望まなかった最強   作:アートレータ

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 やっとパパ黒以来の原作キャラが登場しました。


下剋上?

 

 百鬼夜行

 それは特級呪詛師夏油傑が12月24日の日没直後に新宿・京都で起こした大事件のことめある。非術師の皆殺しを目的に、新宿京都それぞれに1,000体の呪霊を放った。と言うのが表向きの話である。

 実際は特級過呪怨霊「祈本里香」を従えることを目的とした行動だった。

 

 しかしその作戦は失敗に終わった。

 夏油の予想よりも早く到着した五条の手によって、満身創痍となっていた。

夏油は抵抗しなかった。長い間を共にした、元親友の強さは夏油が1番よく知っているから。抵抗しても無駄だと言うことも承知していたから。

 

「悟がこんなに早く来るとは、予想外だったよ。道満は、祓われたのかな?」

 

「あの呪霊だったら途中で逃げていったよ。」

 

「ハハ、まぁ彼は降伏させたわけではないからね。たまたま弱っているところに出くわして取り込んだから、自我が抜けきっていなかったのかな。」

 

 道満。かつて桜下を追い込んだものの、領域展開を開花させた桜下に返り討ちにされながらも命からがら闘争をさせた特級呪霊である。

 逃げた先には、特級呪霊の情報を聞きつけて現場に向かっていた夏油一派に出くわしてしまう。

 桜下との激闘で心身共にボロボロだった道満は、奮闘虚しく夏油の呪霊操術に取よってり込まれてしまったのだった。

 

 呪霊操術とは本来、降伏させた呪霊を体内に取り込んで使役する術式である。しかしこの術式には裏技が存在した。それは、その呪霊との階級が2級以上の差があれば、降伏させずとも無条件で取り込める。

 ここで一つ疑問が生まれる。階級とは客観的な判断のもと決定されている。現在特級呪詛師となっている夏油は準1級まで飲み込むことができるはずだが、夏油の評価を1級に下げたからと言って、準1級を飲み込めない道理はない。

 では何で決まるか?

 

 それは総呪力量と呪力操作である。夏油よりも呪力が多い呪霊や術式を持ってしても飲み込めないほど完璧な呪力強化を纏っている呪霊は飲み込むことができないのだ。

 逆に言えば夏油の呪力操作技術が上がって、その呪力強化を貫くことができたのならば飲み込むことができると言うこと。これが、客観的に見た場合2階級以下までと結論付けられたのだった。

 

 当時の道満は、桜下との激闘で呪力はほぼ使い果たしている状態である。常時ならまだしもその時の道満には、夏油を上回るだけの呪力が残っていなかった。果たして道満は夏油の呪霊操術によって飲み込まれてしまったのだった。

 

「どうやら彼の術式とは相性が良かったようでね。まぁ急いでたから追いかけなかったけどさ。傑ならもうちょっと歯応えのある敵を足止めに寄越すくらいは性格悪いと思ってたんだけど。」

 

 呪霊操術の強みは手数の多さにこそある。それに仲間たちも存在していたはずだ。五条の強さを知る夏油が選択を誤ったとは考えにくい。ならば何故わざわざ相性が悪い、それもコントロールの効かない呪霊を差し向けたのかが分からなかった。

 

 その質問に、これまでは学生の頃のような軽さも残ったような調子で話していた夏油が、顔を引き締めた。それに釣られて五条も普段のおちゃらけた雰囲気とはかけ離れて、佇まいを正した。

 

「悟は、『白い死神』を知ってるかい?」

 

「……あぁ、甚爾から聞いたよ。自分が勝てなかった子供だと。」

 

「伏黒甚爾、か。なるほどね。実は僕も一年前に戦う機会があってね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏油と夏油一派のナンバー2を誇るミゲルは、この日は2人だけで特級呪霊の情報を元に森へと足を運んでいた。

 そこで2人は出会ってしまった。2体の怪物に。

 

 夏油は、五条には及ばないが呪力は多いと自負している。事実、夏油の呪力量は特級の称号に相応しい量を備えているし、それを操る技量もかなり高いと言える。

 しかし目の前に現れたこの怪物たちはなんなのか。

 

