Fate/GrandOrder ーSailing Lostbeltー   作:藤渚

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【序】奪う者、抗う者(Ⅲ)

 

 

 

「先輩っ目を開けてください‼先輩っ‼」

 

「!───藤丸っ‼」

 

 マシュの声で我に返り、ルフィは利き腕の武装を直ぐ様解く。(まと)う炎は徐々に弱まり、次第に腕が元の大きさに戻っていく間に、ルフィの足は瓦礫散らばる床の上へと着地した。

 

「おい藤丸!大丈夫、か……っ⁉」

 

 踏み出した一歩に力が入らず、バランスを上手く取ることが出来ない。ルフィの体がそのまま床に叩きつけられそうになったその時、ぐらりと視界が反転する。

 一瞬だけ体が浮いたような感覚の後に、ルフィの目の前───正確には、宙に浮いた状態で出現した彼の真下にいたゴルドルフが、驚いた顔でこちらを見上げていた。

 

「わっ、オッサン⁉」

 

「おわああぁっ何事だ───へぶっ‼」

 

 突然のことに回避が間に合わず、ゴルドルフはそのまま上から降ってきたルフィの下敷きになってしまう。

 

「あたたた………っこら麦わら小僧‼」

 

「ごめんオッサン!」

 

 ゴルドルフへの謝罪もそこそこに、ルフィは上体を起こし慌てて周囲を見回す。

 すると彼の目に飛び込んできたのは、ダヴィンチの手を借りて立ち上がろうとするキッド、そしてそんな彼と自分を能力で移動させた張本人であるローが、狼狽した様子でマシュと()()の元へ───

 

「藤丸‼‼」

 

 両の足裏に力を込め、ルフィは地面を強く蹴る。よろめきそうになるのを何度も堪えながら、ルフィは(ようや)く藤丸の元へと辿り着いた。

 

「ルフィさん……っ‼」

 

 潤んだ瞳をこちらに向け、マシュは弱々しく名を呼ぶ。

 血の気が失せた青白い肌、だらりと力なく垂れた手足………彼女に抱き起された藤丸の状態は、遠目で確認した時よりも更に深刻なものであった。

 

「藤丸……?」

 

 ルフィの口から、ぽつりと零れる名を呼ぶ声。するとそれに反応した藤丸は(わず)かに(まぶた)を持ち上げ、(うつろ)な目がゆっくりとこちらを向く。

 

「藤丸っ、なあおい藤丸‼」

 

「……ル、フィ───げほっ‼」

 

 震える声を(しぼ)り出し、ルフィの名を紡ぐ。しかし激しく咳き込んだ藤丸の喉から、ごぽりと粘度を含んだ水音を立てて(おびた)だしい量の血液が溢れ出し、生温かな感覚がルフィの頬に飛び散った。

 

「馬鹿っ‼喋るんじゃねえ‼」

 

 急ぎ駆け寄りながら、ローが声を荒げる。マシュの手を借りて藤丸を仰向けにし、彼は早速容体を確認する。

 吐血に()せる口から繰り返される呼吸は不規則で、脈拍も早い。加えて開いた傷口や内部からの失血のために、緩めた礼装の下から確認した藤丸の皮膚からは、血の気と共に体温も失われつつある状態にあった。

 

「まずい、吹雪のせいで体温の低下が早い……‼」

 

「おいトラファルガー!使え‼」

 

 キッドは自らのファーコートを乱暴に脱ぐと、ローの鼻先に突き付ける。

 彼の行動にローは一瞬だけ瞠目し、やがて「…助かる」と短く礼を述べた後にコートを受け取り、これ以上体温を下げまいと藤丸の体を(くる)んだ。

 

「何だ、何なんだこれは………おい藤丸立香、しっかりしたまえ!貴様が死んでしまえば我々は一体どうなる⁉」

 

「ちょっと退いてくれムジーク氏!ロー君、私も魔術で治療の補助をしよう!指示をくれ!」

 

 ローとダヴィンチが処置にかかり、マシュは傷だらけの手を握って涙ながらに呼びかけ、ヒステリックになっているゴルドルフを、キッドが強引に押さえつけ沈めようとしている。

 そんな喧噪(けんそう)と悲嘆の中で、ただ一人───頬を伝う血を拭う気力もないまま、ルフィは呆然としていた。

 

