五話ほど連日更新したいと思います
―――荼毘視点―――
親父は、火力の上げ方しか教えてくれなかった。
それだけじゃ、実戦では使いようにならない。それを瀬古杜岳の事件で思い知った。孤児院で目覚め、そこを焼き払って逃げてから、俺はずっと他の『個性』技術を模索していた。
コントロール精度も上げた。そこで、俺は一つの技術を発見した。
炎の圧縮。体内に炎を留めることで、熱量を増大させる技術。
おそらくは車輪の再発見に近い。親父はこの程度、当然出来ているだろう。
だが、当時の俺にとって、それは父親を打ち倒すための蜘蛛の糸だった。
炎の圧縮・保存技術を、ひたすらに延ばし続けた。
『
親父にはない、俺だけの赫灼熱拳。指の中で限界まで熱量を溜め、それを熱線として放射する。
指は瞬時に炭化するため、数秒間しか熱線は放てない。しかし、一万度の熱を数秒放てば、大抵の物質は溶解もしくは炭化させることが出来る。
その一撃は、彼の魔王の眼球を、焼き潰すことに成功した。
「ぐぅ、クソ!脳まで湯立つところだったぞ、荼毘!貴様、貴様の恩人も友人も、地の底まで追いかけて地獄に追いやってやる!」
「させるか、オールフォーワン!目が潰れて何も見えまい、これで、貴様の野望も終わりだ!UNITED STATE OF SMASH!!!」
盲目のAFOに、オールマイトは渾身の一撃を放つ。
それを俺は、炭化した左手の小指を抱えながら、呆けた目で見ていた。
足から噴射した炎を止め、コベニを抱えながら海へと自由落下していく。
大きな水しぶきの音と共に、俺は気を失った。
―――コベニ視点―――
水しぶきの音で気絶から目が覚めた私は、気絶した荼毘を連れて必死に泳ぎ、東京湾のコンテナに紛れ込む。
人目が無さそうな裏路地に座り込んだ私は、ようやく日本に舞い戻ってきた実感と共に、二つの恐怖で狂いそうになっていた。
一つは、私が東山コベニではない、どころか人間ですらないかもしれない、という内面的な事象に端を発する恐怖。
もう一つは、AFOを本格的に敵に回したという恐怖。やり遂げた後に、恐怖と後悔が脳内を巡る。
半日ほど経ち、荼毘が目を覚ました。
「だ、荼毘……私、私!」
「あぁ!?何を喚いてやがる。AFOは、少なくとも重傷を負った。逮捕されたか?」
「いや、分からないけど……」
「……?ああ、そういうことか。心配すんな。この超人社会、蠢く肉の塊になれる人間なんていくらでもいる。お前は、人間だよ。寝泊まりするとこも必要だな。質屋に貴金属のピアスでも売って、その金でしばらくネカフェで暮らすか。金ねぇから二人一部屋、大丈夫だな?」
「あ、え、うん……」
そういうことに、なった。
荼毘は、私とは違い、AFOとの連絡用のメールアドレスを持っていたようだ。
恐ろしいことに、AFOはあれから逃げ延びたらしい。荼毘の見立てだと、オールマイトと相打ってお互い重傷だそう。
AFOから私たちに届いたメールは、犯行予告。
『まずは君たちを知っている者から殺す。次に親しい者を殺す。最後に君を殺す』らしい。
荼毘には死んでほしくない家族も、友人もいない。
だが、私は別だ。義爛さん、岳山ちゃん、赤黒君。そして、荼毘。
彼ら4人だけは、死んでほしくない。大切な友人、恩人なんだ。
どうにか、しなければいけない。
今、義爛さんはタルタロスだから、たぶん大丈夫だろう。問題は岳山ちゃんと赤黒君だ。
岳山ちゃんは今、雄英の二年生。雄英は、トップヒーローを大量に排出しているため、AFOからも強くマークされている。荼毘の話では、クラスに一人はAFOのスパイがいるらしい。危険極まりない場所だ。
赤黒君は荼毘が説得してくれるという。私は、岳山ちゃんを説得しにいかなければならない。
心が砕けそうだ、何もかも放り投げて死んでしまいたい。
でも、彼女が死ぬことだけは、認めたくない。拒絶しなければならない。
誰を踏み躙っても、誰を殺しても、彼女は救いたい。私の友人の中で、唯一穢れ無き存在。
彼女は、生きるべきだ。
私は、雄英正門の前に立った。
レディ・ナガンの襲撃さえなければ、AFOのスパイとしてここに通う筈だった。
クラスメイトを裏切りながらも、しかし一抹の後ろめたさと引き換えに穏やかな生活が送れたはずだ。
幾度もの失敗があった。その度に後悔があった。
だけど、今回だけは失敗しない。
彼女を、殺させない。
手に持つのは、包丁の代わりに象をも気絶させられる、警棒型超高圧スタンガン。もちろん電圧は下げることもできるから対人でも使用可能だ。
足には、磁力で金属製や鉄筋コンクリ製の天井や壁にくっつく靴。足の筋力とオンオフのコントロールさえ出来れば、壁走りも可能だ。
