Fate/GrandOrder ーSailing Lostbeltー 作:藤渚
───まるで、太陽の生まれ変わりのような
私、レオナルド・ダ・ヴィンチが彼……モンキー・Ⅾ・ルフィと初めて出会った時に抱いた印象はこうだった。
夜闇を照らすかのような笑顔は、朝焼けと例えるにはあまりにも眩しすぎて、
『友』と呼んだ者達が傷つけられれば、灼熱の陽光の如く
落ち込む藤丸君や不安げなマシュに寄り添う、春の陽だまりのような彼の朗らかさは、不安で満たされそうだった私の心も救ってくれたんだ。
次に、苦戦を強いられていた私とマシュの前に
ぶっきらぼうで、口も目つきも悪くて、常に眉間に皺が寄っているような、不愛想を
だって私も、もしかしたら皆もとっくに気付いているかもね………君が手当てを施した傷口に、包帯を巻くその手が───とても温かく、優しいものだということに。
そして最後に私達と合流したのは………まさかのルフィ君やロー君と顔馴染みだったという
大きな身体に
でも君は、
面倒見の良さが滲み出てる……なんて言えば、きっと君は照れ隠し代わりに怒るだろうからね、これは私の心の中にそっとしまっておくよ。
モンキー・Ⅾ・ルフィ。
トラファルガー・ロー。
ユースタス・キッド。
聞いたことのあるようで、初めて聞く彼らの
何処の時代の、何処の世界の海にいたかも分からない彼らだけど────藤丸君の決死の覚悟で行った英霊召喚に応えてくれた、海賊船の船長達。
君達は一体、どんな世界から来たんだい?
君達の進んできた人生の航路には、どんな冒険が待っていたのかな?
君達が食べた『悪魔の実』について、もっと聞かせてほしいな。
ルフィ君が嬉しそうに語ってた、大好きな仲間達の話を聞かせておくれ。
ロー君の医術は大したものだ。君にその知識と技術を伝授した人のことを、私にも教えてくれないかな。
キッド君のその
ああ、今から楽しみで仕方がないな!こんな状況だというのに、新たな出会いと溢れる好奇心で胸が高鳴っているよ。
どうかこの
そしたら私達も、とっておきの
* * * * *
吹き込む冷風は吹雪となり、藤丸達の乗り込む避難コンテナをも白く変化させていく。
「君達に………頼みたいことがあるんだ。」
吐血に濡れた唇を動かし、ダヴィンチは見上げる先……茫然自失で立ち尽くしているルフィ達へ語り掛ける。
状況の変化を
「ぐ、ぅ……‼おっと、この手を抜こうたってそうはいかないよ。君はこの天才を殺してくれたんだ。その身を
体温が徐々に低下していくにも関わらず、頑として神父の手を抜かせようとしない。やがて彼は観念したように、力の抜けた肩をわざとらしく落としてみせた。
「フォウ、フォゥ………。」
「……ダビンチ………‼」
彼の全身を震わせているのは、鳥肌の立つような寒さなどではない。
いっぱいに開いたルフィの目に映るダヴィンチの姿が、徐々にぼやけていった。
「……ルフィ君、ロー君、キッド君。」
「こちらの世界とは異なる海を
「これからのカルデアを……藤丸君達を導く『
「今から私が託す『宝物』を………どうか、受け取ってほしい。」
ほとんど力の入らない自身に鞭を打ち、ダヴィンチは利き腕を持ち上げる。
「……
「この世に二つと存在しない。とても強いけど、とても
まるでこちらに差し出すように、広げた掌が示した先には、
「君達なら……いや、藤丸君の
「ぁ、ああ、あああ………ダヴィンチちゃん、ダヴィンチちゃん……‼‼」
ぼろぼろと、大粒の涙がマシュの頬を伝い落ちる。
絶句するゴルドルフも、ムニエルも………膝から崩れ落ちた藤丸も、今から訪れる
「……おいおい、こりゃあ大層なお宝を差し出してきたモンだな。」
「確かに………どんな金貨も財宝も山の様に積んだところで、
ぼやけた視界の向こう側、後ろ姿から見たキッドとローの口角が、僅かに吊り上がっている。
彼らの間に挟まるようにして立っていたルフィは、腕で目元を乱暴に拭い終えると同時に顔を上げた。
「………ああ、しっかり受け取ったぜダビンチ。お前が『宝払い』で託したこの宝は、絶対に誰にも渡さねえ‼」
