望まなかった最強   作:アートレータ

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 時期尚早とは思いつつ、このタイミングしかなく登場してもらいました。
 時期としては、全話の約一年後。

 桜下の術式名何にしよう…。
 不義遊戯(ブギウギ)とか星の怒り(ボンバイエ)とか、センスありすぎだろ。



白い死神

 

 この日は日本全国で大雨が観測された。そのため外出するものはほとんどなく、この町もまた静まり返っていた。そんな大雨の中、1人の少年と1人の男性が向き合っていた。

 

 煩わしく感じるこの雨は2人にとっては好都合であった。2人は否が応でも視線を集めてしまう。

 

 艶のある白髪に明るく鮮やかな青眼に、黒みの強いブラウンが混ざった暗めの色味のアースカラー。それらの独特さを不気味に感じさせることなく、むしろ引き立ててしまうほどの整った顔立ちの少年に。

 

 やや人相は悪く悪人面ではあるがイケメンと呼ばれる部類の顔立ち。何よりも目を引くのが、強靭さが一目でわかる筋肉質で引き締まった逆三角形の肉体美。黒いTシャツから浮き出る筋肉が男らしさを演出した男性である。

 

 これから行われるであろうことがことだけに、人が寄り付かないのはありがたい。と言うのが2人共通の感想であった。

 必要とあれば、両者共に躊躇なく周りを巻き込むのだが犠牲者はないに越したことはない。

 

「んだ?ガキじゃねぇか。」

 

「アンタだれ?」

 

「ホントにこいつが噂の『白い死神』かよ。」

 

「アンタだれ?」

 

「まぁ、俺は金がもらえりゃそれでいいんだが、」

 

「んで、アンタだれ?」

 

 雨など気にした様子はなく2人は会話?を繰り広げていた。2人の距離は10メートルほど離れていて、それなりの距離がある。が、それは他のものにとっては。

 それに、2人は特別大きい声で話しているわけでは無い。そのほとんどはこの雨にかき消されて音になることはないほどの声量であった。

 それなのにも関わらず会話が成立している?2人はどれだけ異常なのかは他の人が見たらのもしの話。2人にとっては当たり前の出来事だった。

 

 片や莫大なんて言葉が緩いほどの呪力を見に纏い、身体能力に五感を強化した少年。片や天与呪縛のフィジカルギフテッドによって怪物のような身体能力と五感をもつ男性である。

 

 煩わしく感じるこの雨は2人にとっては好都合であった。

 

これから行われるであろうことがことだけに、人が寄り付かないのはありがたい。と言うのが2人共通の感想であった。

 必要とあれば、両者共に躊躇なく周りを巻き込むのだが犠牲者はないに越したことはない。

 

「んじゃ、サクッと終わらせっか。ダリィし。」

 

 会話が何一つ進展しないまま、2人は唐突に動き出す。

 

 いきなり目の前から消えた男に少年が呆気に取られるも、それはほんの一瞬。すぐに意識を切り替え、術式を行使した。

 

『術式順天・・・強』

 

 少年は自身の周りの重力を強くした。それをいつの間にか刀を持って少年の後ろに回っていた男は、獣じみた勘を頼りに咄嗟のバックステップで範囲から逃れる。そこで男の姿を認識した少年は、続けて術式を行使する。

 

『術式反転・・・短』

 

 自分と男との距離を短くすることで、今度は先程とは逆に少年が男の前に姿を現す。少年はすでに拳を振り上げており、その拳は黒い閃光を纏っていた。

 

『術式順天・・・長』

 

 打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突する事で発生する黒閃。それを術式でカバーする事で、可能誤差時間を長くする。

 その黒閃が男に襲い掛かるも、男は手に持っていた刀の柄頭をその拳に当ててその衝撃に身を任せ、後ろに飛ぶことで距離を取る。

 

 そこで2人は一度沈黙する。

 2人にとっては敵とは、殺すべき対象でありそれ以上でも以下でもない。だが、この男は少年は自分の攻撃を凌いで見せた。

 

 両者共に戦闘の天才である。片や複雑な術式を完璧に臨機応変に使いこなすセンスを持つ少年。片やその圧倒的な身体能力に振り回される事なく、むしろ武器すらもその一部として使いこなすセンスを持つ男性。