廃屋になっていた義爛さんの家にあった、私が着る筈だった制服。それをコートの下に着る。
そうして、マスクとゴーグルを顔に。
さぁ、彼女を
「ちょっと、君……文化祭や雄英祭の季節でもないんだ、あまり近くをうろちょろしないでくれ。顔を見せてもらえるかな?」
おじさん警備員が話しかけてくる。
「いえ、残念ながらできません」
警備員の首に素早く低出力スタンガンを当てる。
侵入、開始。
サイレンが鳴る。門を走り抜けた直後に、雄英の正門が閉じていく。
だが、鈍い。侵入者が閉門によってミンチにならないための配慮として、警告音と共に閉じる前にタイムラグがある。その程度なら、駆け抜けられる。
第一、第二、第三門を突破。校内にサイレンが鳴り響く。素早く校舎の壁を駆けのぼり、三階の女子トイレの窓をブチ破って侵入する。
マスクとゴーグル、そしてコートをトイレのゴミ箱にぶち込み、叫びながらトイレの入り口から廊下に飛び出す。
「きゃあー!不審者!不審者がトイレに!」
サイレンが鳴っているため、大勢の雄英生が屋外に詰めかける。それに私は紛れ込んで岳山ちゃんを探す。
岳山ちゃんは、優ちゃんはどこだ。彼女は巨大化しなければ、至極普通の女の子。見つけるのは困難だ。
机上学習中の午前中だから、校舎内にいるはず。どこだ、どこだ……
「ねぇ、貴女。何か探し物をしているようだけど……今は避難優先よ」
肌色のスーツを着た女ヒーローに話しかけられる。気づかれないように、自然に顔を別の方向に向けながら応対する。
「え、ええ。そうですね。避難します」
「……いえ。貴女、ヒーロー科?
不味い、バレた。
「いっ、いえ、ヒーロー科です!障害物競走も通過しましたし、筆記試験も、あの問題は難しかったなぁ、なんて!」
しかしその態度が怪しさを確信に変えてしまったようだ。女ヒーローは耳に手を当て、誰かと通信する。
「こちらミッドナイト、侵入してきた不審者を発見しました。ヒーロー科の制服を着ている、おそらく未成年と思わしき女です。確保を試みます」
脇をすり抜け、逃げようとする私を鞭で攻撃しようとするミッドナイト。紙一重で躱し、生徒たちの群衆を追う。
「チィ、速い!応援を要請します!目標、第二棟から第三棟に向けて移動中!」
背後から微かに匂う風が追ってくる。多分吸ったら危険だ。息を止めて全速力で駆ける。
「バウバウッ!グルルァアアア!」
目の前にいるのは狼面のヒーロー。私に気付き、口枷を外して突撃してくる。
天井に足を付け、靴の機能を発動。天井を走りつつ、飛び掛かってくる狼面を躱して顔面に中威力のスタンガンを叩き込む。
天井を歩く相手には慣れていなかったのだろう、あっけなく命中し、バチン、と音が鳴って狼面は倒れる。
チラリと窓の外を見ると、生徒の多くは屋外への避難が終了していた。
私も屋外に出ようと窓に足を掛けると、私のスカートを掴む腕があった。
その腕は、赤黒い液体で構築されていた。
「何者か知らないが……有精卵たちには、指一本触れさせん!」
雄英高校ヒーロー科教師、ブラドキング。彼のヒーロー名は知っている。私の担任になるかもしれなかった男だ。
でも今は、私の前に立ちふさがる、敵だ。
「ちょっと、友達を迎えに来ただけでっ、す!」
スカートの裾を斬り飛ばし、津波のように襲い掛かってくる血液に電撃を流して血液の動きを止め、その隙に生徒たちが避難している屋外にダイブする。
「岳山っ!優ちゃん!いるなら返事して!」
そして、私に向けられた、他とは違う二つの視線を知覚する。
金の髪、大きくて穢れを知らない目、身長は、今は私より一回り上。
岳山優。彼女に向かって突っ走る。スタンガンをバチバチと鳴らしながら振り回すと、多くの生徒は道を開けてくれた。
「こ、コベニちゃん!?何、何なの!?同じ雄英高校に進学できるって思ったら、いきなり行方不明になって指名手配掛かってるし!全部冤罪だって信じてたのに!いきなり現れてなんでこんなヴィランみたいな真似!」
「ヴィランみたいな、ではなくヴィランだ!知り合いなのかも知らんが、今は全力で逃げろ!狙われてるのはお前だ!」
私の背後、校舎内から声がした。声の主は、コンクリで出来たような体を持つコンクリ人間。確か、セメントス、だったか。
彼が地面に手を付けると、地面は溶解し、粘体状になって私の足を捕えようとする。
粘体の上を走るが、それでも意志を持って私に襲い掛かる地面に対処するのは面倒だ。蝋に封じ込められてドラム缶に詰められたことを思い出す。アレは二度とごめんだ。
じゃあ、更に
