やれゼロ戦とフォッケウルフだグテイマウンだ原爆だ、補給だ何だというのがめんどくさくなっちゃった。
____みゃあみゃあ
時刻は既に午後を回り、心地よい風がウミネコを空高く羽ばたかせる。
堤防の上には一人の細見の男が釣り糸を垂らしていた。
上はランニングシャツに下はきれいな白いズボン、セルフレームの丸眼鏡をかけたその男は30になったかどうかという頃合いの見た目であったが、頭には将官用の軍帽を被っておりどうもちぐはぐ勘が凄まじい。
男は傍に置いてあった[金鵄]を一本咥えると慣れた手つきでマッチを擦り火を付ける。
吸われた煙の大半は男の口からだらしなく漏れ出ていった。
「キミィ……こんな所でなに油売っとるんや」
「おぉ、龍驤か」
「おぉ、じゃああらへんよ。何こんな所で呑気に釣りをしてるか聞いとるんや!」
「呑気とは失礼な。海洋調査だよ……食う?」
男は籠から得体のしれない魚を取り出し見せる。
「いらんわ阿保! 訳分からんセカイに連れてこられたんやから、
提督なんやからもちっとしっかりして欲しいわホンマ! 」
龍驤と呼ばれた少女(?)に叱られ、提督と呼ばれた男は渋々道具を片付けると、彼女から上着を渡されしぶしぶ着た。
(どうしてこうなったんだろうなぁ)
提督は艦娘の待つ指令所へ向かいながら転移初日の事を思い出していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
数週間前
メロディサイレンが軽快な音楽と共に昼を告げる。
「あ~昼だ、午前の業務は終わり!」
彼の名前は「
手に持っていた書類をポンと投げ出すとやおら金鵄を取り出し……
カッ
「わっ!」
突如閃光弾が撃ち込まれたと勘違いする程の閃光が鎮守府を襲う。
提督は机の端においてある赤いスイッチを迷わず押した。
その瞬間デフコン1相当の緊急時を意味するサイレンが基地になり響く。
この基地にいる艦娘、および戦闘要員の全てが戦闘態勢に移行する、提督も例外ではなく提督室直通の地下指令所へ降りる。
白熱電球が照らす地下指令所にはすでに指揮権を持った上位クラスの艦娘が待機していた。
「状況は」
「現在被害を確認中、医務室には閃光による視覚障害を訴えるものが多数だ」
「基地施設は被害は確認できておりません」
「放射線反応はどうか?」
「放射線及び毒瓦斯等の化学反応は確認できませんでした」
「本土、および周辺基地の無線断絶、いずれも復旧の見込み無し」
「全戦艦はN弾を装填して警戒に当たるように、射撃は各自の判断に任せる」
「……そうかN弾を、……了解した!」
長門は一瞬、たじろいだが直ぐに敬礼を返してドックに向かう。
提督は脂汗を拭いながら、腕時計を見る。
「そろそろ水偵はナウイナウイ泊地に着く頃合いだが……」
金鵄も三箱目に手を出そうという時、無線機に齧りついていた大淀が飛び跳ねた。
「提督、入電です! ナウイナウイ泊地は消失、繰り返しますナウイナウイ泊地は消失!!」
「馬鹿な! 幾ら核たって島を跡方も無く消すなんて……ありえん!」
愉快なアメリカ艦娘達の陽気な笑顔が脳裏に過ぎる。
「……ちょっと待って、あり得ない……」
「どうした、何があった!」
「はッ、ど、どうやら。 ナウイナウイ泊地近海に見た事のない島があり……」
大淀の表情は到底信じられない物を見聞きしたという顔をしていた。
「続けて」
「そこにドラゴン、ええ、無線が間違いなければドラゴンが数匹羽を休めていたと……」
提督は顔をしかめて眉間をつまみ、思わず声をひりだす。
「誰か助けてくれ」
地下指令部にいた面々の切実なる思いであった。
重苦しい雰囲気を切り裂く様に電話のベルが鳴る。
「こちら第三指令所、要件を端的に……」
「こちら第15試験場要塞東部観測所! 大変だ怪獣だ! 怪獣が出た! ギャオスだ! ギャオスが出た!」
観測所隊長の大声に思わず顔を顰める。
「ふざけんな! どうせ酒飲みながらガメラでも見てたんだろ! 砲身に詰めて撃ち出してやる!」