力強い答えと、太陽のようなあの笑顔。
心の底から安堵し、微笑みを浮かべるダヴィンチの手には、いつの間にか彼女の得物である杖が握られている。
「!……何を────」
神父が行動を起こすよりも早く、ダヴィンチは力を振り絞って杖を上げる。星を
「あ、あれは……このコンテナの扉じゃないかね⁉」
「馬鹿な‼扉の操作は奥の部屋のパネルでしか出来ない筈だぞ⁉」
「!……まさか、ダヴィンチ屋の奴!」
困惑するゴルドルフとムニエルの発した言葉から、ダヴィンチが何をしたのかをローは確信する。
「っ、ダヴィンチちゃん‼」
藤丸は立ち上がり、よろめきながら扉へと近付く。
吹き荒れる吹雪の中、鉄の扉が狭めていく向こう側で、ダヴィンチは────
「さあ、急ぎたまえ藤丸君!君が知っていたカルデアは、ここで終わりだ………けれど君とマシュが生きていれば、続きはきっとある。この先の未来には、新しいカルデアがあるはずだ!」
それは
まるで女神のように美しく、慈愛に満ちた微笑を、彼女は血の気が失せた顔にいつまでも
「………行くぞ。」
麦わら帽子を目深に被り直し、閉じゆく扉に背を向けたルフィは静かに呟く。
それが合図かのようにローとキッドも
「待って……待ってください‼ダヴィンチちゃん、ダヴィンチちゃんっ‼っう、う───ううううう……‼‼」
ローに担がれた状態のまま、マシュは悲痛な声でダヴィンチの名を叫び、涙を流す。足をばたつかせるも、力の入らない体では
続いてゴルドルフを軽々と抱えたキッドと、彼の後を追いムニエルも奥へと向かい、最後に残ったルフィは藤丸の腕を肩に担いだ。
「うし、このまま運ぶぞ……歩けそうか?」
ルフィの問いに、藤丸は俯いたまま無言で頷く。
負傷した彼の歩に合わせ、一歩……また一歩と進んでいくルフィ。彼らのすぐ後ろをフォウが付いて歩いていたその時、不意に足を止めた藤丸の
「キュッ⁉フォーゥ?」
「藤丸、どうした?」
ルフィが
そして次の瞬間────彼は弾かれたようにルフィから離れ、最早小窓ほどの狭さになった扉へと一目散に駆けていった。
「なっ───おい藤丸⁉」
ルフィの制止の声も聞かず、扉の元へと到着した藤丸は正面から吹き込む冷風に物ともせず、大きく息を吸いこんだ。
「っダヴィンチちゃん────今まで、ありがとうございました‼‼」
ガシャンッ、と音を立て、鉄の扉は外部の冷気を完全に遮断する。
明かりが消え、暗闇となったその場所に、
「………大丈夫だ、藤丸。ダビンチにはお前の声、ちゃんと届いってから。」
ルフィの手が頭上に置かれ、くしゃっと雑に撫でられる。
彼の優しい声と陽だまりのような手の温かさに、藤丸の瞳からは次々と堪えていた感情が溢れ出していった。
「っく………あり、がと………ありがとう、ルフィ………‼‼」
* * * * *
『───充実した一日が幸せな眠りをもたらすように、充実した一生は幸福な死をもたらしてくれる。』
いつ発した名言だったっけなぁとぼんやり思い出しつつ、遠くなっていく意識の中で先程耳で拾った
『っダヴィンチちゃん────今まで、ありがとうございました‼‼』
────ありがとう、か。
5年前の2012年、英霊召喚システム・フェイトの第3号例として召喚された日から、私の第二の人生は始まった。
様々な出会いや別れ、喜びや驚き、時には怒りや悲しみも、思い返せば波乱に満ちた5年間だったのかもしれない。
それでも───それでも、こうして迎えた最期の瞬間、私の中にあった感情はただ一つ
ああ、とても……
……視界は真っ白になり、何も映さない。聴覚も、胸を貫いていた激痛さえ無くなって、残されたのは薄れゆく意識のみ。
大丈夫、藤丸達の事は心配してはいないよ。
だって彼らはとても強いし、ルフィ君達だっている。
それに後のことは『彼女』に全て託したからね。
────でも、これだけは心残りだったな。
あの三人に話したい、とっておきの
「ありがとう。さようなら、美しき日々───
【TO BE CONTINUED】