Blood Platinum   作:超ローマ人

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炎の精霊

月にはかつて聖杯があった────それは人類を救うために必要不可欠なモノであった。

地球は奇跡的にその力──魔力を取り戻し、人を含めたさまざまな生物や魔族が住み着くようになった。そして、イタリアでは一人の少年が生活していた。

「行ってきます……。」

少年・エクリッセは金髪と白い肌をしており、目は茶色だ。11歳で両親の遺産がありながらも農場で働き、小さな町に出ては買い物をする生活を送っていた。そのお陰か、料理は働き先からも称賛される程である。そして、この日は両親の命日であった。

「父さん、母さん……。僕はお金を貯めながら生活しています。一人で家に居るのは寂しいですが、どうにか生きています。」

小さな喪服を着ながら、薔薇の花束を墓に置く。

彼が両親のことで覚えているのは、父親が東洋人で母親が西洋人であること。そして、母親のイタリア料理は旨く、彼女は薔薇の花を愛していた。

父親は優しく遊び相手になってくれるが、夜には仕事に出掛けてしまうことが多い。

何故死んだのか、エクリッセには分からなかったが最後に見た父親はエクリッセに謝りながらその身体を冷たくした。

母親も後に続くように身体を倒し、その身体の温もりを失った。

 

「うっうっうっ……。死んだのは僕のせい……?」

墓の前で膝をついて踞る。すると、隣に気配を感じた。

「んなわけねーだろ。顔を上げろ、ガキ。」

涙で濁った目を擦ると、若々しい女が膝を地に着けながら手を合わせていた。

その仕草からエクリッセはその女が東洋人であることを悟った。

女の身長は170センチメートルはあり、その髪はほうじ茶を連想させるモノとなっていた。

「お姉さんは何者?」

「──私はツァイ。一言でいえば、お前の父親の妹……つまり叔母にあたるな。」

ツァイと名乗った女は墓石に親戚であることを告げると、重ねて尋ねる。

「エクリッセ─だっけか?私の兄貴、つまりお前の父から遺言が届いてな。お前を預かるから、ロンドンに出かける準備をしなっ!」

衣服や少しの食料だけを小さなトランクに入れると彼らはイギリスのロンドンにある時計塔へ向かった。

 

2ヶ月後

──西洋国イギリス・ロンドン──

「───また厄介事を運びやがって。」

「なぁに言ってンだ。魔術の研究以外暇だろ?『先生方』?」

「えぇい、勝手にしろ。」

時計塔に入ってからツァイは教授らしき人物と話し、半ば強引な交渉をかける。

彼女は魔術協会である時計塔に所属している幹部職で、一種のご意見番として在籍している。しかし、魔術師の中でも人一倍性格に難があるため貧乏神扱いされている。

「この2ヶ月、みっちりシゴいてやったからな。ひでぇ試験内容でもビビらずやれよ?」

「は、ハイっ!」

エクリッセはイギリスに到着する前から様々な訓練をした。言語学習はもちろん、魔術の使い方を学んだ。結果として、自分の身体能力の向上の仕方や錬金術そして治療術を使えるようになった。しかし、属性魔術は全く上手くいかず直ぐに高熱を出してしまうという弱点を持つことが発覚した。

 

「はぁはぁっ!」

エクリッセは裏路地を走る。魔術師の掟として、赤の他人に魔術を公に見せてはならないからだ。また、ある怪物から逃げているからだ。

「キシャァァッ!!」

大きな蜘蛛が金切り声を挙げながら巨大な脚でエクリッセを貫こうとする。

「クソッ!」

少年は足に光の筋を浮かび上がらせると、一気に駆け抜けて蜘蛛の脚をかわした。

「アレでは話にならんな。賭けはお前の負けだ、ツァイ。」

「………」

ツァイは少年の逃げ回る様子を見ながら、砂時計を一瞥した。

「残り5分……。錬金術で造ったルーン石を投げるだけで精一杯か……。ったく、編入試験で落ちたらおじゃんだぞ?」

彼女は煙草を吸いながら夜空を見上げた。

「才能あると思ったんだがな……。」

 

