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今から10年前、雪が深々と降る寒い冬の日だった。
その日は東北の小さな村へ出張で。勿論、幼い『彼女』は東京に置いていこうとしたのだが、どうしても離してくれず、結果として連れていくしかなかったのだ。
村人から怪しまれないよう、細心の注意を払いながら深夜の村を歩く。残念なことに、眠ってくれなかった『彼女』と手を繋ぎ、連れてである。
「ねぇ、お父さん」
お父さんではない。引き取った当初は何度もそう言って聞かせたが、それももう昔のこと。今ではそう呼ばれるのにも慣れたものだ。
なにか気になることでもあるのかと訊ねると、『彼女』は暗がりを指差した。釣られてそちらへ視線を向けると、そこにあったのは無数の首吊り死体。
『首吊り梯子』
準一級に指定される『呪霊』の仕業で間違いない。この村に来たのも、この呪いの祓除のためであった。
「離れちゃいけないよ」
「うん」
『彼女』を抱き上げ、辺りを警戒する。呪力の残穢はあるが、呪霊自体の気配はない。
「……お父さん」
虚空を見つめる『彼女』。その視線の先には一件の民家。
この娘は呪力感知の能力が高いようで、今回も僕が見落としていた呪霊の動きを感知していたのだろう。僕も目を凝らしてやっと見える程度の残穢がその民家へ点々と続いているのを確認することができた。
「……夜分遅くに申し訳ありません」
民家の戸を静かに叩く。怪しい人影がこの家に向かったのを見たから伝えに来たと戸越しに小声で伝える。勿論、こんな深夜に徘徊している僕も怪しいことこの上ないのだが、今は棚上げしておく。
とはいえ、民家に『帳』は降ろした。返事をもらう必要はない。反応がないことを確認し、僕は戸を蹴破った。
「っ、この臭い……」
「なんかくさい……」
「……鼻をつまんでなさい」
中には誰もいない。いや、正確には生きている人間は誰もいないと言った方が正しいか。肉が腐敗した臭い、死臭が玄関にまで漂ってくる。十中八九、住人は死んでいる。いるとすれば……。
「ここで待っているんだ」
「うん……分かった」
抱きかかえていた『彼女』をその場に下ろす。僕の言う通り、鼻をつまんだまま、なぜか民家に背を向ける『彼女』に、重ねてここにいるように伝えると頷いてくれた。これでいい。
「…………」
警戒を続けながら、民家の中へ。玄関から居間へ進むとあった。遺体だ。死後1ヶ月ほどだろうか。『彼女』を置いてきて正解だった。こんな光景を6歳の幼子に見せるわけにはーー
ーーキャァァァッーー
「!?」
女の悲鳴。それは外から聞こえてきた。
「っ、くそっ」
呪力を脚へ廻し、民家を飛び出す。
そこで見たのは血に塗れた『彼女』の姿。だが、僕の心配と裏腹にその血は『彼女』のものではないようでーー
「お父さん、この人呪詛師」
指差す先には女がいた。息絶えていた。その様子は凄惨で眼や口、鼻、耳……穴という穴から未だに血が吹き出ている。
呪詛師。それは呪術で一般人に害を為す人間。
『彼女』曰く、その女は外で僕を待っていた『彼女』の首を吊ろうとした。後から分かることだが、それは女の術式で、『首吊り梯子』の噂の影にいたのが、その呪詛師の女だという。階級は準一級相当……その女が死んでいたのだ。殺されていた。
「これは……どうしたんだ……」
どうやって殺したのかは分からない。だが、呪詛師を殺したのは『彼女』。それだけは分かった。
人を殺したのは初めてだったはずだ。罪悪感や嫌悪感。そんなものに苛まれているであろう『彼女』を抱きしめる。
「ごめんな、ごめん……」
だが、僕の心配に反して、『彼女』は抱きしめる僕の腕から這い出て言う。
「『わるもの』やっつけたよ!」
無邪気な笑顔だった。相手は呪詛師とはいえ、人間を殺すことに躊躇いのない『彼女』の姿に、僕は戦慄を覚えた。
「ほめて、ほめて!」
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始めに書いておくが、これは僕『
我が娘『
ーーーー呪術師『漣末吉』の日記より抜粋ーーーー