虹夏「そういえば喜多ちゃんとぼっちちゃんって学校一緒なんだよね」
リョウ「学校でのぼっちってどんな感じか教えて」
喜多「えーと…いつもどこかに話しかけてることが多いみたいです。あと、ジェンガとかポーカーとか、本来数人でやる遊びを一人でやってるところを見たって子もいました」
虹夏・リョウ(やっぱりイマジナリーフレンド作っちゃったか…)
カイム「フルハウス!」
ひとり「ツーペア!負けたー!最近運良いしいけると思ったんだけどな…」
カイム「ふっふっふっ運だけではどうにもならないでござるよ」
ひとり「むーっもう一回!」
「…ギター難しすぎるー!」
「おい…ひとり!できたが…押さえにくい…」
「…なんとかなった?でござるが…」
「この状況をどうしたら…」
時間は、少し遡る。
これは、喜多をバンドに勧誘する前の日。
ひとりはある人物に呼び出されていた。
「え…えーと…どういうご用件で…」
「お前を呼び出す理由など決まっているだろう。わらわにその“ぎたぁ”とやらの使い方を教えろ」
ひとりとカイムは今、妖魔界の宮殿にいる。
呼び出した人物、というか妖怪は百鬼姫。
鬼族の頂点に君臨する鬼KINGの娘であり、絶大な妖力の持ち主である。
だが、それと引き換えに、感情を失ってしまった…フリをしている。
「しかし、どうしてギターを習いたいのでござるか?」
「だよね。今まで特にそんなことは言ってなかったのに…」
「おいどこに話しかけているひとり」
「えっいやっカイムと少し相談を…」
「?貴様1人しかおらぬではないのか?」
「はじめから拙者もいるでござるよ…」
ひとりが例外なだけで、カイムが妖怪に気付かれることはほぼ無いと言っていい。存在感が皆無なゆえに。カイムは泣いた。
「まあ良い。それでどうした」
「いや…どうして百鬼姫はギターを習いたいのかなって…」
「それは…り、理由などどうでもよいではないか!」
「す、すみません…でも、一応聞いておかないかな〜…と思って…」
基本妖怪相手には自然に話せるひとりだが、それでも話しにくい場合はある。百鬼姫のように、怒らせたら怖そう、だとか格が高そうな妖怪であればなおさらだ。
それに、何か聞いても冷たく返されることが多い。しかしながら今回は少し違うようだ。
「…どうしてもか?」
「あっいや別に強制する訳ではないんだけど…」
「その……たいのじゃ」
「結局言うんでござるか」
「…え?」
「〜//!二度も言わせるな!父上を驚かせたいのじゃ!」
「「あ〜…なるほど」」
「なに納得した顔をしている!」
百鬼姫は普段、感情を無くしている…フリをしている。
というのも、彼女の父親鬼KINGは多忙であり、普段から構って貰えなかった。そのため、少しでも自分を見てくれるよう、感情の無いフリをしていたのだ。しかし、その事情ついては未空イナホとUSAピョンの手により解決している。
それではどうして感情の無いフリをし続けているのか?…それはただ単に性格な冷たいだけかもしれない。
「何度かおまえの弾く姿を見てきたが…ある時聞いてしまったのじゃ…父上がおまえの演奏は素晴らしいと言っていたのを」
「そういえば何度か見に来ていたでござるな」
「だから…私が“ぎたぁ”を弾けるようになったら…父上も驚いてくれると思うのじゃ!そうすればきっと今まで以上に…」
「百鬼姫は鬼KINGさんが大好きだからね」
「は、恥ずかしいことを言うな!」
百鬼姫は鬼KINGのことが大好きだ。だからこそ、できるだけ自分に構ってほしかった。しかし、今は「構ってほしくて感情のないフリをしていた」事情を伝えたため、現在では家族仲良く過ごしている。
