怪奇!黒チェンソーマン   作:しじみ酢

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第四話。ウェルカムトゥーザデパート

「……いやあ、オレもこれは想像してなかったぜ」

 

そりゃあ、僕もこんな展開など想像はしていなかった。

 

「ぐああああぁぁぁぁ!!! あついんですぅ、あっついですぅ……あ、あっついいいいい!!!」

 

僕は今、ドロドロに熱く溶けた鉄の触手によって己の胸部を串刺しにされていた。

 

しかもこの状態で、触手が道路に沿って街中を高速で駆け巡っていると来た。

 

無論、理由は吉田と言ったデビルハンターから逃げ回る為。

 

「すまねえな。オレ怪我人だし熱いの触ったら死ぬから、お前の足にぶら下がってるわ」

 

しかもしかもこの状態で、足首に深本が申し訳なさそうな顔で掴みかかっていると来た。

 

ちなみに深本は移動の最中に手際よく、どこから用意してきたのか頭に包帯をぐるぐる巻きにしている。

 

ちなみに包帯は、無論ドラえもんの顔の柄が描かれている。普通に緊張感が無くなってしまうので非常に困る。

 

「……もう、叫びすぎて声も出ないですぅ……」

 

しかもしかもしかも鉄の触手はかなり雑に移動しており、蠢く度にビルの壁やら信号機、電線に衝突を繰り返してしまう。

 

それはつまり、僕等の痕跡が盛大に残っている事を意味していた。

 

 

 

「おい来るぞ、身構えろ!」

 

「出来ないですぅ……!動けないんですぅ……!」

 

しかし彼の言葉通り、街並みの壁沿いから蛸色の触手がニョキニョキと大量に飛び出る。

 

さらにその全ての触手が、鞭の様にしならせて僕等に襲い掛かる。

 

「鉄……!」

 

流石に深本も真剣な目付きで、鉄の触手に指示を行って蛸の鞭撃を華麗に移動しながら避けていく。

 

「飛ぶぞ、腹括れ!」

 

「腹貫かれてるんですぅ……! 括る腹が無いんですぅ……!」

 

しかし僕の発言なんて無碍にして鉄の触手は投げ捨てる様に、器用に僕等を空中へ放ってしまう。

 

すると地面から生えた別の鉄の触手がこれまた器用に、僕の無い腹をひっかける様に巻き付いて来る。

 

「これがキャッチボールの様に続いて、蛸の触手をかく乱させるんだ。良い作戦だろ?」

 

「むり、むり、無理がありますって!! 何なら捕まった方が多分、マシですって!!」

 

「あ、オレの握力……限界かも」

 

「……んあ?」

 

そんな訳で僕等は無駄な抵抗空しく、蛸の鞭を体全身に受けた後吹き飛ばされてしまう。

 

そのまま、ホールインワンした場所はデパートの店内。

 

デパートに張り巡らされたガラスを、見事にぶち破って僕等は入店。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……此処は、デパート……か」

 

右にも左にもアパレルショップや食事処などが眼に見えて揃っているのが分かるが、人間は誰も彼も雁首揃っては居なかった。

 

つまり、僕等以外デパートの人間は誰もいなかった。

 

ちなみに深本は全くの無傷だ。あり得ない。何でそれで済んでいるのか、さっぱり分からない。

 

「いやあ……野中君がクッションになってくれたお陰だぜ。ありがとな。お礼に竹とんぼあげるわ。これで、タケコプターごっことかして遊ぶんだぞ。本当は、デンジ殺したらサプライズプレゼントでこれ用意してたんだけどさ。このまま持ってたら、多分壊れちゃうよな」

 

「……は、はあ。ど、どういたしまして。あ……じゃあ僕、ガムあげます」

 

深本はどこからか、ゴミに近い竹とんぼを。

 

僕はポケットに入れていたガムの一枚を。

 

それぞれ、クズを押し付ける様に渡し合う。

 

「いやあ、しかし痛々しいな。その腹」

 

「……デビルハンターよりも、貴方からのダメージが一番大きいってどういう事なんですか。まあ……一応、命の恩人ですけど」

 

「じゃあ……吸うか。恩人の恵みを」

 

 

 

 

 

 

何だか腑には落ちていないが、僕のぽっかり空いた腹は思ったよりも直ぐに塞がった。

 

「と言うか、何で……そんなに僕の事助けるんですか。お腹の傷については深本さんが100%悪いですけど」

 

「言っただろ。オレは丈夫なオモチャが欲しいんだよ。それこそ、不死身レベルのな」

 

