恥ずかしがり屋の司書の異世界譚   作:黒蒼嵐華

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前回久しぶりに投稿したのですが、すぐに感想をもらうことができて感無量です! 皆さんありがとうございます!

さて今回はのどかがウェールズの信頼を勝ち取れるかどうかの話です!


20時間目

 のどかたちの乗った『イーグル』号は、敵船に見つからないようニューカッスルに入るために、雲の中を抜けていた。その時に元はアルビオンの船であった『ロイヤル・ソヴリン』号が『レキシントン』と名を変え、敵の手に落ちていたのを目撃したのどかはあることを確信させる。

 

「(あの硫黄の量とこの戦況から考えると、ウェールズ皇太子は……)」

 

 のどかが解決策をずっと考えていると、ウェールズとワルドのやり取りが交わされた後、船が少しずつ上昇し始めた。どうやら、ニューカッスルの入口は大陸の下部分にあったらしい。当然だが、敵はウェールズ達が篭城していると考えている。なので、上から接岸しようとすれば、当然集中砲火を受けてしまう。なので、雲が厚く、船の座礁も多いので気づかれることはないのだ。

 そして、タラップをウェールズはルイズたちを促し、タラップを降りた。そうすると、老メイジがウェールズの郎を労った。

 

「ほほう、これは大した戦果ですな、殿下」

 

 そう言った後、鍾乳洞の中から『マリー・ガラント』号が現れた。それを見たウェールズは頬をほころばせ、

 

「パリー! 喜べ、大量の硫黄が手に入ったのだ!」

 

 と叫んだ。その声を聞いて集まってきた兵隊が歓声をあげた。それは心から歓喜する声だった。地鳴りがすると形容してもいいくらいの声だった。何やら涙を流しているものさえいる。

 

「おお、硫黄ですか! 火の秘薬ではありませんか! これで我々も彼奴らに一泡吹かせ、我々の名誉も守られるということですな!」

 

 そう言うとパリーと呼ばれた老メイジは先程の兵隊と同じようにすすり泣きを始めた。

 

「先の陛下にお仕えしてから60年……これほど嬉しいことはありませぬ! 殿下、反乱が起こってからは、苦渋を舐めっぱなしでありましたが、これだけの硫黄があれば……」

 

 そこまで言うと、ウェールズはにっこりと笑ってパリーに、兵に語りかけた。

 

「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、敗北することができるだろう」

 

ゆっくりと、声を張り上げることはしなかったが、その言葉は力強く、決意に満ちていた。同時に誇りを取り戻すことへの歓喜を抑えられないようであった。

 

「名誉ある敗北ですな! この老骨、武者震いがいたしますぞ。して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日正午に攻城を開始すると伝えてきましたわい。いやぁ、間に合ってよかったですわい!」

「おお、それは良かった。まさに間一髪とはこのことだな! 戦に間に合わぬは武人の恥だからな」

 

 ウェールズやパリー、兵隊たちは楽しそうに笑い合っている。しかし、ルイズと才人は考えられないといったような表情をしている。なぜなら敗北、という言葉はすなわち死ぬということであるからだ。この人たちは死ぬのが怖くないのだろうか、ルイズがそう思ってしまうのも無理はないだろう。のどかも苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「ねえ、ノドカ。もしかして、き……気づいていたの?」

 

 のどかの表情を見てルイズが疑問を口にする。

 

「……はいッ、出来れば当たってほしくはなかったんですけど……」

 

 のどかを見てルイズも悔しそうに下。ウェールズを止めることはできないだろう、と悟ってしまったのだ。

 

「(何か、何か方法があるはずです……!)」

 

 笑い合っていたパリーがウェールズにルイズたちのことを尋ねていた。

 

「トリステインの大使殿だ。王国から重要な案件で参られたのだ」

 

 パリーは滅びゆく王国に一体何の洋画あるのかと訝しげな表情をしたが、すぐに笑顔を作った。

 

「ようこそいらっしゃいました、大使殿。殿下の侍従を務めさせていただいております。遠路はるばるご苦労様でした。今夜はささやかながら祝宴をご用意しております。是非とも参加してください」

