望まなかった最強   作:アートレータ

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怪物の卵

 

『ブラックハウス』

 

 それは、呪術界の上層部によって極秘に作られた孤児の保護施設。

 

 ……を謳っているが実情は孤児を呪術師として育て上げるための教育施設である。本来はまれにしか生まれないはずの、人工的に強力な呪術師を作り上げるための施設。

 

 目的は自他ともに認める最強の呪術師である『五条悟』。そして同じく自他ともに認めるほどの傍若無人ぶり。

 あの憎らしい最強が離反した際に対抗できる上層部の犬を育てることである。

 

 五条悟とは、他者を寄せ付けない莫大な呪力。呪術を認識できる六眼。受け継がれた無下限術式。そして、それらを使いこなす天性の戦闘センス。そんなチートを体現化したような人物である。

 

 今は上層部の指示に従っているが、反抗の意思があることも上層部は把握している。いつ離反されてもおかしく無いのだ。

 そして離反された際に彼を止める手立てが現在ないことも理解している。だからこそ、ある程度の自由を保障しているのだ。

 

 しかし、いつまでもそんな彼を野放しにしておくわけにはいかない。だからと言って、彼のような逸材は数百年に1人生まれるかどうかと言う確率の代物だ。

 そんなのを待っているわけにはいかないし、生まれてくるかどうかも分かったものでは無い。故に彼ら上層部は自分たちの手で作ろうと言うのだ。

 

 それも自分たちに逆らえないように手綱を繋いだ犬として…。

 

 

 

「あれはどうした?順調に育っておるか?」

 

「あぁ、良い感じで育っておるが、まだ力に振り回されている感じが残る。」

 

「幾ら強力な術式でも使いこなせなければ意味がない。」

 

「左様。術式を使いこなすために知力の上昇も必要か?」

 

「寝る時間は最低限で良い。育成を優先しろ。」

 

「承知した。しかし、恐ろしい力よ、『〇〇術式』とは…。」

 

 

 

 彼等は気付かない。気付けない。気付こうとしなかった。

 それが更なる『怪物』を生み出すとも知らずに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクは物心ついて少しした頃、4歳の時には両親に捨てられた。

 

 父は、母を愛していたらしい。

 

 らしいというのも、ボクは母のことを覚えていないからだ。なんでも、身体の弱かった母はボクを産んですぐに体力が尽きて亡くなったそうだ。だからなのだろう、父がボクを嫌っているのは。

 

 夜お腹が空いて泣いていたら父に殴られた。

 必要な物を言ったら怒鳴られた。

 勉強したいと言ったら酒瓶を投げられた。

 歌ってたらうるさいと言われ首を絞められた。

 座っていたら邪魔だと言われ蹴り飛ばされた。

 何もせず無表情で居たら『その顔やめろ!』と言われタバコの火を押し付けられた。

 部屋の隅っこでヒッソリと息を殺して座っていたら「目障りだ!」と言われ窓から投げ捨てられた。

 少しでも気に入られようと味噌汁を作っていたら「クソまずいもん作ってんじゃねぇ!」と沸騰したお湯をぶっ掛けられた。

 

 まだ幼く何もできない自分は、

ただただそれに耐えることしかできなかった。しかし、我慢の限界に来たボクは行く宛てもないまま家を飛び出した。

 日頃から邪魔でしかなかったボクが飛び出したのだ。さぞ清々した事だろう。当然のように迎えにくることも、捜索することもなく、この一件は終わりを迎えた。

 

 ボクは失意の中でも少し期待していたのかもしれない。

 父の行動は愛情の裏返しであり、本当は大切に思ってくれているのだと。そう信じたかった。

 

 しかし結果は予想通りのもの。自分から飛び出したとはいえ、事実はボクは父から捨てられたというものだった。

 

