Fate/GrandOrder ーSailing Lostbeltー   作:藤渚

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【序】導きの“新星”(Ⅲ)

 

 

 ───まるで、太陽の生まれ変わりのような英霊()だ。

 

 

 私、レオナルド・ダ・ヴィンチが彼……モンキー・Ⅾ・ルフィと初めて出会った時に抱いた印象はこうだった。

 

 夜闇を照らすかのような笑顔は、朝焼けと例えるにはあまりにも眩しすぎて、

 

 『友』と呼んだ者達が傷つけられれば、灼熱の陽光の如く(いきどお)り、

 

 落ち込む藤丸君や不安げなマシュに寄り添う、春の陽だまりのような彼の朗らかさは、不安で満たされそうだった私の心も救ってくれたんだ。

 

 

 

 次に、苦戦を強いられていた私とマシュの前に召喚さ(あらわ)れた、暗殺者(アサシン)のトラファルガー・ロー。

 

 

 ぶっきらぼうで、口も目つきも悪くて、常に眉間に皺が寄っているような、不愛想を(よそお)っている君だけれども、この天才(わたし)の目は誤魔化せないよ?

 

 だって私も、もしかしたら皆もとっくに気付いているかもね………君が手当てを施した傷口に、包帯を巻くその手が───とても温かく、優しいものだということに。

 

 

 

 そして最後に私達と合流したのは………まさかのルフィ君やロー君と顔馴染みだったという狂戦士(バーサーカー)、ユースタス・キッド。

 

 

 大きな身体に強面(こわもて)の彼は、口も態度も粗暴(そぼう)そのもので、私もマシュも初対面時には少し驚いたもんだ。

 

 でも君は、藤丸君(マスター)と出会う前にピンチに陥っていたムジーク氏を助けてくれた。自分を(かえり)みない藤丸君を叱咤し、そんな彼を守る為に発生してしまった()()に悲憤を露わにしてくれた。

 面倒見の良さが滲み出てる……なんて言えば、きっと君は照れ隠し代わりに怒るだろうからね、これは私の心の中にそっとしまっておくよ。

 

 

 

  モンキー・Ⅾ・ルフィ。

 

  トラファルガー・ロー。

 

  ユースタス・キッド。

 

 

 

 聞いたことのあるようで、初めて聞く彼らの真名(なまえ)

 何処の時代の、何処の世界の海にいたかも分からない彼らだけど────藤丸君の決死の覚悟で行った英霊召喚に応えてくれた、海賊船の船長達。

 

 

 君達は一体、どんな世界から来たんだい?

 君達の進んできた人生の航路には、どんな冒険が待っていたのかな?

 君達が食べた『悪魔の実』について、もっと聞かせてほしいな。

 

 

 ルフィ君が嬉しそうに語ってた、大好きな仲間達の話を聞かせておくれ。

 ロー君の医術は大したものだ。君にその知識と技術を伝授した人のことを、私にも教えてくれないかな。

 キッド君のその左義腕(ひだりうで)、実は会った時からとても惹かれていたんだ。他にも色々なタイプの義腕が作れたりするのかな?あらゆる工学をマスターしたこの私だ、是非とも研究させてほしい。

 

 

 

 ああ、今から楽しみで仕方がないな!こんな状況だというのに、新たな出会いと溢れる好奇心で胸が高鳴っているよ。

 

 

 どうかこの窮地(きゅうち)を脱することが出来たのなら、君達のことをもっとよく教えておくれ。

 

 そしたら私達も、とっておきの()()を君達に披露しようじゃないか!

 

 

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

 吹き込む冷風は吹雪となり、藤丸達の乗り込む避難コンテナをも白く変化させていく。

 

「君達に………頼みたいことがあるんだ。」

 

 吐血に濡れた唇を動かし、ダヴィンチは見上げる先……茫然自失で立ち尽くしているルフィ達へ語り掛ける。

 状況の変化を懸念(けねん)した神父は、再びダヴィンチから手刀を引き抜こうと腕に力を入れる。

 

「ぐ、ぅ……‼おっと、この手を抜こうたってそうはいかないよ。君はこの天才を殺してくれたんだ。その身を(もっ)て後悔を味わう前に、私の終幕(フィナーレ)をその網膜にたぁんと焼き付けてもらおうか。」

