セカイ級彼女の超進化論(改題するかも) 作:倭文
自分の中の気持ちが明日の朝に色々変わらない内に、本来もうちょっと書いてからと思ってましたが短文だろうと今投下しておきたいという気持ちに駆られました。
Go●gleプレイストアセールスランキングで三ヶ月連続TOP3を死守する『LAVI』は、某ベンチャー企業が某大学のスポーツ医学研究室の力を借り実験的に提供するスポーツアシストアプリである。
スマホ本体の最低限のセンサーと、初回登録時に認証される身体データだけでユーザーの動きを正確に検知し、運動初心者でもそこそこ短い期間で
バク転やスケボーのハットトリック、複雑なダンスのフリなどわかりやすく「映える」動きを短期間でユーザーに習得させたり出来る……らしい。
『一応ダンス系Youtuberの友達いるけどさ、やっぱり上層部の人達もこれ以上は無闇に計画に外の人呼び込まないでって言ってるし。
カガリちゃんが学芸会のダンスで上手くフリ揃わないって愚痴ってた時これ教えたら、僅か2週間で銀賞レベル獲得出来るまでに指導してくれたのよ』
『おい上田……俺、家族総出でスタオベったあのダンスのそんな裏話初耳なんだけど?』
スーパースパイス命というロゴアイコン越しでもジト目が伝わってきそうな声音で訴えかけるツラヌキに、アズサはまたしれっと返答する。
『だってキラキラした目であたしの動画フォローしてくれるって言ってくれたし。あんまり妹の交友関係にうるさいこと言ったら白い目向けられるのが2,3年早まるわよ』
『不吉なこと言うな2,3年後も来ねえよ、なあハヤト!』
「……ツラヌキ、デレてくれることなんて極稀なスーパードライがデフォルトのうちの妹知っててそれ言う? まあ物心ついた頃から当たり前なんだから別に不満がどうとかじゃないけど」
『……悪ぃ』
『何というか……第二次反抗期の到来がかなりわかりづらそうな部類ではありそうだな』
ババヘラアイスのアイコン越しに神妙な態度でコメントするアキタは、ちょっとだけ同情したようにも思える声音であった。
と、そこで―――
『大丈夫だよハヤト。本当に機嫌の悪い、或いは軽蔑を滲ませたハルカの表情筋と声色のトーンはハヤトへ接する平常時のそれより差が大きい。
妹という響きがもたらす一般のイメージとやや異なるとしても、君への親愛は標準よりも良好だと思う』
「あ、うーん……あ、ありがとうね、ラヴィ』
web会議アプリが起動しているのにふよふよとスマホ画面を飛び回って割り込んできた、特に同時起動させた覚えのない『LAVI』の指導AI――デフォルト名ラヴィが普通に会話に入り込むのを、ハヤトは微妙な面持ちで眺める。多分、アキタやツラヌキも似たような面持ちかも知れない。
ダンスの撮影が思うようにいかず、見かねたアズサによってダウンロードを推奨されて落としてはみたが、ともすればシャショット並みの知能を見せているのではと思わせるこのAIの滑らかな意志疎通具合には戦慄するばかりだ。
「あのさ上田アズサ……なんか、フツーに日常会話にも混じってるのは普通にアリなの?」
『いいじゃない。これからしばらく教えてもらうんだし、仲良くなっておいたほうがこの先スムーズにいくでしょ』
編集作業の為に缶詰になりながらも強引に会議に参加中のアズサは、こともなげに言ってのける。
『……本当にそれアプリのAIなのか? 実はもう一人俺達の知らない友人がいる、みたいに言われても驚かないぞ』
『それはワタシの会話能力を評価してくれるという認識で受け止めておくよ』
『……何つーか、シャショットの奴よりかなり賢そうだよな』
「つ、ツラヌキ流石にそれは……」
とある事情で速杉家を離れてはいるが、ここに彼がいたらモニター画面を真っ赤にしてたろうな……と思いながら、ハヤトは(一応)フォローを入れる。
「でも、実際ラヴィには助けられてるよ。俺振り付けの順番とか意識するだけで頭真っ白になること多かったのに、言われた通りにステップしたらするって覚えられたんだ!」
