束の間の平穏(崩壊するまでの、ともいう)
1月6日、22時半。ハーメルンの日間ランキング47位に到達しました。
皆様のご支援の賜物です。今後ともよろしくお願いします。
1月7日 10時半。日間ランキング24位です。感謝感激雨あられ。
1月7日 15時。日間18位です。意外なまでのコベニちゃん人気に驚愕です。
1月20日追記 規約の都合上サブタイトルを変更しました。(警告を受けたわけではありません)。DISCOnationは狂乱国家と読んでください。
彼、赤黒血染の思想語りにはうんざりする。
「だからこそ、無償奉仕、自己犠牲の精神を持つ真の英雄が求められており……」
「はいはい、今日の晩御飯はカレーですよ」
「俺は呆け老人じゃない!」
私は人目には触れられないため、家事は主に私が担当する。赤黒がレジ打ちや工場のバイトで主収入を得て、それを生活費に充てる。私は暇なので、一人の時はイラストやプログラミングなど家に籠って収入が得られる技能をある程度習得し、雀の涙だが副収入に充てている。赤黒が帰ってきたら、彼の希望もあって戦闘訓練。パルクールやナイフ戦闘術では私の方が勝っているが、刀剣の扱いや平地での脚力では彼の方が勝っている。戦闘訓練では人目に付かないように外に出て、夜の公園を使っている。
「ハァ、ハァ……俺はフルタイムのシフトが終わった直後なんだが……」
「そうですか。じゃあ次、武器交換していきましょう」
木刀と木短刀を交換し、訓練を再開する。
そんな毎日を過ごしている。穏やかな日々だ。訓練の時間以外は家に籠っていなければならないのが、不満といえば不満だが。時折
赤黒がパルクールやナイフの扱いに慣れてきた頃で、私が日本刀術・投擲術・抜刀術を赤黒から学ぶことは無くなった頃。赤黒は私に問いかけた。
「コベニ。お前普段手を抜いてないか?」
「え、料理ですか?」
「いや、戦闘訓練だ」
「そりゃ殺さないようにはしてますよ」
当然のことだろう。
「そうじゃなくて、そもそもビクビクして腰が引けてる。常に逃げることを第一に考えてるだろ。お前の話と戦果を見るに、本気になると相手を殺すまで止まらない殺戮マシーンみたいに聞こえるんだが。殺意を出さず全力って、出来ないのか?」
「うーん……無理、ですね」
殺意を出さずに全力、意味が分からない。命の取り合いに陥らないと全力って出せないものだろう。
「これは俺の持論だが。『何を成し遂げるにも、信念が要る』んだ。そして、暴力というのは最も純粋な目標達成の手段だ。暴力の精度・密度・純度を高めるには、信念が要るんじゃないか?お前にはそれが欠けている、ということだ」
信念、信念か……
「アドバイスありがとうございます」
信念。デンジ君はそんなの無くても強かったけどな。
生き汚い感じが、割と。
岸辺隊長は、何か信念とかあるのだろうか。
もう、前の世界の人たちの顔もぼんやりとしか思い出せなくなってきた。
その日から、ぼんやりと、自分の信念とは何だろう、と考える時間が増えてきた。
まず前提として、この世界は地獄である。あの蟻みたいなのが地獄の悪魔なのだろう。
で、悪魔や魔人、超人が自分を人間だと名乗って、悪魔の力を個性だとしている社会、という訳だ。人口の二割くらいは本当に人間らしいのだが、それも殆どは中高年。今や真の人間は淘汰されかけている。
そういう自分の認識を元に思想書をインターネットで買い漁って読んでみる。
すると、一つの理論がしっくりと来た。「個性終末論」。個性は世代を重ねるにつれ、強力に曖昧になりコントロールが効かなくなり、やがて個性持ちが暴走して世界を滅ぼす、という論理だ。
確かに筋は通っている気がする。だが学術機関は総じてこれを否定しているらしく、中学校の授業でも個性終末論はデマですと強調されて教わった。
世代を重ねるにつれ個性が強力になってるのは否定しがたい事実だし、大学のお偉いさん方がやっている反証実験も、素人目線では不十分に見える。
「人はこうやって陰謀論に嵌っていくのかなぁ……どう考えても国家権力の方が個性終末論よりうさん臭く見える」
