遂に例の人が降臨します。
よろしくお願いします✨️
日本国内某施設
「さて、では他のものはこの部屋から出るように。」
「「「「「承知しいたしました。」」」」」
日本国内のとある地下施設にて、
一人の男は数人の部下に巨大な薄暗い空間を出るように命令する。
その空間は、壁だけでなく、
床、そして天井までもが完全に防音処理されている上に、
外側を分厚いコンクリートで頑丈に施されている。
そのため部屋の外に出た部下たちには、男が何を話そうが聞かれる心配はない。
もっとも、ただ他の幹部たちにする指令だけであれば、
そこまでする必要はなく、
連絡手段についても、
最近組織で開発が進められているの量子通信の試作版を使ったりはしない。
量子技術といえば、最近組織で最も力を付けているとある科学者の献身あってのものだ。
彼が我々の家族となってから7年が経とうとしているが、
その短期間で、ありふれた組織の一研究員から幹部までに成り上がった。
先代ピスコは我々の力を使ってトヨタの会長の座まで上り詰め、日本の自動車メーカーを席巻してきた。
今代は日本の量子技術をリードする人材としてピスコとしての役割を果たそうとしている。
先代の死は組織にとって大きな損失だと落胆していたが、
今代の存在は、目まぐるしく変化する世界から取り残された我々を、最先端に引っ張り出してくれる可能性を秘めている。
そんな重要人物である彼の組織の立場を再考する必要があるのだ。
だがこれは私だけの判断で決められるほど単純なものではないのだ。
*******
「いつもお世話になっております。ラムでございます。」
『そろそろ連絡が来ると思っていた。この連絡手段では随分久しいか、RUMよ』
「はっ!つきましては仙s」
『次代のピスコ、仙水悠の処遇についてというのは分かりきったことだ。』
「...ご存じだったのでしょうか?」
『お前にいちいち説明する必要があるのか?』
ドックン
「いえ、滅相もございません!!!」
電話越しでも伝わる途轍もない威圧感に身じろぎするラム
『まあいい...。お前は今回、量子通信という最先端技術を使い盗聴のリスクを回避した。
これは長年ストップしていたはずのサンライズ計画が再開し、大きく進展させた明確な証拠だ。
サンライズ計画が再開した時期に新たに家族となったのが量子コンピュータの研究者である仙水悠であり、
彼はそれだけでなく幹部としての仕事ぶりも目覚ましいと報告を受けている。
お前は部下の仕事ぶりが正しく評価されるべきだと考える節があり、今までそれに見合った待遇を用意してきた。
仙水悠は幹部以上の成果を発揮しているがためにそれに見合った報酬を与えるべきであるが、
幹部任命以上の報酬は与えることができず、処遇に困っていた...
....といったところだろう。』
「御見それしました....。正しくその通りでございます。」
ラムは電話越しであるものの深く頭を下げる。
しかし、その声に先ほどまでの動揺はなかった。
読まれたことを、すでに受け入れている声だった。
『簡単な推理をしたまでのこと...。だがお前は間違っていない。』
「!!」
『部下の成果を正当に評価しようとする姿勢は、組織にとって健全だ。だが――』
一拍、間が置かれる。
『“正当な評価”という概念は、時として組織を壊す。』
「……」
『仙水悠は、努力に見合った報酬を与えれば忠誠を示す類の人間ではない。
アレが求めているのは地位でも金でもない。』
『――“自由な思考の場”だ。』
ラムの義眼がわずかに震えた。
『しかしそれを与えれば、いずれ私を超え、制御できなくなるのは必至。
とはいえ与えなければ、組織は技術で世界に出遅れ、前時代に囚われ続けることは避けられないのも事実...』
「……おっしゃる通りかと。」
『我々も世界という一つの流れに乗った小さな箱舟でしかない。
我々はその小舟を流れに応じて形を変え、幾度もの波乱な時代を乗り越えてきた。
それはお前も知っていることだろう』
「それは父からもよく聞かされておりました...。」
『そうだろうな...では処遇を伝える。』
そして、声の調子が変わる。
今度は“結論”の声だった。
『仙水悠には選択肢を与える。』
「選択肢……?」
「物事を判断する基準を我らの論理ではなく、“外の世界の論理”に置くことを許す。』
「なっ!?!?」
『それを受け入れた時、――組織の利益を選ぶか。それとも、世界の合理を選ぶのか...。』
ラムは、ゆっくりと息を吸い、答える。
「……承知いたしました。
しかしそれはどのように?」
『仙水悠は量子コンピュータの研究者...。ならばソレを世界の最前線にいる人間たちの「判断基準」に晒せばいい。あとは……分かるだろう。』