 

 体温が徐々に低下していくにも関わらず、頑として神父の手を抜かせようとしない。やがて彼は観念したように、力の抜けた肩をわざとらしく落としてみせた。

 

「フォウ、フォゥ………。」

 

「……ダビンチ………‼」

 

 彼の全身を震わせているのは、鳥肌の立つような寒さなどではない。

 いっぱいに開いたルフィの目に映るダヴィンチの姿が、徐々にぼやけていった。

 

 

 

「……ルフィ君、ロー君、キッド君。」

 

 

「こちらの世界とは異なる海を(わた)ってきた、海賊船の船長達よ。」

 

 

「これからのカルデアを……藤丸君達を導く『新星(ステラ)』となる君達に」

 

 

「今から私が託す『宝物』を………どうか、受け取ってほしい。」

 

 

 

 

 ほとんど力の入らない自身に鞭を打ち、ダヴィンチは利き腕を持ち上げる。

 

 

「……()()は、私にとって金銀財宝よりも価値を持ち、世界中のありとあらゆる富をどれだけ積んでも、手に入ることはないだろう。」

 

「この世に二つと存在しない。とても強いけど、とても(もろ)い………私が()()()()()()()()()()()、ずっと見守ってきた掛け替えのないものだ。」

 

 

 まるでこちらに差し出すように、広げた掌が示した先には、

 

 

 

 

「君達なら……いや、藤丸君の()び声に応えてくれた、君達だからこそ信用出来る────どうか『私の家族達(カルデア)』を、よろしく頼んだよ。」

 

 

 

 

「ぁ、ああ、あああ………ダヴィンチちゃん、ダヴィンチちゃん……‼‼」

 

 ぼろぼろと、大粒の涙がマシュの頬を伝い落ちる。

 絶句するゴルドルフも、ムニエルも………膝から崩れ落ちた藤丸も、今から訪れる彼女(ダヴィンチ)との()()()()()を、心の中で悟った。

 

 

「……おいおい、こりゃあ大層なお宝を差し出してきたモンだな。」

 

「確かに………どんな金貨も財宝も山の様に積んだところで、()()()一欠(ひとかけ)も手に入りやしねえ。」

 

 

 ぼやけた視界の向こう側、後ろ姿から見たキッドとローの口角が、僅かに吊り上がっている。

 彼らの間に挟まるようにして立っていたルフィは、腕で目元を乱暴に拭い終えると同時に顔を上げた。

 

 

「………ああ、しっかり受け取ったぜダビンチ。お前が『宝払い』で託したこの宝は、絶対に誰にも渡さねえ‼」

 

 

 力強い答えと、太陽のようなあの笑顔。

 心の底から安堵し、微笑みを浮かべるダヴィンチの手には、いつの間にか彼女の得物である杖が握られている。

 

「!……何を────」

 

 神父が行動を起こすよりも早く、ダヴィンチは力を振り絞って杖を上げる。星を(かたど)った青い石が淡く光を放ったその時、鉄の(きし)む音と共に藤丸達の上から何かが降りてきた。

 

「あ、あれは……このコンテナの扉じゃないかね⁉」

 

「馬鹿な‼扉の操作は奥の部屋のパネルでしか出来ない筈だぞ⁉」

 

「!……まさか、ダヴィンチ屋の奴!」

 

 困惑するゴルドルフとムニエルの発した言葉から、ダヴィンチが何をしたのかをローは確信する。

 

「っ、ダヴィンチちゃん‼」

 

 藤丸は立ち上がり、よろめきながら扉へと近付く。

 吹き荒れる吹雪の中、鉄の扉が狭めていく向こう側で、ダヴィンチは────

 

 

「さあ、急ぎたまえ藤丸君!君が知っていたカルデアは、ここで終わりだ………けれど君とマシュが生きていれば、続きはきっとある。この先の未来には、新しいカルデアがあるはずだ!」

 

 

 それは()()()()()()()藤丸達を送り出す時と変わらない、ダヴィンチの()()の微笑み。

 まるで女神のように美しく、慈愛に満ちた微笑を、彼女は血の気が失せた顔にいつまでも(たた)え続けていた。

 

 

 

「………行くぞ。」

 

