こんな事良いな。
「前から貴方の事は気に食わなかった。本当なら、深本くんの前で殺してあげたかった。でも、彼……哀しむから」
出来たら良いな。
「内臓全部無くなる方が哀しいけどな、オレだったら」
空を自由に飛びたいな。
なので僕は腕の鋸部分を分離させる様に射出しながら、真上に大ジャンプをかます。
ちなみに鋸と柄は鎖のチェーンによって繋がっており、ヨーヨーの要領で腕の丸鋸を展開出来る。
続けて宙に浮いた状態で、左の方の鋸を遠目にある手頃な高層ビルの壁までチェーンで伸ばして引っ掛ける。
そうしたら鋸で引っ掛けたまま、鉄の悪魔が居る地面まで滑る様に落下するのみ。
するとどうだろう。
あのスパイダーマンの様に、かっこいいスイングが再現できるのだ――!
「無駄且つ無意味な足掻きをっ……。深本くんは私が守るんだからぁぁぁ!」
そして僕を掴み取ろうと毎度お馴染み鉄の触手が、ビルやアスファルトからにょきにょき成長を開始。
しかしそれに怯む事無くスイング状態のまま華麗に避けながら、右の鋸のチェーンで逆に彼女をぐるぐる巻きにする。
「このまま、投げ飛ばしてやるよ。さっきデパートから飛んだオレの気持ち、味わってもらうぜ」
僕は鉄の悪魔を素早くされど厳重に抱いて、遠心力スイングの勢いに乗って大きく上空へ吹っ飛ぶ。
無論、ビルに残っていた左鋸もさっさと僕の元まで回収完了。
「んで、お前はさらに飛んでけ。月でも天国でも地獄でも、何処へでもぶつかってくれよ、っと……!」
さらに僕は鉄の悪魔を上へ放り投げる様なフォームで、ぐるぐる巻きの右チェーンも無理やり回収。
僕の想定通りコマの要領で彼女は高速回転しながら、さらに僕より遥かな高みを目指して上空へ飛ぶ。
ギャグマンガだったら、そのまま宇宙までぴゅーんと飛んでいきそうだ。
しかし現実はそう上手く行かず、鉄の悪魔は飛ばされながらも触手を僕の元まで大量に展開。
「もしかして手数が触手しか無いのか、お前は」
「は? 黙っててくれない? 私は今、深本くんの中に入れて幸せを感じてたいのにさぁ! お前さぁ!」
その攻撃を、僕は真向から両鋸で弾く様に対抗。
それでも流石に鉄の触手の数が多く、僕の両手首部分に熱した鉄が容赦なく刺さってしまう。
さらに彼女は僕を地面へ落とすつもりなのか、わざとちょっと浮かしてから真下へ思い切ってぶん投げる。
「あっついいいいいい!!! あっつうううううう!! あっははっ……! 黙って欲しいなら、腕に鉄刺すとか……拷問、みたいな真似……止めた方が良いぜ。オレグロいの無……理だからさ……!」
「深本くんの猿真似しか出来ない哀れな人の子。お前ごときが誰を演じても、強くはなれないと言うのにね。このまま地獄まで……堕ちろ!」
しかし僕はこのまま地面に衝突は……せず、横にあった手頃な高層ビルの中層辺りへ鋸をチェーン展開して取り付ける。
さらに、ビルの壁へ吸い付く様に今度は鋸の方向に自分を素早く回収。
もはや伝統芸能が如く、ビルの強化ガラスを斬り割ってビルのオフィス内に入る。
「はあ、はあ……。オレもチェーンで展開と回収しかしてねえな」
しかし彼女は態勢を直す暇も与える事無く、触手を僕が居るビルまで伸ばして先程の自分と同じ様に接近を試みる。
「来てみろって。返り討ちにしてやるよ……!」
直後に始まるは、石頭ならぬ鉄頭(深本付き)と鋸頭の鍔迫り合い。
あまりの衝突に、両者(深本付き)の頭から橙の火花とおまけの血しぶきが激しく飛び散る。
「はああああああ!? ちょっと!? 深本くんの大事な顔をぉ! 傷付けないでよ!!!!」
しかし彼女の怒りも、鉄色の冷たいはずの身体が熱で真っ赤に染まるほど激しさが急上昇。
さらに彼女の背中の数十本の触手は、クジャクの羽の様に扇状に統率を取り始める。
「てか何で、鉄がこんなに強いんだよ……? それとも見境なくブチ切れてるだけか」
しかしそんな疑問は全部粉砕する勢いで、その触手は全て僕の全身を隈なく貫き通す。
「……!」
あの時の深本の様に、僕は声にならない悲痛な叫びを鉄の悪魔へお届けする。
だがそれでも、現実同様彼女は文字通り一切止まらない。
なんとこの状況下で、ビルの外まで勢い任せで鉄の悪魔本人がタックルを始めてしまう。
「あ……あ……」
刺されたままの僕は身動きが取れないでそのまま彼女と共に心中するかの如く、空中で舞っては急降下。
無論、行き先は道路のど真ん中。或いはあの世とも言う。
「や、やばい。キレた勢いで、私まで落ちちゃう・どうしよ。このままじゃ、深本くんの綺麗なお顔が……!」
しかし彼女自身は衝動的に起こした言動らしく、どうやら動揺している様に見える。
「……ははっ、まだ……オレの方が狂ってて、良かった……」
「は……? この期に及んで何を」
触手に身体中を刺し貫かれて、高層ビルから飛び降りて、挙句の果てには自分のネジを回してくれるかもしれない人も失って――。
それでもまだ、僕は諦めていなかった。
両鋸から上手にチェーンを引き延ばして、右鋸の方は彼女と自身を引き離れない様に一緒に巻き付く。
そして左鋸の方を、道路にたまたまあった一台の車に無理やり刺していく。
「これで、車がクッションになって助かるかもな。愛しの深本くんが顔どころか、全身が消し炭にならない限りはな……!」
「え、ちょ、ちょっと待っ
途端に挙がるは、火花とは比べ物にならない巨大爆発――。
「……あっつ。でもさ、何だか懐かしさを感じるよ。ついさっきの事なのにな。ははっ」
そんな背景を背に、僕は戦火を全身を浴びながら呆れる様に笑う。
さらに痛くもないお腹を擦りながら、何やら泣き喚く彼女の前まで歩を進める。
「……深本くん、深本、くんっ。燃えないで。私の深本くん、なんで……なんで……! おま、お前っ……貴方にとって! 彼は、親友じゃなかったの? 好きじゃなかったの?」
「だからこそに決まってるだろ。お前を……必ず殺す為に深本を消し炭にしたんだ」
「意味分かんないんだけど。理解出来ないよ、何で、こんな酷い事が……」
「だってほら、お前……オレに恐怖してるだろ」
「あ……あ……
「あ、答えられないか」
鉄の悪魔は祈りを捧げる泣き顔を崩すことなく、縦一文字に真っ二つに裂ける。
まさに――一刀両断。
時は片割れ時、僕は鉄の悪魔に勝利した。
「はあ……はあ……これで、良かったんですかね。いまいち分かんないけど」
しかし同時に、全く持って見知らぬ記憶が僕の脳内を直接襲う。
「な、何だ……」
それは、どこかで見た様な通学路。
それは、どこかで見た様な黒い犬。
そしてそれは、どこかで見た様な一人の――。
「……」
僕がとある人物を思い描いた同時刻。
とあるデパートにて、何処からともなく季節外れの雪が夕暮れと共に観測された。