Fate/GrandOrder ーSailing Lostbeltー   作:藤渚

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【序】“悪魔の実”

 

 

 

 剥がれた天井や壁の破片が、一面に散らばるカルデアの廊下。

 チカチカと点滅を繰り返す電灯の下を駆けていくのは、先頭を走る一人の男性と四騎の英霊……そのうちの麦わら帽子のサーヴァントに背負われた少年と、そして息を切らせた少女であった。

 

「はっ……はぁ……はっ……!」

 

 武装を解き、一同の後方を走るマシュ。だが絶え絶えに呼吸を繰り返すその顔色は良好とは程遠く、踏み込む一歩も酷く重い。

 

「おいマシュ、すげえ汗だぞ!大丈夫か⁉」

 

「はっ、はい………私は、大丈夫、です……!」

 

 異変に気付いたルフィに対しそう答えるものの、彼女が無理をしているということは、誰の目にも明らかであった。

 

「っ……ルフィ、俺はもう平気だから降ろして!それよりマシュを……!」

 

「!……藤丸、お前何言って───」

 

 困惑するルフィが開口したその時、「馬鹿野郎っ‼」と隣を走るアサシン……トラファルガー・ローの突然の怒鳴り声が、びりびりと空気を震わせた。

 

「自分がどれだけ重症なのか、分かっているのか⁉あんな応急処置程度で治ったつもりだろうが、絶対安静だと散々釘を刺しておいた筈だぞ‼」

 

「ロー……でも───」

 

「なあ、マスターよ。」

 

 尚続けようとする藤丸の抗議を不意に(さえぎ)ったのは、自分達の隣を走るバーサーカー……ユースタス・キッドの声。

 淡々と続ける彼の口調からは、(わず)かな怒気が伝わってきた。

 

「お前がマシュを気遣う気持ちはよく分かった……だがな、テメェがこれ以上の無茶をしでかして、医者(トラファルガー)でも取り返しのつかねえ状態にでもなってみやがれ………自分(てめえ)の責任だと心を痛めて泣くのは一体誰か、お前なら考えなくても分かるだろ。」

 

 その台詞(ことば)にハッとした藤丸が後方のマシュを見()ると、蒼白の顔面に汗を滲ませ、それでもこちらをまっすぐと見つめる彼女の表情は、今にも泣き出してしまいそうなものだった。

 

「マシュ、ロー、キッド……ルフィも、変なこと言い出したりして………ごめん。」

 

 自身の無鉄砲さ、そしてマシュや皆にも余計な心配をかけてしまったことへの不甲斐なさに、藤丸は消え入りそうな声で謝罪を口にする。

 

「おうっ、気にすんなって!いざとなったらマシュは俺かギザ男が運んでやっから、しんどくなったら遠慮しないで言えよ。なっギザ男?」

 

「ハッ。万が一テメェまでへばったら、そん時はマスターやマシュとまとめて一緒に抱えて走ってやってもいいぜ?麦わらよぉ。」

 

「にゃにおぅ⁉馬鹿にすんなよギザ男コノヤロー!だったら俺ぁ藤丸達もお前らもみ~んなまとめて運んでやっからな!」

 

 プンスコと腹を立てるルフィに、藤丸とマシュは顔を見合わせ小さく微笑み合う。

 するとそんな和やかな空気の横を、「フハハハハハ!」と高笑いを(とどろ)かせながら駆け抜けていく者がいた。

 

「遅い、遅いぞサーヴァント諸君!ハハハこりゃあ素晴らしい、まるで青き春の時代に戻ったかのように身体が軽いじゃあないかネ!このまま避難コンテナ一番入りは私がもらったぁ!」

 

「あっズリィぞオッサン!一番乗りは渡さねえかんなっ、行くぞ藤丸!」

 

 背負われた藤丸が「えっ?」と零した短い困惑も耳に入らず、勢いのままに加速したルフィはゴルドルフに追いつき、彼と並走する。

 ぎゃいぎゃいと何やら言い争いをする両者と、会話は聞こえないものの彼らを(なだ)めようとしている藤丸の背中を、後方の四名は走りながら呆然と眺めていた。

 

「………なあアイツ、確か足怪我してたと思ってんだが、俺の気のせいだったか?」

 

