Fate/GrandOrder ーSailing Lostbeltー   作:藤渚

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【序】導きの“新星”(Ⅰ)

 

 

「っああ~もう!大丈夫かなぁアイツら!?」

 

 右に左にと、避難コンテナ付近を何度も行ったり来たりしているのは、藤丸達の帰りを待つムニエルであった。

 落ち着きのない彼とは対称的に、ホームズは開いた状態のコンテナの扉付近でパイプを(くゆ)らせている。その彼の足下では、ムニエルの動きに合わせてフォウが尻尾を揺らしていた。

 

「落ち着きたまえミスター。カルデアでの勤務歴が私より長い君なら、彼らが簡単に倒されるほど弱くはないことぐらい知っているだろう?」

 

「そりゃあ分かってるよ!藤丸達(あいつら)の強さと頑固なトコは、今日までずうっとこの目で見てきたからな!分かってるけど、さ……。」

 

 ムニエルの足の動きが徐々に遅くなり、やがてピタリと足が止まる。どうしようもないことぐらいは分かっているのだが、ただジッとして待ってなどいられない………込み上げる焦燥と苛立ちを抑えられず、ムニエルは足元に落ちている錆びた工具を思い切り蹴った。

 工具は回転しながら床の上を滑り、その先には廃棄予定の部品等の入ったコンテナが高く積み上げられている。やがて双方の距離は縮み、カツンッと工具がコンテナにぶつかった、その時だった。

 

 

  ────ヴォンッ‼

 

 

「……へ?」

 

 突然、視界からコンテナの山が丸ごと消滅し、ムニエルの開いた口から素っ頓狂(とんきょう)な声が漏れる。

 だが驚くのはまだ早い………彼が(まばた)きをした刹那、突如複数の見知った顔と見知らぬ顔の人物達が、コンテナの置かれていたその場所に姿を現したのだ。

 

「わっ!わあっ‼何だ何だ、何なんだぁっ⁉」

 

 驚愕するムニエルの正面で、華麗に着地を決めるダヴィンチ。その後ろで藤丸を背負ったままのルフィはまたしても尻餅をつき、よろめいたマシュをすかさずローが支え、奇怪なポーズのまま硬直したゴルドルフがキッドの上に倒れかかっていた。

 

「ふふんっ。どうだい、この完璧(パーフェクト)な着地は。評価にして文句無しの10点満点といったところかな?にしてもルフィ君、凄い音を立ててお尻を強打したようだけど、大丈夫かい?」

 

「おう!俺ゴムだからな、ちっとも痛くねえぞ!」

 

「うっ……すみません、ローさん……。」

 

「気にするな、マシュ屋。(むし)ろこんな状態でいながら、よくここまで持ち(こた)えられたもんだ。」

 

()てて……おいオッサン!いつまでふざけた格好のままヒトの上に乗ってンだよ‼さっさと退()きやがれっ‼」

 

「し、仕方なかろう!突然体の節々が、まるで石のように硬直してしまってだな……少しでも動かそうとすればホラ、この通いだだだだだっっ‼‼し、死ぬ、このままでは死んでしまう‼くぅっ、やはり医者とトゥールの言うことは絶対だという父の教えは守らねばならぬということだな………おいアサシン!貴様の忠告をうっかり忘れていたことは謝罪しよう、だから早く何とかしてくれたまアイタタタッ‼‼」

 

 ダヴィンチやマシュ、そしてゴルドルフとまでも親し気(?)に言葉を交わす三騎の英霊。初顔となる彼らを前にムニエルが呆然としていると、小さな白い影が彼の足下をするりと通り抜けていく。

 

「フォウッ。」

 

「お、何だぁ?このちっこいモフモフ。」

 

「フォーウ、フォウッ!」

 

 するとフォウは爪を立て、尻餅をついたままでいたルフィの赤い上着を、よじよじと器用に登っていく。

 

「おわわっ!どうしたんだよ────ふがっ、へぇっぷし‼‼」

 

 ふわふわの尻尾が鼻を(くすぐ)り、ルフィの大きく開いた口から豪快なくしゃみが飛び出す。

 勢いで体が大きく揺れることにも臆せず、フォウはルフィの肩に胴を乗せた状態のまま、伸ばした前足で()の頭をてしてしと軽く叩く。

 

