地獄でコベニと踊ろうぜ!   作:砂漠谷

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「早朝会議で」「そんなの関係ない」

  ――エンデヴァー視点――

 

「エンデヴァー!大変です、この、この動画っ!」

 

 サイドキックのバーニンが緑の燃髪をはためかせながら所長室のドアを蹴とばして駆け寄ってくる。朝っぱらからなんだ、会議の準備があるというのに。

 

「なんだ、バーニン。ヴィラン警報はなっていないぞ、そこまで慌てる必要は……」

「あるぅ!あるんですよ!お子さん!数年前事故で亡くなったっていうエンデヴァーの息子さんを名乗る人物の動画です!依頼のメアドに送られてきました!今さっき!」

「……何?」

 

 数年前に亡くなった息子、轟燈矢。瀬古杜岳の山火事で死んだ、と警察からは言われていた。遺体らしきものは一応見つかったが、遺体の損壊は激しく、歯型などの個人を特定するものは無かった。

 それを一応の遺灰として、墓に入れた。

 アレは燈矢だった、ハズだ。背丈も、頭の形も、頭蓋は炎の熱で砕けかけていたが、燈矢に似ていた。

 だがもし。過去に消え去った微かな希望に縋るように、バーニンから見せられた動画を見た。

 

 

 

『―――。エンデヴァー、轟炎司。お前が罪を償いたいと、少しでも思っているのなら。助けてくれ、()()()()

 

「―――燈矢だ。間違いない。語りのリズムから細かい癖まで。俺の息子だ」

「じゃ、じゃあ!すぐに蛇腔病院に!」

「待て。それこそが向こう側の思う壺だ。おそらくこれは命令されて撮影されたものだ。発言が真実なら、一人でこんな動画を撮影できる訳が無い」

「ま、待てって!それをアナタが言うんですか、エンデヴァー!実の息子を二年も奪われ続けていたアナタが!」

 本当は今すぐ事務所を飛び出し、燈矢のいる場所まで飛んでいきたい。だが、それをやっても無駄死にする可能性がある。敵は警察の眼を完全に潜り抜ける、おそらくは組織だ。俺単身では、敗北の目もある。

 だから、仲間を。

「俺の事務所と親しいヒーローに連絡しろ。『蛇腔病院に拉致被害者が監禁されている可能性アリ、救援求ム』。ただし口の軽い奴は避けろ。必ず秘密を護れてマスコミに漏れない奴だ」

「了解しました。すぐに手配します。オールマイトは?」

 そう、問題はそれだ。日本最強で世界最高のヒーロー。そして遥かに遠い背中。

「オールマイトはやめておこう。オールマイトの側には常にマスコミがいる。その挙動だけで下手すればバレる」

 それと、あの心理状態の燈矢がさらに燻ぶった状態になっていた時、オールマイトを見せるのは良くない、という親心とも言えない微かな心配もあった。

「ヒーローコスを脱いでとりあえず蛇腔病院に行く。比較的目立たないメンバーでついてこさせろ」

「はい!」

 

 一時間後、蛇腔病院にヒーロー達が結集した頃には、SNSにも燈矢の動画が流れ出していた。事務所の人間で公式メアドを管理しているバーニンはスマホを殆ど弄っていない。別口、もしくは燈矢本人かそれを監禁している組織が直接流したのだろう。目的は不明だ。

 病院内がざわつき、パニック寸前の不穏な空気が流れている。

「……仕方ない。病院内の混乱抑制のため、精神系や行動抑制系のヒーローに先行してもらう。不審物や不審人物を見かけたら即座に退避してくれ。後続のヒーローは、医師免許持ちのヒーローの指示に従って避難誘導。では、作戦開始」

「「「了解」」」

 

 集まったヒーローは53人。ただの病院を鎮圧するなら過剰戦力だが、そこに潜む闇に対しては不足かもしれない。

 

 だが、俺を含むヒーロー達が、物陰でサポートアイテムを装着していざ病院に突入しようとしたところで、入口近くには100名近くの群衆がいた。

 

「エンデヴァー、お前個性婚ってマジかよ!」

「おい、あの動画はガセだよな、ガセと言ってくれ!」

 と動画の真偽を問いただす人々が7割。そして。

「エンデヴァー、俺にも息子さんを助けさせてくれ!」

「そうだ!あんな子供を継ぎはぎ皮にして、許せない!」

 と、いう、()()支援者たちが3割。その半分ほどは市販のサポートアイテムで武装している。非合法なものもちらほらと見かけた。

 3割を武力で制圧すると、7割が騒ぎだすだろう。7割を説得する時間はない。この人数を精神系個性でどうこう出来るような都合のいい個性の持ち主はいない。

 無視するしかないだろう。俺を先頭に、人込みをかき分けて――

 どさり、と。人が倒れる音がした。

「おい、ヒーローが切りつけてきたぞ!」

「なんだって、エンデヴァー!俺たちはヴィランじゃない、ただあんたを助けたいだけなんだ!頼むからついて行かせてくれ!」

 おかしい、53人のヒーローの中に刃物を持っているものはいない。基本は打撃武器。刃物はヴィランの武器だから、そういうイメージを持たせてはいけないのだ。無論ヨロイムシャなど例外はいるが、彼らはそういうイメージを払拭するのに多大な労力を払っている。

 どさり、どさり。人込みの中でさらに何人かが倒れる。それも、武装している3割の人間のみ。

「ヒーローじゃない!ヒーローは基本刃物を振るわない!何か潜んでる、逃げろ!」

 大声を上げ、避難を促す。ヒーローたちにも目配せし、敵に対する注意を促す。

 艶消し加工をされた刃物の銀色が、視界の端に横切った。

 そして、医療系ヒーローの一人、リカバリーガールが倒れる。間違いない、何か、敵がいる。

「チ、バレたか」

 整形手術か何かに失敗したのだろうか、歪んだ顔の青年がその刃物の持ち主だった。血の付いたナイフをしまい、リカバリーガールを背負って逃げ始めた。

 