「いいえキッドさん、ムジークさんは確かに足に裂傷を負っているのを私も確認しました………したはず、なのですが………何故新所長があのように軽やかに走っていらっしゃるのかは、私にも分かりません。」

 

「それならさっき、ロー君が彼の傷の手当てをしているところを見かけたよ。でもまさか、あそこまで回復が早いとはねえ。一体どんな治療を施したのかな、お医者サマ?」

 

 ダヴィンチが名を口にした時、キッドとマシュは同時にローを見やる。疾走し続けていても尚息切れ一つすることなく、彼はダヴィンチの問いに答える。

 

「別に治療というほどのものでもない。止血の後にマシュ屋が持っていた簡易キットで消毒と包帯を………後は、『短時間で構わないから痛覚を出来る限り鈍らせろ』と、ムジーク屋に頼まれた。」

 

「痛覚を、って……トラファルガー、お前そんなことも出来んのか⁉」

 

「馬鹿にするな、これでも医者だぞ。まあ今回の場合は『麻酔(アナススィージャ)』……俺の能力を少し応用して、魔術として組み込んだものをヤツに施した。だが後でとんでもねえ跳ね返りが来るから、無理はするなと忠告はしたんだが………あのはしゃぎ様を見る分だと、多分頭の中からすっぽ抜けてやがるな。」

 

 溜め息と共に締められたローの言葉に、マシュとダヴィンチは空いた口が塞がらない。

 

「どうして……どうしてムジークさんは、そこまでして……?」

 

「……………………。」

 

 絶句するマシュに、ローは何も答えない。ただ黙々と廊下を走る彼の脳裏には、先程のゴルドルフとのやり取りの様子が蘇っていた。

 

 

『いいのかムジーク屋?確かに出来ないことはないが、後からお前を襲う反動は並大抵のものじゃ───』

 

『ええいっ、構わんからさっさとせんか!こんな(かす)り傷程度で貴様らの足を引っ張るなど、私のプライドが許せん!それに……それにだ、あの小僧が自身を(かえり)みずに無茶なやり方で英霊達(おまえたち)を召喚してまで、このカルデアを守ろうとしたのだ。ヤツが人類最後のマスターとして、己が命を懸けようとしているのならば!カルデアの新たな所長となるこのゴルドルフ・ムジークが、弱音など吐いてる場合ではないだろうっ‼』

 

『ムジーク屋、お前………。』

 

『あ痛っ、声を張り上げたらまた傷が痛たたた………あ~オホンッ!とにかくそういうことだから、早くしなさいよね君ぃ。あ、あと今の話は藤丸達(あいつら)には内緒にしておいてくれたまえ。ええと何だ、ほら、新所長としての沽券(こけん)に関わるというかだね?その、常に優雅たれというか風雅たれというか……こんな情けないことを言う姿を知られたくはないのだよ。分かってくれるかねアサシン君?』

 

『……ったく、分かった。マスター達には黙っといてやるから、とりあえず動くなよ。』

 

『あれ?もうやっちゃう感じ?いやいやちょっと待ってくれ、あのほら心の準備とかあるだろ?せめて一旦深呼吸を───っておわぎゃあああぁぁぁぁぁっ‼‼痛、くはなかったけど!!めっちゃ怖かったんだが⁉』

 

 

 

「(マスター……どうやらアンタの周りの人間達(やつら)は、どいつもこいつもとんだ善人ばかりのようだな。)」

 

 激しく動き回って振動するルフィの背中から落ちないよう、彼の首にしっかりと腕を回す藤丸達の後ろ姿を、ローの琥珀色の瞳が穏やかに見据えている。

 そんな前方ではルフィとゴルドルフによる接戦(デットヒート)が、相も変わらず繰り広げられていたのだが、格納庫までの道など当然知らない彼らは案の定、揃って曲がり角の向きを間違えるというハプニングを起こしてしまう。

 「そっちじゃないよ、逆逆!」と注意するダヴィンチの声によってUターンを余儀なくされ、結局勝負は決着つかずのまま、今度は案内役のダヴィンチを先頭に一同揃ってゴールを目指すのだった。

 

「おっとそうだ。君達船長トリオにずっと聞きたかったことがあるんだけど、いいかな?」

 

「おう、どうしたダビンチ?」

 

「おい、勝手にこんな連中と一(くく)りにするんじゃねえよ。」

 

