日本国召喚 蘇る帝国   作:光翼人

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軍事は素人です


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中央暦1640年1月8日、沖合400kmの旧太平洋側海域。

投棄されたゴミや廃棄物の全く無い青く煌めく大海原を、灰色に塗られた3隻の軍艦が進んでいる。

佐世保に司令部を置く海上自衛隊第2護衛隊群隷下の第6護衛隊は、イージスシステム搭載のミサイル護衛艦きりしまを旗艦とした3隻の護衛艦から成る艦隊で2時間前に横須賀を出港し、太平洋側の哨戒任務に就いていた。

 

同じく横須賀を根拠地とする第1護衛隊群隷下の第5護衛隊が先月からパーパルディア対策に回されてしまった為、艦隊は本来の担当海域よりも広い範囲を哨戒することになっている。その分、ロデニウス戦役では殆ど出番のなかったE-767を浜松から増援として2機派遣されているが、万が一にでも数百機・数百隻レベルの戦力が分散して侵入を図れば、いかに相手の技術力が低いとはいえ対応が追いつかず哨戒網を突破される不安があった。

 

「海は平穏そのもの...天候も晴れだ。却って不気味だな」

 

艦隊の先頭を航行する僚艦のてるづきを双眼鏡で眺め、艦橋にいる他の乗員に聞こえない程度の声で呟く。

この世界に来てから急激に見る機会の増えたガレオン船や巨大水棲生物は付近におらず、降り注ぐ太陽光を反射してきらきらと輝く海を進むのは乗艦きりしまと2隻の僚艦だけである。

 

「このまま何事も無ければいいんだが...」

 

三ヶ月程前、舞鶴に司令部を置く第3護衛隊群からフェンという国の軍祭に派遣された護衛艦8隻が、自衛の為にやむを得ず他国の艦隊と交戦した。

ロウリアとの戦いが終わり国内でもようやく転移前の日常が取り戻せそうだという時に、また戦争の火種が作られてしまった。

第6護衛隊は未だこの世界で実戦を経験したことはないが、聞けばフェンで交戦した相手はロウリアを遥かに上回る大国だという。

 

国家、ひいては国民を守る為にはやらざるを得ない時があるとはいえ、可能ならば人は殺したくない。

どこまでも続く大海原を眺めながら、こんごうの艦長を務める男はそう思った。

だが、男の思いとは裏腹に、現実の状況は彼の乗る艦に試練を与えようとしていた。

 

『レーダー探知!接近中の対空目標12、左70度、距離40マイル。時速380ノット、高度700から下降中。10分後に本艦隊上空を通過するコースです』

 

艦内マイクを通じてCICからの報告が艦橋に流れた瞬間、全員に緊張感が走る。

 

「時速380ノット...艦長、既知の国家に属するものではないと思われますが、念の為変針した方が良いかと」

 

報告内容を聞いた副長は、既知の近隣国家に関する情報と照らし合わせ、噂のパーパルディアや最近国交を締結したというムーのものではないと判断する。

ワイバーンは最大でも時速200ノットでの飛行が限界であり、科学技術に優れたムーも現状判明している限りでは同程度。となれば、残るは世界最強の国家と称される神聖ミリシアル帝国の航空機か、これまで全く確認されていなかった未知の飛行生物となる。

 

「そうだな。司令、不明機との接触を回避する為艦隊の転針を具申します」

 

護衛隊の司令を務める一等海佐へ艦内電話で意見を伝える。前職はきりしまの艦長であった司令は、艦橋よりCICにいる事を好んでいた。

 

『摩擦の元は出来る限り避けろとお上には言われていたな。よし、各艦面舵30。距離に注意せよ』

 

きりしまの隊司令から僚艦2隻へと命令が発せられ、3隻は進行方向の右30度へ舵を取る。このまま何事も無く遠ざかるのだろうと、多くの者が考えた時だった。

 

『不明機群より小型目標分離、高速で本艦隊に近づく!時速560ノット、目標数およそ40!』

 

CICに座る電測員の一人が驚愕したような声で報告を発する。

 

「なっ....ESはどうだ、シーカー波は探知されているか!?」

『探知されていません!』

 

ES、即ち電子戦支援は探知した目標の種別をライブラリに登録されたミサイルシーカー波と照合することで特定する行動を指す。

海上自衛隊がこれまで収集したミサイルシーカー波のいずれも一致しないということは、異世界の軍隊が運用するミサイルであることを示していた。

 

『全艦対空戦闘用意!』

 

即座に状況を理解したのか、艦内マイクを通じて隊司令からきりしまと僚艦へ命令が飛ぶ。

明らかに日本と同等クラスの、この世界では見ることのないと思われていた現代戦が遂行できる相手からの攻撃。時速560ノットであろうともシースキミングを行わないのであれば撃墜は容易だが、如何せん数が多い上に発射距離が近い。

 

「射撃指揮を半自動管制に切り替え。スタンダード発射用意」

 

こんごう型が搭載するSM-2ブロックⅢbは、セミアクティブレーダーホーミングと赤外線誘導の併用により100km以上先の空中目標を迎撃することができる。イージス近代化改修によって最新型のベースライン9Cを搭載するきりしまも、イルミネーターレーダーによる終末誘導を行えば16の目標を同時に迎撃する能力を備えている。

 

『各艦、対空戦闘始め!』

 

前部のMk41から轟音と共にSM-2が次々発射され、各自割り当ての目標へ向かう。それに続くように僚艦2隻もESSMを発射し、LINK16によって不要な重複のないよう割り振られた目標に従い飛翔する。

