ぼ喜多短編集   作:kuronekoteru

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『星座になれたら』の星って……

 

 文化祭ライブから数日が経過した後の休日、結束バンドの面々は何時も通りにSTARRYに集まっていた。三人集まれば姦しいとはよく言ったもので、練習もそれなりに今は会話に華を咲かせている。

 

 ……本日不在の後藤ひとりを除いて。

 

「それにしてもさぁ、文化祭ライブは大成功だったよね!」

「ぼっちのダイブ含めて最高だった」

「ひとりちゃんは最後の奇行がトラウマになってるみたいですけど……」

 

 ごく自然に奇行などと発言してしまっている喜多郁代は、この場に居ない後藤ひとりを思い浮かべては憂いている。思っていた方向に会話が進まずに苦笑いを浮かべているのは伊地知虹夏で、山田リョウは特に何も考えていない。

 三者三様だった彼女たちは、喜多の手元に置いてある歌詞――文化祭ライブのトリになってしまった曲『星座になれたら』を覗き込む。そこには、あの後藤ひとりが書いたとは思えない綺麗な言葉たちが整然と並んでいた。

 

「ぼっちちゃんって、やっぱり星が好きなのかな? 前の曲でも何回か出てきてたし」

「……んー、夏休み中に星関係の動画を見ていたって話は江ノ島からの帰りの電車で聞きましたよ」

「えっ、私が寝てる時に? うわー、ちゃんと起きてればよかったなぁ」

 

 両の手で自身の頭を抑えてオーバー気味に残念がる虹夏。崇拝している先輩よりも早く眠りに落ちていたじゃないか、と指摘したい内心を難なく抑え込み笑顔を見せる喜多。表面上は何とも微笑ましい空間が広がっている。

 

 だがしかし、リョウは二人の会話を無視して考え込んでいた。やがて思考が纏まったのだろう、普段通りのアンニュイな表情のままに口を開いた。

 

「星っていうか、この"君"って郁代のことだよね」

「…………はい?」

 

 突然に憧れの先輩から下の名前で呼ばれることに未だに慣れ切っていない彼女は微かに赤面する。ただ、その要因は名前呼びだけでは決してなかった。

 

「一つしかない、自分から遠い場所に居る眩しい星……確かに喜多ちゃんのことかも」

「そんな郁代とぼっちは星座になりたいらしい」

「……つまり、これってぼっちちゃんからのラブレターでは?」

 

 次第に髪色に近付いていく後輩の顔色を、揶揄いの目で眺めている先輩組。珍しく余裕のないあわあわしている表情が火に油を注いでしまう。

 喜多は勘違いしてしまっている自分から何とか矛先を変えようと苦し紛れに言葉を絞り出した。

 

「た、多分これは私じゃなくて、お二人のどちらかだと思いますよ。だって元々ひとりちゃんを勧誘したのは伊地知先輩ですし、リョウ先輩は元々カッコ良くて眩しいですから!」

「ふっ、……まあね」

「こらー、そこ調子に乗らない。あと私の理由が弱くない?!」

 

 お得意の自己意識の高さをまんまと利用されている友人を咎めると同時に、自身の可能性の理由が適当に聞こえてしまうことに荒げた声が上がる。比較的聡くはあるが、自信は持ち得ていない虹夏は改めて連なっている文章を静かに読み直し、おふざけなしの本当の想いを口にした。

 

「……けどさ、やっぱりこの"君"は喜多ちゃんだと思うよ。学校でも自分の家でも喜多ちゃんが皆に愛されてる姿をぼっちちゃんは見てるんだもん」

「…………そう、ですかね?」

 

 学校以外では虹夏も同じ状況だろう。けれど、真面目な瞳で言われてしまっては納得せざるを得ないのが後輩としての役割だった。誰か一人を決めるなら、もう自分以外だとは言えない雰囲気の中で喜多は逃げの一手を打つ。

 

「もしかして、これって私たち三人のことを指してるんじゃないですかね、だって星座って星が幾つも繋げられて作られてますよね?」

「……いや、こいぬ座は二つの星だけで形作っているらしいから、あるにはある」

 

 有耶無耶にしようとした可愛らしい後輩に向かって、Google検索のトップに表示されている星座図鑑の文字列を見せつける。調べたらすぐに答えが返ってくるネット社会と二人の先輩はきっと逃がしてはくれないだろう。

 

「満月は綺麗だけど、欠けたり見えなくなるタイミングが別れをイメージしてしまう。だから同じ星になって星座になりたい……」

「ロマンチックだよね~、私がこんな言葉を送られたら照れちゃいそう」

 

 言い返すことも出来ずにいる喜多に対して平然と続けられる追撃。しかし、当の本人は羞恥よりも別の心情に苛まれていた。

 決別の日、そんな日を恐れる後藤ひとりに向けて呟かれるひとりごと。

 

「私はひとりちゃんを支えるって決めたから、離れるわけないのに…………」

「えっ、喜多ちゃん今何か言った?」

「ごめん、聞こえなかった」

 

 無意識に漏れていた言葉は幸いにも二人には届いてはいなかった。届けたい相手は此処には居ないのだから、もう一度繰り返す必要なんてない。だから彼女は笑顔で別の話題に切り替えていく――みんなから愛される素敵な笑顔で。

 

「いえいえ、……そういえば、ここの言葉は間違いですかね?」

「えっ、どこどこ?」

 

「ほらここ、『僕がどんなに眩しくても』……って書いてますよね」

「確かに、……ぼっちちゃんも星になりたいって歌詞なんだとしたら変だね」

 

「……二人とも分かってないね、ここは視点が逆になってるんだよ。郁代視点だから間違ってない。ぼっちも歌詞書くのに慣れてきたから段々と複雑になってる」

「また二人だけで通じ合っててズルいです!」

「うーん、ここだけ逆の視点なんてあるのかなぁ」

 

 虹夏はちらと悩む素振りを見せたが、まぁいいかと納得させると二人の輪に割って入る。元々練習に来ていた筈の三人はすっかりお喋りに夢中になって結束を深めていく。お互いを知っていくのに、言葉以上の近道なんてそうはないのだから。

 

 やがて姦しい空間が終わる頃には太陽はすっかり沈み、夜空には綺麗な星々が色とりどりの光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何億光年も離れていない、電車で片道二時間の距離。長時間に及ぶ撮影と動画編集を終わらせた後藤ひとりは一人静かに笑顔を浮かべていた。両親にも見せられないような酷い笑顔を。

 

「ぐへへ、今を輝く天才ギタリストが動画を投稿しますよ…………ぽちっとな」

 

 投稿された動画の再生数、コメントが増えていくのを眺める悲しくも輝かしい星は、今日も押し入れで皆――結束バンドのメンバー達に囲まれて幸せそうに過ごしていた。

 




ぼざろ初投稿です!星座になれたらが好き過ぎたので書いてみました。別の歌詞解釈があれば是非聞かせてください!
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