個性終末論と個性による終末の回避を主に掲げている小さな思想団体が海外にあるようだ。ヒューマライズ。構成員は数百人ほどの小さな団体だが、そこに行くのに躊躇いは無かった。
別れるときに、彼に感謝を告げる。
「赤黒君、今までありがとう」
「ハァ……この一年、お前の成長は著しい物だった。個性の影響もあるのだろうが、剣術、そして投擲術は俺の5年間の努力を1年で軽々しく飛び越えた。俺の戦闘術はお前との研鑽で更なる高みに至った。さらにプログラミングやイラストで
「赤黒君は、これからどうするの?」
「そろそろ、行動で示す時だと思っている。お前に迷惑を掛けないように、お前が去ってからやると決めていた」
「そっか……私からは何も言えないけど、ヤクザみたいになって欲しくはないな。彼らみたいに、無辜の人々を踏みにじって命を軽々しく奪うような人には」
「ハァ、十分に言っているな。まあいい。相応の罪には相応の罰しか与えないつもりだ。社会に害為す悪や贋物だからと言って、全て殺すつもりはない。安心しろ」
「安心、出来ないけど、赤黒君は止まらないんだろうね」
「ああ」
「じゃあ、ね。死なないでね」
「俺はオールマイト以外には殺されん」
タルタロスの中の義爛には、届くかどうかわからないが彼にだけわかる暗号で手紙を送り、
外洋密漁船をいくつか乗り継ぎ、本部があるクレイドに到着した。
事前にアポを取っていたので、すぐに代表に会えた。ヒューマライズ創設者、フレクト・ターン。個性「リフレクト」によってさまざまな苦難を味わった、と自伝には書かれてある。
「やぁ、東山コベニさん、だったかな?ようこそヒューマライズへ。小さな拠点だが、歓迎する」
青い肌に、体型を見せない宗教的な服装、個性による不便を解消するための、複数の手鏡のようなサポートアイテムを身に着けている。笑顔で私を歓迎した。
正直、見た目はあまり良い印象は無い。自分を救世主だとでも勘違いしているのだろうか。悪魔の癖に。「正しい世に与するだけの獣」を自称する、赤黒君とは大違いだ。青肌で非人間的な見た目なのもその感情を助長した。
だが、その感情を顔に出さないように努力して自己紹介する。
「は、はい。東山コベニです。私はっ、日本で冤罪によって指名手配を受けており、そのためこのクレイドに逃亡してきました。出来れば思想的にも共感できるこの団体に匿ってもらえれば……と思い、こちらに来ました」
思想的に共感できるのは事実だ。だがそれはヒューマライズに対してではなく、個性終末論に対して。
冤罪を受けた、というところでフレクトの表情が変わる。薄っぺらい笑みから、同情の顔に。
「ほう!日本は反終末論教育によって統制されていると思ったが、ここまで有望な若者がいるとは。安心すると良い。クレイドと日本は犯罪者の引き渡し協定を結んでいないから、クレイド国内で罪を犯して、それがバレない限り処罰されることはないよ」
よし、敵対視はされなかったようだ。
「はい、それで匿ってくれる件については……」
「ふむ。可能であれば同志に不自由なく生活させてやりたいところだが、我が団体も金銭的に裕福とは言えなくてね。研究費や儀礼場を作っただけでスッカラカンなのだよ。何か、ヒューマライズに貢献してくれるなら話は別なのだが……」
対価、か。金は密航で使い切った。故に身一つで出来ることと言えば。
「あ、それなら!戦闘を構成員……同志の皆さんに教えられます!格闘、ナイフ、刀剣、投擲、身体操作、あと銃の扱いも多少は……」
「うーむ……我が団体は現状、特に武闘派路線を取っているわけではないのだが……しかし、組織の強化のためには戦闘部隊も必要か。よし、それでお願いしよう」
そういう訳で、私はヒューマライズの戦闘教官となった。
コベニちゃんはナチュラルに異形差別します。フレクトも異形判定です。当たり前だよなぁ!?
前話に「コベニの戸籍偽装と殺人が判明したのは雄英入学時の身辺調査が原因」だということを明記しました。
前話に「未成年の全国指名手配が異例であること」を明記しました。感想欄の皆様のご指摘ありがとうございます。