タバサたちが囮として賊と戦っている頃、のどかたちは闇夜の街を駆けていた。階段を駆け上がっていくところで才人は一つ疑問を覚えた。
「『桟橋』に向かうのに登るんすか?」
ワルドに聞いたものだったが、ワルドは答えずにさっさと走っていく。才人はムッとした顔になったが、今はこの長い階段を上ることが重要だと考えて黙って走った。のどかは元々体力がないこともあってか才人たちから大分遅れていたが、なんとかついてきているようだ。
「おーい、のどかー! 大丈夫かー?」
「はぁ、はぁ、だ、大丈夫ですー!」
のどかは息を切らしていたが、それでも懸命に走り続けていた。全員が階段を上り終わると、そこにあったのは巨大な木だった。
「デケェ、本当にここが『桟橋』なのか?」
「ああ、そうだ。アルビオンは空中に浮いている都市だ。そしてあそこにぶら下がっている木の実のようなものが船だ。遠くてあまり見えないだろうがね」
そう言うと、ワルドは目当ての階段を探し始めた。そして、それを見つけたらしくこっちだ、と言って3人を呼んだ。3人がワルドの元へ行こうとした時、後ろから追いすがる足音が聞こえた。それに真っ先に気づいたのはのどかで、バッと振り返ると、白い仮面をつけ、ローブを纏った人影がのどかと才人を飛び越えた。そして、ルイズの背後に降り立った。
「ルイズ! 後ろだ!」
才人は叫んだ。ルイズに危機を知らせるためである。ルイズも才人の鳴らした警鐘をないがしろにすることなく、背後に降りた影から離れようとしたのだが、その影は閃光の如き速さでルイズを持ち上げ、そのままジャンプした。ワルドもその様子を見ていたらしく、詠唱を終えていたらしく、風の槌で男を吹き飛ばした。男は階段の手すりを掴んだ後、どこかに消え、ルイズは投げ出され、階段から真っ逆さまに落下していく。ワルドは間髪入れず、ルイズを助けるために階段を飛び降りようとしたが、距離が空いていたため、間に合わない。
「ルイズさん!
ワルドよりも圧倒的に近かったのどかがルイズを助けるために走り出す。のどかも頭から落下する形になったが、何とか落ちていくルイズに追いつき、そのまま抱きかかえた。のどかはそこから階段の手すりを足場に『瞬動』で反対側の岩に飛びつき、同じようにして、才人のところに戻った。
「あ、ありがと、ノドカ。助かったわ」
「いえ、ルイズさんが無事で良かったです」
ルイズが助かったのを確認したワルドがゆっくりとこちらに近づいてくる。
「助かったよ、僕のルイズがキズモノになったらどうしようかとヒヤヒヤしたよ。えーっと、ミヤザキだったかな? 婚約者を救ってくれてありがとう」
ワルドは本当に安堵した様子でのどかに柔和な笑みで語りかけてくる。
「い、いえ私はできることをしただけですから」
「謙虚だね。そうだ、君がさっきやった魔法はなんだい? ただの身体強化だと思ったんだが、それ以上に素早い動きをしたからね。少し気になるんだ」
ワルドの目つきが優しい穏やかなモノから、険しい鋭いモノへと変わった瞬間ルイズから助け舟が入った。
「ワルド、今はそんなことよりも重要なことがあるはずよ」
ルイズに続けて才人も言う。
「あんたが戦いが好きってことは知ってるけどさ、まさかのどかみたいなか弱い女の子にも手をあげるわけじゃないよな?」
ワルドは2人の言葉でそれもそうだ、と頷いた後、先程ワルド自身がいた階段に向かった。ワルドにルイズが続き、才人はのどかと一緒に歩いていく。
「なあのどか、ワルドが裏切り者じゃなかったのか? それともワルド以外に仲間がいるのか?」
「わかりません。でも、仲間がいると仮定してもいいと思います。仲間にしてはワルドさんも魔法をためらいなく放っていたのが気になりますけど……」
「そうだよな……仲間だったら本当にあんなこと出来ないと思うんだよなぁ。俺がそういう立場で、のどかを攻撃しろとか言われたら絶対にためらっちまうし……」
2人は喋っていたせいで、少し遅れていた。遠くでルイズが呼んでいるので、少し急いで、ルイズたちのところに向かった。
「もう、何やってるのよ! 遅いわよ! 時間がないんだからちゃっちゃとしてよね!」
「悪い悪い、ちょっとあの敵が気になってな。ルイズお前なんか気にならなかったか?」
「あの敵? もうやっつけたしいいんじゃないの? まあいいわ、サイトじゃなくて、ノドカが気にしてるみたいだし」
「んなっ! 一応俺だって気にしてるんだぞ!」
「そういうことにしておいてあげるわ」