「不死身……ですか? 何で其処までそんなの欲しいんですか」

 

しかし僕との会話は一時、中断されてしまう。

 

 

 

 

誰もいないデパートでさえ不気味なのに、さらに怪しげな人影が僕等の前に現れたからだ。

 

「ああ、あいつは……知ってる奴だ。安心しろ、アメリカさんの刺客だ」

 

「いやいや、アメリカの刺客なら敵なんじゃ……」

 

「賄賂と情報送ってるから、大丈夫。いやあ……良かった良かった。確か、名前はアルドだったっけ」

 

しかし深本はこの状況下で、気楽そうにアルドと呼ぶ青年に話しかける。

 

「殺す! チェンソーマンは……殺す!」

 

「全然、駄目じゃないですか」

 

しかも青年アルドは深本を見向きもしないで、開きっぱなしの瞳孔で僕の面に拳銃を向けてくる。

 

「もしかしなくても僕の事、チェンソーマンだと勘違いしてるんじゃ……」

 

 

 

 

 

「殺す、殺す、殺す……。オレは遂行するんだ、任務をぉぉぉぉぉおろろろろ

 

だが彼は僕等に近づこうとした瞬間、何の脈略も無くいきなりゲロを盛大にぶちまけてしまう。

 

「あーあ、勘違いしてゲボ吐くなよ。吐くなら真っ当な理由にしろって」

 

おろろろろぉぉぉぉぉ……ゲホッ、あ……その声は……深本、か? おろろろろぉぉぉぉぉ」

 

ここに来て、ようやく僕の隣に居る彼の存在をアルドは認知する。

 

「ったく、気が動転してんだよ。お前だって、チェンソーマンの写真とか見た事あるだろ。流石に似てないって」

 

「……たっ、た、確かに……」

 

「ほら、タイムふろしき柄のハンカチあげるからこれでゲロ拭けよ。これもサプライズ用の景品だったのによー」

 

 

 

 

 

深本の事を信頼しているのか、アルドは意外にもすぐさま落ち着きを取り戻していた。

 

彼はその場で座り込んで、聞いてもいないのに何やら込み入った事情を話し始める。

 

「オレ、兄貴達が死んで……それで……どうにかしなくちゃって……」

 

「分かるわ。オレも兄貴分、よく死んでるから。嘘じゃなくて……本当に分かるわ」

 

「それで――。

 

 

 

 

僕は黒チェンソーマンの恰好のまま、二人の謎のやり取りに首を傾げる他無かった。

 

「……このまま他の人とかに勘違いされるのも嫌だからとりあえず、元に戻すか」

 

そうため息交じりに言いながら、僕は人間時の状態に戻る。

 

 

 

 

「昨日の刺客は今日の友って言うだろ。オレ達と手組もうぜ。なあ、だから……」

 

「ご、ごめんなさい。あの時……見捨てて、ごめんなさい。兄貴達が殺されてるのに、オレ……」

 

誰かを面影に重ねているのか、僕が見ていない間にアルドは涙目で謝り始めてしまう。

 

「何してんだ、何してんだ、オレ……」

 

もはやデパートが懺悔室に変わったかのような空気感で、彼は必死に泣き続ける。

 

「あの……あんまり、此処でのんびりしてる暇は無いみたいですよ。ほら……」

 

僕等が綺麗に割った窓から下の景色を見ると、数多の人影が行進しているのが見える。

 

「多分、あれ全部刺客じゃないですか。もしくは……刺客が操ってる奴等とか」

 

しかし深本はそんな事意にも介さず、アルドの懺悔を黙って聞く。

 

「どうしたら良いんだよ……。分かんねえよ……。分かる訳ねえよ。兄貴達が急に消えたからぁぁぁ……。だって、オレ、オレは……誰になれば、誰を被れば、誰に頼れば、強く、強くなれるんだっっって。ふざけんなよォ……。もう嫌だ、嫌だあ! 全部、面倒だあ。何もしたくねえ、何もやりたくねえ、何も見たくねえ……」

 

 

 

 

 

 

その涙とゲロと共に出て来る必死の訴えに、ある者だったら笑い、ある者だったら寄り添い、ある者だったら泣く事だろう。

 

 

 

だが僕は――アルドに面影を置く事にした。

 

 

 

 

 

 

それほどまでに彼の主張は、僕とそっくりだったからだ。

 

自分で何も決められないから、どうしたらいいか分からない。

 

だからゼンマイ頼りの日々を送る。ずっと、誰かに巻いて欲しくて。

 