 ゆえに興味が湧いた。

 

「アンタ、名前は?」

 

「なってねぇガキだな、人に聞く時はまず自分からってママに教わんなかったか?」

 

「親なんて、いねぇよ。…… 上杉桜下だ。アンタは?」

 

「伏黒甚爾だ。覚える必要はねぇ。」

 

 それだけ言葉を交わし、再び戦闘体制に入る。

 甚爾は先程と同じように桜下との距離を一瞬で詰め、刀を振り下ろす。

 

『術式反転・・・下』

 

 桜下はそれを術式反転で、自分に当たる確率を下げてやる。すると、当たる直前で強風が吹きつけ刀が風に煽られて桜下の横を通過する。

 そこへ更に甚爾の追撃が迫る。いつの間にか右手に握られていた独特の形状をした短刀を突き出した。

 

『術式順天・・・遠』

 

みすみすやられるわけもなく、術式を行使して2人の距離を短刀が届かない距離に遠くした。はずだった。

 何故か術式は効果を発揮せず不発に終わり、その短刀は桜下の左手を貫き更に後ろに迫っていた建物に突き刺し固定した。

 

 術式の不発に想定外の痛み。それによって一瞬の隙が生まれる。甚爾はその一瞬を見逃すほど甘くなかった。

 先程空振りに終わった刀を左手に持ったまま、桜下に振り下ろす。

 

 その刹那の中でも桜下は思考する。

 回避は間に合わない。左手が固定されている以上、回避をするには一手遅れてしまう。

 迎撃は無理だ。甚爾の膂力は桜下の遥か上をいく。体制が不十分な桜下に今の甚爾の攻撃は押し勝てない。

 先程と同じように術式で外す。無理だ。これは直撃コース。100%当たる攻撃に対しては、意味をなさない。

 

 ならばやる事は一つ、覚悟を決めろ。

 桜下の術式は他人に対しては行使できないが、自分に対しては行使できる。

 つまり…。

 

『術式反転・・・細』

 

 自分の左腕を極限まで術式で細くする。腕がまるで指であるかのように錯覚してしまうほど細くなったそれを桜下は力ずくで捩じ切る。

 左腕を捨てて自由になった体を動かして、甚爾の攻撃を回避する。

 そして、即座に攻撃へ移る。

 

『術式順転・・・強』

 

 地面を叩きつけた刀を握る当時の腕を標的として定めて、重力を強くする。一点のみ重力を強くする事で、疑似的なブラックホールが生まれる。それは甚爾の左腕を飲み込んで消えていった。

 

 お互いに片腕を失った状態で距離を取る。

 戦いが始まって、二度目の静寂が訪れた。

 桜下はその間も思考を重ねていた。

 

 自分の左腕を貫いたあの短刀。

 術式は間違いなく行使された。何故ならば、次に使った術式が術式反転であったのだから。つまり術式順転は発現していた。

 ならば原因はあの短刀。術式が消散した?多分、違う。

 もっと直接的なもの。例えば、そう。呪力を消散させた。そんな感じがした。

 もしそうだとしたら、勝ちへの道筋が見えて来る。

 

「やっぱり…。」

 

 そしてもう一つ。本来であれば自分以外の有機物へは干渉できない術式だが、今はどうか。甚爾の腕に標的を定めていたのに行使できた。それは何故か。

 術式を行使できないのは有機物ではなく、呪力に対してであるから。天才的な頭脳に、磨かれた経験を併せ持つ桜下はすぐに答えに辿り着いた。

 であるのならばこれもできるはず。

 

『術式反転・・・薄』

 

 甚爾を標的に発動されたそれ。甚爾の周りの酸素濃度を薄くしてやる。本来であれば範囲でしか発動できないそれを、甚爾本人に行使する事で動いても脱出できない完璧な包囲網が完成した。

 

 いくら並外れた肉体に並外れた肺活量を持ち合わせていようとも、生きている以上酸素は必要不可欠である。よって甚爾は短期決戦を余儀なくされた。

 呼吸困難な現状を直感で解除できないと悟った甚爾は、冷や汗を流しつつも不敵に笑って見せた。臨むところだと。

 