だが、それでももっと自分を見てもらいたいのだろう。ひとりとカイムは温かい視線で見守っていた。
「うん、百鬼姫の頼みだし。私なんかで良ければ」
「おぉ!」
普段は無表情だが、不意に出る笑顔はとても明るい。それほどまでに、ギターを習えることが嬉しいようだった。
「それでは時間はどうする?」
「最近バイト始めたけど…少し時間もあるから放課後とか、スタジオ空いてる時は教えられるよ。ギターも必要だから、後で一緒に見に行こうか」
「本当か!それでは早速行くぞ!ひとり!」
こうして、百鬼姫にギターを教える約束をしたひとり。
教えること自体初めてではあるが、それでもなんとかなるだろう。
別にバイト以外予定という予定も無いと。
そう、思っていた。
だが
「…おいひとり、どういうことだ。予定が変更になる?」
「その…すみませんでした!だってとても断れる状況じゃなかったし…」
「別にそやつの時間をズラせばよいではないか」
「でもその人の住んでるところは私の家と離れてて…あんまり夜遅くには教えられなくて…」
「父上にバレぬよう予定を組んでいたのに…下手に時間を変えてしまえば怪しまれる。どうにかできんのか」
めでたく喜多が結束バンドに加入した夜。ひとりは急遽百鬼姫を呼び出し、事情を説明していた。
その場に流され、喜多にギターを教えることが決まったものの、教えられる時間がブッキングしてしまったのである。
うんがい鏡を使っているとはいえ、ひとりはかなり遠くから下北沢に通っている。そのことを既に知られているため、あまりにも夜遅くまでいると怪しまれてしまう。それゆえ、喜多に夜遅くにギターを教えることはできない。そうなると必然的に、教えられる時間は放課後、バイト前の時間になってしまうのだ。
それでも、妖怪である百鬼姫ならば時間に融通がきくと思っていたが、彼女側にも事情があるようで、時間変更は困難であった。
「だからと言ってどちらの依頼も絶対断ることなどできないでござるし…」
どうしたものか
首を傾げてもいい案は浮かばない。
同時に教えられたら、とも考えたが、妖怪と人。片や見えず、片や対応が難しい。
だが、そう考えているうちに、ふと、口に出した言葉に、百鬼姫が反応した。
「せめて同時にできたらまだマシになるんだけど…」
「…今なんと言った」
「えっもし喜多さんと百鬼姫を同時に教えられたらなんとかなるかもって…」
「それじゃ。それで行こう」
「「えっ」」
「ひとりにも事情があるのじゃ。わらわもそこは受け入れる」
「マジでござるか…⁉︎」
「嘘ついてない目をしてるけど…」
「…不満か?」
「「いえっ何も!」」
と、いうわけで
「しょ、紹介します!えっと…中学での私の友だちのひゃっk…違う違うえーっと…百だから。
((ぼっち(ちゃん)、友達いたんだ…))
妖怪は基本、人には見えない。だが、見えるようにする手段はいくつか存在する。今回のように、人に化けることもその一つだ。
現在、百鬼姫もとい百花は、女子高生の姿をしている。
「あ…こちらが今回一緒に教える…」
「…えーと、はじめまして!喜多です!よろしくね!」
「そうか」
(リアクション薄い…)
「人に化けても相変わらずでござるな…」
内心どう思っているのか分からないが、百花はいつも無表情だ。別に感情を失っている訳ではないが、他人には基本塩対応であるので、喜多も若干困っている。
「ま、まあ、とにかく今からギターを教えます!」
「頼む」
「よ、よろしくお願いします」
なんだかんだありつつも、こうしてギターレッスンが始まったのだが…
「ねえこれギターだよね?不良品とかまたベースじゃないよね?」
「できないのを楽器のせいにするな赤毛」
