怪奇!黒チェンソーマン   作:しじみ酢

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第五話。テレテテッテテー

ガラスが崩れ落ちる音と共に僕は、誰なのかすら分からない眼帯の女によってデパートの窓から放り出されてしまう。

 

 

 

 

 

 

「あれ、僕……死ぬのか?」

 

頭から落ちる僕に死が手をこまねく僅かな間、脳内では走馬灯が僕の人生をフラッシュバックが如く巡っていた。

 

初めての友達は確か、長谷川だっけか。

 

ああ、最近見ないな元気かな。

 

続いて灰原、後藤、海野、佐川、伊勢海、田中先生、中村、岸辺、吉田、三宅、草薙、深本、アルド――。

 

出会ってまだ直ぐの深本やアルドの顔も、何の違和感もなく思い浮かんでいく。

 

「まさか、アルドさんまで親の顔を押しのけて来るなんて……」

 

だが僕はなりふり構わず必死に、その幻想に過ぎない走馬灯に掴もうと足掻く。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして足掻いた先は――地獄では無く、蛸。

 

僕は落ちたギリギリのところで、地面から顔ならぬ足を出した蛸の悪魔がクッションになって助けてくれた。

 

「……何で、蛸が僕を……。って……大丈夫ですか、アルドさん!」

 

まだ事態を呑み込み切れていない自分がいるが、とりあえず車の上へ落ちていたらしいアルドに声をかける。

 

「は、はは。何とか大丈夫です……けど……」

 

「良かったです。いや、本当に」

 

しかしアルドの生存に安堵しているのも束の間――。

 

 

 

 

一足お先に下に降りていた岸辺が、僕の元へ姿を表す。

 

表情は相変わらずミステリアスに満ちていて、何も感じ取る事が出来なかった。

 

「……」

 

ただ彼は僕に何も聞かないで、軽めのフットワークで二撃、三撃と足技を繰り出す。

 

「な……何で、僕がヤクザの刺客の黒チェンソーマンなのかって……聞かないんですか」

 

それぞれ岸辺の足の軌道は第一に横っ腹、二番目に股間、トリで顔面にそれぞれ一撃コース。

 

僕は岸辺の攻撃を避けきれないものの、上手く両腕を使って何とかガードを決め込む。

 

「そいつを聞く理由が無いからだ」

 

しかしその口に反して岸辺は空いた手で、何やら一筆記したメモを僕に見せる。

 

『会話はマキマに――』

 

 

 

 

 

 

 

 

    ◇      ◇      ◇

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、野中。デビルハンター止めろよ」

 

「だから……何でですか」

 

「そりゃ、当然……マキマが居るからだろ」

 

ドラえもんを初めて勧められた拷問部屋にて、僕と深本はマキマをテーマに会話を進めていた。

 

「さらに言うと……そいつは、俺の親族の目玉抉ったからだ。何か、気の利いた事は言えねえんだけどさ……俺とヤクザやってた方がまだマシだぜ」

 

さらにいつもとはまるで違う怯えた声色で、彼は説得もついでに始める。

 

「だから、何度も言うけど……俺はお前にスパイは頼まない。やるなら……俺個人で殺るからよ。……とりあえず、マキマに気を付けろ。ずっと恐怖って言うか違和感が……頭に張り付いて離れねえんだ」

 

「いやあ、そう言われましても……親がマキマさんのファンなんで……」

 

「ん……ちょっと待て。野中」

 

すると続けて今までとは明らかに違う真剣な顔を見せながら、会話、説得、そして考察も始める。

 

「そもそもの話、親は何でマキマを知ってるんだよ。親ってデビルハンターの関係者か何かか?」

 

「え、いや……あれ……。なんでだっけ。ゆ、有名人だから、ですかね……?」

 

「何でお前がオレに質問するんだよ。まあ、あんまり親の事言わない方が良いんだよな」

 

「は、はい……?」

 

「だから、何でちょっと疑問形なんだって。ったく、あ……ドラえもんスーツケース重いだろうから俺が運ぶぜ。んでよ……デンジ、殺したらあれだ。プレゼント用意してんだ。竹とんぼとか、ハンカチとか……」

 

 

 

 

 

 

    ◇      ◇      ◇

 

 

 

 

 

 

しかし回想の途中、いきなりデパートの上の窓から二人の影がまたもや落ちて来る。

 

こんなに人が放り出されるのが観測される日も、そうそう無いだろう。ゲリラ豪雨もびっくりだ。

 

ちなみに僕が観たあの影二つに名前を付けるなら、「吉田」と「深本」に違いない。

 

 

 

 

「蛸――!」

 

 

 

「――鉄……ってナイフ用意しないと

 

 

 

 

 

当然の如く吉田は上手く蛸を呼び出して、地面からの衝突は何とか免れる。

 

深本は自身の発言に反して、鉄の触手を余裕で呼び出していた。

 

 

 

 

 

「……え」

 

しかし地面から生え出るその触手によって、深本は腹のど真ん中を貫通されてしまう。

 

「……」

 

