正義の呪術師・漣百合   作:藍沢カナリヤ

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第3話 両面宿儺ー壱ー

ーーーー都内某公立高校ーーーー

 

 

「んー! 終わったぁぁ」

 

 

授業も終わり、時間は16時半。夏前ということもあり、まだまだ日は高い。遊ぶ時間も十分ありそう。そんなことを考えながら、あたしは教室で大きな伸びをした。

ふと伸びるあたしの後ろに気配を感じる。呪力は勿論感じない。そりゃあそうだよね。振り返ると、そこには2人の女子生徒がいた。

 

 

「どしたの、ふたりとも」

 

「ユリぃ、これからひまー?」

 

「私達カラオケ行くけど、ユリも行くか?」

 

 

少し猫背でいつも眠そうな表情。見た目のぼやーっとした印象に違わない間延びした喋り方をする女の子がネコ。

対して、高身長でスタイル抜群。ショートで赤みがかった茶髪。カッコいい系の女の子がセイナ。

2人とも中学からのあたしの友達!

 

 

「行く行く~!」

 

 

二つ返事で答える。

 

 

「おっけー」

 

「それじゃあ予約入れとくよ」

 

「はーい!」

 

 

っと、そうだ! そういえば!

 

 

「ふっふっふっ、おふたりさん。カラオケ行く前に、クレープなんてどうだねぇ?」

 

「あー、それってぇ、もしかして最近できたとこ? 気になってたんだよねぇ」

 

 

ネコは乗り気。それに対して、セイナは思案顔だ。まぁ、いつもスタイル維持を気にしている子だし、カロリー計算とかあるんだろうなぁ。ふむ…………よし!

ネコと顔を見合わせて、ニヤリと笑う。ネコもそれだけであたしの意図を察してくれたようで、2人でセイナの左右、耳元へと顔を寄せる。

 

 

「おいしいよぉ、クレープ~」

「ふわっと口の中でとろけるホイップにぃ」

「甘酸っぱい大粒の苺~」

「おいしいよぉ」

「おいしいよ~」

 

「「おいしいよぉ~♡」」

 

「あっ、あ……あぁぁ……」

 

 

両耳からの囁き声で語彙を失ったセイナ。よし、堕ちた。

 

 

「よーし! ここはあたしが奢ってあげよー!」

 

「おー、ユリ太っ腹。ほら、いくよ、セイナ」

「あぁぁ……」

 

 

こんな風にあたしは昔から普通の学校に通ってる。小学校も中学校も高校も。せめて普段の生活は呪術とは関係ないところに、っていうお父さんが言ってくれたから。お父さんの『仕事』さえ入らなければ普通のJKなのである!

ふふふ~、ホントにあたしのお父さん、サイコー♡

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「待ち受けの人、ユリのパパだっけ?」

 

 

カラオケ店にて。

メモしてた歌いたい曲リストを見ようと、スマホの画面ロックを外したタイミングで、ネコがそう聞いてきた。あたしもスマホの画面に目をやると、困ったように微笑むお父さんと目があった。

……えへへ。

 

 

「そそ! イケメンでしょ~」

 

「んー、普通?」

「ん? 誠実そうな男性だな」

 

「……むぅ」

 

 

2人の評価は低くもなく、高くもなくって感じ。

お父さんの良さが分からないとは残念なヤツらめ……ま、言い寄る奴らが増えても困るし、分かる人にだけ分かった方がいいか。

 

 

「ユリはファザコンだなぁ」

 

「事あるごとに聞かされてきたからな。今更驚かないが」

 

 

ファザコンで何が悪い!

そう言うと、2人は顔を見合わせて肩を竦めた。

 

 

「……でも、そうだねぇ。そろそろユリも親離れの時期じゃない? 高校生だしぃ」

 

 

うんうんと頷きながら話を進めるネコ。セイナもそれに同意していて。

 

 

「よし、ユリの親離れは、このネコに任せなさーい!」

 

 

そう言うと、ネコはカバンからスマホを取り出して、なにやら爆速で操作をし始めた。いつものぼやっと系のネコとはかけ離れた動き……これはもしや……。

 

 

「お、おい、ネコ? もしかして……」

 

 

「んー? 合コンだよぉ、合コン~」

 

 

「なっ!?」

「……やっぱりかぁ」

 

「わ、私は嫌だぞ!?」

 

「セイナはユリのファザコンが悪化してもいいわけ~?」

 

「ぐっ、いや、でもだな……」

 

「あーぁ、セイナが合コン断ったせいで、ユリはファザコンを拗らせ、高校では周りから腫れ物扱い、大学に行ったら付き合った男の子とは長続きせず、その後の人生ではパートナーにも出会えず、寂しく一生を終えることになるんだなぁ」

 

「な、えっ、いや、でもっ」

 

「かわいそー、ユリ」

 

「うぅぅぅぅ……」

 

 

セイナ、本日二度目の陥落。こうなってしまっては、あたしが抵抗しても無駄っぽいなぁ……はぁ、仕方がないかぁ。

結局、見かけに寄らず肉食系なネコの勢いに、あたしもセイナも押し切られてしまって。今週末の土曜日に、合コンに参加することになってしまったのだった。

 

 

ーーーー呪術高専ーーーー

 

 

2018年6月。

特級呪物『両面宿儺の指』が受肉したという情報が界隈に流れた。それは勿論、僕の耳にも入ってきて。

 

 

「呪詛師の動きがおかしい、ですか」

 

 

電話口から聞こえてくるのは総監部直属の補助監督・佐木さんの声。彼曰く、『両面宿儺』が受肉したことで一部の呪詛師の動きが活発になっているという。

 

 

『えぇ、どうやら指を集める動きがあるようです』

 

「……特級呪物でしょう。集めたとしても、並の呪詛師に扱いきれる物ではないはず」

 

『総監部も同意見です。ですから、探っていただきたい』

 

 

探る。そうは言っても漠然としすぎているし、あくまでも僕の専門は呪詛師の抹消だ。いくら呪詛師関係の案件とはいえ、何かを探るのは専門外、お門違いにもほどがある。

 

 

『呪術の世界にいない人間ですらスカウトする時代です。呪術師はいつでも人員不足。それは貴方も分かっているでしょう』

 

 

まぁ、分かってはいる。そのせいで、僕なんかが呪術高専の臨時講師をしてるくらいだし。

取っ掛かりは用意してある。佐木さんの言葉を一応信じて、僕は頷いた。立場上頷くしかなかったのだけれど。

 

 

「……はぁ」

 

 

通話を切ってため息を吐く。しょうがない。僕はスマホを操作して、彼女にメッセージを送信した。

 

 

「…………」

 

 

連絡はすぐに返ってくる。返事は勿論イエス。

 

 

「断ってくれたら……」

 

 

百合に限ってそれはないのは分かっているけれど。それでも断ってくれたら……そんな淡い期待をしてしまう僕のなんと愚かなことか。

 

『仕事』は今週末の土曜日。

気は進まないが、呪詛師を直接抹消する任務ではないだけマシ。仕方がないか。

 

 

ーーーーーーーー

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