 捨てられたボクは街を彷徨い、そして彼等に保護された。いや、捕獲されたと言った方が適切かもしれない。

 しかし、行く宛などなかったボクは彼等の言葉に従いついていった先が『ブラックハウス』であった。

 

 入ってみるとそこはまるで学校のようなところだった。歳の近い子供たちが集められクラスとして成り立ち、大きなお兄さんやお姉さんは上のクラスに在籍していた。

 

 何故か、上のクラスほど人数が少なかったのだが、気にならなかった。そんなボクたちに上のクラスのお兄さんやお姉さんが憐れみの視線を向けているのに気付くことができなかったのは当然であった。

 

 ボクはクラスのみんなと壁を作ってしまっていた。怖いのだ。信じて仕舞えば裏切られる。もともと信じなければ、裏切られる恐怖を味わうこともない。

 そう思っていたボクにクラスのみんなは積極的に話しかけてくれた。

 

 そんなクラスメイトにボクも少しずつ心を開いていった。みんなと遊んで、みんなとご飯を食べて、みんなで寝て…。そんな生活を半年ほど続けたある日、急にクラスのみんなを集めて先生が前に立つ。薄気味悪い笑みを浮かべて口を開く。

 そして、それは地獄の始まりを告げる合図であった。

 

「みんな、よく集まってくれたね!君たちにはこれから訓練を積んでもらう。怪物と戦うんだ!かっこいいだろう‼︎」

 

 一部の生徒たちはその言葉にはしゃぎ出すがボクにはとてもそんな気分にはなれなかった。なんとも言えない不安が全身に駆け巡る。

 不安に確証などない。

 ただこの先に起こることが良くないことであることは直感で理解していた。しかしボクにはどうにかする方法も手段も持ち合わせていなかった。

 

「この世界にはね、呪術師というヒーローと呪霊という怪物がいるんだ。君たちには呪霊を倒すヒーローになってもらいたいんだ!呪術師が呪霊に対抗するためには呪力というものを用いる必要があるんだけど…。君たちはもう資格を得ているはずだ!」

 

 初めて聞く言葉ばかりだった。『呪術師』?『呪霊』?『呪力』?何のことかわからないがボクたちはすでに資格を持っているらしい。どういう事なのか。疑問に思っているとそれに答える声が返ってくる。それと共に気味の悪い生物を徐に取り出した。

 

「みんな見えるよね?これが呪霊なんだ。1番弱い個体だけどね。見えるだけでも資格を持っているということになるんだけども……何故見えるかというと、君たちが気づかなかっただけで呪霊を食べていたんだよ。毎日の食事に混ざっているものをね。そうして気付かないながらも呪霊の呪力を取り込んだ君たちは呪術師の資格を得ていた。というわけさ。」

 

 それを聞いて吐き気が込み上げてくる。知らず知らずのうちにあんな悍ましいものを食べて取り込んでいた。信じたくない。

 でも、アレが見えているのはそういう事なのだという。信じたくない。でも、食事に違和感を感じた事はあった。信じたくない。

 俺の中にもアレと同じ力が流れているというのか。

 

信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。信じたくない。

 

気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの気持ちとは別に翌日から早速呪術師としての訓練が始まった。呪力の使い方、術式の把握、戦闘技術など望んでもいない力が身に付いていく。

 

 どうやらボクには他に類を見ない膨大な呪力量であるらしい。そして術式も強力無比なものだった。その効果は『()()()()物を増やす』という物だ。

 物体を増やすのはもちろんのこと、時間に重力に空気。可能性に確率。すでに存在するものならば、何でも増やすことができる。もう一度言う、なんでもである。

 

もちろん制約も存在する。

 一つ目は起こす現象の大きさによって呪力の消費量が増加すること。だがこれは規格外の呪力量を誇るボクの障害とはなり得なかった。

 二つ目は既にある物にしか干渉できないことだ。ボクの術式は増やすものである。無から生み出すことは出来ない。

 三つ目は自分以外の有機物へは干渉を行えないということ。自分の呪力や血液などは増やすことができた。しかし、他の人の呪力や血液を増やすことは出来なかった。血液はもちろん呪力を増やせなかったのは、呪力もその人の一部と見做されたのだろう。

