地獄でコベニと踊ろうぜ!   作:砂漠谷

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Oh huh hit parade Ah!

「望むところ。ぶっ殺す」

 

 包丁を手に握りしめ、死地へと飛び。

 地面に手を付く『個性の悪魔』の頸を断とうと腕を振るう。

 

「狭いところは苦手だね。『土流』+『コンクリート』+『新秩序(ニューオーダー)』。『土とコンクリは僕から半径1km以内に存在してはならない』」

 

 その言葉が唱えられた瞬間、地下が消滅した。

 

 私は床が消失したことで、私は足を取られて転びかけるが、鉄骨に足を掛けてなんとか姿勢を元に戻す。

 病院の大部分を占めるコンクリは全て消し飛び、鉄骨組みだけになる。病院の避難は完了しているようだが、ヒーローたちや野次馬が驚愕している顔が見えた。

 

 更に『個性の悪魔』は唱える。

「こうすれば良かったか。『腕延長』+『多腕』+『崩壊』」

 

 『個性の悪魔』から数多の腕が発芽し、伸長し、鉄骨に触れては崩壊させていく。無論私にも腕が伸びてくる。

 包丁で手首を切り落としつつ、自滅因子を注入して腐らせ殺そうとするが。自滅因子が侵食する前に腕を自切される。

 

 周囲には『個性の悪魔』と私を除き、何も固体が存在しない空間が発生した。半径1km以内の土とコンクリは外に排出され続けているため、踏みしめる大地も存在せず、落下し続けている。

 

「このままマントルまで落ちるかい?」

 

「お断りに決まってる」

 

 『個性の悪魔』を天道の力によって上空に弾き飛ばす。実空間から実空間へと弾き飛ばすことも可能だ。

 

 同様に自分も上空に跳び、海抜約10kmに。

 

「座標操作は厄介だね。だけどまぁ。『不動』+『仁王立ち』。これで僕には効かない。さらに『空気を押し出す』+『強酸』」

 

 風圧と共に、強酸の粒が飛んでくる。地獄道の権能任せに再生しつつ、天道の権能で相手の真後ろに跳躍する。

 

「獲った!」

 

 首を刎ねるも、蜃気楼を切ったかように手ごたえが無い。相手の姿はぼやけて崩れ、私の背後に再出現する。

 『個性の悪魔』が私の頭に五指で触れようとする直前、私は相手の腕を切り払い、指を切り落とす。

 

「チィ、そう上手くはいかないか」

「……」

 

 私は無言で餓鬼道の権能を用い、脳無の皮膚を普通の皮膚に戻し、それを対価に頭部も含めた全身を覆う、未来的な宇宙服デザインの防護服を作る。

 個性を喰らう攻性防御。これで相手の攻撃の殆どは徹らない筈だ。

 

「……面倒だね。ならば純粋に、増強系の個性でやろうか。『膂力強化』×382、『骨格強化』×143、『巨腕』×14、『骨槍』×3」

 

 右腕が一瞬で爆発的に肥大化し、数十メートルもの長さと数メートルもの太さになる。先端に骨の槍が生えているそれが、私の胴体に突き刺さろうとして———

 『天道』での回避がギリギリで間に合う。この太さの腕は包丁で切れない。再度横に叩きつけられるのを、『修羅道』の権能で作った斬馬刀とそこにやどる自滅因子で溶かし斬る。

 

「千日手かな。個性攻撃無効化を無視できる攻撃。かつ、別次元に逃げても回避不可能な攻撃。かつ、相手を一撃で抹殺出来る攻撃。そういうのが必要だ。これを為せる個性の組み合わせは……ああ、あった」

 

 『ハイスペック』でも使っているのだろうか。瞬時に個性の組み合わせを叩きだす。

 

「『膂力強化』×382、『骨格強化』×143、『筋骨発条化』×7、『振動』×3、『時空震』、『リフレクト』、『鎧通し』×2、『強制脱衣』」

 

 増強した強化の余剰エネルギーが赤い光に変換されていく。

 さらに、青い金属光沢を纏った『個性の悪魔』から放たれる紫の仄かな光は、徐々にその光度を強めていく。

 明らかにヤバげなエフェクト。『天道』で自分を可能な限り遠くに弾き飛ばす。

 

「君の負けだよ。東山コベニ」

 

 時空震。その前触れと共に届いたその声の直後に、防護服は剥がされ、私の身体は振動によってミンチになっていく。

 再生は間に合わない。回避も出来ない。

 

 私に出来るのは、ただ地上の仲間たちにこの攻撃が届かないように祈ることだけだった。

 

 唯の肉塊になり、私は死んだ。

 

 二度目の死。

 

 

 

——————

 

 

 

 落下する肉塊を見下し、嘲笑う『個性の悪魔』、オール・フォー・ワン。

 

「ハハハハ!僕に逆らった餓鬼が、哀れな肉に成り下がって……待て、肉?」

 

 思い出すのは、つい最近、個性『人間』を奪った後のコベニの悍ましい姿。蠢き、張り付いてくる肉塊。

 嫌な予感がして、肉塊を完全に殺せるように個性をセットし直す。

 

