戦神一刀 “唯1つ、刀を極めた侍が往く”   作:夕陽に影落ち

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1度消えた火って燃えないんですね……





閑話・【邂逅は唐突に、されど理不尽は平等に】

 

 

 

不運と幸運が綯い交ぜになった予期せぬ遭遇。

あれとの邂逅は、言葉にあらわせばたったそれだけの呆気ないものなのだろう。

たかがその程度と思わなくもないが、ソロで活動するプレイヤーにとってそのエンカウントは命へ突きつけられる刃と成り得る。

 

時はまだ、ウサギ狩りの最中。

 

「む?」

 

その異変に、異質さに、違和感に。八千流が気付くのは、角ウサギの群れよりも先だった。

 

βより最強の名を欲しいがままに(が勝手に独り歩き)した侍、その中でくぐり抜けた幾度もの(PVPを挑んでくる上位勢のバカ連中との)死戦から培った生存本能……もとい、殺意と気配の察知力がざわつき始めた辺りから。

 

(なんだ)

 

20匹は越える角ウサギの飛びかかりを躱し、いなし、時にカウンター気味に切り捨てながら八千流は、異質すぎるその気配をプレイヤーとしての嗅覚で嗅ぎつけた。

 

漠然と、ただそこにあるだけのような、何重にも毛布や厚布を重ねて覆い隠されたような異質な気配が辺りを包んでいる。

 

綿毛すらも揺れ動かない凪いだ風。それでいて陽の光を吸った干し草のような香りを連想させるような気配。

穏やかに、それでいてシンとした静寂に腰を下ろしているような気配。

敵意はない。悪意もない。

ただ、ただ居るということだけが理解るその異常感。

 

ウサギの数が減る。

 

「何者か……只者でないことは確かか」

 

飛び交う毛玉をしのぎ続けるその中で、視界の端に緑色を捉えた。

突進に慣れた目に入ったのは草狼の緑毛。

 

何かは居る。それは確実。

飛び交う角ウサギの中に草狼が混ざりだした。

今の数は1……2つ増えて3匹。

 

「あぁもう厄介な……!」

 

1匹の草狼を切り捨てれば2匹の新手が入る。

角ウサギは変わらず数を減らす。

 

「……ちッ!ふんっ!」

 

草狼は角ウサギと違って素早く動き回るうえに、多方面から追い込むように、時には角ウサギへ気を取られている最中に強襲してくるような厄介な手合いだ。

 

噛みつかれてしまえばまとわりついて重石となり、爪で裂かれればそこそこのダメージを負う。

が、そんな狼も利用してやればウサギにとっては十分なダメージソースと成りうる。

 

「シッ」

 

呼気ひとつ。

刀を寝かせて横っ面をはたくように殴りつけて、強引にいなした草狼の噛みつきを角ウサギの突進に合わせる。

そのままの勢いで横腹に食らいついた草狼はこれ幸いと獲物を咥えて一時戦線離脱。

 

「エネミー同士のッ!敵対関係が成立しておるのが、救いでござるなぁ!」

 

草狼は増えてない。

ウサギは減るそばから草陰から飛び出しては補充されている。

 

「あぁ、段々と思い出してきたぞ……そういえば始めたばかりの頃、アンブッシュ(不意打ち)されて狼に噛みつかれてからの角ウサギ突進フルコースが死因のトップであったな……」

 

かつて八千流だけではなく、ほとんどのβテスターも通ったであろう道の懐かしいような情けないような追憶にひたりながら、それでもその手足は止めない。止められない。

 

斬ってなお増え続けている角ウサギや草狼を放置して、その特攻じみた攻撃頻度を減らすことを疎かにしようものなら、すぐさま手に負えない数まで溢れかえって集中砲火を食らってしまう。

 

 

いなす。躱す。斬る。

 

避ける。いなす。いなす。斬る。

 

躱して斬る。

いなして同士討ちさせる。躱す。

 

いなし損ねてHPが減る。避ける。斬る。

 

躱す。斬る─────

 

 

 

「某もあの頃とまるで変わっておらんなぁ!」

 

斬って斬って斬って斬り捨てる。

刀が当たった相手を倒したかなどわざわざ確認しない。

振り抜いた刀を構えなおす暇があるなら、振りきった武器の遠心力を『溜め』に変換して次の獲物へ打ちこんだほうが効率がいい。

これまでそうやってきた。

これからもそうするしかないのだろう。

 

(それにしてもキリが無いでござるな。戦闘音を聞きつけたであろう草狼はともかく、何故こうも某へ集まってくる)

 

草の海から、まるで怯えるように飛び出して数を増やす角ウサギ。斬って、斬って。数をこなせど際限なく湧き出すそれは、怯える『何か』に追われて逃げおおせているように見えた。

 

ウサギが‌ ‌ ‌ ‌ ‌減った

 

怯えて逃げるのは草狼が故か。……とも八千流は思ったがそれは違う。

なにせ初心者プレイヤーでも狩れる程度の角ウサギとはいっても、5匹いれば草狼の一匹を相手取って仕留めることは十分に可能だったりするから。

 