 

 パリーがそう言ったあと、ウェールズに連れられ、ルイズたちはウェールズの自室に来ていた。ウェールズの自室は王族とは思えないほど質素な部屋であった。木で出来た粗末なベッド、同じような木の椅子、テーブルなどなど。そして、ウェールズは椅子に座り、机の引き出しに自分の首からかけていたネックレスを外した。そして、それを引き出しから出した、箱に差し込んだ。どうやら鍵になっているらしい。ルイズがそれがなんなのか気になって覗いたので、ウェールズは少し照れくさそうに微笑みながら、言った。

 

「宝箱でね」

 

 その後、アンリエッタからの手紙を渡される際にルイズはそれがアンリエッタとの恋文であるのではないかと考え、それを指摘したが、ウェールズはそれを否定した。しかし、その口調や表情から察するにルイズの指摘したことは図星であったようだ。更に亡命のことを示唆していたということも見破り、同じように追求した。ウェールズも同じような態度を取ったので、ルイズはそれを見逃すはずもなかった。

 

「殿下! トリステインに亡命なさいませ! 恐らく姫もそれを望んでいるはずです!」

 

そこで唐突にワルドがルイズの肩に手を当て、ウェールズに言った。

 

「お願いでございます! 私たちと共にトリステインにいらしてくださいませ!」

 

 ルイズはワルドが自分の考えに賛同してくれたことを心強く感じ、ワルドを見た。

 

「それはできんよ」

 

 ウェールズは困ったように笑った。

 

「ですが! 姫さまからの手紙にはそう書いてあったのでしょう? ですから!」

「そのようなことは書かれていない。アンリエッタは王女だ。市場だけでそのようなことを書くはずがないだろう? それに仮にそのようなことが書かれていたとしても私は今と同じことを言うだろう。それほどまでに、私の決意は固いのだ。そう思っているから君も黙っているのだろう? ミヤザキ嬢?」

 

 のどかは小さく頷いた。ウェールズの意思が固い以上、のどかに出来ることはない、と思っていたからだ。しかし、ルイズは諦めようとしなかった。

 

「どうしてノドカ!? 決意が固くてもあなたなら何でもできるんじゃないの!?」

 

 ルイズは後半には瞳に涙を浮かべていた。今にも溢れ出しそうなほどだ。ワルドが優しくルイズの肩を抱いた。

 

「……ルイズさん、私にはそんな力はありません。戦力差をひっくり返すような圧倒的な力も、作戦も思いつきません。皇太子様が亡命するつもりが少しでもあるならって思っていたんですけど……それにルイズさん、これは王女様の名誉を守るためでもあるんです。仮に亡命を薦める内容が手紙に書いてあったとして、皇太子様が亡命したとすると、王女様は情に流された、と家臣に思われてしまいますから。そういった理由もあるかもしれません」

 

 ルイズは今度こそ諦めたようだった。ここで、少し落ち込んだルイズの手を取り、まっすぐ見つめていう。

 

「君は正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。だが、大使がそのように素直では務まらんよ。しっかりしたまえ」

 

 ウェールズはにっこりと笑って言った。

 

「しかしながら、このような滅び行く王国への大使としては適任かもしれぬ。滅びを待つだけの王国は誰よりも正直だからね。守るのは名誉だけさ。対して、ミヤザキ嬢は大使向きだ。相手の言動や、周囲のモノを見て、そして自分で仮説を立て、それが当たっている。大使よりは参謀の方が適しているかな」

 

 ウェールズはそう言うと大きく咳払いをした。

 

「今宵はささやかながら祝宴だ。君たちは王国最後の客だ。存分に楽しんでくれたまえ」

 

 3人が退室したあと、ワルドだけは少し用事があるからと部屋に残った。のどかは退室こそしたが、2人に先に行くように促した。自分もウェールズに用事があるのだ、と言って。

 

いどのえにっき(ディアーリア・エーユス)簡易小型版二冊分来れ(・ミノーラ・ドゥオアデアント)

