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「そうは言うても……どうやって奴を見つけるんです? 手がかりなんてないとちゃいますか」
カラオケ店を出ると、既に日が落ち始めていた。
僕が説明をする気がないと感じ取ったようで、泥場くんは質問を変えた。賢明だね。その質問には答えてもいい。
「百合、その呪詛師はマーキングできたのかい?」
「うん。やられちゃったけど、何度か接触はしたし、追えると思う!」
「そっか。えらいね、百合は」
最低限の仕事を果たしていた百合の頭を撫でてやると、彼女は気持ち良さそうに目を細める。
……うん、そんなわけで百合が呪詛師の居場所を感知できれば、話は終わり。すぐにでも後を追って、見つけられるだろう。
「分かってもらえたかな」
「え、えぇ……そらもう」
それ以上は質問するのを諦めたようで、泥場くんは諦観を含んだうなずきを返したのだった。そんな彼に構わず、
「こっちこっち、お父さん!」
元気よく案内する百合。2時間も前のことだというのに、迷いのない足取りで案内してくれる辺りは、流石百合だ。呪力感知能力は相当に高い。マーキングをした相手ならば尚更だ。
「……漣の兄さん」
「なにかな、泥場くん」
僕の後ろをため息を吐きながら、着いてくる泥場くんが小声で訊ねてくる。
「……兄さんは相当凄腕の反転術式使いだってのは分かりました。けど、このまま嬢ちゃんを連れてったら、また苺原に殺されてまうんやないですか?」
実際に殺されてるんやし。
泥場くんはそう言う。まぁ、彼の言にも一理ある。
「百合の話だと、不意を突かれたとはいえ、殺されてしまった訳だから、君の言うことも分かる」
「……なら」
「だからこそ、百合は必要なんだ。並の呪詛師ならば、僕だけで十分だろうけど、百合を殺せるような呪詛師……それに特級呪物が絡むならね」
僕だけでは祓い切れない可能性もある。
「大丈夫だよ。僕が生きていれば、百合は何度でも『直せる』から」
「っ、それは……いや」
何かを言いたげな泥場くんだったが、それは言葉に出さず飲み込んだようだった。
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「うん、ここだよ、お父さん!」
「ここは! あのアホんだら共の事務所やないですか!」
百合の案内で辿り着いたのは、例の金貸し事務所だった。なるほどね、本来、ここを隠れ家としてたんだ。ここに戻ってくるのは、妥当といえば妥当だろう。
「兄さん、あれは……」
「うん。さっき事務所にいた人達だ」
泥場くんの指差したのは事務所の入口。日中、僕たちがここに来たときに応対していた下っ端が数人立っていた。けれど、どうも様子がおかしい。顔色が悪いどころの話ではなく。
「わー、取り憑かれてる~」
小さな蠅頭のような呪霊が一人一人の頭にしがみついていた。本来、蠅頭はなんの力もないモノ。それが人に取り憑くのは、恐らく件の特級呪物『両面宿儺の指』の影響なんだろうね。
さて。
「百合、準備はいいね」
「うん! まずアレ全部祓っちゃえばいいんだよね!」
「あぁ、蠅頭だけが理想だけれど、百合自身に危険が及びそうな場合は殺しても構わないよ」
「はーい!」
臨戦態勢に入る僕と百合。
「ちょい待ち!」
それを止めたのは、泥場くんだった。どうかしたのかと訊ねると、商売敵とはいえ、知った仲だから、殺してほしくはない。そう言う泥場くん。
「残念だけど、僕たちの中で彼らの優先順位は低い。百合の友達を救うのが最優先だ」
「そーだそーだ!」
「だから、彼らが僕たちの邪魔をするならばーー」
「大丈夫です」
僕の言葉を遮って、泥場くんはそう言い切る。低姿勢で僕達に媚びていた彼とは少々雰囲気が違っていた。
「あのボケ共に兄さんたちの邪魔はさせません。足止め、時間稼ぎは得意分野なんですわ」
「どうやって?」
その質問を待っていたとばかりに、得意気な笑みを浮かべる泥場くん。おもむろに懐から1枚の呪符を取り出した。
「この泥場におまかせください」
なるほど。式神使いか。
どんな式神かは知らないけれど、それならば対多数にも戦い様はあるだろうね。
「まぁ、あくまで時間稼ぎやから、早いとこ帰ってきてもらえると助かります」
「善処するよ……百合」
「うん」
百合に声をかけて、走り出す。その後ろで、泥場くんの声が響いた。
「さぁ、来いや」
「『吉兆の仔羊』『凶兆の大山羊』」
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蠅頭に取り憑かれていた彼らが、式神を顕現させた泥場くんの方へとよろよろと寄っていったことで、ビルの入口はがら空きとなった。かなりの人数がそちらへ行ったようで、おかげでノンストレスでビルを上がっていける。
ビル自体の構造はいたってシンプルで、すぐにそれらしき部屋の前に辿り着けた。
「準備はいいね」
「うん!」
百合の返事を聞いて、僕は扉を蹴破った。
「っ、お前はっ!?」
「あぁ、社長さん、さっきぶりだね」
日中に会った社長を僕たちを出迎えてくれた。突然の来訪者に戸惑っている様子だ。そして、
「……なんで、生きてんの」
いた。日中、この金貸しの社長が座っていた椅子に若い男が座っていた。恐らくこの男が苺原だろう。彼は殺したはずの百合を見て、多少驚いた表情を見せていた。そんな彼に構わず、百合は告げる。
「ネコとセイナを返せ!」
「……これからお楽しみなんだよ、返すわけないじゃん」
「ならーー」
「ーー殺す」
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