Fate/GrandOrder ーSailing Lostbeltー   作:藤渚

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プロローグ
【序】崩壊と、出会い(Ⅰ)


 

 

 

 

 

  ────小さい頃から、『俺』は海が大好きだった。

 

 

 今も海で遊んだりするのは好きなのだが、ある日父親から聞いた話によると、『俺』は物心というものが備わる以前から、テレビや雑誌などで海の景色や青い水面(みなも)が目に映る度に、幼い『俺』は満面の笑みと共に声を上げてはしゃいでいたのだという。

 

 言葉もいくつか覚え、二本の足で自由に走り回るようになった頃、『俺』の関心は海に関係する冒険者達や、様々な海を(わた)る海賊達にまで広まっていく。膨れ上がっていく憧れは留まりを知らず、『大きくなったら、海賊船の一員になるんだ!』などと高らかに豪語しては、両親をよく困らせていたものだった。

 

 

 

 日差しが降り注ぐ大海原を、白い波を立てて蒼海を割る大きな船に乗っている自分の姿を、何度も想像しては夢にまで見た。

 

 風を受けた帆のように、膨らむ探求心や好奇に胸を(おど)らせていたのは────もう、何年も前のことだっただろうか。

 

 

 

 家族で海水浴に行った時、手作りの海賊旗を砂山に立てて誇らしげに笑う姿を父親に収めてもらったあの写真は、どのアルバムにしまっておいたのだろう。

 

 友人達と夢や憧れを戯れに語り合い、ページの端いっぱいに書き殴ったお手製の宝の地図を描いたスケッチブックの行方も、今はよく思い出せない。

 

 

 

 

 

 朦朧(もうろう)とした意識の中、()()()()()()()()()()流れていく己の記憶の海中(わたなか)を……………藤丸(おれ)は只、無気力に(ただよ)っていた。

 

 

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

 

「………っハ、はあ………‼」

 

 

 異常事態を知らせる警告音が、(けたた)ましく鳴り響く。

 散らばる瓦礫(がれき)や剥がれた床の金板に何度も(つまず)きそうになりながらも、少年───『人類最後のマスター』、藤丸(ふじまる) 立香(りつか)は息を荒げながら、一心不乱に廊下を走っていた。

 

「先輩っ、大丈夫ですか⁉先程から息の乱れが……!」

 

 藤丸の少し前を行く、大きな盾を持った小柄な少女───彼の後輩であり相棒である、『盾のサーヴァント』、マシュ・キリエライトが、心配そうな面持ちと声掛けと共に足を止めることなくこちらを振り向く。

 大丈夫、と藤丸が答えるより早く、彼女の隣を駆ける女性……大振りな杖を持った女性が口を開いた。

 

「マシュ、君が彼を心配する気持ちはよく分かるけども、そういう君だって足がフラフラじゃないか。急がなきゃならない事態なのは十も承知だけど、あまり無理をしないほうが────」

 

「っ……いいえ、いいえ!私は大丈夫ですダヴィンチちゃん、それより早く行かないと………‼」

 

 マシュが愛称をつけて呼んだ女性、ダヴィンチちゃん───キャスタークラスのサーヴァント、レオナルド・ダ・ヴィンチが先程言った通り、床を踏みしめるマシュの足取りはどこか危なっかしく、時折ふらついている様子が後方の藤丸からはよく見て取れた。しかし彼女の表情(かお)(こも)る熱意と強い使命感、そして真っ直ぐに正面を見据える菖蒲(あやめ)色の鋭い眼光に、藤丸もダヴィンチもそれ以上は何も言えなくなっていた。

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

  ────西暦2017年、12月31日。

 

 

 一年前、一同の総力と人類最後のマスターとなった藤丸、そしてマシュを始めとした英霊・サーヴァント達の活躍によって無事成し遂げられた人理修復。その要であり始まりとなった『人理継続保障機関・カルデア』は、この日を()って新所長となった人物、ゴルドルフ・ムジークへと引き継がれ、元いた職員や既存のサーヴァント達は解体となり、そして藤丸もマスターの任から解放される…………筈だった。

