この話も難産でした、そして正直納得がいってないです(´・ω・`)
原作は均等にバランスをとってリスペクトしないといけないんですけど、難しいですね……
片っぽだけ貶めたりあげっぱなしにする気はさらさら無いですけれども……
「よし、ここまでくればもう混乱は生まないだろう」
白髪の少年は森へと歩を進め、切り株に腰かけた。
あの後、ワイバーンの群れを退けてから彼の後へ続いてジュラの森へと足を踏み入れた。
彼の指示と援護はこれ以上なく的確で、援護は正確だった。戦いの活躍自体は確かに地味かもしれない。しかし、彼が戦線に加わってからは死人が一切街中で出ていないのだ。それには守るという確固たる思いを感じたし、この特異点における情報もまだほとんど得られていないので信じられそうならばついていくことにしたのだ。
「まずは……いいでしょうか、ジャンヌ殿。貴方の口から、何が起こっているのかを語っていただきたい」
『ジャンヌ……ジャンヌ・ダルクだって!? それは竜の魔女じゃあ……』
「聞いてください、私は竜の魔女ではないのです。……私も何が何だか分からなくて、力も落ちていて」
ドクターが戸惑ったような声を上げる。けれど、あの場所で一緒に戦った自分にはどうにも彼女を敵と思うことは出来なかった。何より、言われたのだ。
『ジャネットを……母を、見捨てないでくれてありがとうございます。私は……見ているだけで、姿を隠すことしかできなくて、なにもできなかった』
街を離れてからそう言われてしまっては、毒気も抜けるというものだ。
「お主、少しは警戒せんか」
スカサハが肩をすくめながら咎めてくる。けれども、答えが決まってるならそんな必要はない。
「一緒に守りたいものがあって戦ったんだ。なら、大丈夫だよ」
「昨日の友が今日の敵になる事など、戦場ではままあるのだがな。お主も儂のマスターと変わらんお人好しだな、はぁ……」
ため息を吐く彼女に苦笑する。それと同じくして、白髪の少年もクスリと笑った。
「いや、失礼。どこか昔の知り合いに似ていたものでね。うん、君は……。いや、まずは話を聞こう。話の腰を折ってしまってすまないね」
「あ、はい。すみませんね、ジャンヌさん」
「いえ、私こそ助かりました。……私も、分からないことがまだまだありますが」
そうして、彼女は話し始める。
『つまり、竜の魔女というもう一人のサーヴァントがオルレアンを根城としてフランス中を暴れまわっていると……。別側面として召喚されたのならあり得るのかな……』
「ドクター、今はジャンヌさんを信じましょうよ。とにかく、今は目標地点がわかっただけでも良しじゃないですか?」
「うむ、それは重要な事だからな」
「信用してくださってありがとうございます、ですが……」
「ああ、敵の戦力は強大だ。私と共に現界した者がいるのだが、彼をして一人では太刀打ちできない敵がいる。聖杯……だったかな、それに呼ばれたサーヴァントがいるのだろう。まずは彼らを探す事になるのだろうか」
白髪の少年が顎に手を当て思考する。辺りがシン、と静まり返る中ドクターが一つ尋ね掛けた。
『あの……こんな状況で、なんだけれど……まだ、君の名を聞いていなくて、勘違いだったらすまない。
……魔導書を用いての召喚、そして白髪と長耳。もしや君の真名はアルフィノ・ルヴェユールじゃないのかい?』
「ええっ、マジで!?」
ドクターが少し興奮した様子で話し、俺もそれを聞いて思わず立ち上がってしまう。歴史にそう詳しくない自分でもその名はよく知っているから。
「……驚いた、まさかこの短時間で私の真名を当ててしまうとはね。後世にはどのように伝わっているんだい? 別段隠すつもりもなかったとはいえ、名乗るのが遅れてしまったね。
あぁ、そうとも。私の名はアルフィノ。
アルフィノ・ルヴェユールだ。君達でいうところのクラスは……キャスターだろうか?」
少年……いや、アルフィノは堂々と名乗った。その名乗りには、スカサハですら目を剥いて驚いていた。
『ま、まさかいきなりこれほどの大英雄と出会えるとは! 伝説の秘密結社『暁の血盟』再興の立役者にして、グランドカンパニーエオルゼアの提唱者! そしてなにより、あの『光の戦士』の盟友である賢人だ!
凄い、凄いよ藤丸君! ボクらは今、世界最古にして最大の英雄譚の登場人物と対面してるんだ! さ、サインとかもらえたりしないかなぁ!?』
通信機から音割れするくらいの声が聞こえてくる。アルフィノさんなんて若干引き攣ったような笑みを浮かべているが、ドクターの気持ちも分からないでもない。それはそれとしてサインって俗っぽすぎないか、ドクター。マギ☆マリじゃないんだから……。
「ぐ、グ・ラハのような反応をするな、アーキマン殿は……。もしや、彼の出版していたモノが後世まで残ってしまったのか……?