「す…すみません…」
「あ、あの…2人とも一旦休憩に…」
「なんじゃ。わらわはまだできるぞ」
「えっと…あんまりやりすぎて手首痛めてもいけないので…」
「見事に苦戦してるでござる…」
「ごめんなさいね弱音ばっかり…後藤さんには昼休みにも教えてもらってるのに…」
ギターレッスンが始まったはいいものの、喜多は壁に激突していた。
喜多はひとりと同じ学校なので、バイト前以外にも昼休みなどにギターを教えている。しかし、彼女自身がなかなか上達したと感じられずにいた。
「ほーら差し入れだぞ〜」
「あ、虹夏ちゃん…ありがとうございます」
「…ありがとうございます」
「喜多ちゃんどうした」
タイミングを見計らっていたのか、休憩にしようと言ってすぐに、虹夏がいくつかジュースを持ち部屋に入ってきた。それぞれが受け取り、一息つく。
相変わらずひとりは話にうまく加われないが、話しているうちに喜多の顔も明るくなっていった。
「そういえばさ、中学のころのぼっちちゃんってどんな感じだったの?」
「なぜそんなことを聞く」
「なんか高校より前のぼっちちゃんがどんな感じだったか気になるし」
一応、百花はひとりの中学での友人ということになっている。わざわざ離れた秀華高校に通っていることを知っているため、ひとりの中学時代がどのような様子であるかは気になっていた。そこにひとりの中学での友人が現れたのなら、当時を訪ねるのは当然だった。
「ふむ…あえて言うならば、根暗なやつじゃ」
「ね…根暗…」
「普段は姿を見せん。それに、見られたらすぐ逃げる。そのくせ自分では仲良くなりたいと思っている」
「ゔっ」
「そうでござったな。妖怪相手にはそうでないのに」
「なんか昔から相変わらずだったんだねーぼっちちゃん…」
「ぼっち、元気出せ」
「先輩いつの間に⁉︎」
「気になったから来た」
「根暗…根暗なんだ私…」
「間違ってないでござるな」
「うぅ…カイムのばかぁ…」
ど直球に根暗だと言われ、ひとりは落ち込んだ。実は百鬼姫には今までに言われたことがあったが、人前にで言われるとやっぱくるものがあるのだ。
「そういえば百花さん、好きなものある?」
「……メロンパン」
「分かるわそれ!最近イソスタでも話題になってる店があって〜」
「イソスタとは何じゃ」
「えっとね、こういうアプリで…」
「おい草食い女。なんで草を食べておるのじゃ」
「後輩に脅されてベースを買わされたせいで有り金が尽きました…うっうっ」
「別に脅してないよー買い取るってリョウから言い出したじゃん。っていうかマジで草食べてる⁉︎」
「ほらヨキシマムゴッドでござる」
「んぐっんぐっ…ぷはぁ…生き返った…」
結束バンドのメンバーと百花がなんだかんだで打ち解けはじめた一方、根暗と言われ落ち込んでいたひとりは、カイムの協力により、ようやく元気?になった。しかし、気づけば自分が話に加われず、一人取り残されていると感じでしまった。
(マズい…会話に加われてない…こ、このままじゃ…)
「わらわは結束バンドと仲良くする♪人前で話せないひとりよりも明るく話しかけてくれるからな♪」
「「「よろしくねー!」」」
「百鬼姫が取られるよぉ……私が陰キャのせいでぇ…」
「また変な想像してるんでござるか」
目の前の状況から、かなり変な想像をしそれに喜んだり苦しんだらする。ひとりの癖である。
「ねえぼっちちゃん」
「はいい!」
そうやって別のことに気を取られているため、相手にいきなり話しかけられるとかなり驚きやすい。これもまたひとりの人付き合いの難しさを加速しているのかもしれない。
「ぼっちちゃんは百花ちゃんのことどう思ってるの?」