 桜下も桜下で余裕はなかった。この短い攻防でも嫌と言うほど理解させられた、甚爾の適応力。決め手がなくなってしまわないように術式の無駄打ちは出来ない。

 故に、その膨大な量の呪力のほとんどをを身体強化と五感強化にまわした。

 

 呪力を感知できないものの、それを研ぎ澄まされた直感で感じ取った甚爾はそれを再戦の合図として飛び出した。

 そしてそれと同時に桜下も飛び出した。

 

 繰り広げられるのは殴り合い。

 しかしこれは、一撃一撃が人を塵へと変えてしまうような凶悪なものの応酬である。

 2人にとっても直撃は致命傷になり得る。避けて、流して、時に防いで。

 そんな攻防が続く中、擦り傷や防御で出来た傷から流れる血によって 2人はどんどん赤く染まっていく。

 

 桜下にとっては、苦笑いも浮かべたくなるような心境であった。

 まだまだ呪力操作に無駄があるとはいえ、膨大なんて言葉が生ぬるいほどの量の呪力の大半を強化に回してやっと互角である。

 甚爾の規格外な身体能力には、規格外な呪力をもつ桜下でも驚嘆するばかりであった。

 だが、そんなことばかり言ってられない。危険ではあるが勝負に出る。

 

 これまで9割回していた強化の呪力を7割まで下げる。

 必然、甚爾との攻防についていけなくなり桜下に隙が生まれた。

 甚爾はそれが罠だと、誘いだと分かっていた。しかし、酸素低下の影響で短期決戦を余儀なくされている甚爾には乗るしか選択はなかった。

 

 目の前で刀を振り下ろす甚爾に対して桜下は、避けることなく刀を受け入れた。刀は肩から食い込んでそのまま断ち切る、事はなく…『術式順転・・・硬』そこで止まった。

 まるで桜下の肉体が硬くなったように、食い込んだまま押すことも引くこともできなくなる。

 

『術式反転・・・短』

 

 桜下は腕を断ち切った時に、その腕に呪力によって生成した即席の糸を巻き付けていた。

 桜下の掌を壁に固定したまま突き刺さっていたその短刀に巻き付けていた糸を術式で短くする事で手元に引き寄せる。

 そしてその刃先を甚爾に突き立てた。

 甚爾は即座に反応し、紙一重で避けた……はずだった。

 

『術式順転・・・長』

 

 その刃先は突如伸びて、甚爾の腹を貫いた。

 

 何度も言うが桜下の術式は自分以外の呪力を持ったものに直接作用できない。つまり呪力を持った武器、呪具に対しても行使できないはずだった。

 しかし、今桜下の手の中にある短刀は桜下の掌を貫いたままである。そして呪具の効力である呪力消失も継続中であったのだ。

 故に、桜下にとってそれは術式を行使できる都合のいい短刀と成り変わっていたのだ。

 

 甚爾は窒息や多数の切り傷による出血多量、そして腹を貫かれたダメージによって限界が訪れ崩れ落ちた。

 後はトドメを刺して桜下の勝利で終わるはずだった。

 

 横たわって目を閉じっていた甚爾だが、いつまで経ってもトドメが来ないことに疑問を持ち目を開けた。

 すると開いた目の前に短刀が突き立てられた。

 

「どういうつもりだ?」

 

「やっぱり、呪力がねぇアンタを呪術師とは見れねぇ。」

 

「はぁ〜?」

 

「運が良かったら死ぬことはないだろ。んじゃ俺は行く。じゃあな。」

 

 甚爾は数秒呆気に取られてから、いつの間にか解除された術式に気付いて目一杯空気を吸い込んだ。

 そして見逃されたと気付いた甚爾は、らしく無いと自覚しながら、未だ止まぬ雨の中、声を出して笑ったのだった。

 

 





 パパ黒沈む!
 強化フラグを立てつつ、片腕を失うことで均衡を保ってもらいました。

 今の桜下とパパ黒が闘えば、10回中9回パパ黒が勝ちます。今回は初見殺しもあって、その一回を無理矢理手繰り寄せた桜下くんでした。
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