My Soul, Your Beats!    作:クリエ

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Easy does it 1

 朝日が昇ると同時にお湯を沸かして、コーヒーを淹れる準備をする。ペットボトルのコーヒーぐらいしか以前は飲んでいなかったが、すっかりとペーパードリップ式で淹れたコーヒーを飲むのが家での基本になった。

 コーヒーを淹れるようになって早5年、手慣れた手つきで準備を進める。お湯が沸くのを待っている間に、トーストに目玉焼き、ウインナー、サラダを用意する。

 お湯が沸いたら、少し冷ましてからコーヒー豆を入れたフィルターにお湯を注いでいく。ゆっくりと焦らずにお湯を注ぐごとに、コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。

 いつもは食後にコーヒーを淹れるが、任務のある日は遅刻しないように事前に淹れておくようしている。

 

 朝食の準備が終わると千束を起こしに行く。自発的に起きる確率と起こしに行く確率は半々。今日は起こしに行かないといけない日らしい。

 

 昨日は寝ぼけて俺のベッドに入ってきたりもなかったし、映画を遅くまで突き合わされもないから、自分の寝室でぐっすり寝てるはずだ。

 

 「おい! 千束起きろ、今日は朝から任務があるんだ。早く飯食え」

 

 返事がないので、一応ノックだけして千束の寝室に入って、ベッドで眠っている千束の肩を掴んで揺らす。

 

 「束、捕まえた!」

 

 肩を揺らしたと同時にベッドに引き入れられる。

 

 「おい、これやめろって何回も言ってるだろ」

 「まだまだ格闘訓練が足りませんのう~。しょうがないから、この千束さんが寝技の訓練をつけて進ぜよう」

 「通常時の俺は弱いんだ。そもそも、寝技を使う機会なんてほとんどないだろう」

 「はぁぁぁ」

 

 ミカさんの元に来て以降、千束と一緒に暮らしている。一緒に暮らし始めたのと同時に束と呼ばれるようになったんだが、年頃の女の子がお兄ちゃんと呼ぶのは恥ずかしかったのだろうか?

 

 「朝からため息ついてたら幸せが逃げるぞ」

 「どちらかと言うと、幸せが逃げたからため息ついてるんだけど」

 「?? 意味が分からん。早く着替えろ。朝食冷めちまうぞ」

 「そうだった! 冷めたらおいしさ半減じゃん」

 

 話しながらパジャマの上を脱ぎ始めたせいで引き締まったおなかが目に入る。こういうところ恥ずかしくないのか疑問だ。

 

 「着替えるなら先に言え」

 「照れるな照れるな。初なやつめ。このこの」

 

 芝居がかった口調で揶揄ってくるが、千束の着替えを見る趣味はないのでさっさと退散する。

 

 

 

 「今日も天気で、私も元気。ありがたい~」

 

 朝食を食べ終え、朝日を浴びながらストレッチをする千束。限られた時間を生きているからか千束は毎日を前向きに生きている。俺はそんな前向きに生きる千束の姿勢を好ましく思う。

 片づけをしながら眺めていると、千束のスマホが震える。

 

 「おっはよ、先生。ええ~? まだ約束よりだいぶ早いんですけど」

 

 相手はミカさんらしい。恐らく何か突発的な事情が起きたとかか、などと推測して手早く洗い物を済ませ、一応装備の再確認をしておく。

 

 「束~。先生が今すぐ来いって! 行くよ~」

 「準備できてる。車回してくるぞ!」

 「りょうか~い。さっ、いっちょ今日も日本の平和のために働きますか」

 

 

 

 

 今日の任務は銃取引現場への強襲だ。

 取引現場近くで車から降りて空を見ると、DAのドローンが何機か飛んでいるの見える。

 

 「千束、作戦はどうする? 俺が正面から、千束が外壁の階段から登って挟み撃ちにでもするか?」

 「他のリコリスがピンチなんだって。速さ重視で二人で外壁の階段から行こう。階段に人はいないって先生がさっき言ってたし」

 「なら、俺が先行するから付いてきてくれ」

 「先行した方が危ないのにかっこつけすぎ。私の方が強いでしょうに」

 「前に千束がいる状況で的確に撃てるほど強くないんだよ。こっちは。だから、千束は後ろからフォローしてくれ」 

 「あー、ハイハイ。そういうことにしといてあげる」

 「さっさと行くぞ」

 

 これ以上何かを言われる前に行動を開始する。毎回、俺の意図を察せられているのなんか恥ずいんだよな。

 それにしても、強襲系の作戦にはセカンドとファーストのリコリスが優先して割り当てられるのに、そいつらがピンチということはかなりの数か、裏で有名なテロリストでも混じってるのか?