「な、何をー!」
「ルイズさん、何か気になることがあったんですね?」
「ええ、ほんの少し違和感があっただけなんだけど……」
ルイズとのどかが才人を無視して話し始めてしまったので、才人はふてくされて、地面に「の」の字を書き始めた。
「その違和感ってなんですか?」
「うーんとね、なんか抱き上げられた時やけに優しく抱きかかえられたのよ。後、ワルドにやられた時もなんでか分からないけど、ちょっと『風』の魔法で私を浮かせたのよ」
「なるほど……ありがとうございました」
「え!? 今のでわかったの?」
「まだ少しピースが足りませんけど、おおよその検討はつきました」
「すごいわね……のどかは王室で働くべきよ。姫様も大歓迎だろうし」
「でも、私一応他国の貴族っていう扱いになっていると思うんですけど……」
のどかがそう言うと、ルイズはハッとした顔になった。
「(姫様……のどかを引き抜こうと考えていたみたいですけど、それは叶いません……)」
「る、ルイズさん? あのールイズさん?」
「な、なんでもないわ。少し、トリステインの未来が不安になっただけよ……サイト! いつまでふてくされてるの!」
ルイズはウジウジしている才人に喝を入れた。
「へいへい、悪ぅござんした」
才人が立ち上がると、のどかの後ろから先程の仮面の男が杖を構えていた。のどかは
気づいていないらしい。
「のどか!」
才人はデルフリンガーを引き抜きのどかを突き飛ばした。仮面の男が魔法を放ってきた。
「相棒! 俺を構えろ!」
「デルフ!? 何言ってんだ! クソッ! うわああああああ!」
「相棒!」
激しい電撃が才人を襲い、才人は地に伏した。相当強力な電撃だったらしく、才人の体はビクビクと跳ねている。ワルドが気づき、すぐさま風の槌――『エア・ハンマー』で敵を追い払った。
「すまない、油断していた。僕がもっとしっかりしていれば」
ワルドが頭を下げる。ルイズは才人の名前を呼び続け、のどかは倒れている才人を見て、決意を固めたようだった。
「いってぇ……くっそぉ……」
「サイト! 大丈夫!?」
「大丈夫……じゃねえけどっ」
才人の息は荒く、腕が痛いと言ってそこをずっと抑えていた。立ち上がりはしたが、相当苦しそうな表情を浮かべている。
「今の呪文は『ライトニング・クラウド』。『風』の強力な呪文だ。奴は相当強力な敵らしいな」
デルフリンガーが悔しそうな声で言った。
「普通ならくらっただけでも、命を落とすような強力な呪文なのだが、その剣のおかげなのか? なんにせよ、腕だけでよかった」
ワルドがそう言うと、デルフリンガーを見る。のどかは才人に肩を貸している。
「才人さん、ゴメンなさい。私のせいで……」
「のどかのせい……じゃない、さ。大分痛みも治まってきたし、何とかなるよ」
「才人さん……本当にすいません。あとは私に任せてください。全部分かりましたから」
「え? だったら俺も!」
才人が急に大きな声を出したため、ワルドがこちらを振り返った。ルイズは才人のことが心配でぴったりとくっついているのだが、先程ののどかたちの会話は聞こえていないようであった。
「サイト、急に大きな声ださないでよ……心配するでしょ」
「わ、
その後、ワルドとアルビオン行きの船の船長とで交渉事があった。
「サイト、傷は大丈夫?」
ルイズは才人が心配だったらしく、才人の肩に手を置いて、問いかける。
「ああ、大分マシになった。心配かけちまってるんだな。本当に悪い」
「べ、別に! 私はあんたのご主人様なんだから当然でしょ!」
「ありがとよ、ご主人様」
才人はルイズの不器用な優しさに気づいてお礼を言った。
「なんで素直になるのよ! なんか気持ち悪いわよ!」
「なんだよ! 好意を素直に受け取っちゃダメなのかよ!」
「ダメよ! あんたはそうやってキャンキャン犬みたいに騒いでる方がお似合いよ!」
「お前の中の俺のイメージはどうなってんだ!」
甲板にはルイズと才人の痴話喧嘩のようなものがずっと聞こえてきていた。
のどかは自分に割り当てられた部屋で、制服とは違う、
(これは
のどかが自分の思考の中に落ちていくと、急にカードが光り始めた。
「(え? カードが? これって……カードの通話機能?)」
のどかがそう思ってカードを手に取り、額に当てると、のどかの予想通り声が頭の中に響いてきた。
「あっ! 繋がった! 皆さん! 繋がりましたよ!」
そこから聞こえてきたのはこちらに来る前に最後に会った少年の声。