「残りのルーン石は3つか。結構時間かけて造ったのに!」

絶対絶命の状況であることにも関わらず、少年の息は正常に近かった。特訓の成果であろうか。エクリッセはそのように考えていた。彼はゴミ箱の中に隠れていた。音が止み、彼は蓋を開け、外の様子を見た。灯りが見える。その灯りは電灯のモノとして見なすにはあまりにも大きい。それに、近すぎる。

「ギッ」

「八つの光……しまった!」

エクリッセは残り全ての石を投げた。しかし、石の弾丸は全て黒い煙に包まれると地に落ちた。

「あっ……」

糸が巻かれ、体から力が抜けた。

「そっか……食べられるんだ。もうダメだ。天国のお父さん……お母さん……もうすぐ会える………。」

全てを諦めた少年が身体の内から耳にしたのは、一つの雄叫び。何かを主張しているかのような声を聞き、少年の体は赤熱化した。頭よりも先に体が動き、糸を剥がした。体の内から響く声に従うように全ての五感を澄ませる。すると、赤い炎の玉が少年を包む。

「こ、これは!?」

「フン……やっと出たか。」

ツァイは不敵の笑みを浮かべながら、試験管の禿げた男の額に煙草を当てる。

「アチチチ!!」

「じゃあな。風呂入ってくる。」

 

「君は!?」

エクリッセは炎の玉の中で燃え上がる皮膚を持つドラゴンを見た。ソイツは炎を自在に操り、少年の体の冷えや痺れをも焼き落とした。

「なんて名前なの?」

「………」

ドラゴンは寝そべった身体を起こすと少年に向かって吠えた。

「サラ……マンダー?もしかして、僕を応援して?」

「ガァッ!」

ドラゴンは否定も肯定もしない素振りで爪で額を小突いた。

「いてっ!テテテ……。何?その暗い顔を止めろ?でも、僕のお父さんたちは僕のせいで。」

「ガァァァッ!」

「……え、違うの?ワケは後で話す……?そっか!あの蜘蛛を倒さなきゃ!!」

 

蜘蛛は玉を無視して、他の人間を狙いに市街地へ行こうとしていた。

その瞬間、玉は消え中からは燃え盛る炎を纏った剣を持ったエクリッセが仁王立ちしていた。

「……ギッ!?」

「サラマンダー!!力を貸してくれ!!」

身体には炎が纏わる。そしてその炎は鎧というよりオーラのように浮かびあがる。

緑色の目は赤が混じり茶色に近くなる。さらに、オーラは人型とサラマンダーの中間みたいなモノへ変化した。

蜘蛛はそれを見ると、暗闇へ逃げ込もうと跳躍する。

しかし、それを許す彼らではなかった。

「させない!!」

炎の翼を生やすとそれを羽ばたかせ、赤い剣にも炎を纏わせる。

「炎精霊の鞭尾<フレイムテール>!!」

蜘蛛は一刀両断され、その死骸は即座に煙となって消えた。 

「残り1分であの人食いダークタランチュラを倒したか。うむ……エクリッセの編入を認める。あのツァイの弟子なのが今のところ、目の上のこぶじゃが。」

 

「はぁ……疲れたぁ。」

エクリッセは赤いオーラを消し、大の字になりながら眠りに就こうとする。

しかし、一人の女がそれを止める。

「よっ、エクリッセ。」

「師匠……っ!僕、やりましたよ。てか、師匠。今日はいつもより機嫌がよろしいようで……?」

「当ったりメェよ、今夜は宴だからなぁ!!」

「やっ、やった~。」

少年はだらけた猫のような声を挙げながら喜び、その後胃を満たし寝床に着いた。

 

そして、次の日。

「起きろ、エクリッセ。国を出るぞ。」

「えっ!?もうですか?!次はどこへ」

「UMF……魔術師の合衆国みたいなもんだ!」

「えっ、なにそれ……」

「なんだ?イヤか?」

少年の身体は震える……その顔は上にひきつっていた。

「滅茶苦茶楽しみです!!」

少年と女は再び旅立った。

 

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