 

 「千束、相手の数は?」

 「確認できる限り残り4人ぐらいだって。全員、アマチュアレベル」

 「それぐらいならピンチになんてなってないだろ」

 「人質とられてるんだって」

 「ミカさんが狙撃待機してるんだったら、万が一はないか」

 「たぶんね」

 

 外壁の階段を上る。目指すのは6階だ。銃取引の現場に使用されるだけあって、もう長年使われていないこのビルはそれなりにボロい。言わずもがな、外で雨や昼夜の温度変化の影響を受け続けてきた外壁の階段はビル自体よりもボロく、一歩上るたびにギシギシと嫌な音をさせる。

 ようやく六階に辿り着いたとき、ガガガガガガッ。銃声音とともに窓ガラスが吹き飛ぶ。

 

 「おっ、ほほほほ~!」

 

 派手好きな千束は喜んだように声を上げる。

 誰が撃ったか知らんが、マジか。音からして機関銃だ。それなりの時間撃ち続けたということは装填されていた弾を撃ち尽くすまでトリガーを引き続けたんだろう。今回の任務は武器商人を生きた状態で確保することだったはずだ。弾がなくなるまで撃ち尽くしたとなると、生きているどころか原型すら留めていない可能性すらあるぞ。

 

 「千束、いったんここから離れるぞ。こんだけ銃声音を響かせたらいくら早朝でも誰かが警察に通報してる。野次馬が一気に集まってくるぞ」

 「さっさと帰ってリコリコの準備でもしますか」

 

 ここまで派手に動くリコリスも珍しい。いったいどんな奴か少し気にはなるが、一般人に顔を見られると面倒なことになる。

 

 「りょうか~い。先生。束の車で帰るね」

 

 

 ミカさんからも帰るように指示があったらしい。パトカーが現場に向かっていくのを横目に、パーキングに止めてあった車に乗って俺たちは現場を後にする。

 今回の件は明らかに本部の指令とかけ離れてたし現場の独断行動だろう。機関銃をぶっ放すようなやばい味方と任務をこなしていたリコリスには同情する。

 不運なリコリスに同情しつつ、このやばい奴とは二度と会わないことを祈るぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな俺の儚い祈りも神には届かなかったようだ。

 心底楽しみな様子で千束は話す。

 

 「ね~ね~。どんな子かな。例の機関銃の子。楽しみだな~。リコリコに馴染んでくれると良いな~」

 「機関銃をぶっ放すような奴だぞ。トリガーハッピーのやばい奴だろう」

 

 まかり間違っても喫茶店の店員になれるような奴ではない。ラ〇ボーとかに出てくる方が馴染むだろう。

 

 「先に言っとくけど、浮気は私、許さないから」

 「浮気とかありえねだろう」

 

 付き合ってすらないのに。それとも兄を取られるのは嫌というやつか。

 

 「えっへへ~」

 

 千束は俺の肩を叩きながら、嬉しそうに返事をしてくる。何で嬉しそうなんだよ。時々、千束のこと理解できないときがあるんだよな。あと、結構痛いからやめろ。

 

 そんなこんなで機関銃女の配属日。いったいどんな奴なのかと思いながら待っていると、リコリコの入り口に付けてある鈴が鳴る。

 玄関を見ると、一人の少女が立っている。背は千束と同じくらいだが、千束の白髪とは対照的な黒髪に、これまた千束の表情とは対照的なお堅い表情。

 

 「あんた、誰?」

 

