Fate/GrandOrder ーSailing Lostbeltー   作:藤渚

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【序】三人の船長

 

 

 

「あーぁ………ちっとやり過ぎちまったか?」

 

 崩れ落ちた瓦礫の破片を片足で蹴り上げ、バーサーカーは真上の巨大な穴を見上げる。

 もし、(かつ)ての相棒が今この場にいたのなら、「やり過ぎだ」なとど叱責を受けていたに違いないだろうと、崩落した天井を見上げながらバーサーカーは片頬笑む。

 既に昏倒し意識のない殺戮猟兵(オプリチニキ)に少しも目をくれてやることもなく、白い砂煙の立ち込める周囲を見回していた時、ふとバーサーカーは自身に起きている微細な違和感に気が付いた。

 

「(………それにしても、さっきから()()()()()()()。そんなに『能力』は使ってねぇはずなんだが、じゃあこれは一体……?)」

 

 戦闘を終えた直後、前触れなく全身に降りかかった倦怠感(けんたいかん)に、バーサーカーは眉間に皺を寄せる。

 頭の中に広がりかけていた(もや)を払おうと(かぶり)を大きく振ったその時、砂煙の向こうで何かが動いた。

 

「‼」

 

 バーサーカーは即座に動きを止め、気配を殺し様子を(うかが)う。

 砂煙の向こうに確認出来る個体は複数名、しかしいずれも気配はあれど殺気はそれほど強く感じられない。

 

「………………。」

 

 天井の大穴から流れてくる微風が、砂煙を徐々に流していく。いずれにせよこのまま黙っていても(らち)が明かないと、バーサーカーはその方角へ向かって歩き出す。

 

 

 視界を阻む白い砂が風を受け、時間の経過と共に少しずつ薄くなっていく。

 

 やがて数メートル先の対象を視認出来る距離で足を止めた時、(おの)が眼に映ったその光景に、バーサーカーは何度も目を(しばたか)せ、そして素っ頓狂(とんきょう)な声を上げた。

 

 

「………は?」

 

 

 晴れた視界の向こうにいたのは、身の丈もある円型の盾をこちらに構えた少女と、その彼女よりも少しだけ背の高い女性が、興味津々と言わんばかりにコバルトブルーの瞳を輝かせ、盾の後ろからこちらを覗いている。

 

 そして彼女達の後ろにいる二名………黒いコートの『外科医の“アサシン”』はこちらを見るなり、露骨に顔を(しか)める。対してもう一名の麦わら帽子の青年はというと、アサシンとは正反対に満面の笑顔を向け、両手を大きく振りながら溌剌(はつらつ)と声を上げた。

 

「アハッ!なぁんだ、やっぱりお前じゃねえかぁ!」

 

「……()()()()()()()、それに麦わら───────うぉっ⁉」

 

 麦わら、ことルフィは振っていた両腕を突然伸ばし、呆気に取られているバーサーカーの身体をがっちりと絡めとる。

 

「あ?テメェ何しやが────るぉあああァァァっっ⁉」

 

 バーサーカーは困惑する間もなく、ゴムの腕が収縮する勢いのままに引き寄せられる。そのまま顔面から着地……とはいかず、バーサーカーは義手の左腕を使って上手く受け身をとり、ルフィの腕が外れたのと同時に両足から床へと器用に着地した。

 

「……っぶねえな、何すんだ麦わらァ‼」

 

 ドスの効いた怒鳴り声に驚き、マシュは思わず盾に身を隠す。一方その怒りを向けられているルフィ本人はというと、破顔を崩さぬまま今度は両腕を広げてバーサーカー目掛け飛びかかってきた。

 

()()()~~~久しぶりだなぁっ!」

 

 先刻のアサシン同様、バーサーカーにもルフィからの熱烈なハグが交わされる……と思いきや、そうはさせんと先手を打って突き出された鉄の義手に顔面を強打し、「へぶっ!」とくぐもった声と共にルフィは床へと落下した。

 

「………つか、何でテメェらがここにいんだ。」

 

「ハァ……それはこっちの台詞だ。まさか麦わら屋だけでなく、お前までサーヴァントとして召喚されていたとはな。()()()()()()。」

 

 互いに嫌悪を露わにし、睨み合うバーサーカーとアサシン。そんな彼らの間を割るようにして、ずいっとルフィが真ん中に入り込んだ。

 

「トラ男、ギザ男!喧嘩なんかしてる場合じゃねえだろ!全くお前らは、サーヴァントになってもしょうがねえ奴らだな~。」

 

「「お前に言われたくねぇわっっ‼‼」」

 

 腕を組みハムスターのように頬を膨らせるルフィ、そんな彼にバーサーカーとアサシンの怒鳴る声が見事にシンクロする。

 

「大体この天井崩したのはお前だろ、ユースタス屋。危うく俺達まで巻き込まれるところだったんだぞ。」

 

「何ぃっ⁉ギザ男てめぇ、怪我したらどうすんだコノヤロー‼」

 