それこそ親族、岸辺さんや吉田さんに頼って。

 

きっとアルドの場合は、それが兄貴と呼ばれる人達だったんだろう。

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ、僕は一体誰に。ま、まさか……あの人って訳には……」

 

僕の目線の先に居る深本は引き続き、黙ってそれを聞いているだけだ。

 

「兄貴、兄貴……」

 

 

 

 

 

 

 

 

するとさっきまで泣いていたはずのアルドはいきなり僕等二人の方向へ呟く。

 

「……オレ達は、不死身だ。プロなら仕事全うしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして僕達はデンジ殺害と言う共通目的の為にしばらく、三人で行動する事になった。

 

「良いね、ライバルが共闘する展開ってのは。あと、オレとしてはデンジさえ殺せれば良いから、心臓とかよく分かんないし」

 

「……僕は何で、此処にいるのか分かんないんですけど。いや……本当に」

 

今までは交通事故、串刺し、急に目前でゲロ吐く人と目まぐるしい出来事しか起こっていなかった為あまり気にしていなかった。

 

ただ、こんな僕でもちょっとずつ現実が見えてくる。

 

この先、ヤクザとして生きていくのだろうと言う現実が。

 

「こ、これで良いんですかね……。あれ、僕の悩みは解決してるんだけど、思ってたのと違う気が……」

 

「オレは不死身だ。オレは不死身だ。オレは不死身だ」

 

逆にずっと迷い続ける僕と違って、アルドは真剣な目付きで吹っ切れていた。

 

「期待してるぜ、アルド君。あ、報酬は山分けね」

 

そう言って僕等三人は、下の階までエスカレーターで下る事にした。

 

「謎の行進は一向に下の階でがやがやしてるからな。多分、デンジも其処で遊んでるんだろ」

 

「まあ、わざわざ吉田さんの蛸がこのデパートにわざわざ突っ込ませた訳ですからね。デビルハンターもセットでついて回っているのは確かです」

 

「オレは不死身だ」

 

「クァンシか、サンタクロースか、それともまた別の勢力か。ヤクザの諜報力も完璧じゃないからな。全部は全部、把握できないんだけどさ。でも、オレ達三人なら何が来ても大丈夫ってもんだな!」

 

「……は、はは」

 

「オレは不死身だ」

 

しかしエスカレーターを降りた僕達三人は、予想よりも早く騒ぎの中心へ一気に歯向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

エスカレーターで降りた先には窓際のテーブルに座る眼帯の女と岸辺、何故か傍で人質を片脇に抱えるデンジと赤い角、そして吉田が居た。

 

 

 

 

 

「そうか、このタイミングで野中もか。……まいったな、流石に」

 

「き、岸辺さん……。僕……」

 

 

 

 

すると僕が岸辺に対して感想を抱く前に、大きく目を見開いたアルドが拳銃を彼に構える。

 

「……デンジじゃなくて、オレを狙うのか。雑な計画だな。やっぱり5点だよ、お前は」

 

しかしその言葉を隙だと判断したのか、いきなり眼帯の女はテーブルに乗り込んで岸辺の顔面を殴り飛ばす。

 

さらに続けて態勢を崩した岸辺、拳銃を持っているアルドの二人の襟部分を、両手でそれぞれ掴んで窓からいきなり放り投げてしまう。

 

「や、ヤバいっ。あ……す、直ぐにでも変身しないと……!」

 

しかし僕は、ずっと頭の上にあると思い込んでいたゼンマイが無くなっていた事に気付く。

 

「あ、あれ……無い。何でだ」

 

「お前もついでだ」

 

そして元々変身する間も無かった僕も、彼女によって無理やり窓の外へ放り投げてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「……深本さっ

 

僕は窓から転落するその途中、思わずあの人に助けを求めて手を伸ばす。

 

しかし既に僕が叫ぶ前に深本は、一切の迷いなく僕の手に向かって走り出していた。

 

 

 

だがそうして助かる展開なんて、物語の中だけだ。

 

 

 

なんとそれを見かねた一人の青年が、首を抑えながら深本の前に立ち塞がってしまう。

 

「吉田……さん」

 

そして彼は一寸の隙も無い落ち着いた笑顔で、落ちてゆくこちらの方向を逆に振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、僕……死ぬのか?」

 

 

特にデパートの外に落ちるからじゃない。

 

別にそもそも僕の身体は今、不死身らしいから死ぬなんて恐怖は無いはず。

 

だが吉田の狂気的な瞳を見た瞬間――、僕は死を悟る。

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