第七節
《結加里あさひ》
「───ってことがありました。森先生怖かったです」
今の時刻は十二時。お昼休みの時間だ。私はついりちゃんと海華ちゃんの三人で食堂にいる。
「災難だったね。あさひちゃん」
「いや、自業自得だから。主に中田のね」
ちなみに海華ちゃんは購買のパンを、ついりちゃんは自前のお弁当を食べていた。
「あさひアンタは食べないの?」
「いやー怒られた後出し食欲ないな……」
とはいえ、私だけ何も食べないから手持ち無沙汰になるのも事実。私はついりちゃんと海華ちゃんの、あと自分の分の水を取りに行った。
「お水お待たせ〜」
「ありがと」
「あさひちゃんありがとね」
水を口にしながらふと、食堂にできた人だかりを見た。
食堂は例の転校生───月乃ちゃんを一目見ようとごった返しになっていた。月乃ちゃんの座る席を囲むようにして人だかりができていたのが証拠だ。
「同級生のみならず人気ね、繰輪月乃。ウチのクラスでもその話題で持ちきりよ。というか上級生も下級生までも噂が広がってるなんてね」
「そうでしょう!そうでしょう!」
「何でアンタが得意気な訳!?」
「だって本当にすごいんだもん。ね?海華ちゃん」
「うん、そうだったね、繰輪さん何でもできるんです。勉強も運動も。抜き打ちの小テストも難なく満点だったらしいですし、体育でも……だよね?あさひちゃん」
「そーそーバスケのミニゲームをやったんだけど、バスケ部が相手でもドリブルでピューって!そして躱してスリーポイントシュート!うん、あれは見事だった」
私も相手したけどまるでダメ、ギリギリ着いていくのがやっとだったなぁ。
これもソウルジェムの色が無くなったのも関係があるのかな?
「容姿端麗、成績優秀。天が二物も三物も与えてしまったのが月乃さんなんです。……少し羨ましいかも」
「羨ましい?どうして?」
うっとりとした雰囲気で海華ちゃんに私は疑問を持った。
だから聞いた。
「だってあれだけなんでもできるなら悩みなんて何も無いんだろうなって思って。だから繰輪さんのこと羨ましいの」
「そういうものなんだね。ついりちゃんは?」
「別になんとも。転校生ってのは物珍しくなるようにできてるのよ。それにアイツは───」
ピーンポーンパーンポーンと放送が流れる。
『二年一組の志麻海華さん。理科実験室まで来てください』
と、そんな放送が聞こえた。
「わ、わたし?」
「そうね、志麻さん。何か心当たりは?」
海華ちゃんはこめかみのあたりに人差し指を当てて考えていた。
「……ちょっとわからないかな。わたし行って来るね」
「行ってらっしゃーい」
私が手をひらひらと振って見送りながら
「今ボロが出かけたよね?ダメだよー海華ちゃんは普通の人なんだから」
魔法少女も魔女も普通の人には知られてはいけない。なぜいけないのかは私にはわからないけどそういうことになっている。
……らしい。
「……」
「でーたーでしょー」
頬をつつきながら私は思い切りニヤリと笑ってやった。
「う、う、うるさいわね!!!うっかりしてたわよ!あたしだってミスくらいするわ!!あとほっぺたつつくな!!!」
「えへへー」
「もう……それと、昨日は突き飛ばしてくれてありがと。アレがなかったらあたし死んでたかも。庇ってくれて、いいえ……本当に、生きててくれてありがと」
私の左手についりちゃんの両手が覆い被さる。
「ううん、ついりちゃんが無事だったからよかったよー。それにしてもあれはなんだったんだろうね?」
「そうね、アンタに突き飛ばされたからよく見えなかったわ、魔力でできてたみたいだったからあたしが見た頃には霧散して元の形がなんだったのかさっぱりわからなくなってたわ」
ついりちゃんにそう言われて私は腕を組んで考える。
「誰が狙ったんだろう?」
「それは!決まってるでしょ!」
するとついりちゃんは身を乗り出してきた。私は思わず身を退いてしまった。
「やっぱりあの女!繰輪月乃よ!」
「えー?月乃ちゃんは昨日私たちを助けてくれたのに?」
「確かに引っかかるけどそれはアイツなりに何かわけがあったのよ。アイツは最初に剣引さんを攻撃してたのを忘れてたとは言わせないわ」
「それは……そうだったけど」
昨日の晩、女騎士───繰輪月乃ちゃんは剣引実沙さんを斬りつけようとしていた。私が寸前で止めてなければどうなるかは想像に難くない。
その後、魔女が現れたんだった。でも、その魔女は普通とは違って結界の外で暴れようとしていた。
「わからないことだらけだ。月乃ちゃんのことも、普通とは違う魔女のことも」
私のソウルジェムが無色になったこともわからないことの一つだけど今は置いておく。
「とにかくあたしとしては繰輪月乃は怪しすぎる。今日の集会でそれを報告しようと思ってるの」
「集会?何それ?」
「今日MBの集会があるの。知らないだろうと思ってたからアンタも連れて行くわ」
「私も?何で?」
すると、ついりちゃんのキツめの目つきがさらにキツくなる。そしてついりちゃんのり両腕が私の前に伸びたかと思えば襟元を掴まれる。
「この街の魔法少女のくせに何も知らないからに決まってるでしょうがぁ!!」
「わかったかららぁぁ!襟掴んで揺らさないでぇぇぇぇ!!」
ついりちゃんの手は私を開放する。うおー脳がぐらぐらする。
「あーでも今日かーちょっと無理かなー」
「え?どうしてよ?」
「私、今日掃除当番代わってってクラスの子に頼まれちゃって掃除しなきゃいけないからダメかも」
「掃除ってたかがクラスの教室だけでしょ。それに掃除当番って班でやるんだからアンタ一人でやるわけじゃないしすぐ終わるでしょ。集会に少し遅れるくらい平気だから安心しなさいな」
「そう、だからその班の人全員から頼まれたから私一人だけでやるよ」
「ハァ!?!?それ押し付けられてるのよ!こき使われてるのわからないのアンタ!?」
「えーでもやるって言っちゃったし、今更断るの悪いからごめん!できるだけ掃除早く終わらせるからちょっと待っててくれないかな?」
私がそう言い終えるとついりちゃんはわなわなと小刻みに震えていた。
「ああもう!!このお人よし!あたしも手伝うわよ!!!だから二人で速攻で終わらせてその後あたしに着いてきなさい!」