3匹以上の草狼が相手ともなれば確かにウサギの分が悪いだろうが、それでもこれほど沢山の角ウサギが揃えば、その物量にものをいわせて押しつぶせる。

数は武器となる。単純であるがゆえに強い手なら、たかが数匹食われたとしてもそれで遅れを取ることは無いだろう。

だが、それでも。

 

「いい加減、しつこいでござるよ……!」

 

いくらなんでも多すぎる。

 

 

躱して、斬って、避けて、反撃して、躱して、いなして、斬って、斬って斬って斬って─────

 

 

 

草海の遙か奥より狼の遠吠えが薄らと響く。

 

長時間の戦闘で疲労した八千流はそれに気付くことなく戦い続け、最後に残った数匹の草狼の数を減らしたのちに、狼の影がそれ以外に見えなくなっていることに気付く。

 

 

ウサギが

 

 

‌ ‌ ‌ ‌ ‌ ‌ ‌ ‌ ‌ ‌‌‌‌ ‌ 減った

 

 

 

 

 

さくり

 

 

首筋を舐める生ぬるい獣の吐息の気配。

 

 

さくり

 

 

戦場にいるはずなのに、まるで陽向のような心地よい気配が忍び寄る。

 

 

さくり。

 

 

「──────────……」

 

 

 

 

 

   ゾ  ワ  リ

 

 

 

 

幻死。

 

 

     数瞬だけ

 

 

   脳裏に過ぎたそれは、

 

 

 まるで

 

 

未来予知のような──

 

「……あ」

 

そこ

 

草狼が左から駆けてくる。

 

正面には角ウサギ。

 

倒れた草とその根が踏み固められて補強された地面は、余すことなくウサギの脚力を受け止めて突進の勢いに貢献してくれることだろう。

 

 

 

判断次第で千変万化する戦場で戦いに浸りきった思考は、この状況をさてどうしようかと思案する。思案してしまう。

 

(受け流しは先程から使い続けている。学習型AIをモンスターに積んでいるTWO産のエネミーには対策されはじめている。ならばウサギをどう躱……いや躱すな。学習傾向を逆手に取ればあるいは──)

 

ちなみにだが躱す云々と考えても、角ウサギは学習しようが突進しか出来ないから関係なかったりする。

初心者エリアに攻撃学習するモンスターを配置するほど鬼畜じゃない。

 

(草狼の噛みつき──鼻先を浅く切りつけて怯ませるか?隙はヒットストップで強引に作り出せる。なら、首から刀を突き込んで突進する角ウサギの盾

 

いる

 

 

 

 

  「────ぃ

 

 

 

突然だった。

 

 

唐突だった。

 

 

思考にリソースを割き、狼の鼻先に浅く斬り込みを入れつつ角ウサギの突進を警戒する中で不意に意識を逸らし、得体の知れない気配を忘れた一瞬。忽然と姿を消していた『ソレ』が突如として溢れ出た。

 

 

「るォぁッ!!」

 

だが、反応は遅れなかった。

 

かつて八千流が、まだエンジだった頃。

戦場を駆けずっていたその体に、文字通りの意味で擦り切れるほど染み込ませた動作。

緊張した体から即座に膝を抜き、重心を自ら崩して素早く身を伏せる緊急回避をためらいなく実行する。

 

そして上体を逸らして頭が腰の高さにまで下がった瞬間、それに覆い被さるようにずらりと並んだ鈍色の牙がトラバサミよろしく

 

ガチンッ

 

と閉じた。

 

前髪を掠め、空中を飛んできていた角ウサギが悲鳴すら上げることも許されず噛み砕かれる。

 

「──!……ふ、ぅ」

 

目の前で噛み合わされた必殺の一撃に一筋の汗を流し、しかしそれを避けられたことに安堵する───が、それも束の間。

呑気に一息つけるとでも思ったかと言わんばかりの追撃がすぐそこに迫っていた。

 

人間の胴体ほどもある太い獣の脚が八千流の頭上へ振り上げられ、残像を残してその身に迫る。 (あっ肉球)

 

赤茶けた残像を曳いて地に叩きつけられたそれは、まるで大砲でも爆発したのかと錯覚するほどの衝撃と暴風を八千流の隣で(・・)打ち鳴らし、立ち上がろうとした膝を揺らす。

 

その脚に叩き潰されていたのは、鼻先を斬りつけられて怯んでいた元草狼のポリゴン塊。

 

一瞬気を取られたその時、次はお前だと反対の大爪が振りかぶられた。

 

「こんのぉ!こなくそぉぉいッ!!」

 

高まった集中力で加速した思考と視界の中で、毛の奥に見える暗い赤銅が目立つ。表面の褪せた色も相まって、まるで大樹が横薙ぎに迫っていると錯覚するほどの大きさだ。

八千流は大爪の攻撃を、獣に背を向けてなりふり構わず攻撃範囲から逃げ出した。

 

「ッ……はは、やってくれおったな」

 

勢い任せに強引に飛び出した体に素早く受け身を取り、歯噛みしてそうこぼす。

八千流が身を投げ出す刹那に感じた違和感より、ちらっと目を向けたのは、視界の隅に透過表示されているステータスバー。

 