 片や歳の頃10代前半くらいの見た目からは想像できないほどの呪力量。自分と同じくらいだろうか。そしてそれもまた夏油と同じように制御されている。

 呪力量と呪力操作の技量がまるで見た目と釣り合っていない。

 

 問題はもう1人の方。年齢はおそらく20手前ほど。問題はその呪力量だ。まるで底が見えない。最強と認める元親友の五条と同じ?いやおそらくそれ以上。次元が違って正確に測ることができないのだ。

 そして呪力操作。夏油は叫びたかった。なんでそれだけの規格外の呪力量を持っていながら、身に纏う呪力の厚さが自分と同じなんだ!と。

 

 夏油の額に汗が浮かぶ。

 この感覚はそう、覚醒した元親友を初めて見た時と同じ。無条件で勝てないと、戦うことすらできないと叩きつけられているような。

 そんな恐怖だった。

 

「お前らは術師だな。」

 

 最初に口を開いたのは規格外の怪物、桜下だった。

 気になる言い方だ。呪術師か?呪詛師か?ではなく術師かなんて。

 動揺を悟られないようになるべくいつも通りを装って返事を返す。

 

「そうだよ。私は一応特級呪詛師なんだけど知らないかい?」

 

「興味ないからな。呪術師だろうが、呪詛師だろうが、特級だったとしても。抹殺対象だ。」

 

 決裂。いや、彼のいうことが本当だとするならば生まれた時から、交渉の余地はなかった、

 勝てない。しかし、自分にはまだやる事がある。死ぬわけにはいかない。

 

「……ミゲル。すまないが…。」

 

「アア、ワカッタ。」

 

 苦肉の策。

 桜下には逆立ちしても勝てない。それはどうやっても覆らない確定した運命。しかしもう1人の少年、雷斗はまだ勝率がある。ならば…。

 自分が生き残るために、家族を犠牲にしようとしている。

 自分は勝てる可能性のある雷斗を下して逃亡。その間、ミゲルには桜下の足止めをしてもらう。

 それはいわゆる死刑宣告だった。

 

 ミゲルは皆まで言う前に、了承の意を示す。

 それは、少なくない時間を家族として共にした信頼ゆえか。

 しかし、それしか方法がないのもまた事実。ならば腹を括るしかない。

 顔を歪めに歪め、夏油は覚悟を決めた。

 

 本来は桜下と雷斗はそれに乗ってやる義理はない。しかし今回は桜下の指示のもと、雷斗が夏油を相手取る事に決まり図らずも両者の相手は一致した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 林の中で向かい合うのは桜下とミゲルだ。

 両者の間に言葉はなく、同時に踏み込んだ。呪力によって強化された身体能力をフルに発揮し、他者による攻防が開始された。

 まるで、空中で何かが破裂しているような音が繰り返し、林の中に響き渡る。

 そこに姿は確認できず、音と衝撃だけが木霊した。

 

 桜下がミゲルの顔に拳を振り下ろすと、それをバク宙の要領で回避する。それと同時に地面を離れた足で桜下の顎を狙う。

 が、桜下はその足を振り下ろされたままの右手で掴み、引き寄せる。そして空いている左手に呪力をためてミゲルの腹目掛けて振り下ろす。

 しかしそれも足を掴まれた段階で読んでいたミゲルは体を捻って脱出し、もう片方の足で桜下を蹴って距離を取った。

 

 一撃一撃が必殺となりうる攻防が、高度な駆け引きの上に数瞬の間に何度も成り立っていた。

 

「なるほど。アンタ強いな。前までの俺なら負けていたかもな。」

 

「冗談イウナ。術式ヲ一回モ使ッテイナイクセニ。」

 

 ミゲルの言う通り、桜下はまだ術式を使っていなかった。

 以前は術式を十全に使うために、脳と身体を鍛えていた。しかしそれでは足りないのだと、道満に敗北して思い知った。

 それまでの体を鍛えるための武術ではなく、武術を身につけるために武術を学ぶようになったのだ。

 