「フォウフォウ、フォウ!」

 

「お、おい!まさかそいつ、藤丸なのか⁉どどど、どうしたんだよ一体⁉傷だらけの血まみれじゃないかっ‼」

 

 満身創痍(まんしんそうい)の藤丸の姿に、言葉を失うムニエル。そんな彼と未だ自身の肩に身を預けたままのフォウ。そんな彼らを怪訝(けげん)な顔で交互に見やるルフィの頭上から、ダヴィンチの声が降りてきた。

 

「そうだ、ルフィ君達にも紹介しておかないとね。このふさふさした愛くるしい生き物はフォウ、驚いた顔のまま硬直している眼鏡の彼がムニエル、そしてあそこで余裕たっぷりにパイプを咥えて(たたず)んでいるのが、かの有名な名探偵にして私と並ぶ天才的頭脳の一角を(にな)英霊(おとこ)、シャーロック・ホームズだ。彼らは皆、私達と同じカルデアの頼もしい仲間達だよ。」

 

「ふーん……ってことは、皆藤丸の友達なんだな!俺はモンキー・Ⅾ・ルフィ。そこのトラ男とギザ男と一緒に、藤丸に()ばれたサーヴァントだ!よろしくな!えっと~、()()()()!」

 

「そ、そっか……聞いたことない名前の英霊ばっかりだけど、こんなに味方がいてくれなら心強───って何だその柔らかそうな名前は⁉俺はムニエルだよ!ム・ニ・エ・ル‼」

 

 唐突な呼び間違いに反応し、ムニエルは思わず声を上げてしまう。するとその声量の大きさに反応したかのように、藤丸の(まぶた)が僅かに震える。

 

「ん、ルフィ………あれ?フォウ、君?」

 

「フォーウ、フォウッ。」

 

「おっ、目ぇ覚ましたか!お前、俺らが走ってる途中でまた気ぃ失っちまってたからな、心配したんだぞ?」

 

 ルフィの声により藤丸の覚醒に気付いたマシュは、ダヴィンチの助けを借りながら覚束(おぼつか)ない足付きで彼らの元へと歩を進めていく。

 

「先輩、皆さんここにいます。私達は欠けることなく、無事格納庫に到着出来ました!」

 

「藤丸~よかったぁ~~っ‼‼お前がこのまま目を覚まさなかったら俺、あの時強く止めておけばよかったって、ずっと自分を責め続けて生きてくとこだった………でもお前はオッサンもちゃんと連れて帰って、ついでに強そうなサーヴァントまでちゃっかり召喚しちゃってさ………やっぱお前すげえよ!本当に‼うああぁぁぁ~んっっ‼‼」

 

 目から鼻からその他諸々、ありとあらゆるものを顔から(あふ)れさせるムニエルの号泣具合に思わず面食ったものの、彼の零したその涙がどれだけの不安から生まれたものかをすぐ様汲み取った藤丸は、ばつが悪そうに頬を掻きながら「…心配かけて、すみません」と小さく謝罪を口にした。

 

「まだあまり無理はするなよ、マスター。ダヴィンチ屋の手を借りてある程度の治療は施したが、あんなものはあくまで一時凌ぎにしか過ぎねえ………そこの()()()、このコンテナの内部に医療設備は揃っているのか?」

 

 ルフィの背から立ち上がろうとする藤丸を軽く制しながら、ローは上げた(おもて)をホームズへと向ける。初対面の男から不意に、しかも珍妙な渾名(あだな)で呼ばれたことに一瞬目を丸くしたホームズだったが、またすぐにいつものポーカーフェイスを取り戻した。

 

「探偵屋、とは……直球だが中々独特(ユニーク)なセンスのネーミングだな。カルデアにあった医務室ほどではないが、ここにもある程度の設備と器材は存在している……君の台詞(ことば)から推理するに、どうやら医療の心得があるサーヴァントであるとみた。まずは君達への謝辞を述べたいところだが───どうやら悠長に過ごす時間は、今の我々には許されていないようだ。」

