第二節
《結加里あさひ》
魔女をいとも容易く倒し、私は変身を解除する。流石にいつまでも目立つ格好は遠慮かなー。
濃い赤を基調とした衣装から上は紺のブレザー、下はチェックのプリーツスカートに変わる。そう、すなわち制服ね。
さっきまで前衛芸術の絵画調だった風景は見慣れた場所へと変わる。魔女を倒して私たちは人間の世界へ帰ってきた。私は足元に落ちていた黒っぽい物体───グリーフシードを拾い上げる。
魔法少女というものは人智を越える力を奮うことができる。でもそれはタダってわけじゃない。力を使うためには魔力を消費する。これは失った魔力を回復するためのもの。みたいな感じかな?よくわからないや。
───左人差し指にはめていた指輪がまるで手品のように一瞬で手のひら大の宝石に変わる。これがソウルジェム。私たち魔法少女を魔法少女たらしめる要素の一つ、……らしい。
宝石は元々真っ赤な色をしていたが、若干淀みと濁りが見られる。そこでさっき取ったグリーフシードだ。これをソウルジェムに押し当てることでどういう原理かはわからないけど濁りが消えていく。
まるでグリーフシードが穢れを吸い取ってくれているように。
あるいは───。
ソウルジェムがグリーフシードにそれを押し付けているように。
次に私はさっき助けた女の子を確認する。特に目立った外傷は無し。意識は未だに回復していない。これは自分でなんとかはできない。
だから私はとある人物に電話をかける。
「もしもし、
電話の相手─── 彼女は
その後、三分足らずで救急車はやってきた。対応の早さに私は驚きつつも救急隊員に女の子を引き渡す。
さて、私も帰りますか。───と思ったその時だった。背後から視線を感じた。
「魔女退治はもう終わったよ。それとも何か用かな、ついりちゃん?」
私の目の前には私と同じ制服を着た深緑の髪を後ろで小さく束ねた女の子───森咲ついりが取り巻きの金髪のギャルみたいな感じ女の子を連れていた。えーと確か……そう
ついりちゃんはなんか怒ってる。三白眼なのも相まっていつもキッとした表情だけど一割増しに。
「アンタ、ここがどこだかわかってここにいるのよね?」
ついりは不機嫌そうな態度で私に質問してきた。
「もちろん。朝垣市中央区Dの六」
「ちがーう!そういうことを言ってるんじゃないのよ!!!この地区はあたしたちの区画担当だって前からずっと言ってたわよね!!何でアンタはいっつも一人で勝手に突っ込んで無茶して!あたしの言ってることが聞けないワケ!?」
「区画……担当……?あれ……?そうだっけ??ごめんごめん。でも、私がいなかったら女の子も助からなかったと思うし、魔女もグリーフシードも落としたんだしさー許してよー。まだ使えるはずだよー」
使うでしょ?と私はグリーフシードをついりに渡す。ついりは不機嫌そうな態度を取りつつグリーフシードを受け取る。
「弓貫さん。あなたが使いなさい」
「ありがとうございます。私のソウルジェム、穢れが溜まってたからちょっと気になっていたんですよ〜。センパイは使わなくていいんですか?」
「ええ、問題ないわ。穢れの管理は魔法少女の基礎中の基礎ですもの」
「えー、すごーい。森咲さんはやっぱり一流ですね」
「そ、そんな、褒めても何も出ないわよ!弓貫さん」
よし、女の子も助かったし、なんか丸く収まったみたいだし私はこれでお暇しようかなー。とか思いつつ帰ろうとして踵を返そうとしたら突如制服の襟を掴まれる。
「ぐえぇ」
なんて情けない声を出しながら私の首が締まる。
「ちょっと待ちなさいよ。アンタに言いたいことはまだ終わってないんだけど!」
えーまだお小言続くんですかー。と私は内心思いながらも黙っていた方が身のためだとわかっている。だから何も言わない。小一時間の説教を生返事で躱す私に諦めたのか、言いたいこと吐き出してスッキリしたのかはわからないけどついりは大きなため息をハァーッと吐くとマシンガントーク(?)は終わりを告げた。
「まあいいわ。こんなに言ってもあなたは聞き入れないのでしょうね」
「いやーそれほどでも」
「褒めてないったら!!あーもうやっぱりアンタは放って置けないったらありゃしないわ!大体チームを組んで魔女討伐した方が安全なのに何で単独行動を取るのよ!その……あたしたちでよかったらいつでもチームを組んであげるのに……そ、そうよ!あたしたちと行動を共にしなさい!そうすればあたしもアンタに目を光らせられるし、何よりアンタいっつも一人で突っ込んで危なっかしいのよ。あたしと弓貫さんそしてもうすぐ魔法少女になれるだろう剣引さん。この最強の布陣が揃えばこの街の平和は守られたも同然よ。そしてあたしはその最強布陣のトップ!あのふんぞり帰ったアキノの高い鼻をへし折れるわ!いい、とてもいいわね!だから仲間になりなさい!」
なんか一人で盛り上がってオーッホッホッホッとどこかの悪役令嬢のように高笑いしそうなついりちゃん。どうでもいいけど早く手、離して欲しいんだけど。
とそこで私はある違和感に気づいた。
「ん?そういえばもう一人……そう、
剣引実沙さん───黒髪でボブカットの女の子だ。
「いつもならそうなんですけどね。実沙は今日は『検査』なんですよ」
と、弓貫さんが答えた。
「『検査』?」
「いや、アンタも定期的に受けるでしょ。あたしたちMBの魔法少女とその候補生は……ってまさかアンタ!すっぽかしてたんじゃないでしょうね!!」
「えーと……この街にそんなのあるの初耳だったり……」
「あ、あ、アンタこの街の魔法少女のくせにそんなことも知らなかった……ですってぇ!?どれだけ常識がないのよ!」
アハハと笑って誤魔化す私とハァ……とため息をつくついり。
「いいわ、この街の魔法少女のイロハはまた後で直々にあたしが教えてあげるから覚悟なさい!」
というついりに生返事をして私は帰る。時刻は午後九時三十分。こんな時間に学生が、しかも女の子が外を出歩くのは当人たちが良くても、世間が許してくれないだろう。
「魔法少女も戦わなければただの女の子だからね」
……にしても『検査』とかMB……だっけ?そんな秘密結社めいた組織とか。
「魔法少女っていつからそんな堅苦しくなったんだっけ??」
私はそんなことを呟きながらゆっくりと足を動かし帰宅するのであった。