「ね、ネギ
のどかもこれには驚きを隠せなかった。ネギはのどかの声を聞いて安心したらしい。
「良かった、のどかさん、無事で良かったです」
「ネギ先生、だから言ったです。のどかなら心配はいらない、と」
「そうですね、夕映さんの、皆さんの言ったとおりでした」
「ネーギー、あんた無駄に心配させすぎなのよ! 帰って早々、のどかさんが、のどかさんが僕のせいでー、僕のせいでーって」
「あ、明日菜さん!? それは言わないって!」
のどかは懐かしい親友の声やクラスメイトたちの声を聞いて涙ぐんでいた。
「のどかさん!? どうしたんですか!? 何かひどいことされているんですか!?」
「す、すいません。みんなの声が懐かしくて……」
「のどかさん……」
「ネギ先生、申し訳ないのですが、変わってほしいです」
「わかりました。のどかさん、夕映さんに変わりますね」
「のどか、あなたがどこにいるかは私たちもわかってはいません。こうやって連絡が取れたのはネギ先生の魔力があなたのカードに残っていたからです。そして、のどかか私たちがのどかのいる場所に近づいたからだと思われます」
のどかは親友の説明に耳を傾けている。
「のどか、私に言えることは一つです。あまり無茶をしないように、です」
「うん、夕映ありがとね。でも、私ここでやることが出来たんだ。戻れるかも分からないけどー、信じて」
「当然です。出来れば早く会いたいので、そのやることを早く終わらせてくれると助かるです。ってハルナ! その目はなんですか! ダメです! 今は私がのどかと話しているのですよ! あっ……」
「ヤッホー、のどか元気してるー? まあ夕映の反応見る限り全然元気みたいだけどねー。そうそう、聞いてよ。って何するのよ! 夕映!」
親友たちの懐かしさを感じさせる会話を聞いているだけで、のどかの気持ちはリラックスできていた。
「あーもう! やめるです! のどか! 絶対に無事に帰ってくるですよー!」
「うん! 絶対に帰ってくるよー!」
「夕映さん、貸してくださいまし」
「宮崎さん! 私ですわ、雪広あやかですわ。あなたとはネギ先生のことで……」
委員長の雪広あやかに変わった途端なぜか長々と昔の思い出を話し始めた。そうすると、周りからいいんちょ話長いぞー! だとか、本屋ちゃんが死んだみたいでしょ! など賑やかしい声が聞こえてくるので、のどかは笑っていた。
「と、とにかく! 委員長として、あなたが帰ってこないと許しませんわよ! あなたが抜けると、テストの点数がダダ下がりですわ! お願いしますわよ!」
「は、はい。わ、わかりましたー」
「それならば良いのですわ。それではネギ先生にお返しいたします」
「の、のどかさん。皆さんのどかさんが心配だったようで……」
「一番心配してたのはネギじゃない」
「あ、明日菜さーん。のどかさん捜索隊を結成したんですけど……その隊長が」
のどか捜索隊の隊長はのどかにとって、思いもよらぬ人物だった。
「やあ、宮崎のどか」
のどかはその声に聞き覚えがあった。聞き覚えがあるというレベルではない。のどかを最も危険視し、一度は石化させた張本人。フェイト・アーウェルンクスだった。
「ふぇ、フェイトさん!? ど、どうしてー……」
「決まっているだろう。君がいないことで、ネギ君が全く使い物にならないんだ。そうなると、僕は一応ネギ君の補佐みたいなモノだからね。君を探し出して、彼の不安を取り除こうとするのは当然だ」
フェイトはのどかが未だに困惑しているとわかったらしく、続けて言った。
「とりあえず、君のやるべきことが何なのかは分からないけど、君のいる世界が見つかったら連れ戻すから、そのつもりでね。まあ安心しなよ、世界が見つかっても、連れ戻す手段がないからね」
「そこは
「そんなことはないよ、ネギ君。僕が適任だ。僕なら彼女を問答無用で連れ帰るからね」
「いや、そういう話をしてるんじゃないんだけど……あっ、のどかさん。もう僕の残留魔力が……」
「ネギ
のどかがそう言うと、カードから光が失われた。
「(ふふっ、なんだか悩んでいたのがバカみたい。でも、皆の声が聞けて良かった。絶対に無事に戻るからね。才人さんと協力しよう。さっき分かったことを……)」
のどかは才人たちが甲板で言い合いが終わるのを待つことにしたのであった。そして、言い合いが終わり、戻るところで、才人に声をかけるのであった。
久しぶりのネギパーティーとの会話はのどかをかなり元気にしたようです