 

 

 ────ヒュウッ、と頬を撫ぜた微風が含んだ、覚えのある()()

 格納庫内の温度はみるみるうちに低下していき、藤丸達が寒いと肌で感じたのとほぼ同時に、ルフィやローそしてキッドの三人は広い部屋の奥に鋭い視線を向けた。

 

「チッ、もう追いついてきやがったか……!」

 

 流れてくる冷気、そして先刻と同様に床や天井が白い氷に覆われていく光景を睨みながら、ローは忌々し気に舌打ちをする。

 

「ここで食い止めないと、コンテナに避難したスタッフの皆さんに被害が………マシュ・キリエライト、これより敵サーヴァントを迎撃しま───っく⁉あ、ああぁ‼」

 

 ダヴィンチから弾かれるようにして離れ、マシュは武装化を試みる。しかし、既に疲弊しきっている彼女の身体は最早それに持ち堪えられる体力すら残っておらず、全身に走る激痛と脱力感に崩れ落ちる。

 

「マシュ‼」

 

 倒れ行く彼女の姿に、藤丸は咄嗟に立ち上がり手を伸ばす。自身の状態など既に頭から抜けてしまっている彼の足もまた限界を迎えようとしていたその時、不意に腹部に回された大きな手によって、藤丸の体は転倒を免れた。

 

「ったくお前もマシュも、カルデアの連中はこぞって死に急ぐのが趣味なのかァ?俺らと違ってあちこち(もろ)いこたぁ分かってンだろ、もっと自分(テメエ)(タマ)大事にしやがれってんだ。」

 

 呆れたように呟くキッドの左義手には、今の自分と同じようにマシュが抱えられている。申し訳なさそう見上げる彼女の視線に気付くことなく、キッドは一同へと向き直る。

 

「おい、狐女や氷女とは()()()()()()()()()。あのスカした(ツラ)に一発もぶちかませねえのは(しゃく)だが、ここは戦略的撤退ってことでいいな?お前ら。」

 

「おう!俺もムカついてっけど、それより藤丸達の怪我をどうにかしねえとだもんな!」

 

「お前の指示に従うわけじゃねえが、その提案には俺も同意だ。この()()()()()なら、今すぐにここを出れば連中は俺達に追いつけねえ。よし、怪我人から優先してコンテナに乗り込め。ムジーク屋は……まだ動けねえのか?ったく、だから調子に乗るなとあれだけ忠告したってのに……まあいい、説教はまず後だ。そこのお前、あー……()()()()だったか?ムジーク屋に手を貸してやってくれ。」

 

「ムニエルな⁉俺はドイツの有名作曲家じゃねえから───ってかお前ら、今妙なこと言ってなかったか?敵との距離がまだあるとか、気配の間隔がどうとか………まさか千里眼とか持ってる系の英霊だったりする?」

 

「そういえば、先程も麦わら小僧がナントカの『覇気』がどうのとか言っていたな?その覇気の類にはそんな能力もあるのか痛タタタタッ‼もう少し優しく扱ってくれたまえよ君ぃ‼」

 

 ゴルドルフの腕を自身の肩にかけ、首を傾げるムニエル。未だ言うことを効かない下半身に鋭く走る痛みに(もだ)えるゴルドルフのそれぞれの疑問に、「あ~…」と声を漏らしたのはキッドだった。

 

「『覇気』についてか………(イチ)から説明してくと長くなるからな、こっから無事に脱出出来たらゆっくり講義してやるよ。いいからさっさとオッサン抱えて中に入れ、()()()()()。」

 

「とうとう5文字になったなコンニャロウ‼誰がスペインのワンちゃんだよ⁉えっ何、もしかして俺の名前って、そんなに覚えにく────うわっ冷たっ⁉は、はっくしょん‼」

 

 立て続けに名前を間違われてご立腹のムニエルであったが、突然吹いた突風の運んできた冷気に鼻先を撫でられ、冷たさとむず(かゆ)さに堪らずくしゃみが飛び出す。

 

「これは、もたもたしていられないな……ミスター・ムーミ───んんっ失礼、ミスター・ムニエル。ムジーク氏と共に急ぎこちらへ。」

 

