それは唐突に口を開く。
───君は魔法少女という存在を知っているかい?
ふむ、それじゃあちょっと説明してみようか。
改めて、というようにその存在は語り出す。
いいかい?魔法少女というのはたった一つの願いを対価に魔女と戦わされる運命を背負わされた存在のことを指すんだ。願いはどんなことだって可能さ。
例えば。
絶対に直らずもう動かないとされた大切な人の腕を願いによって直してしまったり。
あるいは。
単純に莫大な資産、要するにお金さ。それを要求することだって可能さ。
人類を救った女傑、女性の英雄の中には魔法少女になることで奇蹟を起こしてきた。
───なんてこともあるかもしれない。
願いに大小も崇高も低俗もないさ。そこにあるのはその少女たちが「祈ったか」どうかなんだから。
───続いて魔女という存在。これは魔法少女とは反対の存在。祈りで生み出されるのが魔法少女なら魔女はその逆。呪いから生まれる。呪いは人々を襲い、蝕み、破滅へ導く。酷いものだろう?時に魔女は台風、火災など自然災害と化して人類に牙を剥くこともあるんだ。そんな害なす存在を魔法少女は駆逐していくんだ。まさに正義の味方というものだ!
彼女らは契約をすることで魔法少女という万能の存在となる。身体機能は常人を超え、特殊な能力を用い人知れず魔女を倒していく。
それが魔法少女だ、素晴らしい存在。「君」もそう思わないかい?では見てみようか。彼女らの歩む物語というものを。
第一節
《The 3rd person》
───魔法少女とは魔女という存在を狩る宿命を背負った年端もいかない女の子たちのことを指すのである。
時刻は午後八時。夜の帳が降りたという時に、少女───結加里あさひは走っていた。
否、走っているというより駆けていた。おおよそ少女、人間の出せる速度を容易く超越しながら。スカートの裾がなびこうが気にしない。
彼女の格好はドールハウスの住人のようなクラシカルで可愛らしい衣装だ。鮮やかな色で彩られたそれは沈むのを忘れた夕日のよう。
───あるいは。
彼女のプラチナブロンドの髪色とのコントラストも相まって日の出を待ちきれずにもう飛び出してしまった朝日の方が近いだろうか。
「見つけた。魔女の結界。」
彼女の視界の先には建物の壁がある。が、その壁はまるで陽炎のようにうねりを起こしていた。そしてどこか別の場所へと繋がっていたのであった。
あさひはスピードを維持しながら建物へと突進し、うねりの先へと向かう。
壁との激突は、行われない。なぜならば。
───そこはまさしく異世界と言った表現が適切であった。前衛的な芸術家のキャンバスの頭をかち割って中身を見たらこんな感じなのではないかと思うような極彩色。その中にいるのはキノコにシェフが着るような白い服をあてがった。そんな形相をした化け物である。
───奴らは使い魔。魔女の手下である。
手下、ということはもちろん存在する。
誰が?奴が。この結界の主だ。
次々と襲い掛かる使い魔たちをあさひは手にした鋏(?)で薙ぎ払っていく。
彼女が振るっている鋏。だが鋏とは二種の刃を噛み合わせて使うものであるが、彼女のそれは片方の鋏を太刀のようにして扱っていたのだった。
あさひはその大片鋏を振り回しながら結界内の最奥へとたどり着く。
そこにいたのは下半身が木製の椅子と合体した人型の何か。だが圧倒的に巨大であった。イス、長テーブル、炭火焼きセットと黒焦げになるまで焼かれた何か。さしずめ『バーベキューの魔女』といったところであろうか。
「aaaaaa刺焼aaa!!!!!」
バーベキューの魔女は結界に現れた闖入者を見つけるや否や大きな雄叫びをあげ両手に持ったフォークをかかげる。それは号令のようであり、今までバラバラだった使い魔の動きが軍隊のように統率される。どうやら二つのグループに分かれ挟撃する構えであった。
「eoriy!」
解読不能な言語を発しながら使い魔たち。だが、彼女はそれらなど目にも留めていなかった。
「ッ!」
彼女は足を踏み込んだ。するとスルスルスルッ!!!と、綱渡りのロープのような足場が瞬時に出来上がった。それの向かう先は斜め上。具体的には魔女の長テーブルに備え付けられた一つの椅子である。椅子といっても魔女サイズである。そのため人間の目線に立つならば、高めのプールの飛び込み台が一番適切であろう。
魔法少女はロープの上を疾走する。魔女の手下や魔女が迎撃するが跳躍、時に魔女の腕や使い魔さえも足蹴にしたのだった。
(当たらない、よ!)
あさひはその椅子に座らされている一人の女の子の下へ向かう。そう、彼女は最初からこの子しか見ていなかった。
女の子は気絶していた。無理もない。気がついたらこんな場所に迷い込んでしまって、気がついたら得体の知れない化け物に連れてこられて、気がついたら巨大な化け物と一緒に食卓(?)を囲むことになっていたのだから。
あさひは女の子をお姫様抱っこの要領で担ぐ。
「よし、後はとりあえずこの子を安全なところに置いておかないと」
あさひは急いで巨大テーブルから脱出を試みた。
だが、世界とは割と理不尽なのかもしれない。
「esik可視da」
グチャリ!!!!
バーベキューの魔女のフォークの一突きが獲物である少女を串刺しにしたのだった。
腹部から垂れる少女二人の真っ赤な雫。さっきまで生命だったそれはあっけなく糸の切れた人形に変わってしまったのだった。
「ha,hahahaha笑止hahahaha!!!!!!!」
魔女は懸命にテーブルへと登った部下たちに勝ち誇ったように、感極まってはしゃぐ子供のようにフォークを掲げたのだった。
「喜んでるところ残念だけどさ、それは私たちじゃないよ」
「haha……ha!!!!?」
見れば、貫いたと思っていた少女の正体は糸により精巧に作られた偽物だったのだ。
───結加里あさひは糸を操ることのできる魔法少女だ。だから少女を助け、身代わりに自身の能力で身代わりを作っていた。助けられた女の子は糸によりすでに安全な場所に避難させられていて、さらに使い魔の追撃を対策して糸の結界を張り守っている。
あさひは彼女を一瞥し、自身の作った糸の壁が破られていないことに安堵すると
「ごめんね……君たちも幸せになりたいのはわかる。でも……倒すよ」
手指を組みポキポキと音を鳴らす。傍には突入時に使った大片鋏が。
あれだけの巨体を誇る魔女が気圧されわずかに後ずさったように見えた。
───その刹那を魔法少女は見逃さなかった。
ッッッッッッダン!!!!!!と轟音と共に両断されてしまう。それは使い魔か、巨大なテーブルか、はたまた山のようにそびえる魔女か?
否、結加里あさひはその全てを一呼吸のうちに寸断してみせたのだった。断末魔をあげる余裕さえ許さない。そんな斬殺の末バーベキューの魔女は霧散するのだった。
無慈悲にも、魔女は死んだ。バーベキューという名を冠する者たちが狩られてしまうのは皮肉めいていた。
───いや全てを一瞬で、苦しまずに終わらせるというやり方を取ったのは彼女なりの慈悲なのだろうか。
自身の足場ごと切り崩したあさひは重力の導きを受け、十メートル下へ落下するが、彼女はさも当然のごとく平然と着地し、まるでジョギングをした後のように一息つくのであった。彼女にとっては魔女など、この程度のものなのであろう。
「人命救助、完了っと」
結加里あさひは穏やかに微笑むのだった。