「『崩壊』+『新秩序』+『腕延長』、『東山コベニはあらゆる生命活動を停止する!』」

 

 だが、一歩遅かった。

 肉塊の中から、ずるりと腕が這い出る。その肉塊は、女の身体を象る。骨が、血管が、臓器が、肌が、瞬時に再形成され、その腕を紙一重で回避した。

 

「『輪廻の魔人』。その能力の本質は『死によって何一つ失わない』こと。自らの肉体すら、自分の意志で放棄しない限り、死によって失うことはない」

 

「こっの、クソガキがぁ!なら放棄したくなるほどに殺し尽くしてや……あ?」

 

 ボコリ。

 その音と共に、肉体に違和感。その感触はどんどん肥大化していく。

 『個性の悪魔』はその肉体の全てが、一般の体細胞ではなく個性因子細胞によって構成されていた。もちろん、殆どの個性因子細胞はカラッポ。実際に因子が入っているのは千個に一個程度であるが、それでも100億個の個性因子を保有している。

 その100億個の個性因子が全て、『個性の悪魔』である主からの独立を主張していた。

「んなっ、何故、何で……!」

 理由は唯一つ。彼はもう、『オール・フォー・ワン』ではなく『個性の悪魔』になり果ててしまったからだ。

 オール・フォー・ワンは、『個性を奪い与える個性』。つまり、『個性因子を支配下に置く』という手順が常に成り立っていた。

 だが、『個性の悪魔』の能力は『全人類の個性を自由に使用できる』。つまり、支配下に置くという手順を省いて、簡単に人類というウェブ上からダウンロードできる。そこに、どんなセキュリティホールがあろうが、気にせずに手に入れてしまえる。

 

 そして、その背中を押したのが。

 

「『人間道(に照応する)知性人(ホモ・サピエンス)。我々は啓蒙によってあなたがたに人間性を与える』」

 

 ありとあらゆる物質に、人間に似た『我』、すなわち魂を与える権能。人間道をコベニは戦闘中に、個性の悪魔が保有する全ての個性因子に対して仕込んでいた。

 

 その結末は、消滅。体全体が分裂し、微生物となって消えはてた。

 

 ()()()()()()()()()最初の悪魔は、デビルハンター・東山コベニによって、発生して数十分間で討伐されたのだった。

 

 

 

——————

 

 

 

 二度目の死を経て。

 人型に戻った私は、落下しながら。

 

「ああ。義爛さん。仇を……取れました」

 

 

 体が消滅していく『個性の悪魔』、オール・フォー・ワンを眺めていた。

 

 脳内に囁き声が響く。

「大敵の消滅を確認。以後、新たな大敵が出現するまで、六道権能の使用を制限します。内面世界の霊魂エネルギー貯蔵、15%まで減少。回復まで3年ほどと推測」

 

 個性『人間』のアナウンスである。どうやら、内面世界の魂を相当搾り取ったようだ。まあ、どうせ脳無の魂だし、こき使っても大して罪悪感は湧かない。

 

 私たちを脅かす大敵が、ようやく消失したのだということを、ぼんやりと実感しはじめる。ほぼほぼ自滅のような展開だったが。

 

 裸のまま、上空の強風に吹かれつつ落下していく。

 

「あ……ヤバ」

 

 個性『人間』に、『天道』の使用許可を貰おうとするが敢え無く拒否。高速で落下し続ける。

 墜落死による三度目の死が現実的になってきた。復活は六道とは違い、使用制限には引っかからない筈だが、死に、自分の存在が魂だけになるあの感覚は何度味わっても嫌なモノだ。可能な限り避けたい。

 

「だっ、だぁれかー!助けてぇ!」

 

 舌を噛みつつ助けを呼ぶ。そういえば、舌を噛むのも久しぶりな気がする。常に臨戦状態だったからかだろうか、今まではずっと流暢に喋れていた。

 

「だれかー!だれかー!」

 

 落下する私を見て、大きな翼を広げて飛んでくるヒーローが一人。

 そして、それ以上の速度で青いジェットを足から噴射し、空を飛ぶ男が一人。

 

 私は当然ジェットの男、荼毘に手を伸ばし、彼に抱きしめられた。

「チィ、誰かじゃなくて俺の名前を叫べよ、馬鹿が」

 いやそんなちゃんと飛べるとは思わなかったんだけど……

「いやっ、そ、そんなちゃんと飛べっ」

 噛みまくる。体の緊張が一気に抜けて、喋るのにも一苦労である。

「……もう黙れ」

 

 そこに、横から邪魔が入る。

「君!誰かな!?民間人の個性利用による救助は認められていない!」

 

「誰かって?名無しのヴィランで良いよ」

 

 荼毘は炎膜を張り、相手を妨害した所で離脱する。

 

 そのまま、高速で宙を飛んで行った。

 

「あ、あの……ありがと」

「黙れっつったろ、この速度で舌噛むとヤバい。とりあえず適当な山奥で降ろすぞ……生きてて、良かった」

 

 着地まで、会話はそれきりだった。

 

 私は荼毘の身体を、守り切った/守ってくれた仲間を、抱きしめ続けた。

 

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