「(──────あ、)」

 

 

 

 不意に、脳裏に映し出される記憶の断片。

 

 

 巨大な白い城壁、昇る煙。

 

 怒号と爆音、土煙と火薬の臭いと………生温かく鉄臭い、血の臭い。

 

 

 ドクドクと、うるさいほどに霊核(しんぞう)が早鐘を打つ。

 

 知っている、覚えている。英霊(サーヴァント)となった今も、色()せることなく鮮明に(よみがえ)()()()()

 

 

 鼻を突く戦場の臭い、赤い液体が肌を伝っていく感覚、徐々に冷たくなっていく体温。

 

 

 ────ああ、覚えている。次元を超えてまでこの霊基(からだ)に刻み込まれている程に辛く、痛々しく、そして息をするのも苦しいほどの、感情(おもい)

 

 

 

「まあまあまぁっ!なぁんて愉快な皆様なのでしょう‼何とも無様、何とも滑稽(こっけい)、そして何とも愚か‼ややお下品な(たとえ)になってしまいますが、あまりの可笑(おか)しさにコヤンスカヤちゃん、おヘソで紅茶(ティー)を沸かしてしまいそうですわぁ♡」

 

 甲高い(わら)い声が、(さげす)む声が、鼓膜(こまく)を不快に振動させる。

 けたたましい声で我に返ったルフィはゆっくりと振り向くと、笑い続ける彼女に対し沸々(ふつふつ)と内側から込み上げてくる感情を叩きつけた。

 

「お前……何笑ってやがる────何が可笑(おか)しいってんだ‼?」

 

 凍える風を吹き飛ばすかのようなルフィの一喝に、コヤンスカヤの哄笑がぴたりと()む。

 肩を上下させ、上手く力の入らない下肢に全体重をかけて踏ん張りながら、ルフィは相変わらず無表情な氷の皇女の隣にいるコヤンスカヤを睨みつけている。

 常人であれば恐らく失禁してしまう程であろう、凄まじい気迫………しかし当のコヤンスカヤはというと、放笑の末に目尻に浮かんだ涙を指で拭い取りながら、口角を吊り上げた口元をゆっくりと開いた。

 

「あらあら、怖ぁいお顔ですこと。でも貴方(あなた)達の霊基(からだ)、もうあちこちボロボロじゃない?そんな状態で凄んでみせたって、せいぜい子猫の威嚇(いかく)程度のようなものよ…………それともう一つ、美人で優しいコヤンスカヤお姉さんが、なぁんにも分かってないおバカさん達にイイコト教えてあげる♪」

 

 琥珀色の瞳に映る、ルフィの顔。怒りと悔しさが混ざり合った彼の表情を堪能した後、視線を移した彼女は目を細め、さも愉快そうに続けた。

 

「勘違いされると困るから先に言っておくけど、藤丸君が今にも死にそうな一歩手前な状態になってるのは、別に私や皇女様のせいじゃなくってよ?だってその主な原因はぁ………()()()()()()()()()()()()()んだもの。」

 

「────は?」

 

 言われたことの意味が理解出来ず、ルフィの開いた口から()頓狂(とんきょう)な声が零れる。

 

「マスターがこんなザマになってんは俺達のせいだと……?テメエの下らねえ戯言に付き合ってる暇は無ェんだ。麦わらが仕留めそこなったってなら、俺がテメエらをぶっ飛ばして────」

 

()せユースタス屋‼これ以上派手に能力を使うんじゃねえ‼」

 

 電磁力を展開し金属を集めようとしたキッドを止めたのは、切羽詰まったように張り上げたローの声。思わず動きを止めたキッドの周囲で、行き場を失った金属の類がガラガラと音を立てて落下していった。

 

「うふふ……どうやらそちらの暗殺者(アサシン)は、既に気が付いているみたいね。そちらの猪突猛進タイプなお二方にも分かりやすいよう、どうぞ説明してあげてくださらない?」

 

 小馬鹿にされた態度に苛立ちながらも、ルフィとキッドは藤丸を診察するローへと体を向ける。

 ダヴィンチの補助を借りつつ、自身の能力を応用した魔術を使っての応急処置を藤丸に施しながら、ローは静かに口を開いた。

 

「麦わら屋、ユースタス屋、お前らもよく聞いておけ……俺達英霊(サーヴァント)の動力源は、魔術師(マスター)から供給される魔力だってことは理解しているな?」

 

