にインスピレーションを受けた三次創作です。
合計五万字ほどの中編を予定しています。一万字程度は書き溜めています。
「そっちは大丈夫かコベニちゃん!」
暴力の魔人さんが心配してくれる、だけどそれどころじゃない。
「わた わた…わ…私の車が……車っ」
岸辺隊長と敵の一人の落下のクッションになり、私の愛車、黄色いフィアット500が完全に廃車になってしまった。
味方に化けた敵とデンジ君をパワーちゃんが撥ねて、かなりフロント部分がボコボコになっていたけど、まだ乗れると思っていた。
けどこれでもうおしまいだ。兄の学費として搾り取られた残りカスの預金を使って買った、やっと持てた自分だけの所有物。それが今完膚なきまでに叩き潰された。
「車ぁ……」
ピアスの男の人も落下していった。また自分の車をクッションにするのかと思ったが、彼は蛸の悪魔をバンジー紐にしたのでそうはならなかった。
その後、十秒くらい後だろうか、ビルが暗闇に閉ざされた。不思議なことに、暴力さんのことは見える。
「なんだこりゃ~!」
「え…?え…?」
だが、暗闇の中から、人間の二倍くらいの大きさの蟻がぬるりと飛び出してきて、私の体をがっちりとその顎で掴む。
「コベニちゃん!?クソ、今助け」
だが、蟻の酸か何かだろうか。それが腰を濡らしたかと思うと、服が溶けてきた。
服が溶けるだけではない。体がどんどん縮まっていく。徐々に小さく、知能も小さく。
覚えている最後の記憶は、蟻に運ばれ巣穴の中に入っていく記憶だ。
肉の孔から排泄され、大気に触れて反射的に呼吸をする。
「おぎゃっ、おぎゃっ」
耳の近くで赤ん坊の泣き声がする。正直あまり好きではない。
「生まれましたよ、元気な赤ちゃんです」
誰かが私を持ちあげて言う。
この時点で嫌な予感はしていた。
目を開ける。そこには、私を持ちあげる助産婦……の格好をした蛙人間がいた。
「ぎゃああああああ!!」
どうやらここは地獄のようだ。私を産湯に浸からせた蛙の悪魔だけでなく、産婦人科の熊の悪魔やら、普通の人間に見えても指が長かったり宙に浮いていたりと、悪魔や魔人の棲む病院、といったところか。退院するころにはすっかり慣れてしまった。
私をこの世界に産んだ母?は猿の魔人である。父は不明だ。尻尾と耳と手が猿の形をしているだけであとは人間に見えるが、時折癇癪を起こして鳴くのがかなり鬱陶しい。退院して家に帰ると、自宅は繁華街の近くのマンションの一角だった。
数年間、地獄で養育されて理解したが、地獄も大して人間の世界と変わりないらしい。建物も、道具も、使っている文字も。悪魔なのに自分たちのことを人間と呼んでいるのは少し面白かった。地域によって言葉の意味は変わるものだ。
母は私に構うことなく、男遊びに散財にと夢中なようだ。一応金は持っているようなので、ベビーシッターが居なくなった後は財布から掏って自分の食費を賄っている。財布には大量に万札が入っているため、数枚抜かれるくらいでは気づかれはしないだろう。
小学校に行くことは許してくれたので行くことにした。入学に必要な書類は全部自分で書いた。わからないところは適当に書いた。
小学校に入学して最初の定期健診の時、"個性"検診をしていないのかと驚かれた。個性とはなんぞや、と聞いてみると、悪魔が使う異能のことをそう呼んでいるらしい。
私の個性も診断してもらった。もしかしたらデンジ君みたいに変身する異能を持っているかもしれない。人間を辞めたくはない反面、変身したいという欲求もある。
私の個性は「人間」、人間っぽいことを人間以上に出来るらしい。なんじゃそりゃ。
つまり実質無個性(無能力)ということで、医者にも苦笑された。そして「その早熟さなら無個性でもヒーロー以外ならなんでもなれるさ」とも言われた。
ヒーローとは何ぞや、と質問して先ほど以上に驚かれた。ヒーローとは、人命救助や犯罪者への対処を“個性”を用いて専門的に行う国家資格及び職業であるらしい。「年頃の子供はヒーローに夢中なんだがねぇ」と医師。私女子なんですけど。
小学校では、低学年のうちは実質“無個性”であると虐められた。火を吹き付けられたり水の弾を投げつけられたり。それにビビって不登校になることも母が許さない。昼間のうちに男を連れ込むのを邪魔したらあの雌猿に殺される。
つまり、立ち向かう選択肢しかない訳だ。
「あなたたち……火吹の取り巻きの人たち、ですよね」
「なんだよ、東山じゃねぇか!今日も火吹君が髪の毛焼いてやるからバケツ用意しとけよ!」
「そのひちゅようは……必要はないです」
「嚙んでやんの、ぎゃははブッ!?」
笑われたので、腹を蹴る。怯ませて顎を拳で揺らして気絶させる。姫野先輩が岸辺隊長から教わった技を私も教えてもらっていたのだ。
体は、というか魂は覚えているものだ。まだ油断している悪魔のガキどもをそのまま立て続けに蹴り殴り気絶させた。
「東山ごときが、俺の友達殴るんじゃねぇ!」
「俺の取り巻きの間違いでしょ」
乱入してきた火吹が吹いた炎を低姿勢で搔い潜り、そのままタックル。倒れたので両手で首を絞めて呼吸を阻害し火を吹けなくする。
酸欠で気絶したところで手を放す。首締め中、顔を見ていたら腹が立ったのでさらに顔面を蹴っ飛ばす。
そんな感じで対いじめっ子戦線はあっけなく終結し、私は教師にこっぴどく叱られる羽目になったのであった。
小学校は、割と楽しい。それが強者の理屈なのは間違いない。そう断言できるのは、前の世界で弱者を、そしてこの地獄で強者を体験した私だけが言えることだろう。
強個性の火吹をぶちのめした結果、私はクラスカーストの頂点に立った。中学生や高校生になれば学力や容姿、コミュ力などが絡まり複雑化してくるクラスカーストだが、この世界の小学生のうちは単純、喧嘩の強さがクラスカーストを決定する。後足の速さ。男子の場合は、だが、女子の場合でも少なからずその傾向はあるらしい。
とはいっても、クラスカーストの頂点を維持するほど器用でもなく、学年が代わりクラス替えがあるとコベニ最強論の風説も薄れてカースト中の上といった感じの小学校生活を満喫できるようになった。
母親はネグレクト気味で、歳を経るごとに老けてイライラしているし、悪魔や魔人、超人が跋扈しているとはいえ、前世よりはニュースなども物騒なものは少ないし、この世界、地獄とは言っても前の世界よりマシなのでは?
サブタイトルはMAD内で使用されている楽曲、BRADIOの「オトナHIT PARADE」を引用するつもりです。