「話の腰を折ろうとするな、ユースタス屋。俺だってお前らなんかと一緒にされるのはごめんだ……で、聞きたいことってのは何だ?ダヴィンチ屋。」

 

「ありがとう、じゃあ早速なんだけど………君達の不思議な能力と、その根源とされる『悪魔の実』という存在。これらについて是非とも教えてくれないかい?全身がゴムになったり、特殊な結界内で物体を損傷無く斬ったり入れ替えたり、金属の類を磁石のように操ったり………魔術で出来ないことはないだろうけども、君達の持つそれらの能力はあくまで自然なものだ。カルデアの技術顧問として、この辺の謎はしっかりと明かしておきたくてね。」

 

 唐突に核心を突いてきたダヴィンチの質問に、藤丸やマシュは思わず声を吞む。

 人理修復を成し遂げるため、自分達は今までに幾度(いくど)も多くのサーヴァントと出会い、そして別れを繰り返してきた。

 そんな多くの英霊達の勇姿を目に焼き付けてきた彼らであったが、今ここにいる三人の船長達のように各々(おのおの)が特殊な能力を身につけているようなケースは類を見ない。

 一体どんな事実が秘められているのだろうと、カルデア側の面々が固唾を吞んで回答を待っている。一方ルフィ達はというと、三人揃って目をぱちくりさせていた。

 

「何だぁ?お前ら悪魔の実を知らねえのか?」

 

「知らねえというより、マスター達のいる()()()()()()にゃあ悪魔の実なんて代物も存在してねえんだろうよ。」

 

「恐らくユースタス屋の言う通りだろうな。詳しく説明してやりてえところだが、今はとにかく時間が無い。ざっくりと話してやるから、細かい点があれば後から質問してくれ。」

 

 走るペースは崩さず、それでいて耳はしっかりと傾けて、一同の意識がこちらへと向けられているのを感じながら、ローは静かに口を開いた。

 

「───悪魔の実ってのは、()と名がついちゃあいるが植物かどうかは分からない。『海の悪魔の化身』とも呼ばれるその果実は、(しょく)したものに様々な能力(ちから)を与える、何とも摩訶不思議な物体だ。」

 

「海の悪魔の化身、ですか……?」

 

「ふむふむ………それにしても、食べると悪魔的な超人能力を得られる果実か。今まで色々な特異点を(わた)って不可思議な出来事に遭遇してきた我々カルデアだけども、悪魔の実なんて名称も存在も初耳だよ。こりゃあますます時間をかけて調査していきたいところだねぇ。」

 

 説明の中にあった単語を反芻(はんすう)するマシュと、顎に手を当てて一人頷くダヴィンチ。そんな彼女達を尻目に、ローは続ける。

 

「悪魔の実の種類は、大きく分けて三つある。主に動物や幻獣種などの生物への変形能力を身に付けられる『動物(ゾオン)系』、自身を炎や氷などの自然物質そのものに変化させる『自然(ロギア)系』、そして人智を越えた能力を得られる『超人(パラミシア)系』だ。悪魔の実が全部で幾つ存在するのかは、俺の記憶の中ではまだ未知数だ。だが()()()()()()()()()()()が、こう仮説を立てていたらしい…………『悪魔の実は、“願い”によって生まれた()()()()()()』だとな。」

 

「なっ……だとすれば、君達のいた世界には望みを叶えるモノ、つまりはこちらで言うところの『聖杯』に似た物質が存在するというのかね⁉」

 

 驚愕のあまり荒げた声が、廊下中に響き渡る。狼狽するゴルドルフに対しルフィらはというと、揃って怪訝な顔で首を傾げていた。

 

「セーハイ………ああ、もしかしてアレか?昔エースとサボと一緒に、拾ってきた本の中で見たことあったな。こう丼ぶりみてぇな形した、ピカピカの金のコップのことだろ?あれでうどんとか食ってみたら美味そうだよな~って三人で話したっけ、シシシ!」

 

「ほんっとテメエは食い意地ばっかりだな………俺もガキの頃にキラーと本で目にした程度だが、何でも願いを叶える黄金の(さかずき)なんざ、所詮は絵空事に過ぎねえだろ。そんなモンがこっちには本当に実在するってのか?」

 