「え…えっと…」
(少しでも百鬼姫に親しみを持ってもらわなきゃ…親しみ…だから陽キャのイメージを…)
「あ…まぁ…やっぱ…大切な友だちで…よくその…ご、ご飯食べに行ったり…」
「確かに行ったでござるな。妖魔界だけど」
「まあ、そんなこともあったな」
「い、一緒に天ぷらとか…すき焼きとか!なんかウェーイ!って感じで昼間夜もフィーバーしてる街歩いたりとか!」
「そ、そうなの?」
「あながち間違いではないでござるが…」
「気にするな。人相手にはいつものことだ」
ひとりは自分のことを陰中の陰。ド陰キャだと思っている。そのため、人に少しでも自分が陽なように見せようとするが、ひとりにとっての陽キャのイメージは少し偏見が混じっている。結果として、唐突に謎の陽キャアピールを始めてしまうことがあるのだ。
といっても、普段からひとりと関わっている結束バンドの面々や、付き合いの長い百鬼姫には見慣れた光景である。
「も、百花さんはいい人なんですっ!ちょっと冷た…クールですけど!私の大事な…すごく大事な、友だちで…!」
それでも、バンドメンバーに百花へ少しでも親しみを持ってもらいたくて発言するひとりの意思は、皆が察していた。
普段は無表情の百花の表情も、少し和んだ。不安だったカイムも、なんだかんだいつも通りに落ち着きそうだと胸を撫で下ろした。
が、そう思ったのも束の間
「つるっと失言、ごめんちゃーい!」
「普段も私の用事に付き合ってくれた…うっ!…」
「どうかした?」
「後藤さん?」
「ひとりどの…?」
突如、ひとりは話すのを止めた。刹那、妖気が全身を覆い、体は脱力する。
話しが中断されたため、周りは怪しく感じ、声をかける。だが、ひとりはゆっくりと顔をあげ、また話し始めた、のだが…
「あっそういえば百花さんはお父さんが大好きなんですよ〜すっごく“ファザコン”でいつもお父さんの話ばかりして!……あっ」
「あーやっべ!言っちまった!ごめんちゃーい!それじゃ!」
空気が凍る
百花、いや、百鬼姫の全身から凄まじいまでの威圧感、もとい妖気が満ち溢れ、部屋にいる者たちは血の気が引く感覚があった。本当に空気が凍ったかのように冷気が満ち溢れていき、全身に悪寒が出る。
「……」
「あ…あの…今のは…口すべら…ひぃっ!」
「…今回は許してやる。が、後で少し付き合え」
「…はっはいぃ!」
ひとりが手に持っていたジュースは、コップごと完全に凍結していた。
そうして、後日
「それではバンドミーティングをはじめます!」
ひとりがバンドに加入した次の日にも行った、恒例バンドミーティングである。相変わらず、テンションは少し高い。
少し間をおいて、虹夏はスケッチブックを取り出した。
「今回のテーマはこちら!より一層バンドらしくなるには?」
「バンドらしさ…でも具体的にどういうことだろ…」
「一言にバンドと言っても今ではジャンルら多岐にわたるでござるからな」
今までバンドに憧れ、ずっとギターを練習してきたが、そんなひとりでも「バンドらしさ」というものははっきりとは分からない。だが虹夏には別の意図があるようだった。
「ぶっちゃけ練習あるのみなのはわかってるんだけど…でもそれだけだとね〜話することも大事じゃないかなって!」
確かに、最近、主にギターは練習に明け暮れている。現在、すぐにでもギターを上手くなりたい、という感じ練習に打ち込む喜多と百鬼姫。始めたてはぎこちなかったものの今ではある程度慣れ、普段自宅でも弾いているという。
(そういえば最近喜多さんと百鬼姫でギターの練習ばかりしていたな…休憩入れないと2人だけでずーっと練習してて…もしかしてその息抜きのために!)
