怪奇!黒チェンソーマン   作:しじみ酢

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ほぼオリキャラしか出てない様に見えますが、最後に吉田が出て来るので許して下さい。


第二話。黒ポチタ

それは季節外れの雪が早朝に観測された日だった。

 

僕は白雪が積もる通学路の真ん中にて、大の字になって眠り込んでいた。

 

人肉を程よくミンチにした、幾つかの死骸や血しぶきを枕や布団にしながら。

 

「あれ……何で、僕……此処で寝てるんでしたっけ」

 

態勢を変えず、僕は口元だけを動かしながら今の不可思議な状況を考えてみる。

 

しかしいくら考えても、全身と言う全身が酷く凍えてそれどころでは無い。

 

「……でも、此処だけ熱い感じが……」

 

それでも、僕の心臓だけは胸やけするかの様に激しく脈を打っていた。

 

思わず、自分の胸を手で押さえつけてしまう。

 

しかし心臓は僕の意識を支配する様に、ドクンドクンと心の音が僕の脳内に大音量で覆いかぶさって来る。

 

 

 

 

 

「あー、また死んじまったのか。ったく、ヤクザは直ぐ死ぬなあ。勿体ない」

 

そんな折にふらっと友人の顔でも見る様に傘を差しながら現れたのは、一人の金髪スーツ男。

 

明らかに人相が軽薄そうで、はっきり言ってしまうがどう眺めてもまともには見えなかった。

 

「人肉敷いて寝てる奴にそんな懐疑的な眼で見られても困るな……。ふっ、何が何だか分かってないって面してるぜ。んじゃあ……ほら、自分の行動思い出してみろよ」

 

「は、はい……。えっと、僕は確かデビルハンター部の活動の一環として……」

 

「いや……口に出さなくていいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は確かデビルハンター部の活動の一環として、裏社会で悪魔と一緒に居座るヤクザ達を追っていた。

 

理由は、そいつ等が銃の悪魔と繋がっているかもしれないから。

 

銃の悪魔と言うのは、今現在も曖昧な存在でありながら、誰もが恐怖に慄く最強の悪魔の事だ。

 

残念ながら僕とはあまり縁が無い様で、奴に親族を殺されたからと言う因縁めいた理由でデビルハンターに憧れていると言う訳では無い。

 

では何故、僕はそのヤクザ達を追っているのか。

 

理由は、岸辺さんの5点からどうしても抜け出したくて成果を挙げたかったから。

 

だから勝手にヤクザの後なんか、付いて行ったりして。デビルハンター部の活動なんか、どうでも良いと思ってる癖して。

 

 

 

 

 

「雪の魔人。出番だ」

 

 

 

 

 

そして大した志も因縁も無い理由を二つも掲げた結果、僕はあっという間に氷漬けにされてしまった。

 

 

 

 

白いウエディングドレスを着飾った、雪の魔人によって。

 

 

 

 

そいつは胴体まではさも人間と同じ様に見せているが、魔人の頭部はしっかり氷の彫刻と化していた。正確に言えば、顔の肉体の一部が氷の彫刻と化していると言えば良いだろうか。

 

いずれにせよ、彼女の表情はまるで確認出来ない。

 

「……」

 

「よし――……それ――死なない内に、解凍しと――よ。何で――監視してたの――聞き出さ――」

 

 

残念ながら、此処から僕の記憶は凄く曖昧だ。まあ、脳髄までしっかり冷凍されている状態の記憶なんて在る方がおかしいと思うが。

 

「それに――雪の魔――人見知り――お前等、ちょっと離れ――」

 

「……」

 

「――なんだ。この――。誰が呼び寄せ――」

 

「……」

 

「止めろ――。止めろって――

 

「……」

 

 

 

 

 

 

――ワン!