肉が焼ける様な匂いが、深本の声にならない様な悲痛な叫びと共に醸し出される。

 

頭の思考にもやがかかる様に、何が起こったのかまるで分からない。

 

あれ。あれ。あれ。

 

何も片付いていないのに、また新しい情報が放り込まれる。

 

・あれ。

・あれ。

・あれ。

・あれ。

・あれ。

・あれ。

 

深呼吸をしようにも思考が邪魔されるくらいに、情報に押し潰される。

 

「あれ」「あれ」「あれ」「あれ」「あれ」

 

 

 

 

 

ああ、楽になりたい。鬱陶しい。しんどい。苦しい。もう、何も考えたくない。

 

 

 

 

 

あれ、あれ、あれ。

 

 

 

 

 

 

 

が、現実は誰も引き留めてはくれない。

 

さらに、地面からは錆び付いた鉄で構成された女神像が出現。

 

その女神は許しを請う泣き顔で、祈りを捧げている様に見えた。

 

 

 

 

『あー、また死んじまったのか。ったく、ヤクザは直ぐ死ぬなあ。勿体ない』

 

 

 

 

僕はと言うと、彼と初めて出会った時の台詞を思い出していた。

 

「四次元ポケットみたいに、いらない中身がいっぱい出て来るね。偉い偉い」

 

鉄の悪魔は背中から生えた数多の触手を巧みに操って、深本の中を丁寧に取り除く。

 

「深本くんが大好きな、アメリカさんがお世話になってる皮の悪魔の真似だよー。うんうん、これで……この子も成仏できるはず!」

 

やけに綺麗な声をした彼女は、まだ肉や骨が大量に残る深本の皮を無理やり被ろうとしながら呟く。

 

「な、何で……急にっ……」

 

「だって、深本くんが私より君を優先するから。なら、殺すしかないなーって」

 

「い、意味が、息が……」

 

徐々に不規則に呼吸が荒くなっているのが、自分でも分かる。

 

息を吸う度に、キリキリと胃やら頭やら心やらが酷く痛む。

 

思わず僕は胸を鷲掴みにする勢いで、心臓に手を当てる。

 

 

 

 

 

 

 

「折角、どうでもいい人生だと思ってたのに」

 

その呟きで何かが崩れ落ちる様に、僕は一筋の涙を流す。

 

「助けて、助けて、助けて……」

 

胸が……苦しい。

 

それでも田中や伊勢海、中村、深本、吉田、岸辺、アルド、誰も彼も頭の中の走馬灯ばかりで手を差し伸べてはくれない。

 

――そう、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、本当に今日は、何かが降って来る日だ……」

 

僕、岸辺、アルド、吉田に続いて、空から差し伸べられるは巨大な掌。

 

「んだ、あれ……」

 

「あはは、はは……」

 

正直言えば他の奴等からすると、鉄の悪魔が深本の皮を被っている事なんてもはやどうでもいいのだろう。

 

「折角の深本くんの晴れ舞台なのに、邪魔しないでくれるかな……?」

 

と言うか鉄の悪魔も巨大な掌については把握していないらしく、僕の事すらどうでもいい様に上を見上げていた。

 

「助けて、助けて、助けて……」

 

まさに地獄絵図、すっかり僕は魂が抜けた様に膝から崩れ落ちる。

 

「助けて、助けて、助けて……」

 

まるでうわ言の様に呟いて、僕はかつて深本であったものへ追いすがる。

 

「助けて、助けて、助……?」

 

さらにその中身に交じって、ズタズタに千切れた普段着、スモールライトを模した懐中電灯、暗記パンを模したパン、ほんやくこんにゃくを模したこんにゃく、何だか無駄にピカピカしている謎のカードも散乱されていた。

 

「僕の為に、用意したプレゼント……」

 

本当に深本が死んだと言う事実に僕の身は小刻みに震える。。

 

「……ガム」

 

そしてその中には、一枚のガムがどうにか形状を留めながら僕の近くに転がっていた。

 

「そうだ、竹とんぼ……」

 

僕は制服のポケットに雑に捻じ込んでいた竹とんぼを取り出す。

 

「……流石に、タケコプターごっこがヒントって訳じゃないと思うけど……。いや、分かんないな。あの人は……」

 

僕は死して直、深本の100%狂気の底知れなさを垣間見た。

 

「……こう言うのを100点って言うんだろうな」

 

僕は空を覆う掌が拳を作る中、ゆっくり落ち着いて一息置く。

 

 

 

 

 

――そして、自らの手で竹トンボをゼンマイ代わりに自分の頭に思い切って刺す。

 

さらに続けて、その竹トンボを力任せに引っこ抜く。

 

「……哀れな人の子。私と深本くんはたった今、一つになったのに。邪魔してないでくれるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う。僕は……いや、オレは黒チェンソーマンだ」

 

地獄にしか鳴らないはずのチェンソーの音は、ファンファーレが如く盛大に鳴り響く――。

 




ちなみに竹とんぼを頭に付ける下りは深本は想定してないので、野中が変な解釈してるだけです。
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