 

「トラックナンバー2151から2183、撃墜。残り8発」

 

「主砲、撃ちかた始め!EW用意」

 

左へ旋回した127mm砲から毎分45発の連射速度で3基のマガジンドラムに装填されている即応弾が発射され、FCS-2による射撃管制の元接近するミサイルへ砲弾が向かう。僚艦もESSMによる迎撃を続けつつ、主砲による迎撃を開始する。

 

『...目標、全て撃墜しました。不明機編隊は反転』

 

「どうにかなったか...だが油断は出来んな」

 

一先ずの危機を脱し、艦長は席に座って双眼鏡で外を見る。日本以外に空対艦ミサイルを大規模運用している国家があるとは誰も考えていなかった。

その上、突然攻撃してくるとは。ロウリアの時やパーパルディアなど比ではない程強大な軍隊と敵対する可能性が出てきてしまったことに、思わず溜息が漏れた。

 

『レーダー探知、対空目標8!230度、距離10マイル!』

 

「っいかん!CIWS攻撃始め、衝撃に備え!」

 

前後2基の高性能20mm機関砲が全自動制御を始め、探知した目標へ砲を指向し毎秒45発の徹甲弾をばら撒く。

しかし、本来1発でも命中すれば破壊できる筈のミサイルは初弾を弾き返して突き進み、きりしまへ向け突進する。

瞬間、色とりどりに煌めく巨大な爆炎が2発の命中箇所に生じ、一瞬できりしまを飲み込む。極微小な量ながら対消滅弾頭を搭載した隠蔽型魔科学ミサイルは、先に発射された40発の囮が全て迎撃されるのを尻目に海面ぎりぎりの超低空飛行で艦隊へと近づき、瞬くまに3隻を轟沈させた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

グラ・バルカス帝国、帝都ラグナ。帝王府地下シェルター内に設けられた臨時の執務室。

急造の玉座で無言の圧を発していた帝王グラ・ルークスは、執務室に帝都防衛の最高責任者であるジークス陸軍中将が現れたのを見ると、待ちかねた様子で問いを発した。

 

「状況を報告せよ」

 

顔面蒼白のジークスは、淀みながらも集めてきた情報を噛み砕いて帝王へ報告する。

 

「はっ...先に行われた正体不明物体の攻撃により、ラグナに本部を置く政府機関の7割が機能停止状態にあります。陸軍省、海軍省は辛うじて直撃を免れましたが、警察省と消防本部は跡形もありません...。電話交換局、ラグナ中央駅、帝都大病院も半壊状態です」

「民への被害は」

「依然として続く大火災の対応に追われまともな集計もできておりませんが、市全体の被害状況から推定致しますと...およそ150万以上かと」

「...そうか」

 

そう答えたきり、沈痛な顔で俯いた帝王は物思いに耽る。

全てが常識を超えていた。

帝国本土には対空レーダー網が張り巡らされ、ここのところ数を減らしてたとはいえ哨戒機も飛ばしていた筈だ。ましてや帝都にはケイン戦役時に建設された高射砲塔が複数建てられ、高性能なレーダーや防空兵器が優先的に配備されていた筈。それら全てを易々と突破してあの物体は帝都上空に現れ、一瞬のうちに全てを焼き払ってしまった。

 

「...陛下、報告を続けて宜しいでしょうか」

「ああ。頼む」

「以上は帝都が被った被害に関しての報告です。ここからは帝国全体で確認されている情報をご報告致します」

 

相当急いでタイプされたのか、手動で誤字を修正した痕跡のある報告書を捲ってジークスが続ける。

 

「デウリア湾に停泊していた中央第一艦隊、及びカーラ港に寄港中の中央第二艦隊が壊滅いたしました。港湾設備も同時に攻撃され、甚大な被害が発生しております。加えてラグナへの物体出現と同時刻に他の主要都市でも物体が現れ、攻撃によって大きな被害を受けたとの報告があります。現在帝国本土各地の基地から陸軍の部隊を出動させて救援に当たらせていますが、主に医薬品の数が不足しています。そこで戦略備蓄を解放する許可を頂きたく思うのですが...」

 

元の世界においては海外領土の多かったグラ・バルカス帝国は、万が一海上交通が全て寸断された時に備えて各種の戦略物資を大量に備蓄している。

軍が管理する本土各地の施設へ保管されているそれら物資の中には、医薬品や嗜好品といった民の暮らしを維持するためのものも含まれていた。

 

「許可する。全て使っても構わぬと伝えよ」

「はっ!直ちにお伝えします」

「....それより、件の物体の消息はまだ掴めぬのか」

「出撃可能な航空機と艦艇を動員し目下全力で捜索中ではありますが...未だ一機も発見できておりません」

「急がせよ。必ず代償を支払わせるのだ」

「はっ!」

 

恭しく礼をして執務室から退室したジークスの報告を脳内で咀嚼し、この後どのように帝国を導くべきかを考える。

人口500万を数える帝都で150万が死んだのだ。帝都一極集中の嫌いがあるとはいえ、他の大都市で失われた人命も含めれば帝国は総人口のおよそ1割をこの攻撃で失っているだろう。加えて軍は大損害を受け、海軍は主力艦隊を二つ失った。僅か数分の内に帝都を焼き払える相手だ、他の艦隊や空軍基地も無事とは思えない。

 

方針を大きく転換する必要性を感じながら、帝王グラ・ルークスは壁に掛けられた帝国本土地図を眺めた。

 

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