。
実際録画を何度か見返していて、確かに振り付けが最初から最後にかけてドンドン曲の先を文字通り『早取り』して、正直自分の動きなのに見ていてズレが気持ち悪いとすら思ったのだ。
(……ヒトには『リズムを考えろ』とか言っておいて、このザマか)
この場では自分しか知らない、いつかの戦闘のことを思い出し、リュウジは密かに黄昏た。
「で、タツ兄は割とリズムに乗れてるけど、やっぱ途中からリュウ兄につられてズレちゃうっぽいね」
「お、おう……ってミユ、いつの間にそんなダンス詳しくなったんだ?」
「ふっふっふ……」
途端、得意満面といった表情を隠さなくなったミユは、最近ちょっとビーズでデコり始めたスマホを見せつけてくる。
「これだよ、これ!」
電子書籍や通販といったアプリが並ぶ画面の中、何だかコンセントの差し込み口みたいな顔っぽい球体マークのアイコンをビシリと指し示す。
アルファベット四文字で綴られたその名前は――
「スポーツアシストアプリ『LAVI』! 最近友達とダンスやろうってことで調べてる内に見つけたんだけど、すっごいの! このアプリ経由でダンス動画を録って解析してもらったら、わかりやすく『次はこうするといいよ!』とかアドバイスしてくれるから私も自然と詳しくなっちゃったんだ!」
可愛いし、しかもちょっと下げるみたいな注意してもすぐ上げに来てくれるからやる気出るんだよねーと、妹はいつになく興奮している。
「うお、何だこの……きしめんみたいな耳したの」
「ラヴィちゃんだよ! ていうかきしめんじゃなくてウサギ耳だし、多分、絶対!」
画面上のその、球体にちょっと目がついたような謎生物ーーラヴィと称されたそれは、両目と思しき左右の二本線を点滅させている。
そして――
『――初めまして、わたしはラヴィ! 君たちの名前も教えてもらってもいいかな?』
自分を見る
ちょっとタイトル改題を考えてます(サラッと)