第十節
《結加里あさひ》
私は剣引さんを追いかけるために勢いよく部屋を飛び出したが、映画館の通路のような真っ暗な廊下にはすでに剣引さんの姿は見えず、白衣を着ている人が何人かいるくらいだった。
遠くの方で制服姿の人物が見える。先に部屋を出ていたついりちゃんだ。
「あれ??ついりちゃん剣引さんは??」
「それがどこから出ていったかさっぱりなのよ……」
その返答に私は首を傾げた。
「??出口って私たちが入ってきたところじゃないの?」
と私はすぐそばにあった扉を開く、これで用具入れの裏手に出られる。と思っていたがその景色は私の思い描くものとは違っていた。用具入れの裏手の奥まった空間とは裏腹に目の前に見える景色はずいぶんと開けていた。
例えるならそう───とある建物の屋上のようであった。
「あれ?入ってきたところと違う?」
「そうよ、MBの基地に入れる扉はあそこだけじゃないの。この朝垣市の様々な場所に繋がってるの。だからこそMBのみんなはどんな時でも距離に囚われずに魔女退治に対応できるのよ」
「そうなんだー。でもそれじゃあ剣引さんがどこから出たかわからないね」
改めて私は素直な感想を口にする。それにあわせてついりちゃんも苦い顔をする。
「本当はどの扉を使ったかはログで確認できるの。でも昨夜のバーベキューの魔女が街に複数現れた時、サーバーに障害が起きてシステムが復旧できてないのよ……。ホント、こうも立て続けにトラブルが起きるなんてついてないわ!これも全部絶対あの女!繰輪月乃の仕業に違いないわ!!!」
「根拠はあるの?」
そう聞いた私に対してついりちゃんは自身満々に
「いいえ?全く!勘よ勘!」
───それはちょっとひどくない?
私は苦笑いをしながら心の中でツッコミを入れる。
「とにかく剣引さんを探そう!ここは私の出番だね!」
「あさひ、何をするつもり?」
私は右手を空に突き上げる。すると私の掌から糸が空へと放たれる。放たれたそれはだんだんと広がっていきパラボラアンテナのようなフォルムを取る。
「何をしてるのよ?」
「私の糸の力は音も拾うことができるんだよ!」
「魔法少女の力は失われたんじゃなかったの?」
「私が使えなくなったのは戦うための力だね。つまり変身することと武器を作れなくなっちゃったの。でも糸を出すだけなら大丈夫」
武器作ると言ってもこの程度だけどねと、私は空いた左手で小さなナイフを作る。
「ふーん……改めて見ても便利よねその糸の力」
ついりちゃんは関心したように言ってくる。
「えへへ、ありがとう。そういえば、ついりちゃんは能力とかないの?火がバーと出たりとか、目からビームが出たりとか」
「そんなのあるわけないじゃない!というかMBの魔法少女はそんなのないわ。アンタみたいに何もないところから武器を作る……それくらいね。あたしたちにできる超能力は」
そうなんだ。魔法少女は不思議な力を持ってるものだと思ったけど私の勘違いだったみたい。
ん??そうなると私の持ってるこの力……糸の力は一体何なんだろう?
なんて考えていると、糸の一つから音をキャッチする。多分この声は剣引さんだ!
「あ、いた、いたよ!ついりちゃん!剣引さんが」
「本当!?どの辺り?」
「ん〜とね……紬神社!!」
「何でそんなところに!?まあいいわ、行くわよあさひ!!」
ついりちゃんの手にはめていた指輪───ソウルジェムが光り輝き制服がサイバーチックなスーツに早替わりする。
紬神社は学校から少し離れた神社だ。ここからなら変身すれば五分もかからない。
そう思い走り出そうとして私は思い切りつんのめる。
「うぎゃ!」
「何やってるのよ!」
「糸……出しすぎたみたい……力が抜けてるとこんなことで動けなくなるなんて……ついりちゃん、私は後から追いかけるから先に行ってて」
ついりちゃんは
「ああ!!もう!そんな地面に突っ伏されたら迷惑になるじゃない!ほら、あたしの背中に乗りなさい!」
と、私を背中に乗せて走り出した。