 

のどかは小さく分割した自身のアーティファクトを出した。大きい本ではなく、メモ帳が複数個ある。これはのどかが修行で身につけた成果の一つである。そのうちの一冊を手に取り、呟く。

 

「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」

 

そしてメモ帳となった『いどの絵日記』を開く。するとすぐにワルドが出てきた。どうやらそんなに多くは話していなかったらしい。のどかは、いつものように『読み上げ耳(アウリス・レキタンス)』はつけていない。先程までの格好と変わっているとワルドに怪しまれるからだ。メモ帳となった『いどの絵日記』も開いたままルイズが密書を入れていたように、既に胸ポケットに入れている。

 

「おや、ミヤザキ。君も殿下に用事かね?」

「はい、少しだけお話したいことがありまして」

「ふむ、そうか。僕もご一緒させてもらってもいいかな?」

 

 ワルドの目が鋭さを増す。一つでも間違えればここで殺してもおかしくないくらいであった。殺気こそうまく隠し通しているが、どうなるかはわかったものではない。

 

「別にいいですけど、ワルドさんはルイズさんに付いていて欲しいなと思っています。今ルイズさんは不安でいっぱいだと思うので」

 

 ワルドに対して、のどかの切札(ジョーカー)はルイズだ。いきなり使うことで、さして重要ではないという印象を与えるという効果が得られるが、逆に何かを焦っているとも思わせることにもなってしまう諸刃の剣だ。

 

「そう……だな。ルイズは今日のことはショックだっただろう。確かに婚約者である僕の役目だな。それに、僕も彼女に話したいことがあったしね」

 

 ワルドがそのまま進んでいこうとしたところでのどかは呼び止めた。

 

「ワルドさーん」

 

 足を止め、ワルドが振り返る。

 

「なんだい?」

 

 一目でワルドが警戒しているとわかってしまうほどにピリピリしていた。

 

「ルイズさんとよく一緒にいるんですけど、ワルドさんの目的ってなんでしょう?」

 

 ワルドには見えないが、のどかには冷や汗が流れていた。『目的』という言葉を使ったからだ。分の悪い賭けだった。ワルドにのどかの能力が露見していないとは言え、危険なことであるには変わりはない。もしかしたらバレるかもしれないからだ。

 

「目……的? 決まっているじゃないか! ルイズと結婚することさ!」

 

のどかはハッとした表情を浮かべた。

 

「皇太子様にお願いって、もしかして?」

「ああ、その通りだ」

「ちょっと早い気がしますけど、おめでとうございますー」

「ああ、ありがとう。では」

 

 ワルドが見えなくなるまでのどかはウェールズの部屋には決して入らなかった。見えなくなったあと、アーティファクトを確認してから、ノックをしてウェールズの部屋に入る。

 

「おや、どうしたのかね、ミヤザキ嬢?」

「ウェールズ・トゥーダー様にお話がありまして」

「話? 私にかい?」

 

 ウェールズは心底不思議そうな顔をする。先程までのどかからは皇太子様と呼ばれていたのにフルネームにされたからもあるが、のどかから話などないだろうと思っていたからだ。そののどかはと言うと、小さなメモ帳のようなものを2冊開いている。

 

「はい、いきなり本題に入ります。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド彼をどう思いますか?」

 

 ウェールズますます不思議そうな表情を強める。のどかの真意が掴めないでいるようだ。疑問に思いつつも、答える。

 

「そうだな、彼は立派なメイジだと思うな。グリフォン隊の隊長なのだから」

「なるほど、では、そのワルドさんが、アルビオン王国の敵である『レコンキスタ』の一員だとしたら信じますか?」

「信じると、思うかね?」

 

 ウェールズはのどかに杖を向ける。しかし、のどかは避けるようなことをせず、まっすぐウェールズを見つめ続ける。しばらく睨み合いが続いたが、ウェールズが折れた。

 

「話だけなら聞こう。何より、君たちの前で『レコンキスタ』の名を出していないのに君がそれを知っているということも気になるからね」

 

 のどかはふぅっと肩の力を抜いて一歩ウェールズに近づいた。

 

「ありがとうございます、ではこれを見てください」

 

そう言ってウェールズにメモ帳となった『いどの絵日記』を渡す。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ん? ミヤザキノドカ。なぜここにいる。まあいい。

こいつがウェールズに用事? なんの用だ。何かを伝えようとしているのか?