「その通りだよキッド君。必ずしも器の形であるとは限らないけれど、こちら側における聖杯もまた、願いを叶える万能の聖遺物であることに変わりは無い。現に聖杯を巡って起きた戦争は、長い人類史の中で今までに何度も起こっているくらいだからね。そんな凄いお宝、海賊船船長の君達としては放っておけないんじゃないかい?」

 

「はっ、違いねえ。だが俺は聖杯なんざ手に入れたところで、直ぐ様(ベリー)に変えて終いだ。んなモンに頼らなくても、いずれ海賊王の座に就くはこの俺だからな。」

 

「それは聞き捨てならねえな、ユースタス屋。だがその考え方にだけは俺も同意見だ。実力で勝ち取ったわけじゃない栄光なんざ、所詮お飾りにもならねえ。」

 

「ん~、何でも願いが叶うか………まあ海賊王になるのは自分の力で叶えるとして、俺だったらこの世で一番(いっちばん)美味い肉を腹いっぱいになるまで食ってみてえな!あと食いモンも飲みモンもたっくさん出してさ、大勢で楽しく宴もやりてえ!」

 

 きらきらと表情(かお)を輝かせ、聖杯への願いを語るルフィに呆れた様子を見せるローとキッド。そんな彼らの後方を走るゴルドルフもまた、同じように眉間に皺を寄せていた。

 

「全く、せっかくの万能の願望器をそんな(ささ)やかな願いに使うなど、君には欲ってものが無いのかね……。」

 

「まあまあ、いいじゃないかMr.ゴルドルフ。もし私が聖杯だったら、いかにも欲深い奴の願い事なんかより、こういう心の綺麗な子の願いを叶えてあげたいものだよ………ああそうだ、私から一つ聞きたいんだけどいいかな?悪魔の()ってことは、その悪魔の実は元々どこかの木から生えてきてるってことなのかな?」

 

 ダヴィンチの問い掛けに対し、「いいや…」と答えたのはキッドだった。興味津々な彼女の視線を受けながら、彼はそのまま質問の回答に移る。

 

「そもそも俺らは、悪魔の実が自生してる状態も見たことは無えし、そんな話も聞いたことが無え。第一悪魔の実ってのは、色も形も大きさも全部バラバラだ。俺の食った『ジキジキの実』は表面が渦巻き模様の鈍色で、茎が稲妻みてえになってたぜ。」

 

「そういや俺の食った『ゴムゴムの実』も、宝箱ん中に入ってたっけなあ。ギザ男のと同じで変なぐるぐる模様の入った、紫色のメロンみたいなやつだった。トラ男のは?」

 

「『オペオペの実』は、そうだな……渦巻き模様に赤いハート型のリンゴのような、大きさはオレンジの実程ってとこか、そこまで大きくはなかった。」

 

「ううむ、見事にバラバラだな。赤や紫はともかくとして、自然界に鈍色の果実が存在するとは、そちらの世界の生態系は一体どうなっとるんだね………しかし何だ、食べた者に特別な力を与える悪魔の実とやら、美食家としては是非その味を確かめてみたいものだ。」

 

 何気ない一言を付け加え、ゴルドルフは返ってくるであろう反応(リアクション)を待ちながら、ちらりとルフィ達を見遣る。が、

 

「あ、あれ……?どうしたのかね君達……?」

 

 困惑したゴルドルフの声に、皆が彼と同じ対象を向く。すると先程まで賑やかだった三人の船長達は揃って不快感を露骨に表し、あのにこやかだったルフィでさえもその額に縦皺を刻み、冷や汗がそこを伝い落ちていった。

 

「ど、どうなさったのですか皆さん⁉どこか痛いところでも……?」

 

「いや、痛みはねえんだが………痛みというか、思い出しただけで胸と喉の奥がムカついてきやがる……。」

 

「うえぇ、俺も思い出しちまった………おいオッサン、一個教えといてやるよ…………悪魔の実ってなあ、すっっっっっっっっげぇ‼まっじいんだぞっ‼‼」

 

 顔を(しか)めるキッドとルフィ、特にルフィは首を伸ばした状態でゴルドルフに顔を接近させ、「おわっ⁉」と彼が思わず()け反った勢いのままに転倒したことにより、一同はその場での停止を余儀なくされた。