つい一昨日、ついにノーミスで振り付けを踊りきった時の感動の余韻を思い返し、弾みあがるハヤトの声にアキタもツラヌキもちょっと戸惑ったように沈黙していたが、
『……一通りハヤトの趣味とか聞き取りしたラヴィがね。山手線上の別路線への乗り換え駅の名前つけた紙のパネル作らせてゲーセンのダンスゲームみたいに――』
「あ、もうわかった」
一発でパネル上の各駅の位置を瞬時に把握してラヴィのかけ声だけでほぼほぼ正確なステップを踏めるようになったらしい。ダウンロードからそう日にちは経ってない筈だが、いくらなんでもユーザーの嗜好まで習熟しすぎではなかろうか。
『いやー……幼稚園のお遊戯会で最後まで苦戦してたとこ思い出すと、もっと早く思いつくべきだったかなって思ってるわ』
「上田アズサだって似たり寄ったりだっただろ、なんか色々目立とうとして変な感じに」
『あーわかったわかったから。……で、ちょっと上田。少し確認しておきたいんだが』
無理矢理話を切り替えて、アキタは個人的にこの通話で明言しておきたかった本題を切り出す。
『サビ手前で一斉に手を重ねるモーションだが、人間同士でならともかくシンカリオンの機体に置き換えた上で考えると……その、ぶっちゃけ画面鬱陶しくないか? ……体積と人数的にも』
……その言葉からおおよそ十数秒――。
おもむろにカタカタとキーボードを打ったかと思うと、アズサのカメラ型のアイコンの向こうから微かな音源の気配が漏れ聞こえ。
『……あー……うん。ハヤト達のシルエットで普通に考えたけど、実際にモーションだけでオートで踊らせてみると……』
『え……まさかここから大幅にフリ変えるのかよ!?』
『いやその必要はないだろう。全員が手を重ねるそこだけが、妙に圧っぽいものを感じて妙に……その……』
『前に見せてもらったそのシンカリオンとハヤトのフリを見ての私見ではあるけど、2、3グループに分けてみるのも視野に入れたほうがいいかも知れないよ』
『……ありがとね、ラヴィ。あー、あたしも専門家じゃないもんなぁ』
口惜しいと言わんばかりに唸る振り付け考案者は、そのまましばらく呻いて苦悩する。
「そこ、そんなに違和感あるの? 俺もちょっと見てみたいんだけど」
「あー……じゃあ一端リンク張るから、自分の目で確かめてみてよ」
言うや否や、アズサはものの十数秒でトーク画面に動画へのリンクを張り付ける。
正直、自分達という『中の人』抜きとはいえ完成を目指しているダンスの完成系を確認出来ることに、ハヤトは少しばかりドキドキしていた。
そして、北海道支部で初めて聴いた、あの時の胸の鼓動が高鳴るようなイントロでテンションが徐々に上がっていったところで――
急に、新たな
「えっ!?」
ちょっとばかりくぐもっているようで、でも澄んでいるようにも聞こえるそれが、音というより『声』であり。
それが明確に
そして、辛うじて意味を持った文脈として捉えることが出来たその声にギョッとする。何だか『Shinca』だの『グランクロス』だの、超進化研究所内でしか聞かない単語目白押しで、いくらなんでも、ここまで来たらツラヌキではないが機密漏洩の四文字熟語が頭を過ぎった。……いや、それよりも……
「……この、声」
……だが、ハヤトが思い浮かんだ名前を口にするより早く。
ガガガッ、という耳障りなノイズが数秒走った後。
急にそこだけがミュートでも掛けられたように、声だけが徐々に遠ざかり、気づけば。
最初から何も起こらなかったように、北海道で聴いたそのままの
誰もが言葉を探そうとして――でも上手くいかず、戸惑いだけが部屋を満たす。
ただひとり――ハヤトのスマホ画面の隅にいるスポーツインストラクトAIが、そのソケット差し込み口のようなカメラアイを、一瞬光らせていたことなど、当然誰も気づかなかった。
とにかくどんなものが来ようとも、どうせ推しの本格レギュラー化が期待出来ないなら自分のセカイでくらいやり切ろうという気持ちを忘れずにいきたいと思います(遅筆ですいませんが……)