「仕方ねェだろ‼こっちだっていきなり()ばれて早々に気色悪ィ連中とやり合う羽目に…………ん?そういや何か忘れてるような……。」

 

 バーサーカーが首を傾げたその時、盾の陰から様子を(うかが)っていたマシュとダヴィンチが何かを見つけた。

 

「あれは───ゴルドルフ・ムジークさん!」

 

「……の下半身が瓦礫から生えてるね、何故か。」

 

 口端をひくつかせ、何とも言えぬ表情のダヴィンチの見つめる先……自分達のいる場所から数メートルほど先の瓦礫の山から、まるで某有名探偵作品に登場する人物が池のど真ん中でそうなっていたように、腰から下だけを逆さまに突き出したゴルドルフが、バタバタと必死に足だけを動かしていた。

 

「……麦わら屋、引き上げてやれ。」

 

「分かった。よ~いしょっと!」

 

 ルフィの伸ばした両腕が足首を掴み、瓦礫の中からゴルドルフを引っ張り上げる。

 

「ぶっはぁ助かった!ってうおおおぉぉっ⁉」

 

 漸く酸素を得ることが出来たゴルドルフはこちら側へと引っ張られ、やがて尻から着地した彼は、「あ(いで)っ!」と短く悲鳴を上げた。

 

「なあマシュ、こいつが助けに行くっつってたゴルフのオッサンなのか?」

 

「はい、その方がムジークさんで間違いありません!」

 

「そっか!なら迎えに行く手間も(はぶ)けたし、このまま皆でコンテナのとこに行こうぜ。よかったなマシュ!」

 

「は……はいっ!」

 

 別行動を取らなくてはならないことの懸念、そして藤丸を安全な場所まで連れていくためのタイムロス。それらが突然のアクシデントによって消滅した驚きと、自身の中の不安をルフィが汲み取ってくれていたという嬉しさに、マシュは晴れやかな気持ちで大きく頷いた。

 

「やあ、Mr.ゴルドルフ。まさか君も藤丸君に召喚されたサーヴァントに助けられるなんて、どうやら悪運は強いほうみたいだね。」

 

「イテテ……当たり前だ、『不死鳥のムジーク』の名は伊達では────なっ⁉貴様はカルデアのキャスター!それにデミ・サーヴァントの小娘………い、今更何をしに来たのだ貴様ら、ってギャアアァ何だこの壁一面の殺戮猟兵は⁉怖いっ夢に出そう‼」

 

「えーとまぁ、その辺はあまり見ないようにしてくれ………とにかく信じられないかもしれないが、我々は君を助けに行こうとしてたのさ。といっても、どうやらそちらの敵はバーサーカーの彼が片付けてくれたみたいだし、それに迎えに行こうとしていた矢先にこうして合流も果たせたし、いや~とりあえず一件落着だね。」

 

「えぇい落着なものか‼こっちはタチの悪いヤンキーのような奴が召喚されてそりゃもう怖かっ…………し、失礼。語弊(ごへい)があったので訂正しよう。そりゃもう強くて頼もしいバーサーカー君のお陰で、私はこうして五体満足で助かったわけだ。アリガトウネ~アハハハハ……。」

 

 頭上からの鋭い視線に怯えながら、青ざめた面に笑顔を貼り付けるゴルドルフ。するとそんな彼の視界に、マシュの盾に隠れた隙間から見覚えのある衣服が覗いていることに気付いた。

 

「もしや………そこに横たわっているのは、あのみそっかすの藤丸立香かね?」

 

 ゴルドルフが名を口にすると、マシュは陰鬱な表情のまま横に避ける。そこには床に横たえられた傷だらけの藤丸が、目を瞑ったまま浅い呼吸を繰り返していた。

 

「!───おい、まさかそいつが……⁉」

 

 ここで漸く自身のマスターと対面を果たしたバーサーカーは、彼の右手の甲に刻まれた令呪を視認する。唖然とする彼の横を通過し、身を屈めたアサシンは藤丸の胸元に手を当て、容体を確認していた。

 

「……何故だ、何故藤丸立香はあんなことになっている?」

 

「私達にも分からないんだ……見た目じゃ外傷のほうが酷いけど、実際は内部の方が特に重症だ。恐らくだけど、援護も無しに強引に英霊を複数体召喚しようとしたことによる反動じゃないかな、と私やアサシン君は見てるよ。」

 

「馬鹿な……どうして自分の命を削るような真似をしてまで、こ奴はそんなことを……。」

 

 あまりに理解し難い出来事に、ゴルドルフはそれ以上の言葉を失い愕然とする。

 その時、藤丸の(まぶた)が微かに震え、彼の小さく唸る声はその場にいる者達の耳に届いた。

 

「先輩っ!」

 

「藤丸!起きたのか⁉」

 

 足を負傷しているゴルドルフ以外は皆、彼の元へと(つど)っていく。やがてゆっくりと開いた瞼の下の青い瞳には、こちらを見下ろす何人かの知っている顔と、約二名の知らない顔があった。

 