 

 

 

 

 

 

雪の降る日に、黒い犬が吠えていた。

 

バラバラになったヤクザ、冷凍保存された高校生、唯一立ち尽くしている雪の魔人。

 

確かに吠えたくなるほど、訳の分からない光景と言える事だろう。

 

 

 

だがその犬は――丸鋸を頭に携えていた。

 

 

 

「心臓――。」

 

それは、今にも僕に襲い掛かってきそうな程に狂っていた。

 

「――契約。」

 

それは、今にも僕を食らい尽くしてしまいそうな程に飢えていた。

 

「夢――。」

 

それなのに、僕の前で奴は優しく鳴き始める。

 

 

 

 

――私に夢を見させてくれ。

 

 

 

そうだ、チェンソーマンを殺す夢を。

 

 

 

 

 

「あ……あ……」

 

まるで支配か戦争、或いは飢餓か、それとも死か、いずれもそれ等に似た圧倒的な恐怖を僕は本能で直感する。

 

 

 

 

 

僕はこの悪魔と契約しなければ、と。

 

 

 

 

 

「ひ、ひい……! 魔人が人見知りだからってちょっと離れてやったと思ったら、なんで生きて

 

「おい……雪の魔人! まさか、お前がこの犬の悪魔を呼び寄せ

 

「ふざけんなよ! 誰か助け

 

「……

 

 

 

 

 

    ◇      ◇      ◇

 

 

 

 

 

「そうだ。僕は丸鋸の悪魔?と契約して……。ヤクザを、あの子を、この手で……」

 

こうして僕の傍らに居るのは、ヤクザの名残としんしんと降り積もる雪だけだ。

 

「それからお前は疲れたのか、数分間此処で呑気に寝てた訳だ。……いやあ、一瞬でぐーすか寝ちゃってたんだぜ。早業だったなあ」

 

しかしいつもの調子で笑う金髪スーツ男は、傘を差しながら器用に拳銃を取り出す。

 

「銃……」

 

「オレが正義の味方だと思ったか? 言っとくが、オレもヤクザだ。ずっと、お前の様子を見させてもらった」

 

彼はかつて同僚か上司、部下でもあった死体を無視して直、僕に話を続ける。

 

「そんなに怯えんなって。オレはお前と喧嘩しに来た訳じゃないから。むしろ、逆だ。仲良くなりに来たんだよ。だって……オレも丈夫な玩具が欲しかったところだから」

 

さらに彼は屈み込む態勢で僕のこめかみに添える様に、拳銃を横へフレンドリーに構える。

 

「この状況で言われても……信憑性は、無いですって……」

 

残念ながら僕はヤクザを細切れにするのに精を出してしまったが為、指一本も動かす事が出来ないくらいに疲れ果てていた。

 

なのでこの様な状況に陥って直、どうすれば良いのか分からなかった。そもそもどうやって、丸鋸の悪魔を呼び出せばいいのかも覚えていない。

 

「……んあ、だったらこれ見てみろよ」

 

彼は自身の足元にいつの間にか置かれた、一つのスーツケースに目配せをしてみせる。

 

「あそこに入ってるのはお金、ですかね……?」

 

「おお……その手があったか。でも仲良くなりに来たのに、金とか生々しいからオレは嫌だな」

 

しかしその友好的な発言に反して、とてもお友達とは言えない強面な男達が金髪スーツの後ろに現れる。

 

「深本。こいつ攫うぞ。手伝え」

 

「ん……此処で殺さないのか。珍しいな」

 

「俺は殺してやりたいくらいだけど上の連中が……な。ほら、分かるだろ」

 

「……あ、そう。オレはオレでやりたい事あったんだけどな」

 

そう深本と呼ばれた青年は、意外にも鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情で僕を見る。

 

「ごめん、着替えとか用意しておくから……とりあえず、オレ達に従ってね」

 

そう優しく囁いた直後、彼は手に持つ拳銃でそのまま僕の頭を殴りかかる。

 

一瞬で僕の意識は強く、遠のいてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきからただ眠っているだけな気がするが、今度こそ僕は目覚める。

 

しかし寝起きなのに僕は直感的に現在居る場所が、恐らくヤクザの事務所の一室だと直ぐに気付いた。

 

何せあまりに生活感が無い室内、全く隠せていない血生臭さ、そして先程の金髪スーツヤクザが僕の視界を埋めていたのだから。

 

ヤクザは偉そうに壁に寄りかかりながら腕を混んで、僕に優しく語り掛ける。

 