 アラン機関のニュースを見ながら日本酒脇に結婚雑誌を広げ、男を支援しなさいよなどと意味の分からないことを言っていたミズキさんが名前を聞き出す。いや、今日転属があると聞いてただろう。酒の飲み過ぎでおかしくなったか、などと失礼なことを思うが顔には出さない。以前、口に出して酷い目にあったからだ。

 

 「本日、配属になりました。井上たきなです」

 

 ぼんやりとたきなとミカさんたちのやり取りを聞いていたが、たきなは転属に不満らしい。

 

 「彼は束。特殊な立場だが、リコリスのことも知っている。彼からも学べることが色々あるはずだ」

 「芦見束だ。よろしくな」

 「はい。ご指導のほどよろしくお願いします」

 「俺はそんなに強くないから、まともに教えられることなんてないと思うけどな」

 「はぁ」

 

 普段の俺の戦闘能力はせいぜいサードリコリスレベルだ。とてもセカンドに教えられるレベルではない。不審そうな顔でこちらを見てくるたきなにどう説明するべきか考えていると、千束の声が外から聞こえてくる。買い出しから帰ってきたらしい。

 

 「先生大変! 食べモグの口コミでホールスタッフがかわいいって。これ私のことだよね?ね?束?」

 「だろうな」

 

 千束の顔は10人いれば10人が可愛いというぐらいには整っている。いつも笑顔で接客してるし、口コミで高評価を受けても可笑しくない。

 

 「は~、やだやだ。朝から青春しちゃって」

 「ミズキにもそのうちいい人紹介してあげるね~。まあ、お酒抜けたらだけど」

 「余計なお世話よ、小娘」

 「ん? あら、リコリス? ってかどうしたの? その顔」

 「例のリコリスだ話したろ、千束。今日からお互い相棒だ。仲良くしろ」

 「この子が~!よろしく相棒! 千束で~す」

 

 どうやら千束のお気に召したらしい。まあ、誰とでも仲良くなるタイプだから、お気に召すもくそもないんだが。

 千束が買い物袋もほっぽり出して自己紹介を始めたので、俺が代わりに冷蔵庫に入れに行く。

 

 戻ってくると千束はご立腹な様子で、どこかに電話をかけている。

 

 「想像と違ったか?」

 「いえ、そんなことは…」

 「絶対、想像と違っただろ。リコリスの中じゃ、千束みたいなタイプは見たことなしな」

 

 ミカさんとたきなが話してたので、横から口を出す。真面目タイプだと、千束みたいに強いのにふらふらしてるタイプはどことなく理解できないだろう。

 

 「よし! さっそく仕事に行こうたきな!」

 「はい」

 「あっ、先生のコーヒー飲んでからでいいよ。すごくおいしいから。私、着替えてくるね。ごゆっくり~。ああ、たきな!」

 「はい!」

 「リコリコへようこそ~。ウヒヒッ」

 

 千束はマシンガンの如く矢継ぎ早に言い放って、着替えに行く。機関銃をぶっ放したたきなといい勝負してたな今の会話速度。 

 

 「……確かに思ってたより明るいというか、自由そうな人で驚きはしてます。けど、絶対に相棒としてついていって学びます」

 「そう肩を張らなくても良いと思うけどな。まっ、千束のやり方を見て、学べるところは学べばいいさ」

 

 お堅いたきなが千束の影響を受けてどう変化していくのか。そんな悪いことにはならないだろう。

 

 「そう言えば束。今日は喫茶店の方の手伝いを頼んでたと思うんだが、着替えなくていいのかい?」

 「すぐ着替えてきます!」

 

 今日は俺の代わりにたきなが千束と依頼に行くから、喫茶店の当番だということをすっかり忘れていた。ランチの仕込みも全然やってないし、まずい。

 さっきまでの先輩面も忘れて急いで、()()()()()()更衣室の扉を開ける。

 丁度、服を脱ぎ始めた千束と目が合う。

 

 「もお、この前の続きは帰ってからね♡」

 「続きもくそも俺は何もしてねえ!!」

 

 誤解を生みそうな千束の発言をかき消すように叫ぶ。たきなとの初対面はかっこのつかない姿なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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