「違う本当です! たった今対空砲で一騎落としたので、今トラックに載せてそっちに向かっています!!!」
「なにぃ!? おい! ……切れた」
「提督! おい提督! 開けろ!」
乱暴にドアを叩く音がするので開けるとフル装備の天龍がおり、後ろには同じく艤装を付けた駆逐達が慌てて外に駆けだしていた。
「い、いま! 化物を乗せたトラックが来るってんで俺達第4水雷戦隊が護衛で呼び出されたんだ! 提督も早く来い!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
既に港湾にはトラックが止まっており、水雷戦隊と軍医が準備を進めていた。
「降ろすぞ! いっせーの!」
天龍達の手でドラゴンが荷台から降ろされる。
「これが……そのドラゴンって奴か」
提督は信じられないといった風に対空砲でズタズタにされたドラゴンを見る、天龍、大潮、朝潮といった艦娘達も興味深々だ。
「胴体に後ろ足、前足は翼の先……こんな生き物、当然地球上には存在してません」
「深海ヤローの新兵器か?」
「人間の使う兵器で倒せたのでそれは違うと思いますけどね」
早速軍医は解剖に取り掛かる、余りの堅さにメスが通らないので金切り鋏とサンダーで地道にバラす。
「内臓の仕組みは余りトカゲと変わりませんね……む、見た事無いところに変な器官があるな」
写真を撮りながら解剖し、喉元に迫ったその時だった。とある器官につながる管を切った瞬間、ガスバーナーの様に火が噴き出したのだ!
「逃げろッ!」
軍医がそう叫ぶなり周囲にいた提督一同は退避用の土嚢陣地に飛び込んだ。
すぐさま天龍達の特殊消火器により鎮火される。
「あっぶねぇ……震えが止まらねェよォ」
「なっさけねェなァ、ほら見てみろよ提督、この脂で燃えたんだろうよ」
既に鎮火されたがまだ熱のある残骸を軍医が見ていた。どうやら喉元あたりに差し詰め炎袋というモノがあるらしい。
「本職には頭が上がらんよ……しかし本格的に俺たちはどうなっちまうんだ、ここは何処だよ、深海棲艦の仕業なのか? ああもう何も分からん!」
「提督のお前はしっかりしろよ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
『全艦、帰投せよ。デフコン1は解除、デフコン3に移行。繰り返す全艦、帰投せよ。デフコン1は解除、デフコン3に移行』
現在は第一指令所に場所を移して今日の出来事についてまとめを行った。
「全艦帰投損害無し、友軍はおろか深海棲艦も見られなかったそうだ」
「本土との通信は何度も試しましたが、いずれも成果なしです」
「潜水艦達の話では海底の地形ががらりと変わっているとの話です」
「じゃあなにか、この基地がどこかの世界にワープしたっていうのか? 駆逐艦エルドリッジの様に?」
長門は[鵬翼]を灰皿にぐいと押し付ける。
「現状、そうとしか考えられん、ありえんがな」
「ハハッ! 気が狂いそうだ」
「ホントに本土及び周辺基地から断絶されたとしテ、気になるのは燃料や弾薬、嗜好品の事デース! 特に紅茶! 紅茶が切れたら死にマース!!」
「紅茶は別として確かに食料の事は何とかしないとな、最悪運動場を耕さないといかん」
「車は木炭車ね、もっとも材料になる木も足りないのだけれど」
「紅茶が切れたら狂いマース!!」
「おい、誰かあの紅茶キチガイを追い出せ」
「ケ!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
夜も更け、卓上の灰皿は吸い殻でいっぱいになっていた。
「では……翌日偵察隊を編成し各方面に偵察を行うという事で、異論はないな」
提督は疲れ切った顔で書類を纏めながら問う。
「あぁ、問題ない」
「私も異論ありません」
「その方向でいきましょう」
「では、解散!」
余りに波乱に満ちた初日であったが、これよりこの[第15試験場要塞]は新たなる世界の更なる荒波にもまれる羽目になるのである。