 

 そして何より術式を1日に一度しか行使できないのだ。呪力切れを起こす訳ではない。むしろ2度目の行使をすると呪力が溜まりすぎたように暴発を起こしてしまうのだ。

 

 いくら膨大な呪力を持っていようとも、いくら強力な術式を行使出来ようとも一日一度しか使えないのでは呪術師としては欠陥品も良いところであった。

 周りの失望の声とは裏腹にボクは内心歓喜していた。これで戦わなくてもいいのだと。地獄のような日々が終わりを迎えるのだと。もし殺されるのだとしてもこんな日々が続くよりは全然マシであるとさえ思った。

 

 だが、そんな淡い期待はすぐに消え去ることとなる。

 先生たちの決定は、一度しか使えないのであれば、その一度でどれだけ強力な効果を生み出せるのかに掛かっているのだと。その為により豊富な知識が必要なのだという。

 

 その日からボクの日常は変化した。午前は図書館で勉強。原子に物質元素。空気中の空気元素に、あらゆる物事の確率。物体の耐久力に、重力の掛かり方。

 知識とは能力(チカラ)である。ボクの術式はそれを体現したような物だ。

 知識が増えれば増えるほど戦闘の際の選択の幅が広がって行く。常に監視が着き、ひっきりなしに本が積み重なっていく。

 頭が痛かろうが、吐き気を催そうがお構いなしに減ることなく本が増え続けていった。

 

 午後は身体能力のみによる戦闘訓練。術式の行使は禁止されている。あまりにも殺傷力が高すぎる為だ。

 相手は今や家族とも呼べるクラスメイトたち。悲痛な表情を浮かべながら、涙を溢しながらそれぞれが望まない戦いに臨んでいる。ボク以外のみんなは術式を行使して、相手が戦闘不能になるまで続けられる。致命傷を負ったら支援特化の術式によって回復させられ、それが一日中続けられる。

 

 心身ともに疲弊しきったボクたちに唯一の希望はそれぞれの存在であった。

 クラスメイトであり、友達であり、家族である。そんなボクたちの関係が有ったからこそともに励まし合い一夜を明かしてまた翌日の訓練に臨む。そんな毎日が3年続けられた。

 

 年が経つごとにクラスメイトの数は減っていった。訓練中に亡くなっていったのだ。この時ボクはようやく先輩達の数が少なかった理由を理解した。先輩達のクラスも、もともとはそれなりの数がいたのだろう。しかし徐々に減っていったのだと。

 

 呪力量が少ない物、術式が弱い物、身体能力が低いものは教師によって見捨てられていった。30人はいた家族は今や10人しか残っていない。そして人数が減るにつれて訓練の内容も団体向きのものから、個人向きのものへと変化していった。が、今日は違った。

 

 一つの訓練場に残ったみんなが集められた。その光景は3年前を思い出させる。

 しかし、当時より家族はかなり減ってしまった。みんなコイツらのせいだ…。コイツらが殺したんだ!そう思うと、その相手が目の前にいるのだと思うといつにも増して怒りが込み上げてくる。そしてその負の感情が呪力と化し、身体から呪力が立ち上がる。

 

 周りを見てみると他のみんなも似たような事を考えていたのだろうか?ボクと同じように呪力が立ち上がっている。

 場違いなことは自覚しつつ、その事に少し嬉しくなる。みんなも同じことを考えていてくれた事に。どんな事でも彼らとならば乗り越えられる。そう本気で信じていた。

 

「それでは、最後の訓練を始める。

…お前ら、殺し合え。生き残ったの一人のみを解放してやる。」

 

 そう、この時までは……。

 

 

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