第五節
《結加里あさひ》
あれから私はマンションに戻り今日の授業の準備をしてから学校へと向かってる。今は朝の七時。スズメだかよく分からないけど鳥が数羽空を羽ばたくのを私は目にする。
そっと風が私の頬を撫でる。何だろう。今日はいいことある気がする。特に根拠なんて無いんだけど!
木漏れ日の下を私は歩く。アスファルトの側溝には散ってしまった桜の花びらがまだ残っていた。
「おはよう!あさひちゃん!」
そんな時声がした。振り返ると長い髪をなびかせて向かってくる人物がいた。志麻海華ちゃんだ、私の親友と呼べる人物だ。
「あ、海華ちゃん!おはよー」
「ねぇねぇ聞いた?昨日のニュースのこと!」
「ニュース?」
「そうそう!公園で起きた火事!その後爆発事故が起きて遊具が吹き飛んじゃったって!」
……ああ、昨日のアレか。流石に魔法少女を公にできないから『火事』と『爆発事故』という扱いになるんだ。これもMBが情報を隠蔽とかしたのかも。すごいなMB。
「……うん!偶然出くわしちゃったの!」
「え!?あさひちゃんあの場所にいたの?危ないよ!」
海華ちゃんはとても心配そうな顔をして言った。
「うーん、なんかもしかしたら助けを求める人がいるかもって!思っちゃって」
あの時実際は……そうそう。剣引実沙ちゃんがあの謎の人物に襲われかけていたから助けたんだ。でもそれは言わない方がいい。無駄に心配させる必要なんてないしね。
「もう!無茶しないでね?わたしはあさひちゃんに何かあったらって思うと気が気でないの!いつも心配してるんだよ!あさひちゃんは人助けって言って色んなことに関わって!」
ああ、これ話が長くなりそう。切り上げよう。
「う、うん!わかってるよ!ありがとう海華ちゃん!」
そんな会話をしているうちに学校に着いた。下駄箱で上履きに履き替え教室へと向かう。そしてドアを開けるといつも通りの光景が広がっていた。
私は机の上に鞄を置いて自分の席に着く。
───ふと昨日のことを振り返る。朧げな記憶の糸を伝って手繰り寄せるようにゆっくりと思い出す。黒くて長い髪をした騎士。バイザーのせいで顔は見えなかったけど。凛とした声だった気がする。
「おーい、結加里ー」
ボーっとしてたら声をかけられた。
「んーと、クラスの田中君か。どうしたの?」
「いや俺中田だし……ってそれはいいや。結加里お前二限の古文の宿題見せてくれ!頼む!やって来るの忘れちまったんだよ。頼むよぉー、森先生に前大目玉食らって『次はねぇ』って言われちまってるんだ!またいつもみたいに助けてくれよ!」
そう手を合わせてお願いされる。困ってるなら助けるしかないね。
「うんいいよーってあれ?」
私はカバンの中を探り古文のノートを引っ張り出す。……がノートは白紙だ。それはそうだ、だって魔女にやられて一晩気絶してしまっていたのだから。
「……あははー。私も忘れちゃったみたい」
「マジかよ!お前なら絶対見せてくれるってあてにしてたのに……。じゃあ誰かに見せてもらうしか……」
その時、タイミング良く予鈴が鳴る。そしてガラリとドアが開き担任の物描夜明先生がいつも通り白衣姿で入ってくる。
「おはよう諸君、今日も元気そうだねぇ。中田君、課題を今から初めても間に合わないぞ。諦めて森先生から説教を受ける覚悟をしたまえ。高島クンどうかしたのかい?何?彼氏と反りが合わなくて別れた?あんなに仲睦まじかったのに?ん?ふーんふんふんなるほどそれは良くないね。朝の卵料理で目玉焼きにするか卵かけご飯にするかで喧嘩して破局した知り合いがいてね。君たちにはそんな結末は似合わない。仲直りすることをお勧めするよ」
なんて話を交わしながら物描夜明先生は教壇の前に立った。
「おっと話が逸れたかな。ではホームルーム始めるよ。早速だけど皆に嬉しい報告がある」
先生は軽めな口調で淡々と言う。なんだろ?
「実は……このクラスに転校生が来ることになった」
「先生!転校生は女子ですか?それとも女子ですか?」
男子の中の誰かが先生に聞いた。すると先生はニヤリと笑む。
「男子達は喜びたまえ」
おお!!!!!とクラスの男子は一気に沸きたった。
そうかー転校生かー。どんな子なんだろう?仲良くできるといいな。でもこの時期に珍しいな。五月も半ばだ。新学期が始まってすぐってことは一ヶ月半くらい経ってることになる。
「繰輪クン。入りたまえ」
そう言われて女の子が教室へと入って来る。背丈は私よりちょっと大きいかな?髪は肩までかかる程度の長さで黒くて艶やか?みたいな感じ。肌の色は白くキレイ。そして、女の子が教室に入った瞬間空気が張り詰めたように感じられた。その証拠にざわざわしていた話し声が全く聞こえてこなかった。
───氷のように冷たい瞳、昨日の夜に出会ったあの騎士を思い出す。思い出してしまう。
淡々と黒板に文字が書かれていく。
「繰輪月乃と言います。よろしくお願いします」
その子はそう挨拶をした。透き通った声は教室の男子達のハートを鷲掴みするのには充分すぎる威力だったみたい。
クラスの男子達は堪えきれなくて再び一斉に沸いた。
「はいはい、男子諸君の興奮はわかったが落ち着きたまえ。えーと席だけど……空いてるのは……あそこだけのようだね。窓際の一番後ろの席に座ってくれたまえ」
「分かりました」
そう言うとその子はスタスタと歩き私の隣の席に座った。
ん?繰輪月乃……それって!
私はか細くなってる記憶の糸を手繰り寄せて昨日の出来事を呼び起こす。
『でも、嫌な感じはしないわ。…………私は、
「あー!繰輪月乃ちゃんだ!」
思わず声が出てしまう。教室中が私に注目してしまってちょっと恥ずかしい。
「おやぁ?結加里クン、君は繰輪クンと知り合いだったのかい?どこかで会っていたんだい?」
「えーと……あ!秘密でお願いします」
月乃ちゃんに会った昨日は魔女と戦ったんだ。それを言うわけにはいかない。
「おっと、そうなのかい?それは残念だねぇ。さて、みんな新しい仲間と勉学に励みたまえ。これにてホームルームを終了するよ」