ならば私も一緒に入ればいいだろう。妙なことを言おうとすれば、この場で殺す。

ルイズが? クッ、婚約者であるという建前がある以上これ以上の追求は自分の首を絞めるか。まあいい、こいつが何を言おうとウェールズの信頼は私のほうが上なのだからな。

 ルイズに明日結婚するということを伝えなければ……

 なんだ、まだ何かあるのか? うるさい女だ。

 目的?そんなこと決まっているだろう。第一に虚無の担い手である可能性の高いルイズを我ら『レコンキスタ』のものにするため。婚約など本当はどうでもいい。第二にルイズがウェールズからもらったあの手紙だ。アレがあればトリステインは弱体化し、ハルケギニア再興に近づく。そして第三、それはウェールズの命。これで我々は兵を失わずにアルビオンを奪うことができる。それが目的だ。しかし、ここはルイズのことを聞いているのだろうな。

 ふっ、私が情報を漏らすことなどあるはずはない。残念だったな、ミヤザキノドカ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

渡されたものに書かれたことを見てウェールズは目を白黒させた。

 

「なんだこれは?」

 

 その声は怒りに満ちていた。のどかに対しての怒りだ。のどかは若干気圧されながらも答える。自信を持って。

 

「それはワルドさん本人の思考です。人の思考をリアルタイムで追跡(トレース)する。これが私の能力です。それは先程ワルドさんから引き出した情報です」

 

 のどかは自信に満ちたキリッとした表情でウェールズを見る。

 

「信じられない」

 

 ウェールズの言葉はそれだけだった。

 

「今あなたにもそれは使われています。信じていただけるのであれば、その力をお見せします」

「なるほど、そっちのメモ帳に書かれているのだな。現在も」

「はい、ですから今皇太子さまが私に対して不信感を募らせているのもわかっています」

 

 ウェールズは顔を歪ませている。眉間に皺がより、のどかのことをどう判断して良いか迷っているのだ。そして、のどかが信じてもらうために、一つ提案をする。

 

「皇太子様、私からご質問してもよろしいでしょうか?」

「では、私の答えと一字一句違わなければ信用しようじゃないか」

「わかりました。では……アルビオンの国民が死んでしまうことについてどう思っていますか?」

 

 ウェールズが言い淀んでいると、のどかが先に口火を切る。

 

「死んで欲しくない、私のことなどいいから逃げて欲しい。死ぬのは王族の自分だけで十分だ」

 

 のどかの言葉はウェールズの考えと一字一句違うことはないと、ウェールズは認めた。

 

「わかった、君のこの力を信じよう。よって子爵のことも真実なのだろう。恐れ入ったよ。まさか読心術師とは……」

「出来ればこのことは内密にお願いします。ワルドさんが動くのは明日の結婚式だと思われます。その時にあなたを殺害し、ルイズさんを連れ去る。こういうシナリオだと私は思っています」

「そうか、だから子爵は私にアレを頼んだのか。私の命はこの国と共にある。賊などに命を取られるつもりはない。感謝する。ミヤザキ嬢、君がこの国に居てくれればこのようなことにはならなかったであろうに。実に惜しい人材だ」

「ありがとうございます」

 

 そう言ってのどかはゆっくり微笑んだ。今のウェールズに対して謙遜するのは失礼であるように思われたからである。ウェールズに会釈をしてからのどかは、部屋を退室した。結婚式の時に本性を表すと睨んでいるが、祝宴の時に事を起こしてもおかしくはないからである。戦いに備えて魔法銃をいつでも使えるように準備して会場に向かった。

 




アルビオン編クライマックスです!

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