地獄でコベニと踊ろうぜ!   作:砂漠谷

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本格的コベ虐パートはここからだ!


オトナいい子にしてられない

 時が過ぎるのは早い。小学校の卒業式である。

 今まで学校に足を運んだことが一度もなかった母親が、初めて学校に来た。黒服サングラスの、スジモンっぽい見た目をした青年と一緒に、である。

 もしかして遺伝上の父親だろうか。そうだったら嫌だなぁ、なんてぼんやり思いながら、二人と共に迎えの車に乗る。家について、母親と食事机を囲う。

 

「アンタ、中学には行かせないから」

 

「えっ、えっ、えっ?」

 え???

 

「アンタの身柄、この邪龍會の若頭さんに売ったから。最近客も取れなくなってきて、金回りが悪くなってきた時に。良い売り物だったわぁ」

 つまり、この女は、私を、ヤクザに売り飛ばそうというのだ。

「えっ、えっと、私はヤクザさんのところで、何をするんですか?」

 ヤクザの鉄砲玉か、殺し屋の卵か。自分の適性を考えればそこらへんかな。流石にこの年齢で風俗は……

「んん~?私と同じことじゃない?」

 ああ。つまり。()()()()()()だ。

 小学校を卒業したばかりの児童を働かせる違法風俗に、セックスワーカーへの配慮どころか、人権意識の欠片もある筈がない。当然私は使いつぶされる運命にある。

 運が良くても数年で、悪ければ文字通り()()で使い潰される。

「まあ、そういうことだな。ついてこい。今から職場を案内する」

 

 嫌だ。

「ゃ……」

 

「うるさいわよ、あんた私の財布から金盗んだの知ってるのよ!金返しなさいよ!」

 

 腕を掴まれる。体が硬直する。この雌猿には逆らってはいけないと、遺伝子が叫ぶ。

 だが私は知っている。この雌猿は私の()()()()()ではない。そんなものは前の世界に置いてきた。

 つまりこの雌猿はヤクザの仲間で、私のバディを殺した老婆と同類だ。

 恐怖を強迫を。憎悪で狂気で塗り潰せ。

「嫌っ……っだ!」

 

 雌猿の小指を折る。手のひらを雌猿が離した隙に碌に使われていないキッチンにダッシュ。三徳包丁を手に取り、竹串、鉄箸など使えそうなものをポケットに入れる。

 

「チィ、まずい。こうなったら……!」

 まず一人。雌猿の尾を掴んで思い切り引っ張り、姿勢を崩した雌猿の首を掻っ捌く。

「嘘だろ、生みの親だぞ!オイ!!」

「生む以外何もしてくれたこと、無い!」

 首を裂いた勢いのまま、包丁を腰だめに構えて狭い部屋の中を突っ走り、若頭の腹に叩き込む。

 だが、よほど腹筋が硬いのか、それとも「硬化」の個性か。十中八九後者だろう。

 という訳で相手の肩に手を乗せて跳躍し、飛びつき三角締めに方向転換。「硬化」相手に締め技は効かないが、それでいい。相手の眼球に竹串を思い切り突っ込み、脳をかき混ぜて殺した。

 

「若頭!」

「大丈夫ですか!」

 先ほどの若頭の声に反応したのか、若頭の側付きと運転手の声が徐々に階段を上ってこの部屋に来たので、窓から飛び降りる。

 ここは三階だ、受け身を取れば軽傷で済む。そう想定していたのだが、この世界での訓練を怠っていたせいか、着地時に足を捻ってしまった。

「あうっ」

 

「頭ァ、頭ァ!」

 追手は私のことにまだ頭が回っていないようだ。今のうちに逃げる。

 血まみれの包丁を持って大通りを走る。

 

「ヒィ、子供の通り魔!?」

「キャアアア、包丁を持った子供が暴れてます!誰か通報を!」

 

「あっ、あっ、違っ」

 誤解された誤解された犯罪者扱いされた。

 包丁は隠すべきだったかもしれない。だが自衛の武器は持っておきたい、今にもヤクザが襲ってくるかわからないのだ。

 もうここまで来たら突っ走るしかない。目に入った病院に入って、包丁で脅して匿ってもらおう。

 裏口のガラス戸を開けて、目についた看護婦の首……は届かないので、背中に包丁を当てて脅す。

 