「あ?ああ……ぼんやりとだが、その辺の事情は現界した時にいつの間にか頭ン中に入ってたな。それがどうしたってんだ?トラファルガー。」

 

「じゃあ、その魔力はどこから生み出されているのか?それは魔術師が体内に有している疑似神経───『魔術回路』が術者の生命力を魔力に変換し、マスターとの契約によって繋がれたパスを通じて、その魔力が俺達の中に流れていく仕組みになっている。この魔術回路を有する本数は、魔術師ごとに異なって…………分かりやすいほどに分からねえって顔だな、麦わら屋。」

 

 ふとローが顔を上げた時、徐々に険しくなっていく顔で何度も首を傾げるルフィの姿が目に入る。大小いくつもの『?』が彼の頭上を浮遊していると、見兼ねたダヴィンチが横から差し出口を入れた。

 

「えっとねルフィ君、例えば魔力をお米だと仮定しよう。そのお米を炊いた釜を持っているのがマスターで、魔術回路の本数っていうのがその釜の数だと置き換えて考えてみるといいよ。」

 

「そ、そっか。飯食わねえと力出ねえもんな。」

 

「全く米だの釜だの、比喩対象のせいでかなりハードルを下げた内容になってしまっているような………いかん、こんな状況だというのに腹の虫が鳴りそうだ。」

 

 漸く合点がいき、何度も頷くルフィにゴルドルフが呆れているその傍らで、ローは深刻な面持ちと口調で話を続けていく。

 

「問題はここからだ。ダヴィンチ屋の(たと)えを借りて進めるが、今起きている厄介な問題の要因は二つある。一つはマスターの魔術回路……炊いた米釜の数が、俺達三騎に供給する量に対して()()()()()()()()ということ。もう一つは………その足りない分の米、つまり魔力を補う代替の方法ってのが………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という形で発生しているということだ。」

 

「──────え?」

 

 薄く開いたルフィの開いた口から、短く零れた困惑。

 信じられないといったようにローを見るマシュの顔からは、血の気が失せていた。

 

「……今のマスターは俺達に供給する魔力の不足分を補うために、生物としての生命活動に欠かせない身体機能や機関───筋肉・血管・リンパ系・全ての神経系、それら全てを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状態にある……だがそうまでしても、生み出せる魔力の量には限界がある。俺達が感じているこの倦怠感、これは供給される魔力量の不足、いわゆる『魔力切れ』というやつだ……恐らくマスターは、自分でも意識しねえうちにズタボロになった身体を酷使させてやがる。只でさえ俺達の召喚の際に摩耗(まもう)した魔術回路を更に動かした状態で、これ以上の無茶をすれば………っ‼」

 

 震える声はそこで途切れ、悔しさにローは歯を食いしばっている。

 「何という事だ……」と苦し気に呟き、頭を押さえ眉間に皺を寄せるゴルドルフの横で、肩を戦慄(わなな)かせたキッドが堪らず声を張り上げた。

 

「何だよ、ソレ……っざけんじゃねえぞ‼つまり俺達がマスター(あいつ)を守る為に戦うほど、その代償として犠牲にすんのがそのマスターの命だってのかよ⁉そりゃあねえだろ、何だよそれ……クソッ!!そんな事、あってたまるかよ……‼」

 

 固く握られた義手の拳から、ギシギシと金属の擦れる音が微かに聞こえる。

 重苦しい空気を孕んだ吹雪が頬を撫で、余計に痛いと感じる程になった時、手袋越しに鳴らされた拍手が再び耳に届いた。

 

「ザッツライト!その通りですわ♡確かに貴方達三騎はとっても強いわ。現界時のレベルは既にMAX、それに加えて我々やカルデアも知り得ない不思議で厄介な能力も含め、全てにおいて反則(チート)級の英霊達………でも残念ね。いくらサーヴァントが強くても、()()()()()()()()()()()その力を最大限に生かせないどころか、逆に足を引っ張られているなんて………本当に、可哀想ですこと♪」

 

 侮蔑し、嘲笑するコヤンスカヤの瞳には、未だ動けないでいる藤丸が映る。力なく横たわる姿に含み笑いながら、彼女は高く上げた自身の利き手の指を(おもむろ)に鳴らす。

 パキンッと響く乾いた音。次の瞬間、突如どこからか現れた大勢の殺戮猟兵(オプリチニキ)が、コヤンスカヤと皇女の背後に並んだ。

 