通信が切れる直前、
烏丸は、最後に一言だけ付け加えた。
『忘れるな、RUM。時の流れに逆らえば、人は罰を受ける...。
今我々は試されているのだ。もっとも、試しているのが神とは限らんがな』
プツン
*********
仙水の端末が、無機質な振動音を立てたのは、研究室で一人、量子回路における電流計算をしているときだった。
発信元を確認するまでもない。
表示されたコードは、RUM直属回線のものだった。
「私です。いきなりではありますが東北大学へ出向を命じます。」
「理由をうかがっても?」
「えぇ。じつは以前から、産学官連携の国際量子計算プロジェクトが進行しています。
東北大学が主体となり、そこに、烏丸グループも正式に参画していましてねぇ。」
仙水は手を止める。
「大学だけではありません。
複数の企業、経済産業省、内閣府といった行政機関。
さらに――アメリカ、イギリス、ドイツなど、
欧米の企業、研究機関も連携しているのです。」
確かに言われてみれば数年ほど前からそのプロジェクトが進行しているのは知っていたが、烏丸グループも参画していたのか。
それならば組織が動くのに納得はできる。
しかし1つ気がかりなのは、組織は技術を共有することを嫌うということだ。
奪うことはあっても、共有し並ぶことはない。
国家や研究機関と「横並び」で技術を開拓するなど、組織の流儀からは外れている。
「新幹線のチケットは手配済み。今日中に東北大学へ出向しなさい。」
通話は一方的に切れた。
技術の独占を優先する組織のやり方と異なることに違和感を覚えながらも、急遽用意された新幹線のチケットで東北大学に行くことにした。
数分後、仙水の端末に電子チケットが送られてくる。
出発まで、時間はほとんど残されていなかった。
東北大学に到着した仙水を待っていたのは、異例としか言いようのない対応だった。
研究内容の確認も、形式的な面談もない。
大学側は、まるで最初から決まっていたかのように告げる。
「本日付で、客員教授として着任していただきます」
——は?
一瞬、思考が止まる。
客員教授。
そんな肩書きが、即日付与できるはずがない。
制度上も、手続き上も、あり得ない。
……はず、なんだが。
その瞬間、仙水の脳裏に、かつての会話がよぎった。
――ピスコ。
『企業だけじゃない!
研究機関も、国立大学法人にも息はかかっているのだよ!!』
ん?そう言えばピスコさん、そんなこと言ってたような…
あ~…
そういうことね〜
つまり東北大学は組織とズブズブってことか。
ピピピピピピ
「はい。」
「ピスコですか?今日からあなたは東北大学の客員教授です。」
「聞きました。随分と大胆ですね」
仙水の皮肉にも、ラムは気に留めない。
「こうしたのには理由がありましてねえ…」
一拍置いて、核心が語られる。
「一か月後、世界経済フォーラム年次総会——いわゆるダボス会議があるのはご存知ですか?」
「あぁ、スイスのダボスで毎年開催される年次総会で、世界の政治・経済界のトップリーダーたちが集まり、地球規模の課題について議論する国際会議ですよね。」
「えぇ、その日本セッションで、あなたに登壇してもらいたいのです。」
ダボス。
それは、国家元首、財界、学界のトップが一堂に会する場。
「……ただの非常勤講師では、都合が悪い?」
「察しが良くて助かります。」
ラムは静かに笑った。
「肩書きは武器です。客員教授なら誰も疑わないでしょう。」
——学術の顔をした、組織の駒。
仙水は、ようやくすべてを理解する。
東北大学への出向。
国際量子計算プロジェクト。
異例の客員教授就任。
すべては、ダボスへ至るための布石。
そして、その背後には——
いまだ姿を見せない、
あの方。
仙水は静かに息を吐いた。
「……なるほど。
世界の表舞台に、ようやく出るわけですか」
「えぇ。我々も変化を受け入れなければならないということです。」
ラムは組織のこれまでの歩みを回想し、
まだ見ぬ世界を想像したところで
通話を切ったのだった。
日本を代表する大富豪、烏丸蓮耶が登場しました。
烏丸の情報は原作でも少ないですが、やはりラスボス枠なので推理は優作以上なのかなと思い、簡単な推理シーンを入れました。
黒鉄の魚影で言及された烏丸とラムの関係も、ちょっとだけ含めています。
また、47年前の国際経済フォーラムの年次総会で烏丸の代理でラムが登壇していることを踏まえ、17年前に左目を失明したことを背景に仙水にその役割りを継がせたら面白いかと思い、こういう展開にしました。
次回、ダボス編で、世界での烏丸グループの役割について深堀ます。
趣味全開で参りますので、これからもよろしくお願いします。