細かく回復を挟んで7割ほどは残していたHPが、今の横薙ぎをほんの少しだけ掠ったのか、それだけでドットがかろうじて残る程度にまで削られた。

 

「すぅ………ふぅぅぅ…」

 

蹲るような低姿勢で茶毛の大狼を睨みつけ、一息に空気を絞り出すように吐き流して肺の中身をからっぽにする。

静かに息を吸い込めば、八千流の呼吸と思考は既に整っていた。

 

「某が相手取るには、早すぎるのであろうが……」

 

誰に聞かせるでもなく独りごちた八千流は立ち上がり、前を見据える。相対するは枯れ草色の毛並みをなびかせた大狼。

ひと欠片の希望を賭けて、威風堂々の佇まいをした狼にプレイヤーに標準取得されている簡易鑑定を発動するが……

 

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

BOSS Enemy

【老い褪せた草枯れの大狼】

 

 

詳細:unknown

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

 

 

unknown 。つまるところ詳細不明、何も分からないと表示された。はぁ……つっかえと心の中で呆れる。

これはつまるところ、彼我の実力差が途方もなく離れていることを意味している。

 

「ボス個体……それも通常の種とも似つかぬ変異体とはな」

 

変異体。分かりやすく言い換えるなら、同一種の中で稀に出現する出現率の低いレアエネミーのことである。

 

通常、この【深草の海】を根城とするボスは【枯れ伏せの古狼】という老いた草狼であり、その外見も草狼より毛皮の緑が若干深く、体格もひと回り大きい程度しかない。

 

群れを率いて獲物を追い込み、自身はほかの草狼よりも優れた擬態能力でフィールドと同化しながら機を待ちながら誘導、確実な隙をついて襲いかかるハイド&アンブッシュを得意とするボスだと調べはついている。

 

対してこの大狼はどうだろう。

 

枯れ草、というよりも赤茶色が褪せたような渋色の毛皮が(しわが)れた大樹を想起させ、見上げるほどの体高がある。

元ボスの古狼よりも遥かに高い攻撃力と、その巨体と体色でどうやって隠れて見えなくなるんだとゲーム的にしちゃいけないツッコミをしたくなる隠密性。

 

明らかに『草狼』などという低レベルのうちに倒せるモンスターカテゴリから逸脱しすぎている。

 

ならば、あらゆる要素において【枯れ伏せの古狼】の上位互換と見るのが正しいはず。

 

片や悠々と八千流を見下ろす巨大な狼。

片や初心者と言わんばかりのただの人間。

 

この闘争の結末は、と万人に問い、万人に答えを聞けばその全てがこう答えるだろう。

敗北は必至だと。

 

 

 

 

「はは」

 

 

けれど

 

 

「これもまた」

 

 

このサムライ馬鹿が

 

「まぁ一興であるよなァ!」

 

この程度で止まるはずもなし。

 

 

長時間の戦闘を続けたおかげで、アバターの状態異常はおろか精神的な疲労状態も抜け切っていない。おまけに巨狼どころか、角ウサギにさえ小突かれた程度で砕け散るようなHP。

 

ほとんど死に体ともいえる体で刀を握りなおし、踏み込みとともに前傾姿勢になって一気に最高速へ加速する!

 

「疾ッ!」

──ジィィンッッ

 

真正面から突っ込んで刀を振るが、巨狼の持ち上げた前足の爪で弾かれた。

持ち上げられた足がそのままスタンプ攻撃に変わる隙を潜り抜けて、胴体へ突き──を放とうとして悪寒が走る。

実際にその予感は大当たりで、大きな顎が上から襲いかかってきた。

 

「とっ!」

「──ヴルル!」

 

咄嗟に身をかがめて噛みつきを空振りさせる。

そのまま狙いを変えて牙の根元に刀を突き立てれば、巨狼は苦しげな呻きをあげて一瞬だけ震えて硬直した。

 

(弱点部位のヒットストップは有効 !)

 

「この……ままッ!!」

 

八千流はそれを好機と見て、突き立てた刀に膝蹴りを叩き込む。

所詮は初期武器。脆い部位に当たっても大したダメージなど与えられるはずもない。

 

だが、いくら攻撃も耐久も低い刀カテゴリの武器といっても初心者装備。条件付きとはいえ、その武器に備えられている耐久値無限の効果によって、どれだけ無茶苦茶に扱っても問題ないがゆえの暴挙が牙を剥く。

 

生木が折れてひしゃげるような、生々しい音が聞こえて。

 

 

 

1本の牙が折れた。

 

 

「あっ」

 

 

八千流と巨狼の目が合う。

 

苛つき混じりの殺意に触れる。

 

不愉快な存在に傷を付けられたと物語る眉間の皺。

 

つう、と停止した時間の中で頬に冷や汗が伝う。

 

「……某を」

 

次の瞬間。

 

「そう易々と仕留めらr(れると思うでないぞクソボス)

 

八千流の目には残像すら残すことを許されなかった速度で、巨狼の凶爪により上半身が消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 






長くなったし視点変わるのでオマケとしてもう1話
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