しかし、そうなると彼の目論見*1は叶ったようだね。それは喜ばしいことだが……自分のことまで伝わっているとなると、少しばかり照れ臭いものだな」
「ジャンヌさんは知っていたんですか?」
「えぇ。確信したのは私も先ほどの戦闘でしたが」
「と、とりあえず私の話は一度置いておくとしよう。しかし正直なところ、先ほど伝えたように今の戦力ではオルレアンへ攻撃を仕掛けるのは厳しい。まずは次の行先を決めなければね」
その一声で一同が顔をしかめる。
それもそうだ、アルフィノほどの大英雄をして戦力が足りないと言わしめるほどに敵の戦力は強大なのだ。それを聞いてかスカサハがアルフィノへ向けて殺気すら孕んだ鋭い視線を飛ばす。
「ふむ、それは先の戦いで私の槍を見て尚のことか」
「気を悪くしてしまったならばすまない。だが、事実だ。
確かに貴方の槍さばきは凄まじい、私が見てきた戦士の中でも飛び抜けている。しかし、オルレアンに巣食うドラゴン族たちは手ごわい。その中に一つ、最低でも貴女と同程度の戦力があと一人は欲しいほどに驚異的な存在がいるんだ」
しかしアルフィノは怯むことなく忌憚なく言った。聞き届けたスカサハはあっけなく殺気を収めてわずかに目を伏せる。
「流石は稀代の賢人と言ったところか。試すような真似をした、許せ」
「いや、いいとも。その存在についても話をした方がいいけれど、私よりも適任がいる。……本来なら今日、定期連絡をするはずなのだが何かあったのだろうか……? ともかく、彼と合流した時に話させてもらうよ。
それよりも先ほど道中で小耳にはさんだのだが、そちらにも別行動している仲間がいるのかい?」
アルフィノに尋ねられてそういえば、と思い出した。まだ彼にはヒロシさんの事を話していなかったのだ。
『あぁ、そういえば話すのを忘れていたね。戦力には心当たりがあるんだ。ボクたちだけじゃなく、もう一組がオルレアンに来ていてスカサハは本来は
「そうだったんだね、しかし藤丸殿がマスターではなかったのだね」
「殿はやめてください……なにかこう、アルフィノさんに殿ってつけられると……やりづらい」
「そうかい? ……では、リツカ。うん、こちらの方が呼びやすいね。ふふ、そうさせてもらうよ。
だから君も、『さん』はいいさ」
「う……」
憧れの物語の登場人物にため口っていうのは、少し気が引ける。けれどこんなところで腰を引いていたら、ダメだ。それに彼だって同じ人間なんだ、ここにいる以上はずっと憧れとして見たままじゃいけないだろう。
「……わかったよ、アルフィノ」
「ああ、改めてよろしく頼むよ。リツカ。……おっと、それで彼というのは?」
「詳しくは道すがらに話すんだけど俺達はカルデアっていう組織で、もう一人マスターがいるんだ。ヒロシさんっていうんだけれど」
そうして森を進みながら今後の方針をアルフィノやジャンヌさんと共に決めていく。だけど、この時俺は気づくことができなかったんだ。
「ヒロシ、だって……? どういうことだ……?」
それから、話し合いの末に、行動の方針が決まった。
ヒロシさんはどうやらリヨンを目指しているらしい。すぐに向かえればいいのだけれど、足がないのなら一度補給を挟んだほうが良いとのことで、経由地点としてラ・シャリテを目指す事になった。
「けど、やっぱりこうして長時間の行軍が続くとなると流石に疲れが溜まる……。少しは鍛えてたつもりだったんだけどなぁ」
「仕方がないさ、初めて旅をすると出来ないことが沢山ある。まだ旅は始まったばかり。これから学んでいけばいい」
「そうです。藤丸君は立派ですよ。
……焼却された未来を取り戻すために立ち上がる、それにはどれ程の勇気がいることでしょうか」
「あまり甘やかすでない。
だが、あの場で立ち上がれる傑物はそうおらん。それだけは誇りを持て」
ジャンヌさんとスカサハがアルフィノの言葉を聞いてか、励ましてくれる。そう言われると少し照れくさい。
「しかし、人理焼却か。想像していたよりも大きな事態に直面してしまったね。だからこそ彼が現れたのか……? いや、まだ決まったわけではないが……」
「アルフィノ?」
「いや、なんでもないさ。それよりも街が見えて来た。あと一息、頑張ろうじゃないか」
そうして喋っていると、ラ・シャリテが見えて来た。
しかし、町から煙が上がっている。
「……どうやら、そうのんびりとしている暇は無いようだな」
「とにかく急ぎましょう!」
全員の気が引き締まる。
引き返すという選択肢だけは、既になかった。
率直に言えば、そこは地獄だった。
今までに、冬木やドン・レミと悲惨な光景を見てきたつもりだったけれどここはもっと趣味の悪い地獄だった。
「竜の魔女、万歳!」
「裏切り者に裁きを、我らの神は見放した!」
「やめて、やめてえええっ!」
逃げ惑い、追いかけて。
狂気の名が相応しい光景だった。
人が人を殺し、そして竜が肉を貪る。
鼻を腐臭と血の匂いが刺す。
気が遠くなりそうだ。
「何故、何故なのです……!?