「まぁまずは形から入ってみるのもアリでしょ!」
「そうですね!流行ってるメイクとか参考にして…」
「メイク…花子さんとかに聞けば分かるけど自分はなんにも知らないし…」
「一度色々してもらったでござるざ、拙者も終始よう分からなかったでござるな」
「カラカラさんとつらがわりにもやらされたし…あの時の黒歴史…」
「いやでも、相当似合ってたでござるよ?」
「そうかな…」
「黙ってればひとりどのは美人でござるからな」
「えへへ〜…って黙ってればって。普段はそうじゃないって言いたいの⁉︎」
「そりゃあまあ。人相手には基本猫背、下向き、変な行動起こしちゃう方でござるから」
「ぐぬぬ…」
と、ひとりとカイムが話しているうちに、虹夏は机の下から何かを取り出した。
「というわけでバンドグッズ作ってきた!」
(予想以上に形から!)
並べられたグッズは赤、ピンク、水色と色とりどりだ。しかし、全て結束バンドである。
「…結束バンドでござるな」
「…確かにバンド名通りだけど…」
「色とりどりでかわいいでしょ!」
そう、腕巻きつけた結束バンドを見せる虹夏。自信満々であるが、ひとりとカイムは困惑気味である。その反応と対照的に、リョウと喜多は特に気にしていない様子だ。
「物販で500円で売ろう。サイン付きは600円」
((いやそれってかなりぼったくりじゃ…))
「安い!買います!」
((買うんかい))
どこからともなくサインペンを取り出し、自分の腕に巻いた結束バンドに書き込むリョウ。虹夏は特に気にせず、次の案を募っていた。
「他になんかいい案ある人〜」
「私イソスタやるなら自信あります!」
「それじゃあ喜多ちゃんSNS大臣で」
「毎日更新しますね!」
「後は…ファンクラブの設立?」
「年会費は一万円」
((こっちも値段が高い!))
「会員特典として握手会と年に一度のたこ焼きパーティーと…」
トントン拍子で話が進んでいき、気づけば何も発言できていないひとりはまたしても困惑中である。
「後藤さんは何か案ある?」
「え゛」
(何も考えてなかった…!)
「い…いや…ソノ…」
(そんな目で!キラキラして期待に満ちた目で見られたら…!どうしようどうしようどうしよう)
不意に話題を振られ、案を何も考えていなかったことに気がつき、どうしようかパニックに陥っていた。
しかし、虹夏はまるで心配はないという顔をしていた。
「あーぼっちちゃんは大丈夫。だってオリジナルソングの作詞っていう重要任務があるから」
「「えっ」」
「前に決めたじゃん、リョウ作詞でぼっちちゃんが作詞って」
「そうだ!ボーカル見つけたら曲も作ってみようよ!リョウは曲作れるし、歌詞に禁句があるなら…ぼっちちゃんが書けばいいよ!
書けばいいよ
書けばいいよ
書けばいいよ
(言われてたーッ⁈)
「えー!リョウ先輩の曲楽しみです!もう作曲してるんですか?」
「ううん。イメージわいたらそのうち」
「頼むよリョウ、それと作詞大臣!」
「あ…あぅ…」
「まさかの伏線回収でござる⁉︎」
「後藤さんすごい仕事任されてかっこいいね!」
(か…かっこいい⁉︎私かっこいいって思われてる!)