 麦わら帽子を目深に被り直し、閉じゆく扉に背を向けたルフィは静かに呟く。

 それが合図かのようにローとキッドも(きびす)を返し、項垂(うなだ)れている者や床にへたり込む者に腕を伸ばしていった。

 

「待って……待ってください‼ダヴィンチちゃん、ダヴィンチちゃんっ‼っう、う───ううううう……‼‼」

 

 ローに担がれた状態のまま、マシュは悲痛な声でダヴィンチの名を叫び、涙を流す。足をばたつかせるも、力の入らない体では(ろく)な抵抗にもならず、彼女はローと共にコンテナの奥へと消えていく。

 続いてゴルドルフを軽々と抱えたキッドと、彼の後を追いムニエルも奥へと向かい、最後に残ったルフィは藤丸の腕を肩に担いだ。

 

「うし、このまま運ぶぞ……歩けそうか?」

 

 ルフィの問いに、藤丸は俯いたまま無言で頷く。

 負傷した彼の歩に合わせ、一歩……また一歩と進んでいくルフィ。彼らのすぐ後ろをフォウが付いて歩いていたその時、不意に足を止めた藤丸の脹脛(ふくらはぎ)に、フォウは鼻先をぶつけてしまった。

 

「キュッ⁉フォーゥ?」

 

「藤丸、どうした?」

 

 ルフィが怪訝(けげん)に尋ねると、藤丸は顔を上げないまま肩を戦慄(わなな)かせている。

 そして次の瞬間────彼は弾かれたようにルフィから離れ、最早小窓ほどの狭さになった扉へと一目散に駆けていった。

 

「なっ───おい藤丸⁉」

 

 ルフィの制止の声も聞かず、扉の元へと到着した藤丸は正面から吹き込む冷風に物ともせず、大きく息を吸いこんだ。

 

 

 

「っダヴィンチちゃん────今まで、ありがとうございました‼‼」

 

 

 

 

 ガシャンッ、と音を立て、鉄の扉は外部の冷気を完全に遮断する。

 明かりが消え、暗闇となったその場所に、(すす)り泣く声だけが響き渡った。

 

「………大丈夫だ、藤丸。ダビンチにはお前の声、ちゃんと届いってから。」

 

 ルフィの手が頭上に置かれ、くしゃっと雑に撫でられる。

 彼の優しい声と陽だまりのような手の温かさに、藤丸の瞳からは次々と堪えていた感情が溢れ出していった。

 

 

 

 

「っく………あり、がと………ありがとう、ルフィ………‼‼」

 

 

 

 

   *   *   *   *   *

 

 

 

『───充実した一日が幸せな眠りをもたらすように、充実した一生は幸福な死をもたらしてくれる。』

 

 

 『私』(レオナルド・ダ・ヴィンチ)が没した後に、後世に記録されている私の名言の一つだ。

 

 

 いつ発した名言だったっけなぁとぼんやり思い出しつつ、遠くなっていく意識の中で先程耳で拾った()()()()反芻(はんすう)する。

 

 

『っダヴィンチちゃん────今まで、ありがとうございました‼‼』

 

 

 

 ────ありがとう、か。

 

 

 5年前の2012年、英霊召喚システム・フェイトの第3号例として召喚された日から、私の第二の人生は始まった。

 様々な出会いや別れ、喜びや驚き、時には怒りや悲しみも、思い返せば波乱に満ちた5年間だったのかもしれない。

 

 

 

 それでも───それでも、こうして迎えた最期の瞬間、私の中にあった感情はただ一つ

 

 

 

  ああ、とても……()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ……視界は真っ白になり、何も映さない。聴覚も、胸を貫いていた激痛さえ無くなって、残されたのは薄れゆく意識のみ。

 

 

 

 大丈夫、藤丸達の事は心配してはいないよ。

 だって彼らはとても強いし、ルフィ君達だっている。

 それに後のことは『彼女』に全て託したからね。

 

 

 

 

 ────でも、これだけは心残りだったな。

 

 

 あの三人に話したい、とっておきの()()………藤丸君とマシュ、そして私達(カルデア)が今まで歩んできた、素晴らしい冒険の旅路を───私の口から彼らにも、聞かせてあげたかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  「ありがとう。さようなら、美しき日々─── Ci vediamo(また会おう)。」

 

 

 

【TO BE CONTINUED】

 

 

 

 

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