「……此処は、言わば拷問部屋だな。本当、配慮が足りねえよな、ウチの組は。結局、着替えも駄目だったし。……おい、毛布くらい持ってこさせろよ」

 

当然だが僕は乱雑に室内へ放り投げられたらしく、そのままフローリングの床で眠らされていた。

 

「それより……何で僕の名前知ってるんですか」

 

その質問は既に予測済みなのか、深本はわざとらしく僕の学生証をちらつかせる。

 

「あ、オレの名前は深本な。いやあ……これから長い付き合いになりそうだからちゃんと覚えてた方が得だぜ」

 

「……」

 

彼の言葉に応える事無く、僕はこれからの事態について真剣に考える。

 

勿論、今回の議題の内容はこの後、僕に一体なにが起こるのか。

 

いや、もう既に丸鋸の悪魔と契約した時点で何かは起こっているんだけど。

 

あ、此処からどうやって脱出すれば良いのか。とかも考えないと。

 

いやいや、ちょっと待て。そもそも、何で高校生に過ぎない僕の事を拉致なんてしたのか。

 

違う。今、僕が一番に考えないといけないのは……黒い犬についてだ。

 

あの犬は雪の魔人が呼び寄せた様に見えたけど……。

 

でも雪の魔人は、あっけなく……死んだ。

 

 

 

 

 

 

駄目だ。僕の頭の中は、どんどん整理しきれない情報で渦巻いていく。

 

黒い犬。

 

白いウエディングドレス。

 

赤い通学路。

 

何も無い色で出来た僕。

 

何も片付いていないのに、また新しい情報が放り込まれる。

 

・岸辺さん。

・吉田さん。

・謎のスーツケース。

・丸鋸。

・拳銃。

・初雪。

・遠吠。

 

深呼吸をしようにも思考が邪魔されるくらいに、情報に押し潰される。

 

「夢」「契約」「心臓」「死肉」「デビルハンター」

 

人間の死肉。悪魔の死肉。

 

そのどちらでも無い――死肉。

 

 

 

 

ああ、楽になりたい。鬱陶しい。しんどい。苦しい。もう、何も考えたくない。

 

 

 

 

あれ、あれ、あれ。

 

駄目だ、こんな切羽詰まった時でさえどうすれば良いのか何も思いつかない。

 

それどころか、もう諦め出している自分が居る。

 

もう、どうでも良いやと匙を人生ごと掬い出してはもう投げだしている。

 

あれ、あれ、あれ。

 

ちょっとした事で、直ぐに人生ごと落ち込むのが僕の癖。だから、誰も――。

 

「……おーい、聞いてるかー野中君。だからさ今、ヤクザは大変な危機に陥ってるだろ? このデンジって奴のせいで」

 

考えを放棄する僕の事など気にしないで、深本は学生証の代わりに一枚の写真を僕の元に渡す。

 

その写真には、頭に電鋸を乗っけた奇妙な人間が写っていた。

 

「こいつの名はデンジ。オレはよく分からないんだけど、こいつの心臓が激レアらしいんだと……。んで、色んな海外の勢力がこいつ目当てで刺客を送って来てるんだ」

 

「……」

 

「知ってると思うけど……オレ達ヤクザって、海外マフィアから日本を守ってるだろ? でもこのデンジのせいで、その外国連中が一気に日本に押し寄せて来るんだよ。酷い奴だよな、デンジって。まさに悪魔だね、悪魔」

 

「……」

 

「だからオレ達ヤクザは身内同士全勢力を持って、強力な悪魔に依頼を送る事にした」

 

「……」

 

「デンジをぶち殺して、海外の刺客を迅速に撤退させるって言う重大任務を」

 

「……」

 

「あ……流石に海外の刺客全員はいちいち相手にしてられないから、デンジだけ殺せば良いよ。殺したら報復とかあると思うから、その時は二人で逃避行だ。スパイも無し。だるいから」

 

それは一体、僕に何の関係があるんだろう。

 

今の僕の頭からつま先まで、そんな疑念でぎっしり埋め尽くされている。

 

「そんな他人事みたいな表情しても無理だぜ。だって、その依頼を送るって言う悪魔はお前なんだから」

 