 

「あたたた……いきなり首を伸ばすんじゃない!びっくりして転んでしまったではないかっ全くもう………しかしそこまで不快感を露わにするとは、そんなに不味かったのかね?」

 

「ハハハ、ごめんなオッサン………でもそうだな、俺が食ったのはちっこい時だったんだけどさ、置いてた実をデザートに食ったらコレがまじぃのなんのって!何かこう、パサパサしてんのにねっちょりともしてて、酸っぱいような辛いような苦いような………上手く言えねえけど、ものすっげぇ不味かったぞ!全部食ったけどな。」

 

「麦わら屋……悪魔の実をデザートとして食った奴は、恐らくお前が最初で最後だろうな。俺はほぼ丸呑みだったから、味の方はよく覚えていなかったが………あの時感じたのは、喉越しは最悪だったってことぐらいか。」

 

「そ、そこまで酷いものなのかね………しかし分からんな、トラウマになるほど不味いと分かっていても、君達は悪魔の実を口にしたというのか?」

 

 ダヴィンチに助け起こされながら、ゴルドルフは素直に浮かんだ疑問を口にする。

 

「俺達のいた海ってのは、力を持たねえ奴はすぐに藻屑(もくず)となる。記憶に刻まれる程の不味さと()()()()()()()って条件さえ吞んじまえば、新世界を生き抜くための力が手に入るんだ。そう考えりゃあ大したこともないように思わねえか?」

 

「むう、そういうものかね…………ん?」

 

 キッドの答えを繰り返し頭の中で再生していた時、ゴルドルフはある単語(ワード)が妙に引っ掛かることに気が付く。

 

「ちょ、ちょっと待ちたまえバーサーカー。今君の口から、カナヅチになるといった内容が聞こえた気がするのだが?」

 

「あ?その通りだ、悪魔の実を食った奴は皆カナヅチになって泳げなくなる。それがどうした?」

 

「いやいやいやいや!あっさりと言っちゃってるけど大問題じゃないか君ぃ‼海賊船の乗組員が泳げないとか、致命的にも程があるんじゃないのかな⁉」

 

「……中々痛いところを突いてくるな、ムジーク屋。悪魔の実を食べた者は海を始めとして川や湖、更には風呂ですらも力が抜けてまともに動けなくなる。しかもその呪いとも言うべき弱点は、どうやらサーヴァントになった今の状態でもしっかりと引き継がれている可能性が高い。」

 

「駄目駄目じゃないかソレェっ!!もし水中に落下したりなんかしたら、一体どうするつもりだね!?」

 

「だ~い丈夫だって!もし落っこちちまっても、そん時はゾロかサンジがいつも助けて……………あ、二人とも今いねえんだったっけ。」

 

 ルフィの笑顔が徐々に曇り、他の二人も俯き口を閉ざしてしまう。どんよりとネガティブな空気が流れ、心なしかどこからか「ホロホロ…」と奇妙な笑い声が聞こえてくるような気がしたその時、マシュが声を張り上げた。

 

「あっあの!皆さんの他にも、悪魔の実をお食べになった方々はいらっしゃったのですか⁉」

 

 暗くなってしまった空気を換えるために、せめて話題を変えようとマシュが気遣ってくれているのであろう。するとルフィは勢いよく顔を上げ、再び快活さを取り戻した表情と声で答えた。

 

「なぁっ、聞いてくれよ!俺の船に乗ってる仲間も悪魔の実を食ったヤツが何人かいてさ、人間みてえに喋ったり走り回れるトナカイがいたり、色んなとこに手とか足とかたくさん生やしたりできるヤツだったり、あとは一回死んじまったけどガイコツになったまま生き返ったりしたヤツもいるんだ!スッゲェだろ⁉」

 

 (かつ)ての仲間達を思い浮かべなから、 欣々(きんきん)とした様子で語るルフィの満面の笑顔に、藤丸は頬を綻ばせクスリと笑う。

 

「んあ?藤丸どした?」

 

「ああゴメン、変な意味で笑ったんじゃないんだ。その……仲間の話をしてる時のルフィが、凄く嬉しそうだったから、ついつられちゃって……。」

 

 頬を掻きながら弁明する藤丸に、(しば)しきょとんとするルフィ。次の瞬間、まるで曇り空の隙間から覗いた日光の様に、ぱぁっとルフィの表情が一気に華やいだ。

 