「いっ、院長に、私を匿えと伝えろ……」

「ヒッ、は、はい!」

 

 院長は、奇妙な眼鏡をかけた小太りの老人だった。

 院長は何故か全く怯えることなく私を見つめる。

「ほう……手当はしてやろう。だが匿うことは難しいの」

「かっ、匿わなければ、ころしゅ……殺します」

「まあ、そんなことは手当されてから考えれば良い。ほれ、台に乗って」

 包丁を手放さずに、言われた通りに診察台に乗る。手際よく添え木をして、包帯を巻いてくれた。

「痛み止めも打っとこうかの。君、個性は?」

「「人間」です。人間っぽいことが人間以上に出来るっていう……」

「ほう、ほう、そうか……なるほど。なら普通の痛み止めで良いのう」

 痛み止めを打つと、足の痛みがすぐに消え去った。

「さて、これで処置は終了じゃ。さっさと去るが吉じゃな」

「かっ、匿わないと、ここにいる患者全員……」

「ほう、患者も従業員ももうみんな避難しておるよ。おるのはワシだけじゃ。そしてそのワシも……」

 医師が黒い霧に包まれる。

「ほう!転移系“個性”持ちのヒーローが助けに来てくれたみたいじゃの!それではさらばじゃ!」

 わざわざ解説するような口調で喋りつつ、医師は黒い霧に包まれた。

 

 その数分後。

「クオラァ!ここにいるのはわかってんだぞ!カシラ殺しの極悪人が!」

「親殺しのクズがぁ!さっさと出てこいや!」

「ヒーローに通報すんじゃねぇぞ!した奴は一族郎党ぶっ殺すからな!」

 

 病院は数十人の武闘派ヤクザに包囲されていた。

 ぎゃんぎゃん騒ぎたて、私を脅かしてくる。

「ひぇえ、もう嫌だ……なんで中学校に行けないの、義務教育だよ?意味わかんないよ……なんで私がこんな目に」

 だが、意志を振り絞るしかない。悪魔や魔人のヤクザ共をぶっ殺して、この世界を。地獄を。

「生き延びなきゃ」

 痺れを切らしたヤクザが病院内に突入してくる。

「どこだコラァ!隠れてないで真っ向勝負せんかァ!」

机の下に隠れていた私は、鉄砲玉らしき相手の足の腱を切り裂く。転倒したところで、うなじに包丁を突き立て、次。

 拳銃を突き出した相手が撃つ前に手首を切り落とし、拳銃を奪う。そのままその拳銃で、一体、二体。三体目は遮蔽物に隠れた。狙いを付ければ、ヘッドショットくらいは易いものだ。

「クソ、チャカ取られて三人殺られた!封蝋の兄貴はまだか!」

「あと五分で到着するとよ!」

 あと五分で相手の切り札が到着するようだ。それまでに逃げなければ。

 

「オイ、ウチのシマで何やってんだ!」

「ああん?天忠會のお坊ちゃまが何用だコラ!こっちはカシラ殺されて弔い合戦なんだよ!あのガキ、ただ殺すだけじゃ済まねぇ!」

「ほう、子供が邪龍會の()()若頭をねぇ。いいだろう、俺がやってやる。お前らは逃がさないことだけを考えろ」

 どうやら選手交代、といったところらしい。私の前に出てくるのは、マンホールの蓋を持った一人の青年。

 

「阿辺川天忠會幹部、米長路次也。お前さんは?」

 まさか名乗ってくるとは思わなかった。ヤクザが名乗りを上げるなんて、侍気取りか?