「……え、僕がぁ?」

 

自分でも正直、情けない間抜けな声が思わず出てしまう。

 

「本当は雪の魔人が殺る予定だったんだけどさ……お前がミンチにしちゃったんじゃねえか。それで上層部が困り果てた結果、お前に依頼を送る感じになったって言う寸法よ」

 

正直、まだ契約した悪魔の扱い方すらろくに分かってないのに、いきなりの提案に言葉が何も出なかった。

 

「オレはそんな君の交渉役。餓鬼一人なんざ上手く騙すなり脅すなりして、良い様に使えってな。君の親族の目玉を抉るまでは許可されてる」

 

「……し、親族」

 

それを聞いた僕は、まだちょっと程度しか脅されていないのに途端に苦々しい顔を見せる。

 

白だの黒だの赤だの、色んな色彩を見せる僕の脳内は一瞬にして一つの思考に落ち着く。

 

家族については何故だか触れてほしくない、と言う思考へ。

 

それは物理的にも、話題的にも、どちらをも指している。

 

 

 

 

 

しかし僕の怯える顔を見た深本は、目尻がくしゃってなるくらいにいきなり笑い始める。

 

「ああ、ごめんごめん。其処までビビるとは思わなかったわ。あれね、此処までは建前だから。長話に付き合わせてごめんよ。こんなの覚えなくて良いから。期末テストに出ないと思うし。目玉なんか抉んないから、そもそも、オレグロいの無理でしょ?」

 

「え、え……」

 

「ああ、でもデンジは絶対殺ろうぜ。……そうだ、オレと友情を深め合ってからな。あ、勿論……ゆっくり考えてからでも良いよ」

 

深本の瞳は拷問部屋の中には似合わないほど、キラキラと輝いていた。

 

「あ、あの……」

 

「一つの目的の為に親友と力を合わせるって言うの、オレやりたいだけなんだ。上層部はオレの建前、本気にしてるらしいけどよ。あはは、馬鹿じゃねえの」

 

続けて彼はいつの間にか足元に置かれたスーツケースを、僕の前に見せびらかす様に開ける。

 

「……え、え、え。これって、ドラえもん……ですか? 何で……」

 

先程のスーツケースの中身はお金では無く、ぎっしり詰まったドラえもんの漫画であった。

 

「オレ、好きなんだよなー。ドラえもん。流石にさっきまで氷漬けになってたお前でも知ってるだろ? あ、ちなみにオレが好きなキャラはドラ・ザ・キッドだ。知ってるか、ドラえもんズ」

 

「もう……な、何が目的なんですか。 あと、ドラえもんズは知りません。ドラえもんもアニメで少し知ってるだけです」

 

すると深本は、地獄に堕ちた様なテンションにまで露骨に下がってしまう。

 

「そ、そうなの……? あっれーおっかしいなー。共通の趣味があると仲良くなりやすいってテレビでこの前やってたのによ。大体、全人類ドラえもん読んでるでしょ普通」

 

「……は、はあ」

 

まさか、最初の方に色々考えた末に着地したのがドラえもんだとは想像にも及ばなかった。

 

「とりあえず、これ全巻貸すわ。一巻ずつ丁寧に読めよ。次会うまでに、感想考えとけ。……あっいい事考えた。全巻読んだら、デンジ殺すぞ」

 

「……は、はあ」

 

 

 

 

――こうして僕は深本の圧に完全に負けた結果、デンジ殺害の依頼を請け負う事になった。

 

 

 

 

 

 

「その話……オレに話すの?」

 

これまで起こった僕の奇妙奇天烈摩訶不思議ヤクザ談義に、吉田は不思議そうな顔で聞く。

 

と言う事で時はドラえもんを全巻読み終えた頃、つまり現在。

 

僕と吉田はハンバーガーショップ裏で話に花を咲かせていた。

 

「憧れの吉田さんに決めて欲しいんですよ。僕はデンジを護衛するべきか、それとも……殺害するべきか」

 

 

 

 

 

僕の疑問に対して、彼の返答は極めて単純であった。

 

 

「――蛸。」

 

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