 ホームズが何と言い掛けたか気になりはしたが、今は緊急事態などで後にしておこうなどと考えながら、ムニエルは彼の助けを借りてコンテナの内部へと入っていく。

 続いて藤丸とマシュを抱えたキッド、周囲を警戒しながらローが開いた扉の内側へと移動し、彼らに続こうと片足を上げたルフィは、ふとここで振り返る。

 

「おーいダビンチー!何してんだぁ?置いてかれちまうぞ~?」

 

「フォウフォーゥ!」

 

 自ら殿(しんがり)を買って出たダヴィンチが、中々コンテナ側に向かって来ない。不思議に思ったルフィと彼の肩に乗ったフォウが外を覗くと───

 

 

 彼女(ダヴィンチ)は立っていた。

 誰もいなくなった格納庫の中、冷たい風が吹き荒れる広い空間の中央に、たった一人で。

 

 その海碧(コバルトブルー)の瞳が映すのは、無機質な天井や壁などの『今』ではなく────自分と仲間達がカルデア(ここ)で過ごしてきた、楽しく美しい『思い出』の数々。

 

 

 

「(────ああ、懐かしいなあ。)」

 

 

 

 不安定な召喚システムを用いられてここに()ばれた時、腹の立つこともあったし、すぐにでも座に(かえ)ってやろうかとも思っていたが、カルデアの事情を知った上で退屈(しの)ぎにはなるか、と居残って過ごしたその結果、気が付けば今日という日まで時間は経過していたのであった。

 

 

 時には辛いこともあって、腹を立てることもあって、意味も無く落ち込んだ日もあったりしたけど、

 

 それらを吹き飛ばし、笑い飛ばし、乗り越えられるほどに溢れるのは、沢山の楽しかった思い出達。

 

 様々なカルデアの職員達、様々な英霊達の顔が並ぶ中、ダヴィンチは脳裏に鮮明に蘇る()()の名前を浮かべる。

 

 

 

 『ロマニ・アーキマン』

 

 『オルガマリー・アニムスフィア』

 

 『シャーロック・ホームズ』

 

 

 『マシュ・キリエライト』

 

 

 そして───『藤丸 立香』

 

 

 

「(幸せなんて、所詮(しょせん)ドミノみたいなものだなあ)」

 

 

「(どんなに高く積み上げた思い出も、どんなに多く並べた大切な時間も………指が触れてしまうほど弱い、たった一度の衝撃で全てが簡単に崩れてしまうんだから)」

 

 

 

 

「────チ、ダビンチ!」

 

 遠くから聞こえる声に呼ばれ、ここでダヴィンチの意識は現実へと引き戻される。

 声の主の方を見れば、コンテナの扉の前でこちらに手を振るルフィの姿。

 

「早く来いよ!置いてっちまうぞ!」

 

「ダヴィンチちゃん、早くこっちへ!」

 

 ルフィの後ろから顔を出す藤丸はふらつく体をキッドに支えられながら、懸命にこちらへ声を張り上げている。

 

「………ああ、待たせてしまってすまないね。今行くよ!」

 

 ダヴィンチは名残惜しげに視線を外すと、(きびす)を返しコンテナへと向かう。

 

「────さようなら、我らが愛しの思い出達(カルデア)。」

 

 過去に別れを告げ、彼女が向かって行く先にいるのは、()()()()()()()()()(にな)っていく仲間達。

 

 心の暗雲を振り払い、希望が光となって胸の中に満ち溢れていく。

 

 大丈夫、きっと大丈夫。

 どれだけ先行きの見えない未来が待ち構えていようとも、君達となら私は何も怖くはないさ。

 

 コンテナの扉までもう少し、早く早くと焦る藤丸やこちらに腕を伸ばそうとしてくるルフィの姿に、ダヴィンチはくすりと小さく笑みを零した。

 

 

「大丈夫だよ、このペースなら連中は追いつけない!あと一歩というところで私達の勝────」

 

 

 

 

 

 

「そうだな、あと一歩───君達は足りなかった。」

 

 

 

【TO BE CONTINUED】

 

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