「魔王の眼を焼いたのは私だ!仇を取らねば殺されるのはお前だ!」
大声で叫ぶ。雄英高校に潜むスパイにも聞こえるように。
「何を、言っている……?何かの合図か?」
雄英高校の教師の大部分にとっては意味不明だろう。
だが、校長をやっているネズミには、どうやら理解できたようだ。
校長室から頭を出し、拡声器を使って叫ぶ。
『今すぐその少女に近づく生徒を拘束しろ!』
一瞬、コンクリートの動きが止まる。そして、人込みをかき分けて飛び出してきた、決死の表情をした数名の生徒をコンクリが取り押さえた。
コンクリヒーローの意識がその生徒らに行った隙に、私は岳山ちゃんを追いかける。
着いた先はグラウンド、コンクリートではなく土と砂の地面だ。
岳山ちゃんは、そこで制服を脱ぎ捨てて、アンダーに着ていたヒーロースーツのみになって巨大化し、私に相対する。
「コベニちゃん、だよね?どうして、どうしてこんな……」
「うん、そうだよ。私は東山コベニ」
本人、ではないかもしれない。だが、この世界で唯一の東山コベニだ。魂の在り方など知ったことではない。私は彼女にとって、義爛さんにとって、赤黒君にとって、荼毘君にとって、東山コベニなのだ。だから、私は東山コベニだ。
「なんで、こんなことをしたの?雄英に侵入して先生たちを傷つけて、いや、その前に、中学に入る前の指定敵団体構成員の大量殺人と、失踪直前の公安ヒーローに重傷を負わせたって本当なの?」
「自分の中では、正当防衛だと思ってる。でも、世間の人からしたらそうじゃないみたい」
「そんな……それ以外の道はなかったの?」
正当防衛を行った者に酷い言い草、と思う私も、普通の人からしたらその言い分は当然、と思う私もいた。
慎重に、言葉を紡ぐ。
「道、か……私はね、優ちゃん。ある種の人々には選択肢なんて無い、って思ってる。いや、正確には違うかな。私たちには下り坂を自然に転がり落ちる選択肢と、下り坂でアクセルを踏む選択肢の二つしかなかったんだ。どっちにしろ行きつく先はヴィラン。人間にはね、生まれつきヒーローになれる人と、生まれつきヴィランにしかなれない人がいるんだよ。あなたは前者、私は後者。私、もうアクセルを踏んじゃった。ブレーキもハンドルも無い車にのって、多くの罪を犯してきた。でもね。そんなクズでも、諦められないことはあるんだよ」
アクセル。今思えば、クレイドに旅をしたことが転換点だ。私は、前世でも今世でも自分の人生を選択できない自分を嫌悪していた。だから自分で選択して、クレイドに行った。
だけど、それは大いなる失敗だった。選択することに慣れていない人間が、いきなり大きな選択をしたところで間違いしか生まれないのだ。
「あなたを、救けたい。知らない人がどうなったって構わない。もう、これ以上失いたくないの」
「コベニちゃん……何があったのか知らないけど、あなたに付いていくわけにはいかない。私にはクラスメイトがいる、先生がいる、家族がいる。その人たちを裏切って、あなたに付いていけない!」
岳山優。ヒーロー名、Mt.レディ。おそらく仮免を取ったのだろう彼女は、ヴィランとの戦闘を条件付きで許可されている。
巨大化状態で腰を落とし、蟻のような私に横から張り手をぶつけてきた。
今までのアクロバティックな行動から、受け身は取れるだろうと予想しているのだろう。それは正解だ。
だが、手加減し過ぎだ。巨体とはいえ、私は割れ物ではない。
跳躍。私はMt.レディの手の甲に回り、瞬時に靴を脱ぐ。足の指で服や産毛を掴み、走って彼女の右腕を登っていく。
「岳山ちゃん。産毛……剃った方が、いいね」
「うう、うるさい!」
左手で私をはたこうとした瞬間、さらに私は跳躍。彼女の死角、頭上に位置した。
そのまま彼女の脳天に、最大出力のスタンガンを叩き込み、気絶させた。
縮んでいった彼女を背負い、逃走を開始する。
無線が飛んでくる。荼毘のモノだ
『コベニ!オールマイトが北海道から飛んで帰ってくる!中継実況によれば現在青森!あと数分で撒け!』
「了解」
全速力で駆ける。脳に掛けられた針によるリミッターが解除されたようだ。爽やかな現実感覚、だがそれに浸っている余裕はない。
車やバイクはナンバープレートでバレる。裏路地に入ったところで、追ってくるヒーローから距離を置けた。
マンホールの蓋を開け、下水道に入る。逃走経路は事前にプランGまで決めてある。
順当に、彼女を攫って隣の県の隠れ家までたどり着けた。
終盤直前まで書き終えていますが、ラストバトルの途中で筆が止まってしまっています。
時間とモチベを作って頑張って書いていきます。
ランキング載ってて草