「クソ、俺が行く!他のヒーローはそのまま避難指示と監禁被害者の捜索を続けてくれ!」

 

 人込みをかき分け、病院内に入り、走って追いかける。ここで炎の噴射による加速は使えない。純粋な脚力による競争だ。

 だが、追いつけない。あまりにも相手が速すぎる。

 周囲に患者や医療従事者を見かけなくなったところで、炎を噴射する。しかし時すでに遅し、相手を見失った。

 いつのまにか、院内地図を見た時には存在しない場所にいた。これでこの病院が何らかの闇を抱えていることに間違いはない。

 帰る方向は分かるが、この先に燈矢がいるかもしれない。他のヒーローに応援を要請するため、通信機を起動する。

 しかし、通信機は雑音ばかりで、聞こえなかった。電波が届いていないか、もしくはジャミングか、だ。

 すると、廊下の先から二人の人影が現れた。

 小太りの医師と、長身の患者だ。患者の方は人工呼吸器と点滴を付け、顔は焼けただれていて目がない。患者の手を引き連れて医師が誘導している。

 だが、ここにいるということはそれだけで怪しい。

「止まれ!そこで何をしている!」

 

 小太りの医師の方が返答をする。

「何を、と言われましても……どうやら迷ってしまったようで。こんな廊下は無かった筈なんですがねぇ。あなたがいるということは、そちらの方向に出口があるようで。進んでもいいでしょうか?」

 

 怪しさが一段増すが、ここまでの重病人を抱えて遠くまで逃げることは出来ないだろう。捕まえる余裕もない。ここは見逃すしかないか。

 

「ああ、そういうことならさっさと通れ」

 

 双方の距離が近づき、すれ違うその瞬間、患者が偶然を装い、手のひらで俺の身体に触れようとする。

 手を払いのけ、すぐさま距離を取り、体温をやや上げて戦闘モードに入る。

 

「貴様、患者の方だ、何者だ!何をしようとした!」

 

 患者は舌打ちをしつつ、医師から手を放して饒舌に話し始めた。

 

「何者か、ねぇ。ただの患者、で通してくれるほど甘くはなさそうだね。最大戦力が孤立しているから、最初に削っておきたかったんだけど、そうはいかないようだ」

 

 不気味な、否、明確な悪意を放ちながら近寄ってくる。点滴を引きはがし、人工呼吸器を外しながら。

 

「いやぁ、彼女の肺は非常にフィットして、素晴らしいね。個性因子が僅かに宿っているのか、少々()()()()のが玉に瑕だが。僕にとっては特に問題ない。他の脳無たちは随分と苦労しているだろうが、それも含めて彼らが処分してくれるだろう。僕はビュッフェに専念できる、という訳だ」

 

 意味が分からない。だが、医師の反応を見るに、精神病という訳でもなさそうだ。この発言には全て意味があり、その文脈を俺は共有していないだけ。

 つまり。

「お前が、燈矢を攫って監禁している、犯人か!」

「……冤罪だ、不愉快だね」

 無い目を細めるように顔をゆがめ、患者は冷たい声色を放つ。

「拉致ではなく治療だ。監禁してまで生かすなんて、したくもない。僕の大切な被験体(子供たち)の家を放火して子供たちを殺し、その上僕の眼を焼いたのがアレだ。もう君は親として認められてはいないようだし、君に口を挟む権利なんてないな。僕の正当な報復を、邪魔しないで貰えるか?」

 

 ……こいつは、何を言っている?

 狂人なのか?燈矢はヒーローに執着があった。ならばそんなヴィランじみたことはする筈がない。

 こいつは一方的な逆恨みで、燈矢を殺そうとしている悪質なヴィランだ。

 そうに、違いない。

 

「そんな頼みが、聞けるとでも思ったのか!赫灼熱拳 ジェットバーン!」

 

 肘と身体から炎を噴出させ、加速する熱の拳。それが狙うのは無貌の患者――ではなく、その隣にいる医師。こいつの仲間なのは間違いない。二対一の状況を避けるために、まずはこいつから倒す。

 だが。

 

「『衝撃発電』+『バリア』。この組み合わせは楽で良い」

 

 拳から溢れた電撃に、一瞬痺れ、動きを止めてしまう。そこに、患者の身体から生えた骨の槍で足を刺され、地面に拘束されてしまった。

 

「――っ!複合個性、ではないな。複数個性、か?」

 

「ご名答。そういえば知人は全員殺すって宣告していたな。君も一応知人だ、死んでもらおうか」

 

「っ!させるか!「「赫灼熱拳」」――!?」

 

 自分の背後から聞こえたのは、聞き覚えのある音程。あの動画と同じ声。

 

「邪魔。全員死ね。「ピュアスパイダー」」

 

 どす黒い憎悪、ですらない。ただひたすらの倦厭が籠った声と共に、閃光が放たれる。

 それは俺の肩を貫通し、患者の焼けただれた顔に直撃した。

 

「っ!燈矢!」

 肩が焼き切られるのにも構わず、振り向いて光の元を見る。

 炭化した指先から、白い炎をレーザーのように噴き出す、継ぎはぎの皮膚の青年。

 轟燈矢が、そこにいた。

 

「轟炎司。邪魔だ。そいつを殺して先に行く。それか、諸共死ぬか?」

 




書き溜めが……尽きた(絶望)

またぼちぼち書き溜めたいと思います。

頑張ります(白目)

あと三話予定です、が多少延びるかも。
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