第十一節
《The 3rd person》
「───着いたわね。紬神社」
「ついりちゃん、ありがとー」
そして二人は紬神社へたどり着いた。
「本当にいるのよね?剣引さんは?」
深緑がかった髪を小さくまとめた少女───森崎ついりはそう結加里あさひに尋ねた。結加里あさひはそれにうなずいた。
「うん、そうだよ」
「そう、わかったわ。さて、とりあえず剣引さんには事情を聞かないとね。何で急に飛び出したのか」
───その時、悲鳴がした。
「きゃあああ!!!」
「「!!!」」
あさひとついりはお互いの顔を見合わせる。
「今のって!まさか!」
「剣引さんだ!ついりちゃんは先に行って!私は後から追いかけるから!!」
「わかったわ!けどアンタは戦えないんだから無理するんじゃないわよ!!」
ついりは跳躍する。神社への石段を何十段も飛ばすようにして。
そしてついりは瞬く間に境内へとたどり着いた。
「剣引さん!」
「森崎、先輩……!」
ついりはすぐさま実沙の元へと駆けつける。
───その時だった。
飛んできた何かを弾く。それは矢であった。飛んできた方向を見ればあの騎士───繰輪月乃が弓を携えて存在していたのだった。
「繰輪月乃ッ!なんだって剣引さんを狙うのよ!!??」
漆黒の騎士は数秒の沈黙の後口を開く。
「……それって貴女たちに話さなきゃいけないこと?」
「ハァ!?アンタ自分が何をしてるかわかってんの!?このことMBに報告すればアンタなんてッ!」
「除隊でも何でも好きにすれば?そもそも、私は入りたくて入ったわけじゃない。あの物描夜明って人が無理矢理入れただけ。こっちから願い下げ。仲間なんて必要ないし、人助けなんて時間の無駄よ」
ついりは目を細める。
「何?貴女。顔、怖いわよ」
「……剣引さん下がりなさい。アタシ、コイツは絶対にぶっとばさないと気が収まらない。アンタは!魔法少女を!侮辱した!」
「(……面倒な女)」
ついりは槍を構える。穂先は繰輪月乃へ向けられる。
両者は睨み合っていた。
───そして二人は動く。
───神社の石段を駆け上がった結加里あさひはその光景を目の当たりにした。
近未来風ボディスーツを身に纏ったついりの槍が矢を撃ち払うのを。
ついりの視線の先には漆黒の鎧を纏った騎士───繰輪月乃が弓を持ちそこに立っていた。
「ハアアアァァァァ!!!!!!」
ついりが漆黒の鎧を纏う少女に飛び掛かる。鋭い突きを浴びせようという算段だろう。月乃は数発矢を放つが、ついりの勢いは止まらなかった。サイバーな槍の切先と真っ黒な弓の成りがぶつかり合う。金属同士が擦れるような音を立てながら二人は競り合う。
「他の魔法少女を殺したのもあなたなんでしょ?それにその弓……アタシを撃とうとして結果的にあさひを撃ったのもアンタね!!!!」
月乃は面倒そうにため息をつくと
「そうだとしたら??」
そう、そっけなく返した。
「アンタ……絶対許さない!!!」
ついりの槍を握る力が強くなる。ギリリリと少しずつ月乃の体が後ろへと後退する。
すると突如、弓が消えた。
「うわっ!!」
支えを失ってついりは前につんのめる。が、すぐにバランスを取り戻す。
月乃は魔力で弓を消し、新たに別の武器を取り出したのだ。剣が現れる。しかし、昨日の夜あさひと対峙した時とは違う。
具体的には大きさ、そして太さ。
───大剣だ。二メートルほどの両刃の大剣を月乃は二本の手で構える。遠心力をも活かした一撃がついりを襲う。
ガッッッッシャン!!!!という音を立てついりの体は神社の石段に思い切り叩きつけられた。
「ついりちゃん!!!」
あさひは全速力でついりに駆け寄った。ついりは五体満足であった。咄嗟に槍を構えて大剣の直撃を免れたのだろう。
「大丈夫!!?ついりちゃん?」
「このくらい……平気よ……それより、今アイツを自由にさせたら……」
「剣引さんだね。……大丈夫。私は誰も殺させたりはしない」
あさひは右の掌から糸を出す。糸は一塊になりナイフへと変形する。
魔法少女への変身を許されてない少女の唯一の装備。
「月乃ちゃん!」
「結加里……あさひ」
バイザーに覆われているが故に表情は読めない。
「月乃ちゃん」
あさひが何かを聞こうとするのを月乃はすぐに遮る。これ以上時間などかけたくないという意思が透けて見える。
「貴女も私の邪魔をするの?でも、昨日のような拘束はできないんでしょう?だったら貴女に私は止められない」
月乃の大剣が振るわれる。ブォンという風切り音を立てて。
あさひは体を反らせてそれを躱わす。少しでも触れれば木っ端微塵になるその斬撃を。