竜の魔女……これも、私が!?」
「落ち着け、ジャンヌ。確かに胸糞が悪い光景だが、そうも悲観していては救えるモノも救えぬぞ」
「これは……まさか……!」
『何か知っているのか、アルフィノ君!?』
ドクターが通信機から尋ねかける。返ってきた答えは最悪に近かった。
「……ドラゴン族の様子を見て可能性としては考えていたけれど、この光景を見て確信に至った。
これは、テンパード化によるものだ」
『テンパード……それはまさか!?』
「魂を構成するエーテルのバランスを変容させ、洗脳し信徒とする『蛮神』の祝福だよ。まさか、今になって拝む事になるとはね。一体どの神が降ろされたんだ……そもそも、どうやって?」
「治す方法はないのか!?」
「ないわけではない、しかし人手が圧倒的に足りない……! まずは街の沈静化からだ、テンパードになってしまった人達を取り押さえてくれ!」
「わかった! 協力してくれ、みんな!」
「勿論です、こんな状況を見過ごせない!」
「‥‥全く、仕方がない」
『また無茶をするね、君は!? とにかく、生存者をモニターするよ!』
三人を連れて街へと駆け出す。
ロマンの指示に従い、生存者を探す。その過程で、襲ってきた人を無力化していくのだけれど。
「くっ……存外に力が強いですね!」
「それが祝福の影響だ! 気をつけてくれ!」
「あ……あぁぁぁ、竜の魔女に祝福あれぇぇぇ!」
洗脳された人をジャンヌが旗で殴りつけて意識を失わせる。けれど、その顔色はあまり良いものとは言えなかった。
「どうして、こんな……」
「……テンパードは親や子さえ殺すとは、よく言ったものだな。狂信者に近いではないか、これでは」
「まさしくその通りだよ。そしてのめり込んでいけば、いずれは人である事さえやめてしまう……呪いと言えるね。それだけが理由ではないが、だからこそ各国から忌み嫌われていたんだ、蛮神は。一刻も早く止めよう、この地獄を……待ってくれ、正面!」
前には足取りのおぼつかない人がいた。全身に傷を負い、すでに息も絶え絶えだ。
「まだ助けられる!」
「これ以上は……!」
「だめだ、見るな!」
ジャンヌと二人で駆け寄ろうとするが、アルフィノが静止する。
そして、次の瞬間肉が弾けとんだ。
それは人の形を保ったままに、異形となった。膨張した肩、背中から長く伸びた触手。歯をカチカチと振るわせ、譫言を言いながら
「……ああなってしまっては、もうどうする事もできない。すまない……せめて安らかに!」
アルフィノが本を開き、炎が人だったソレを焼いた。
言葉が出なかった。
生きたまま人をやめる。つまり、今の人のような事なのだろう。
意志を捻じ曲げ、望んでいないことを望み、そして最後を迎える。
「……今のが、エーテルの偏りを止められなかった魂の末路が辿る道だ」
「こんなの……人の死に方じゃない……!」
怒りか、恐怖か。
自分でも分からない感情が込み上げてくる。
そんな時、通信機からアラートが鳴った。
『……まずいぞ、みんな。こんな時にだ、新たな敵性反応が来る! しかも、サーヴァント5騎! 戦力差がありすぎる! 隠れてくれ!』
「何をいう、5騎程度……」
『君もヒロシ君から離れているせいで自分の魔力を削っているだろう!?』
「今はとにかく、隠れましょう! この場を投げ出すのは……」
スカサハも渋々従い、ジャンヌが歯を食いしばりながら決断する。
けれど、もう遅かった。
「あら、私からの贈り物は気に入って頂けなかったのね。ちっぽけで、哀れなもう一人の私」
黒いもう一人のジャンヌが、そこにはいた。
ジャンヌの影が薄い……クロスの加減難しすぎでは!?ってなったのでバランスを取るために2話くっつけたので長くなってしまった。それでもアンバランス、実力不足を感じるなりぃ……。
それからまさかまさかの感想200件突破です、ありがたや。
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