 

 

 

「何が起きているのだ……?わた、私は聞いてないぞ、こんなことは!」

 

 

 

  ───コフィンの中に眠っていた筈の、Aチーム7人の消失。そして疑似天球カルデアスに、突如生じた深い亀裂。

 

 そのことを皮切りに次々と起こる異常事態に、ゴルドルフは青ざめた顔で悲鳴を上げた。

 

 

「っ、くそ、来るな、来るな……!やめろ、やめろ─────うわあああぁああぁぁっ‼」

 

 

 非常事態(エマージェンシー)を告げる警告音、そして銃声と悲鳴が響くカルデア内の廊下には、ゴルドルフが率いてきた私設部隊の衛兵達が一人として残らず、血だまりの広がる床の上に(たお)れている。

 

 そんな彼らの骸を無情にも蹴り飛ばし、群を成して歩を進める漆黒の集団………『殺戮猟兵(オプリチニキ)』。

 少女の姿をした氷のサーヴァントと共に、(おびた)だしい数を以って突如出現したそれらの存在はカルデア内へと侵入。銃を向け抵抗する衛兵にボウガンを放ち、逃げ惑うカルデアの職員達に斧を振り下ろし、感情の籠もらない両眼に映る生命を、まるで庭の草木でも刈り取っていくかのように、人の皮を被った悪鬼は次々と無慈悲に奪っていった。

 

 

 

 ────まるで(またた)きの間に起こり、そして奪われた平穏な日常。

 

 

 しかし『今の彼ら』は、ただ黙って震えているだけの弱者達などではない。

 

 

 

「先輩……私に武装の許可を!私達の場所を守らないと‼」

 

「私もまだまだ現役だ、何とか無事に格納庫まで逃げ延びようじゃないか!」

 

 

 身体を酷使し、それでも尚奮戦するマシュ。そして共に脱出口であるシェルターのある格納庫を目指すダヴィンチと共に、襲い来る殺戮猟兵を何とか蹴散らしながら、三人は目的の場所へと辿り着くことが出来た。

 

 

「……東館の通路は氷で塞がっていたらしい。残念だが………東館に逃げた連中は、皆氷漬けになっちまった。」

 

「⁉………どうして、そん……な………‼」

 

 生き延びたカルデアの男性スタッフ、ムニエルの口から告げられた残酷な現実に、マシュは膝から崩れ落ちそうになる。そんな彼女の体を支えながら、ダヴィンチは冷静に続ける。

 

「とにかく、我々もここは一旦退くべきだ。魔術協会に救援を呼んで、情報の整理を───」

 

 

 

『─────あ、あああ!誰か、誰かいないのか⁉誰でもいい、誰か、誰か─────‼』

 

 

 

 刹那、ダヴィンチの声を遮るようにして施設内に響き渡ったアナウンス。

 

 ノイズの中に混ざって聞こえてきた悲痛な声は、このカルデアの新所長となる筈だった彼……ゴルドルフのものであった。

 

 

 

『……何故だ、何故なんだ。なんでいつも、最後になって裏切られるんだ!』

 

『知っているさ、私が嫌われ者だってコトぐらい!でも、だからってどうしろと言う!嫌われる理由が分からない!人に好かれる方法が分からない!』

 

 

『死にたくない、まだ死にたくない!だってそうだろう、私はまだ一度も、一度も────』

 

 

 

『一度も、他人に認められていないんだ!まだ誰にも、愛されていないんだよ……‼』

 

 

 

 

「「………‼」」

 

 

 心の底から助けを、救いを乞う彼のその言葉は、藤丸とマシュの中に存在する記憶の中の『彼女』の最期の叫びと呼応する。

 

「(………その台詞(ことば)はもう、裏切れない‼)」

 

 藤丸とマシュは同時に視線をかち合わせ、そして同時に頷き合う。

 

「了解です、マスター………ゴルドルフ・ムジークの救出に向かいます!」

 