「さ…作詞なんて朝飯前〜私に任せればちょちょいのちょいですよ〜」
(チョロすぎるでござる…)
1週間後
「…ってまた成り行きで引き受けちゃったけど…どうすればいいのーッ!?!??」
絶賛苦戦中。後藤ひとりである。
いざ歌詞を書こうにもなかなかいい案が浮かばず、叫ぶしかなくなっている。
「歌詞は思いつかないのにサインは完成してしまった…」
「これは一説によるクマが、サインの起源は古代ローマで名前を書いたことから始まるらしく…」
「相談に呼び出したうんちく魔はあまり役に立たないし…」
「それは人選ミスだと思うでござる」
一心にノートと向き合うもの、まだ一フレーズどころか一文字も書けていない。歌詞を書くためには豊富な知識をつけた方がいいと思い、と思いうんちく魔を呼び出してみたが、思うようには進まない。
「そういえば昔歌詞ノートをつけていたでござらんか?」
「…いや…見てみた。見てみたんだけどさ…こんなじゃ無理だよ…」
そう言い、カイムにノートを渡す。興味津々と言った顔で一枚ずつページをめくるが、だんだんとその表情は険しく、困惑したものになっていった。
「五寸釘…黒装束?金槌持って準備万端…誰か呪う気でござったか…⁉︎」
「多分その時すごく病んでたと思う…ヤミ鏡に吸ってもらって落ち着いたけど」
「吸われるぐらいの闇はあったんでござるな」
「あーッどうしたら…どうしたら…」
「ちょっといいクマか?」
と、そんな中、うんちく魔が話に加わってきた。
「どうした?」
「試しに、バンドメンバーの相関を考えてから歌詞を書いてみるのはどうクマか?どうしても思いつかないなら、周りの雰囲気に合うものを書いてみるのもアリだと思うクマ」
「あっ…うーん…となるとボーカルは喜多さんだし明るい歌詞を…」
(暗い歌詞ならいくらでも書けるけど…喜多さんなら…
キターン!
キターン!
キターン!
「よしっ」
「お、決まったでござるか?」
「うん。とにかくキターンとした青春ソングを書く。そのために明るい人間になりきるんだ。私は陽キャ。ナイトプールでサーフィンする女。そしてクイーンオブウェーイの名を手にする女!」
「いやそれは陽キャというよりはパリピが近いでござる」
「多分ひとりの中の陽キャ観がだいぶ偏ってるクマ。どうせなら身近にいる人間で考えてみたらどうクマ?」
「はっ…だったら喜多さんになりきって…カイム!大辞典!」
「あ、はいどうぞ」
「私の友だち!出てこいモノマネキン!」
『it's a ゴーケツ・タイム!』
「ハーイ!ワタシ、喜多!キッタキッタ喜多でーす!今日渋谷行く人この指とーまれ!あっちで花火上がるらしいからキターン!とした映え写真を撮って〜!こんな感じ?」
「そうです!それが私流モノマネ術です!」
「相変わらず似てないモノマネでござる…」
「身近な人で考えるって、例えばこの人ならこうするだろうな〜とか想像することじゃないクマか…?そういえばモノマネといえば、超古代から野生動物を真似する仕草が始まりだという説もあって…」
しかし、ひとりたちは気づいていなかった。この一連の流れをふたりとジミヘン、途中から両親にも覗かれていたという事実を。
「よーしもっともっと真似を…え、」
「ひとりどのどうし…あ」
「「あ」」
「…お母さんの知り合いにいい霊媒師さんがいるんだけど…」
「それだけは勘弁!悪い妖怪は取り憑いていないから!大丈夫だからお父さんも数珠おろして!」
「うん…青春ソングはやめる。応援ソングを書こう」
「でもひとりどのってそういう曲は苦手でござったような…」
「…無責任に応援するのはあんま好きじゃなくて…でもとにかく書くしかないかな…」
考え
考え
逆さまになり
考え
本を読み込み
考え
回り
考え
書き込み
(書けたけど…)
「薄っぺらい!こんなの落ち込んでる時に聞いたらさらに落ち込むし…」
「どれどれ…」
夢は必ず叶う。諦めないで。エールを送る。などなど
確かに典型的な応援の言葉で溢れている。しかし、同時にひとりの感じる薄っぺらさも感じていた。結果としてひとりの苦手とする歌詞になってしまい、でも新しい案は浮かばず、2人とも悩むことしかできない。