「そうなんだ!俺、早くお前らにアイツらのこと教えたくてしょうがねぇんだよっ!剣士のゾロに航海士のナミ、狙撃手のウソップにコックのサンジ、医者のチョッパーとこーこがく?のロビン、船の大工のフランキーと音楽家のブルックと舵取りのジンベエも、皆俺の大切で大好きで、最っ高の仲間達だ!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるルフィの振動を背中からダイレクトに受けながら、藤丸はうんうんと頷き返す。いつの間にか隣に来ていたローとキッドも、軽い咳払いの後に続いて開口した。

 

「あ~……うちのクルーは基本ドライなんだが、どいつも優秀な連中ばかりだ。シャチにペンギンそれと白くまのベポのことも、いつか機会がある時にでもマスター達に話してやるよ。」

 

「ハッ!俺の船だってなあ、デカさも船員の数もお前ら以上だぜ!規模の小せえ格下海賊団の話よりは、俺の方がずっと聞き応えがあると思うがな。」

 

「なにをぅギザ男っ⁉」

 

「何だとユースタス屋っ‼」

 

 三人は互いにメンチを切り合い、バチバチと顔面の間に火花が散る。再び険悪になりかける空気にどうフォローしてよいのか分からない藤丸とマシュと、ニヨニヨと笑みを浮かべて成り行きを見守るダヴィンチ。そんな彼らの耳に突如、「フハハハハハ!」と序盤で聞いたような高笑いが飛び込んできた。

 

「油を売っている暇があるかね諸君⁉このまま避難コンテナ一着はこの私、ゴルドルフ・ムジークが貰ったぞ!精々自分がビリにならないよう努めるのだな、フハハハハハ!」

 

 最早ほぼ痛みの感じることのない足をリズミカルに動かし、ゴルドルフは廊下を駆けていく。

 

「あっコラ!ズリィぞオッサ────」

 

 

 そこまで言い()したルフィの声が、ふと途切れたことに藤丸は疑念と、そして違和感を覚える。

 

 彼だけではない。ローも、キッドも、今しがたまでの騒々しさがまるで嘘であったかのように静まり返り、彼らは険しい顔で一点───ゴルドルフの背中の()()()()を凝視していた。

 

 

「止まれっ‼ゴルフのオッサン‼」

 

 

 ルフィの叫んだ声に、ゴルドルフは驚いて足を止め振り返る。

 

「わっ⁉……っとと、びっくりしたじゃないか。いきなり大声を出して一体なん───」

 

 

 

 ───ひやりとした空気がゴルドルフの(うなじ)を流れる汗に触れ、急激に温度を下げる。

 

「ひゃあっ冷たい⁉何だ何だ、一体何が……⁉」

 

 狼狽しつつも何とか気を落ち着かせ、周囲の状況を確認しようとするゴルドルフ。

 

 

 そんな彼の足元を、床を、徐々に覆っていく白い─────『氷』。

 

 

「‼……やべぇ───()()()‼」

 

 ルフィがそう叫んだ時、彼が伝えようとしている意味をいち早く理解したローは、直ぐ様行動を起こした。

 

 

「『ROOM(ルーム)───シャンブルズ』‼」

 

 

 展開される結界内で、彼の傍に転がっていた瓦礫のブロックとゴルドルフの位置が即座に入れ替えられる。

 

「おわわっ、痛っ‼いきなり何なのかね君───」

 

 バキバキッ‼と鳴り響いた音に、垂れようとしていたゴルドルフの文句は掻き消される。

 彼が顔を上げると、つい先程まで自身がいたその場所には、地面から巨大な霜柱が立っていた。

 

「ひっ、ひい、ひいいいいいい……っ‼」

 

 剣山のように鋭く(とが)った先端によって砕け散ったブロックの破片が、ばらばらと廊下の床に落ちていく。もしもあのブロックが自分であったらと、そう考えただけでゴルドルフは青ざめ、戦慄した。

 

「だ、誰が………一体誰が私を狙って────」

 

 

 

 

 

 

「あらぁ、残念ですわ───せっかく一番大きなネズミを駆除できたと思いましたのに。」

 

 

 

 

 

【TO BE CONTINUED】

 

 

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