 自分も名乗る。

「こ、公安対魔特異四課、東山コベニ」

「ふぅん、お嬢さん、公安ヒーローに憧れてるのか。それにしちゃあやってることはずいぶん血生臭ぇな。いや、()()()()()()()憧れてるのかね?」

 間違えて前の世界での所属を名乗ってしまった。

「こ、この人たちが襲ってきたから、仕方なく……」

「母親と邪龍會の若頭を殺したって話は?」

「それも、連れ去られて風俗に沈められそうになったから、仕方なく……」

「なるほどな。お前、大人しくサツにしょっ引かれるつもりは?もちろんケジメとしてその前に数本指を詰めてもらう必要はあるが」

「つ、都合が良すぎる……騙されない!絶対嘘だ!」

 胡散臭すぎる。ヤクザの誘いで悪魔の誘いである。絶対に騙そうとしてきている。

「いや、ムショから出た後はウチに入ってもらおうと思ってな。大の大人を躊躇なく五人殺せる小学生、ロシアの秘密部隊にもいねぇよ」

「嘘!嘘!嘘!ああああああ!」

 拳銃を連射するが、鉄蓋で銃弾を防御される。足を狙おうとしても、それを見抜かれて躱される。

「どうした、動きが鈍ってるぜ」

 包丁を持って突進するが、鉄蓋と衝突して鈍い音を響かせるだけだ。

 だが、鉄蓋で相手の視界が塞がったところで、鉄蓋を手掛かりに空中に跳躍する。ついでに顔を切りつけ(掠って左額に傷が出来た程度のようだが)肩を踏んで、背中を取る。

 そのままダッシュで逃げる。

 

 しかし、その頃にはもう五分が経っていた。

「封蝋の兄貴!」

「待たせたな!医院全部蝋で埋め尽くすぞ!」

 ドロドロに熱された蝋が病院内に大量に流れ込む。それは意思を持って私に絡みつき、動きを阻害する。

「時間、稼ぎ……!」

「違う、そんなつもりは……!」

 マンホール蓋使いは誤解だと主張しているようだが、嘘に決まっている。ヤクザは嘘を吐くし悪魔も嘘を吐く。この地獄でまともなのは「人間」の私だけだ。

 

 そのまま硬化した蝋で身動きを封じられ、邪龍會の本部事務所まで連れ去られた。

 

「コイツにどう罪を償わせるか、それが問題だ」

「御上はどうせガキに甘く女に甘く極道に厳しい。碌な判決も出しちゃくれねぇだろう」

「俺らの手で裁くしかない、ってことか」

 何やら物騒な声が聞こえるが、私は口と視界を封じられて呼吸しか出来ない。

「むー!むー!」

「黙ってろ!」

蹴られた。痛い。

 

「で、こいつをどうするか、だが……」

()()()()から、今直々に連絡が入った。こいつの身柄を明け渡せ、だとよ」

「組長!?しかしこいつはカシラを……」

「黙れ。()()()()に逆らうことは許されない。それに、あのお方のことだ。こいつに、我々では見せられない地獄を見せてくれることだろう」

「それもそうか……」「そうだな……」

 

 何やら不穏な感じで話が纏まった。そこからまた場所を移動させられて、()()()()とやらに一方的に話しかけられる。

「今、君は恐怖を感じている。そうだね?だが、安心すると良い。君は痛みも苦痛も恐怖も感じることなく、眠り続けるだけだ。いや、安楽死という話じゃない。今、全身大やけどを負っている、とある男の子がいてね。丁度君くらいの年齢さ。その子に皮膚をプレゼントしてあげるために、今から全身麻酔を掛けて君の皮を剥ぐ。それだけの話さ。何も怖がることじゃない。ついでに他の子にも皮膚や筋繊維をプレゼントしてもらいたいから、しばらく、もしかしたら一生眠り続けることになるけどね」

 

 圧倒的な“悪”のオーラ。銃の悪魔でもここまで悪くはないだろうという、邪悪の権化を想像させる。

 拘束されている今の私には、ただ震えることしかできなかった。

 その言葉の後、額に誰かの掌が触れ、そこから何かが這入ってきた。

 物理的に肉体に侵入してきた訳ではない。しかし魂や、それに近しい部分に不快なものが挿入されている感触。

 それに耐えきれず、私は気絶した。

 




封蝋の兄貴はドルドルの実の能力者みたいな感じですね。
米長路次也はヴィジランテに出てきます。ヴィジランテ、読もう!
これ以降は書き溜めが切れるまで一日ずつ投稿していきたいと思います(卑劣なポイント稼ぎ)
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