ふとその時、不意にひとりのスマホから着信音が鳴った。
「どうしたら…ん?ひぃっ!」
「今度はまたどうしたでござるか⁉︎」
場所は移り、下北沢駅
「大変申し訳ありませんでしたッ!」
「ご、後藤さん⁉︎」
「なになにどうした⁉︎」
「調子乗ったくせに歌詞を全く書けていない私を呼び出して吊し上げる会では…?」
「そんな外道なことしないって…」
ひとりは、首に「私は約束通りに歌詞をかき上げられませんでした」と書かれたプラカードを下げ、土下座していた。
当然、喜多と虹夏は困惑気味である。
「それじゃあ呼び出したら理由は…」
「まだやってなかったことがあったんだよ、バンドらしいこと」
そう言いながら、虹夏は手で写真を撮るしぐさをする。
「アー写を撮ろう!」
「あ、あー?」
「アーティスト写真よ」
「今結束バンドにおるアー写にはぼっちちゃん写ってないしね」
「えっ、もああるんでござるか」
「いつの間に…?」
「ほらコレ」
そうリョウが見せてきた写真を見ると、写っているのはひとり以外の3人。だが…喜多は顔だけ切り抜かれて入っている。
「…ほら喜多ちゃん逃げちゃったから」
「ごめんなさい!」
(こんなひどいアー写初めて見た…)
「ま、まあだから!今日は天気もいいしみんなの予定も空いてたから!アー写を撮っちゃおうかなって」
「えっ…外でですか…?」
「スタジオ借りるにはお金ないから無理」
確かに、ひとりはいつものジャージ姿だが、虹夏、リョウ、喜多はおしゃれをして来ている。アーティスト写真を撮るがゆえ、見た目を良くしようという意図である。
自分だけジャージであることをひとりは気にしていないが、しかし外で撮影するのは本人にとって問題があるようだ。
「下北の外で写真撮る何でハードル高すぎる…」
「ま、まあ外じゃなくてSTARRYでもいいんだけど、アー写ってバンドの方向性とかメンバーの特徴をを一枚で伝える大事なものだからさ」
「じゃあ気合い入れて撮らないとですね!」
「その通り。ライブハウスのサイト告知やフライヤーや雑誌。どんなところで使われてもインパクトがある感じにしたいの」
「だそうだ」
「…分かりました。覚悟決めます」
「まあ…頑張るでござる」
「それではアー写撮影の旅へレッツゴー!」
「おー!」
「お、おー」
後藤ひとり
百鬼姫とはそこそこ親しい仲である、初めて会った時は冷たくされたことでダメージを受けたりしたが、今は一緒にスイーツ食べたり、相談事をするぐらい仲が良い。最初につけられたあだ名は根暗女。
カイム
ひとりがバンドでうまくやっていけるのか結構気にしている。困難を解決するために呼ぶ妖怪も、精神状態によってはさらに状況を悪化させる妖怪を呼び出すことがあるため、メダルは基本カイムが管理している。持ち前の能力で百鬼姫に存在が認識されないことが多い。そのためあだ名で呼ばれたことすら無い。 本人は気にしている。
百鬼姫
ギターを弾きたくなったので、ひとりに教えてもらうことになった。人に化けた時の見た目は妖怪学園Yの姫川フブキの髪色を紫にしたもの。今日も父である鬼KINGを喜ばせるため、ギターを練習している。それ以来すっかりハマったようで、自宅にいる時もよく弾いているらしい。その姿を見て、従者のかげ老師は感慨深く感じている。
喜多、虹夏、リョウ
ぼっちちゃんが友達を連れてくる、と聞いたので、似たタイプが来るかと思ったらだいぶ予想外の方向から来て内心驚いている。言動からどこかの箱入りお嬢様だと推察しているが、どういう経緯でひとりが友達になったのか。そのことが気になっている。
ひとりの家族
家でも誰かに話しかけていることや、様子が急変したりすることが多いので、何か悪いモノに取り憑かれているのではないのかと、お祓いを真剣に検討している。
口すべらし
あの後、百鬼姫直々に氷漬けにされた。
うんちく魔、モノマネキン
ひとりの歌詞作りの手伝いに呼び出された。どんな曲になるのか純粋に気になるため、またライブをやるなら行く気満々である。