「はあ⁉正気かお前ら、何だってあんなヤツのために!」

 

 (きびす)を返し、駆け出そうとする二人に対し困惑するムニエルの横から、やれやれと(かぶり)を振りながらダヴィンチが前に出てくる。

 

「こうなるとこの二人はテコでも動かないからね~……なに、万能の天才もついていくんだ、すぐに戻るからとホームズに伝えておいてね!」

 

 

 駆け出す少年と二人のサーヴァントは、あの恐ろしい殺戮猟兵の徘徊する死地へと向かって行く。

 

「……おいおいマジかよ、行っちまったよアイツら……。」

 

 遠くなっていく背中を引き留める言葉も出てこず、呆然と立ち尽くすムニエル。そんな彼の後ろにあるコンテナの開いた扉から、ひょっこりと顔を覗かせる細身の男性サーヴァントと小さな小動物がいた。

 

「まあ、そう気落ちしても仕方ないさミスター。今の我々は無事に戻ってきた彼をすぐに迎え入れ出立できるよう、万全の準備を整えて待とうじゃないか。」

 

 パイプを(くゆ)らせ、この危機的状況に似つかわしくない穏やかな微笑を浮かべる英霊、シャーロック・ホームズ。そんな彼の足下に佇み、リスともウサギとも似つかない不思議な生き物・フォウはふさふさとした白い毛並みの尻尾を揺らし、「フォウッ」と小さな声で鳴いた。

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

「はああああぁぁっ!」

 

 マシュの振り下ろした盾が、前方に立ち塞がる殺戮猟兵を大きく吹き飛ばす。

 

「先輩、ダヴィンチちゃん、今のうちに─────くっ⁉」

 

 言い()した彼女の声を遮ったのは、突如全身を襲った激しい痛み。万全の状態でない自身の体を、今の今まで酷使させてきた代償に膝をつきそうになるものの、盾にしがみついた腕を震わせながらも、マシュはその場に立ち続けた。

 

「マシュ……‼」

 

「ホラみろ!やっぱり無理をしていたじゃないか、このままじゃゴルドルフ君の救助どころじゃ───」

 

 

 

 《ゴゴゴゴゴゴゴ……………‼》

 

 

 

 地が唸る轟音(おと)と共に、彼らの足場が突然揺れ始める。

 地震か、はたまた何処か別のエリアで爆発が起きたことによるものなのか………そんな悠長なことを考えられる数秒程の(いとま)さえも、藤丸達に与えられはしなかった。

 

「あっ────────」

 

 不意に影のかかる視界───その正体が天井から降り注いできた瓦礫(がれき)であること。そして藤丸の視界が、必死の形相でこちらに手を伸ばすマシュの姿を漸く認識したその刹那、

 

 

「先輩っ‼」

 

 

「マシュ…………マシュっ‼」

 

 

 

 轟然と響く音が、土煙を巻き上げて積み上がっていく瓦礫の山が、マシュの叫びと彼女の姿を無常にも掻き消していく。

 

 

 ………やがて音は止み、絶句し立ち尽くした藤丸は、天井まで積み上がった瓦礫の山をただ呆然と見上げることしか出来ないでいた。

 

「………マシュ、ダヴィンチちゃん………。」

 

 この向こうにいる彼女達は無事だろうか。先程の敵はまだ倒しきれてはいなかった、疲弊したマシュが怪我など負っていなければよいのだが─────

 

 

 

「──────っ⁉」

 

 

 

 不意に背筋を……否、全身を駆け抜ける悪寒に、藤丸は身を震わせる。

 

 

 そして思い出した、気付いてしまったのだ…………あの恐ろしい殺戮猟兵はマシュ達と対峙していた前方だけではなく、()()()()()()()()()()()()()()、という戦慄の事実に。

 一瞬の狼狽───そこに生じた隙を見逃すほどに、殺戮猟兵は甘くなどない。藤丸が我に返るよりも先に、伸ばされた黒い脚が彼の脇腹にめり込んだ。

 

 

 

  【TO BE CONTINUED】

 

 

 

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