ーーーー都内某公立高校ーーーー
「んー! 終わったぁぁ」
授業も終わり、時間は16時半。夏前ということもあり、まだまだ日は高い。遊ぶ時間も十分ありそう。そんなことを考えながら、あたしは教室で大きな伸びをした。
ふと伸びるあたしの後ろに気配を感じる。呪力は勿論感じない。そりゃあそうだよね。振り返ると、そこには2人の女子生徒がいた。
「どしたの、ふたりとも」
「ユリぃ、これからひまー?」
「私達カラオケ行くけど、ユリも行くか?」
少し猫背でいつも眠そうな表情。見た目のぼやーっとした印象に違わない間延びした喋り方をする女の子がネコ。
対して、高身長でスタイル抜群。ショートで赤みがかった茶髪。カッコいい系の女の子がセイナ。
2人とも中学からのあたしの友達!
「行く行く~!」
二つ返事で答える。
「おっけー」
「それじゃあ予約入れとくよ」
「はーい!」
っと、そうだ! そういえば!
「ふっふっふっ、おふたりさん。カラオケ行く前に、クレープなんてどうだねぇ?」
「あー、それってぇ、もしかして最近できたとこ? 気になってたんだよねぇ」
ネコは乗り気。それに対して、セイナは思案顔だ。まぁ、いつもスタイル維持を気にしている子だし、カロリー計算とかあるんだろうなぁ。ふむ…………よし!
ネコと顔を見合わせて、ニヤリと笑う。ネコもそれだけであたしの意図を察してくれたようで、2人でセイナの左右、耳元へと顔を寄せる。
「おいしいよぉ、クレープ~」
「ふわっと口の中でとろけるホイップにぃ」
「甘酸っぱい大粒の苺~」
「おいしいよぉ」
「おいしいよ~」
「「おいしいよぉ~♡」」
「あっ、あ……あぁぁ……」
両耳からの囁き声で語彙を失ったセイナ。よし、堕ちた。
「よーし! ここはあたしが奢ってあげよー!」
「おー、ユリ太っ腹。ほら、いくよ、セイナ」
「あぁぁ……」
こんな風にあたしは昔から普通の学校に通ってる。小学校も中学校も高校も。せめて普段の生活は呪術とは関係ないところに、っていうお父さんが言ってくれたから。お父さんの『仕事』さえ入らなければ普通のJKなのである!
ふふふ~、ホントにあたしのお父さん、サイコー♡
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「待ち受けの人、ユリのパパだっけ?」
カラオケ店にて。
メモしてた歌いたい曲リストを見ようと、スマホの画面ロックを外したタイミングで、ネコがそう聞いてきた。あたしもスマホの画面に目をやると、困ったように微笑むお父さんと目があった。
……えへへ。
「そそ! イケメンでしょ~」
「んー、普通?」
「ん? 誠実そうな男性だな」
「……むぅ」
2人の評価は低くもなく、高くもなくって感じ。
お父さんの良さが分からないとは残念なヤツらめ……ま、言い寄る奴らが増えても困るし、分かる人にだけ分かった方がいいか。
「ユリはファザコンだなぁ」
「事あるごとに聞かされてきたからな。今更驚かないが」
ファザコンで何が悪い!
そう言うと、2人は顔を見合わせて肩を竦めた。
「……でも、そうだねぇ。そろそろユリも親離れの時期じゃない? 高校生だしぃ」
うんうんと頷きながら話を進めるネコ。セイナもそれに同意していて。
「よし、ユリの親離れは、このネコに任せなさーい!」
そう言うと、ネコはカバンからスマホを取り出して、なにやら爆速で操作をし始めた。いつものぼやっと系のネコとはかけ離れた動き……これはもしや……。
「お、おい、ネコ? もしかして……」
「んー? 合コンだよぉ、合コン~」
「なっ!?」
「……やっぱりかぁ」
「わ、私は嫌だぞ!?」
「セイナはユリのファザコンが悪化してもいいわけ~?」
「ぐっ、いや、でもだな……」
「あーぁ、セイナが合コン断ったせいで、ユリはファザコンを拗らせ、高校では周りから腫れ物扱い、大学に行ったら付き合った男の子とは長続きせず、その後の人生ではパートナーにも出会えず、寂しく一生を終えることになるんだなぁ」
「な、えっ、いや、でもっ」
「かわいそー、ユリ」
「うぅぅぅぅ……」
セイナ、本日二度目の陥落。こうなってしまっては、あたしが抵抗しても無駄っぽいなぁ……はぁ、仕方がないかぁ。
結局、見かけに寄らず肉食系なネコの勢いに、あたしもセイナも押し切られてしまって。今週末の土曜日に、合コンに参加することになってしまったのだった。
ーーーー呪術高専ーーーー
2018年6月。
特級呪物『両面宿儺の指』が受肉したという情報が界隈に流れた。それは勿論、僕の耳にも入ってきて。
「呪詛師の動きがおかしい、ですか」
電話口から聞こえてくるのは総監部直属の補助監督・佐木さんの声。彼曰く、『両面宿儺』が受肉したことで一部の呪詛師の動きが活発になっているという。
『えぇ、どうやら指を集める動きがあるようです』
「……特級呪物でしょう。集めたとしても、並の呪詛師に扱いきれる物ではないはず」
『総監部も同意見です。ですから、探っていただきたい』
探る。そうは言っても漠然としすぎているし、あくまでも僕の専門は呪詛師の抹消だ。いくら呪詛師関係の案件とはいえ、何かを探るのは専門外、お門違いにもほどがある。
『呪術の世界にいない人間ですらスカウトする時代です。呪術師はいつでも人員不足。それは貴方も分かっているでしょう』
まぁ、分かってはいる。そのせいで、僕なんかが呪術高専の臨時講師をしてるくらいだし。
取っ掛かりは用意してある。佐木さんの言葉を一応信じて、僕は頷いた。立場上頷くしかなかったのだけれど。
「……はぁ」
通話を切ってため息を吐く。しょうがない。僕はスマホを操作して、彼女にメッセージを送信した。
「…………」
連絡はすぐに返ってくる。返事は勿論イエス。
「断ってくれたら……」
百合に限ってそれはないのは分かっているけれど。それでも断ってくれたら……そんな淡い期待をしてしまう僕のなんと愚かなことか。
『仕事』は今週末の土曜日。
気は進まないが、呪詛師を直接抹消する任務ではないだけマシ。仕方がないか。
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