 ボクシングと伝統空手からはフットワークと間合いの取り方を。

 相撲からは「試合開始」と同時に相手の懐に跳びこむ反射神経を。

 防具付き空手道とムエタイから突き・蹴り技、肘打ち・膝蹴りを。

 ボクシングやキックボクシング・ムエタイからカーブ系パンチを。

 ジークンドーやクラヴマガを初めとする実武術・軍隊格闘術から「急所への徹底した攻撃を重視する戦闘理論を。

 総合格闘技から「実践の勘」を。

 合気道やクラヴマガから関節・絞め技を。

 

 桜下は競技選手ではないため、100を学ぶことはできない。

 だが、学ぶ事ができた20を組み合わせていったのならば、話は変わってくる。

 そしてその20がそれぞれの競技の長所であったのならば。

 それを足すのではなく掛け合わせて行ったのならば。

 ありとあらゆる競技の長所を重ね合わせ、それを殺し合いと言う命懸けの実践で磨いてきた。

 

 有り余るはずの呪力を余さず完璧に身体強化に回して、磨かれた技術で強化された身体能力を十全以上に使いこなす。

 今の桜下に死角など、もはや無かった。

 

 ミゲルが繰り出す拳や足を最小限の動きを持って紙一重で交わし続ける。

 その中で見つけた隙に、無駄な動作を挟む事なく最短で反撃を挟む。

 いくら頑強な肉体を持つミゲルでも蓄積されるダメージに徐々に隙が大きくなり、遂に桜下の膝蹴りが腹部という急所へと突き刺さった。

 

 蹴られたミゲルは木を数本へし折りながら吹き飛び、ようやく止まったところで木を背もたれに座りながら蹴られた腹部を抑え咳き込んだ。

 

「マッタク冗談ガキツイ。タッタノ一撃デ骨ヲ折ラレルトハ。」

 

「こっちも同感だ。穴を空けるつもりで蹴ったはずなんだがな。」

 

 ミゲルの独り言に返したのは、歩きながらミゲルを追ってきた桜下だった。

 桜下が口にした通り、並の術師であれば、今の攻撃を受けていた場合は打撃と共に発生した呪力による衝撃波で文字通り腹に風穴が開いていた。

 それをミゲルは天賦の肉体と咄嗟の呪力操作で、骨折程度で済んだのだ。

 

「さて、勿体無い気はするがいつまでにアンタに構ってる余裕はないようだからさっさと終わらせようか。」

 

「フン、ソンナニ簡単ニイクト思ウナ。」

 

 ただでさえ不利な状況。後手に回っては勝ち目がない。ならば先手必勝。

 ミゲルが先に均衡を破って駆け出した。

 しかし忘れてはいけない。桜下は武術家ではなく術師だと言うことを。

 

『術式順転・・・重』

 

 ミゲルが立っていた場所+周辺の重力を範囲的に重くする。

 咄嗟のことにミゲルは躱す事ができず、対象範囲に囚われてしまう。

 それでも驚愕すべきは、足を痙攣させているものの膝をつくこともなく立っている事だ。

 その上徐々にではあるが、桜下へと歩みを進めてみせた。

 

 桜下はその姿に感銘を受け、追撃を持ってその全力に応える。

 

『術式反転・・・減』

 

 ミゲルは突然踏ん張っていた足元の踏ん張りが効かなくなった事で転倒する。

 同時に重力に抗っていた集中力が途切れ、そのまま地面に縫い付けられてしまった。

 

 桜下は術式でミゲルの足元の摩擦係数を減らした。

 通常であればその驚愕すべき肉体操作と戦闘センスを持って耐えられただろう不意打ち。

 しかし目の前には桜下と言う正真正銘の怪物がいて、そちらに意識を割きながら重力に潰されんと抗っていた。

 そして出来てしまったのが、足元の隙だった。

 

 地面にうつ伏せで倒れるミゲルは、ひとつ微笑みを浮かべてゆっくりと瞼を下ろした。

 そこに黒く光る呪力を右手に纏った桜下が、拳を振り上げていた。

 

 こうしてミゲルと桜下の勝負は下剋上もなく、桜下の勝利で幕が降りた。

 





 ミゲルのセリフが難しい。
 果たしてミゲルは亡くなってしまったのであろうか⁉︎
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