「ひっ!ひいいいいいいっ‼おおお殺戮猟兵だぁっ‼」

 

「アイツら、まだあんなにいやがったのか……‼」

 

 怯えるゴルドルフの横で、ルフィは苦々しく呟く。

 下手に能力を使うことも出来ず、魔力切れでほとんどまともに動けない彼らは最早、抵抗する(すべ)を模索するしかなかった。

 

「ホーホッホッホ!これぞ正に形勢逆転の瞬間ね♪まだ諦めていないって目をしてるけど、無駄なことはおよしなさい。貴方達が汎人類史のサーヴァントなのかどうかは知らないけど、()()()のサーヴァントに敵うものですか。所詮生き延びた年月も、生存してきた環境も違うんだから、人生ハードモードを舐めないで………ま、イージーモードを歩んできたアナタ達カルデアにしては、頑張ったほうですけど?」

 

 すっかり上機嫌になったコヤンスカヤは皇女を残し、鼻唄交じりにこちらへと接近してくる。

 一歩、また一歩と彼女が近付いてくるのを睨みつけていたローの隣で、不意にダヴィンチが腰を浮かせた。

 

「ダヴィンチ屋……?」

 

 彼女を見上げたローと、ちらりと一瞥するコバルトブルーの瞳が一瞬だけ意味ありげにぶつかる。

 やがて完全に立ち上がったダヴィンチは藤丸の側から離れ、数メートルの間隔を空けた状態でコヤンスカヤの前に立ちはだかった。

 

「これはこれは、カルデアの技術顧問の方でしたわね。確かキャスターの───」

 

「レオナル・ド・ダヴィンチだ。どうぞお見知りおきを、コヤンスカヤ。」

 

「うふふ。残念ですが私、これから惨たらしく殺す方の名前なんて、いちいち覚えてられませんの………それより貴女(あなた)()()()()をお持ちになられてますわよね?何処を探しても見つからないってことは、そういうことでしょう?拒否するのであれば、そちら側の方達を貴女の目の前で一人ずつ(なぶ)り殺していくことになるけども。」

 

「まあ、そう急ぐなよ………ほら、君達のお目当てはコレだろ?」

 

 するとダヴィンチがどこからか取り出したのは、鈍色の光沢を放つトランクのようなもの。中心部位に鍵穴のような独特の模様を刻まれたソレを確認すると、コヤンスカヤの目が鋭く光る。

 

「な、何だあれは……只のトランクのように見えるが?」

 

 首を傾げるゴルドルフ、すると彼の背後から声を上げたのは、必死の形相のマシュであった。

 

「い……いけませんダヴィンチちゃん‼だってそれは、とても大切なもので……‼」

 

「……ごめんねマシュ。天才の私でも、()()()()()()()()()()()()()のさ。」

 

 振り返ったダヴィンチの微笑みは寂しげで、マシュの胸は締め付けられる。

 苛立ったコヤンスカヤが催促するように(かかと)を鳴らすと、ダヴィンチは再び彼女へと向き直る。

 

「本当、君達は随分とお強い霊基をお持ちのようだ……今の我々では、到底敵わない程にね。」

 

 そして彼女の利き手がトランクを放り投げ、同時に後ろ手に回した対の手の人差し指が不自然に動かされた、その時だった。

 

「だが、その手の(やから)ほど弱点が共通している───つまりはこういう事さ!度し難い慢心、いつもありがとう!」

 

 

  ─────ブゥ………ン‼

 

 

「!───これは、まさか⁉」

 

 展開される、青い結界。それが意味することにコヤンスカヤが気が付く前に、澄んだ声が響き渡った。

 

「『シャンブルズ』‼」

 

 刹那、あと少しで届く距離にあったトランクの姿が消え、代わりに出現したのはピンの抜かれた筒状の物体。

 

「しまった!爆弾……⁉」

 

 咄嗟に掌で耳を覆い、コヤンスカヤは弾かれたようにその場から大きく後退する。

 しかし次の瞬間、彼女を襲ったのは爆炎でも轟音でもなく、目を開けていられないほどの強い閃光であった。

 

「く………っ‼」

 