月乃の頬を何かが掠め、横切った。月乃は左手をなぞる。指先には鮮血が付着していた。
「変身できないからと言って戦えないわけじゃないよ。月乃ちゃん」
ニヤリと笑うあさひ。その瞳表情はとても挑発的だった。あさひを無視して剣引実沙を追えば面倒なことになるのは明らかであった。
「貴女、そんなに死にたいの??」
繰輪月乃はそうあさひに問いかける。
「んー死にたくないけど、剣引さんを助けるためだから」
「ああそう」
月乃は興味なさそうに再び大剣を構えてあさひに向かって跳ぶ。三メートルの距離を一息で跳び、落下の勢いもつけた一撃をあさひに浴びせようとする。
「よっと!」
あさひは後ろに跳び回避する。
繰輪月乃はすぐさま左から右へと大剣を薙ぎ払った。
───否、薙ぎ払おうとした。
漆黒の騎士の動きが止まる。すると、繰輪月乃の目の前を何かが通り過ぎる。ついりが叩きつけられた石段から槍を月乃めがけて投射していたのだった。
「貴女、まだ生きてたのね」
「あの程度で死ぬわけないじゃない」
「ついりちゃん!」
「あさひ、時間稼ぎありがと」
「ううん。気にしないで。それよりこれからどうしよう?」
「とりあえず、アイツをぶっ倒す!」
「そうだね……剣引さんのこともあるし」
ついりは立ち上がり、再び槍を出現させる。
あさひも右手から出る糸を操りナイフを作成した。
「行くわよ!!」
ついりは駆ける。一足で月乃の目の前へと接近し、槍の柄を大剣に打ち付けた。
「ッッ!!!」
火花が散り、衝撃波が発生する。大剣と槍の柄が接触する。白熱した剣と槍の応酬が繰り広げられるり
「あーもう!重ッ!」
「ハッ」
短く月乃は嘲笑する。それと共に大剣がさらに押し込まれる。ついりは押し返そうとするが、月乃の圧倒的な膂力の前では無意味だ。
だが。
───突如、月乃の足が絡まり取られる。
「(糸か。ということは……結加里あさひ)」
見ればあさひが掌から糸を放出し、月乃の動きを封じ込めようと試みていたのだ。
「クッ」
月乃の動きが止まったのを見計らう。ついりは一度間合いを取るために地面を強く踏み込む。
「今度こそ……捕らえた!」
急所は外した一撃。だが喰らえばしばらくは動くことは困難だろう。
だが、ついりの攻撃は全て空を切った。月乃はまるで舞うような軽やかな動きであさひ達の猛攻を躱していく。
「チッ」
「甘い」
舌打ちをしながらもついりは諦めずに攻撃を仕掛け続ける。
あさひの糸による捕縛は充分ではなかったらしく槍撃を避けていく月乃。
「このっ!!」
ついりが諦めずに槍を突く。月乃はそれを大剣で受け止めた。そのまま鍔迫り合いとなる。
───すると突如として声がした。
「結加里センパイ!森崎センパイ!大きく下がって!!」
「「え!?」」
「!!」
あさひとついりは大きく距離を取る。
───オレンジの空から弓矢が雨のように放たれる。繰輪月乃は剣の腹を盾代わりにして弓矢の雨をやり過ごす。
「よかった〜センパイ間に合ったみたいですね!」
MBの魔法少女特有のサイバースーツ。
すなわち、弓貫慧子だった。
「(弓貫さん……。そうか、剣引さんが連絡してくれたのね!)」
神社の裏で小さく顔を覗かせていた実沙が頷いていた。
「さーて、繰輪センパイ?二対一?あ、いや結加里センパイもいるから三対一?あ、でもでも結加里センパイは力無いっぽいから二.五対一か!!それでも勝負するんです??言っておきますけど、わたしー弓の才能にはちょーっと自信あるんで〜帰ってくれると嬉しいなぁ〜って!」
「……本当に面倒……」
バイザーの騎士の士気は明らかに落ちていた。
対峙する少女たちの中央でパチリと火の粉が舞った。
「「「「!!!??」」」」
火の粉は少しずつ大きくなり形を形成していく。
大きな鉄串を持つ化け物すなわち───バーベキューの魔女だった。
『aaaaaaaaaaa!!!!!!』
「またあの魔女!!??」
「また!?一体、何体いるってのよ!!」
「……貴女たちに関わっても時間の無駄のようね……わかったわ。もう貴女たちには関わらない」
月乃は自分の大剣を消すと、神社を後にしようと踵を返した。
「は?アンタこの魔女を見逃すつもり!?」
「だから!人助けも魔女退治も貴女たちで勝手にやればいい。私には関係ない、背中を斬られないだけありがたく思いなさい」
それだけ言い放つと繰輪月乃は境内を後にする。
「あの女……」
「ついりちゃん!今はそれどころじゃないよ!!」
「そうね。剣引さんはMBに報告。弓貫さんはアタシの援護をお願い!あさひは使い魔が剣引さんに来ないように護衛お願いね!」