「あれ、ルフィ………それにマシュ、ダヴィンチちゃん?よかった、二人とも怪我は……そうだ、早くゴルドルフさんを助けに────(いて)っ‼」

 

 体を起こそうと力を入れた途端、全身に激痛が走る。思わず倒れそうになった上体を支えたのは、アサシンの腕だった。

 

「まだ万全の状態とは程遠い、無理をするな。」

 

「あ、ありがとう……えっと。」

 

 意識が戻ってからは初対面である相手に困惑し、目を(しばた)かせている藤丸の横に、ルフィがストンとしゃがみ込んだ。

 

「大丈夫だぞ藤丸、トラ男はスッゲェいいヤツだからさ。俺の友達なんだ!」

 

 満面の笑みを浮かべるルフィに、「友達じゃねえっ!」とすかさずアサシンが突っ込むが、ルフィは気にすることなくそのまま続ける。

 

「ゴルフのオッサンも無事だぞ、ギザ男が助けてくれたんだってさ!」

 

 ほら、とルフィが指差した先には、少し離れた場所で不貞(ふて)腐れた様子でこちらを睨むゴルドルフの姿があった。

 

「ふ、ふんっ!別に私は貴様らに助けろと頼んだ覚えはないぞっ!というかそもそも私は完全なる被害者だよ!大金をはたいて買ったカルデアは壊滅寸前、外部とも連絡は途絶え、コヤンスカヤ君ともはぐれた上に殺戮猟兵などに殺されかけ、挙句にバーサーカーは顔も怖いしでこちらも散々だったのだ!」

 

 プンスコと頭から湯気を立てて憤慨(ふんがい)するゴルドルフであったが、自分に対しての悪口を察したバーサーカーがギロリと彼を睨むと、刺すような視線と形相に「ひぇっ」とゴルドルフは短く悲鳴を上げ、冷や汗を流しながら縮こまってしまう。

 

「ええと、その………ゴルドルフさんを助けてくれて、本当にありがとう。バーサーカー。」

 

 微笑みと共に向けられた感謝の言葉に面食らい、バーサーカーはパチクリと目を丸くする。その後すぐに我に返ると、色づいた頬を指で搔きながら「……おう」と短く答えた。

 

「さて二人とも、藤丸君も目を覚ましたことだし、そろそろ真名を明かしてくれてもいいんじゃないかな?」

 

「……お前が気になってるだけじゃねえのか?ダヴィンチ屋。」

 

「ふっふ~、まぁね。でもルフィ君はもう教えてくれてるし、教えたくないなら今後ずっとアサシンとバーサーカーか、それともトラ男君とギザ男君でいいかい?」

 

 わざとらしく渾名(あだな)で呼んでみせると、アサシンとバーサーカーは揃って苦虫を()み潰したような表情になり、思わず吹き出しそうになるのをダヴィンチは口元を押さえて(こら)えた。

 

「おっ、自己紹介か?じゃあ俺もやる!」

 

「おい麦わら、お前とっくに名乗ったんだから今更必要無ぇだろ。」

 

「いいじゃねえか!お前らばっかりズリィぞ~俺にもちゃんとやらせろぉっ!」

 

「ハァ………好きにしろ。」

 

 

 騒がしいやり取りの後に三人は揃って屈み、アサシンに代わって上体を起こす手助けをするマシュと藤丸の二名と目線を合わせる。

 

 

 静まり返る空気に緊張が走り、藤丸が唾を飲み込んだ直後、三騎のサーヴァントはそれぞれ口を開いた。

 

 

 

 

「あー……俺の真名()はユースタス・キッド。クラスは狂戦士(バーサーカー)で現界した。あとはそうだな………()()()()、その一つの『ジキジキの実』を食った()()()だ。海賊船の船長だのやってたこともあるが、今はお前のサーヴァントとしてここにいる。どうか一つよろしく頼むぜ、マスターよぉ?」

 

 

 

「……サーヴァント、クラスは暗殺者(アサシン)。真名は………いや、名はトラファルガー・ロー。俺もユースタス屋と同じように、『オペオペの実』を(しょく)した()()()だ。海賊であり船長であり、その前に医者でもある……こうして()ばれたからには力を貸そう。せいぜい俺を上手く使いこなしてみせるんだな?マスター。」

 

 

「俺はモンキー・D・ルフィだ!俺も『ゴムゴムの実』ってヤツを食った全身ゴム人間だぞ!えーとクラス、クラスは………あれ?俺のクラスって何だったっけ?ん~………まあいいや、そのうち思い出すかもしんねえし。とにかく俺は麦わらの一味の船長で、海賊王になる男で、藤丸のサーヴァントで友達だ!トラ男とギザ男と一緒に、これからもよろしくなっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ───崩壊するカルデアに集う、異なる世界の海を(わた)ってきた三人の船長達。

 

 

 

『…………………………。』

 

 

 

 突如として現れた彼らの存在を、白い女性───(のち)に『異星の巫女』と呼ばれる彼女は何も語ることなく、どこからかひっそりと眺め続けるのであった。

 

 

 

【TO BE CONTINUED】

 

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