 コヤンスカヤも、殺戮猟兵らも、皇女も目元を人形で覆い隠し、強烈な光から自身の眼を守ろうとする。

 数秒後、ようやく光が収まった頃に(まぶた)を上げると、コヤンスカヤの眼前にいた筈のカルデアの面々、そしてあの三騎の英霊達も同じく、忽然と姿を消していた。

 

「………対霊体閃光弾(フラッシュバン)。器用な発明家ね、あのサーヴァント。ですが、そろそろネタ切れと見ましたわ。」

 

 閃光弾の残骸を踏みつけながら、コヤンスカヤは彼らが向かったであろう方向を静かに睨みつける。

 

「追いかけましょう、皇女様。彼らはとっくに袋の鼠なのですから。」

 

 カツカツと音を鳴らして、コヤンスカヤは先を歩いていく。

 吹雪に揺れる桃色の髪を遠目に眺めながら、皇女はポツリぽつりと呟いた。

 

「鼠、鼠、鼠……()()()にも鼠がたくさんいたわ。(かじ)って増えることしか能の無い生命体……ですが、(わたくし)はそれを汎人類史における強さだと認識しております。増殖が彼らの力なら、より強い力で徹底的に殲滅(せんめつ)するのみ……。」

 

 抑揚のない声で、淡々と言葉を紡ぐ皇女。色素の薄い彼女の瞳が僅かに揺らめいていることに、その場にいるものは誰一人として気づいていない。

 

「───我らの異聞帯(せかい)は、酷薄にして極寒。この程度で『寒い』などと知覚する彼らに、真の地獄を見せてあげましょう。」

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

「ハア、はあ、ゼエ、ぜえ………全く、騙し討ちをするならそう言いたまえキャスター!胆が冷えたじゃないか全くもう‼」

 

 所変わり、格納庫へと続く長い廊下にて、息切れ交じりにゴルドルフが不平を零す。

 ダヴィンチとローによる密かな連携プレイによって何とか難を逃れた一同は、追手が来る前に全速力で格納庫を目指していた。

 

「はあ、はあ……ムジークさんの言う通りです。私も本当に焦ってしまって……。」

 

「いやぁ~ゴメンね二人とも。でも教えてしまったら騙し討ちの意味がないからさ、それに成功できたのはロー君の勘の良さと洞察力の賜物(たまもの)があってこそだ。本当にありがとう、助かったよ。」

 

「まあ、あの状況を打開できるのは他二人じゃ到底無理だったからな。お前の人選も見事なものだったぞ、ダヴィンチ屋。」

 

「「あ゛ぁっ⁉何だとコノヤロ‼」」

 

 ローの言葉にまたいつもの調子で声を荒げるルフィとキッド。するとルフィはコートに包んだ状態で背負った藤丸が、僅かに動いたことに気が付く。

 

「!……悪ぃ藤丸、どっか痛かったか────」

 

 

 

「────っごめん、ごめん‼‼」

 

 

 

 鼻を(すす)る音と共に、嗚咽(おえつ)交じりの声で藤丸は叫ぶ。

 コートに隠れた状態で彼の顔は見えない、しかし背中の衣服がじわじわと(ぬる)く滲んでいく感覚に、ルフィは瞠目する。

 

「俺が、マスターのおれがっ、皆が戦えるように支えなきゃ、いけないのに………俺が、弱いから……役立たずだから、皆の足を引っ張って………‼」

 

「なっ、何言ってんだよ!?そんなこと───」

 

 そんなことない、そう口から出ようとしたルフィの言葉は、ローから向けられた鋭い視線に息と共に呑み込まれ、喉奥へと消えていく。

 「大丈夫」「お前のせいじゃない」………そういった(なぐさ)めの言葉などに今は何の意味も無いことを、ルフィもローも、少し先を駆けるキッドもまた、十分に理解していた。

 

 

「げほっ……ロー、キッド……ルフィ、ごめんよ……本当に……みんな本当に、ごめん……‼」

 

 

 咳き込みながら絞り出た謝罪が、名を呼んだ三騎の霊核(むね)に辛く、苦々しく染み込んでいく。

 

 

 藤丸と、重なるように響くマシュの嗚咽が小さく響く廊下を、誰もが一言も発することなく、一心不乱に格納庫への道を駆けていった。

 

 

 

 

【TO BE CONTINUED】

 

 

 

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